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169.  転移先

 これまでと一緒で転移は一瞬だった。 プライベートダンジョンの中にいることでスキルの封印も回避できている。 即魔物に遭遇するかもしれないと身構えていたが、転移先には多くのエネルギー石やオーブが落ちていた。 これはつまりレイナさんが”雑魚掃除”スキルで一瞬にして倒してしまったと言うわけだ。 


 ドロップ品を回収しながらそのまましばらく先へと進むと、再び転移トラップに嵌ってしまった。 今度の転移先はダンジョンの中にしてはかなり広いドーム状の場所だった。 そしてダンジョン内は一見魔物などいなそうな感じだったが、輸送トラックのプライベートダンジョンから出て、探知で探るとそこには数十か所、いや百を超えるだろう大量の魔物が点在していた。 


「ここは? どうして魔物がいないのかしら」


「美沙佳さん油断は禁物です。 ほら、それが魔物のようです」


 僕は冷静に少し先にある石を指さしてあげた。



「えっ? これってもしかして、噛み付き石なの? こんなところにまでいるのね。 それでレベルは?」


「俺のスキルで見ると、こいつのレベルは驚きの642だな。 この大きさでそれってビックリだぜ」


「えっ? マリ、それはいくらなんでも間違いじゃないのか? でもそういえば、この場所はまるでセーフティーゾーンのような感じだね」


「間違いね~よ。 あの岩なんかレベル701なんだぜ?」


「……怖いなそれは。 じゃ。こいつらは噛み付き石の上位版ってことなのかな。 そうなると今までの噛みつき石や岩と特性が違う性質を持っているかもだね」


「いやいや、ヨシ君、マリちゃん。 そこは重要ではないと思うの。 重要なのは私達がレベル600以上の魔物が生息する階層へ転移して来ちゃってことよ。 セーフティーゾーンでなければ流石に危なかったんじゃないかしら?」


「そういえば、レイナちゃんの”雑魚掃除”の効果が発動していないようね。 つまり私達にとってここは雑魚の階層ではないということなのね。 ……吉田さん、取りあえずプライベートダンジョンを出してもらえるかしら。 この噛み付き石が私達が知っている噛み付き石と同じかを確かめる必要がありそうだわ」



 美沙佳さんの要請を受けて僕らはプライベートダンジョンの中のシミュレーターで、その噛み付き石の討伐を試みた。 結果、この階層にいる噛み付き石は、見かけ以外従来の噛み付き石と随分異なっていた。

 ソイツ等の魔法耐性は標準といった感じだったが、物理攻撃の耐性が異常に高かった。 僕の雷魔法をエンチャントした”急所突き”スキルでも倒すことは非常に困難だった。 僕の”強化”スキルを発動させて、ミレイさんがカナさんへ”魔法増強”を使い、その上でレイナさんとカナさんが力を合わせて地獄の業火を使うことにより一体ずつではあるものの瞬時に討伐が可能であることを突き止めた。


 シミュレーター内の検証では、スキル一回使用、すなわち3分あたり最大15体を倒すことが出来た。 スキルの使用可能回数は、ミレイさんのカウンターで決まってしまっていた。 ミレイさんのカウンターは残り9。 カナさんの火の加護のカウンターは10でしかも効果時間が10分である。



「美沙佳さん、ここでこの”ネオ噛み付き石”を倒して美沙佳さんと中佐のレベル上げをしておきませんか? レベル100まで上がれば、美沙佳さんとマカデミア中佐のステータス上限を4000まで引き上げられますからね」


「”ネオ噛み付き石”? ネーミングセンスに難ありだけど、まあそれはいいとして、レベル上げですか。 ……そうねここなら安全にレベル上げできそうね。 今後のことを考えたら、ここでやってしまうのも手かな」


「やるって言っても頑張るのは、ミレカ達だけどね。 僕は強化スキルを使うだけだし、今回は楽できるな」



 僕はそっとほくそ笑んだ。 それを見て美沙佳さんは狼狽えた。 中佐は顔をしかめた。

 マリは呆れている。



「あああ、カナちゃん、レイナちゃん、ミレイちゃん、ごめんね。 何か私でも手伝えることはないかしら」


「お姉様、遠慮なさらないでください。 これはお姉様やマカデミアさんだけの為ではございません。 パーティ全体の力を上げるためです。 それにさほど大変な作業ではないですし」


「そうですよ、美沙佳さん。 でもドロップ品の回収はお願いしたいかなって思います」


 そんな僕の言動にカナさんが噛み付いた。



「ヨシ君、それはマリちゃんや貴方がやればいいのでは?」


「いや、ほら、僕はプライベートダンジョンで忙しいから」


「意味わかんないんだけど?」


「レベル上げに適した人数は6人以下だろ? だからこの中の2名はレベル上げ対象からはずれた方がいいんだ」


「う~ん、まだわからない」


「マリとエミリ、そして僕はプライベートダンジョンの中に入ってパーティ効果、つまり仲間意識が及ぶ範囲から外れておくってことだよ。 だから僕はプライベートダンジョンの維持に励む必要があるってことさ」



 ふっふっふ、これにはカナさんといえど反論できまい。 今回こそ僕は楽をしてやるのだ。



「くっ、維持に励むってそんなこと……。 それじゃあ貴方の”強化”はどうするの?」


「もちろんスキルが切れたら掛け直すから、その時はプライベートダンジョンの中へ来てくれればいいよ」


「……」



 ミレカ達は一瞬だけ解せぬといった表情を見せたが、それ以上何も言わなかった。 そして僕は強化を彼女達に掛けてから、エミリとマリを伴ってプライベートダンジョンの中で待機した。

 時折僕の強化スキル目的でミレカ達が入ってきてはいたが、美沙佳さんと中佐も含めて全員がプライベートダンジョン内に入って来たのは約1時間後だった。



「ふぅ。 ヨシ君、まだ少し”ネオ噛み付き岩”は残っているけど、私の”魔法増強”のカウンターは残りゼロになっちゃったから今日はお終いね」



 僕の”強化”のカウンターも5だけ減っていた。 ”魔法増強”スキルを無駄にしないために”強化”や”火の加護”スキル1回の効果中に、”魔法増強”を2回だけ使用する事にしたためだ。 

 それで今日の成果はどうだったんだろう。



「これで明日までカウンター復帰待ちということでいいんだよね? それで美沙佳さんとマカデミア中佐のレベルはどうなったんです?」


「私のレベルは101になったわ。 オーブを使わせてもらったけど、お蔭様で無事上限をブレイクできたわ」


「……俺のレベルは未だ99だ。 これで2000の上限を超えてないのは俺だけになっちまったようだな」


「あとちょっとだけだったのに、残念でしたね~」


 その時カナさんの目がきらりと光ったような気がした。



「幸いネオ噛み付き石も少し残っているし、ヨシ君なら残りも倒せるんじゃない?」


「そんなの無理無理無理。 一体倒すのに1時間以上かかりそうじゃないか」


「あはははは。 冗談よ、気にしないで」



 お、お前~。 仕返しか? 楽をしたことへの仕返しなのか?

 カナさんめ~。 あとで覚えておけよ~。


「……」


「はいはい。 それで社長さん、これからどうするの?」


「ん? 社長さんって、僕のこと?」


「ヨシ君以外に誰が?」


「それではえ~と、……隊長さん、どうしたらいいでしょう?」


「……そうね、明日にならないとスキルのカウンターは戻らないし、今日はまだ時間が早いから、安全な範囲でこのセーフティーゾーンから通じるゲートを調査してもいいんじゃないかと思うわ。 その後はシミュレーターで攻略の予習かな。 あっ、プライベートダンジョンの中でスキルオーブ集めもやっておきたいかな~」


 しまった。 つい反射的に美沙佳さんへ責任転嫁しようとして失敗してしまった。

 そういえば美沙佳さんってスパルタな気はしていたんだった。

 美沙佳さんの提案に僕たちがげっそりしていると、そんな雰囲気を察知した中佐が助け船を出してくれた。 



「美沙佳隊長、さすがにそれは欲張り過ぎだと思うな。 俺たちはすげ~ショートカットに成功したんだ。 少しはゆっくりしようじゃないか」


「……う~ん、では午前中はお休みにします。 午後からは、ここに繋がっているゲートをゲート調査スコープで調べていきましょう。 そして安全そうだったら、魔物の看破まで進めてしまいましょう」


 ここにはアクティブな魔物はいないし、ゲートは見える範囲で3箇所もある。 通常の調査だけならそれほど苦痛でない。 看破できるマリと中佐だけに任せておいても良いぐらいだ。 しかしこのダンジョンでは魔物が看破できるところまで移動するとなると転移トラップがある可能性を考慮して輸送トラックを使わねばならない。 そしてプライベートダンジョンに入ったままではゲートを潜れないので輸送トラックに乗ったままというわけにもいかない。



「カナさん、このゲートの奥にはここより強敵がいると思う?」


「私の勘では、こちらは強敵がいる方面かな。 それでアッチは弱い方。 それで向こうのは、……良く分からない」


「カナさんの勘はほぼ正解を引き当てるんだけど、これってどう思います?」


「ははは、何の能力だそりゃ。 まあ見える範囲には、魔物がいねーようだな。 もしカナお嬢ちゃんのいう通りこっちがダンジョンの深部方向だとしたら、転移トラップに嵌ると危なくねーな」


「ではこのゲート方向は後回しにして次を調べましょう」



 美沙佳さんが即断し、カナさんの勘で弱い方のゲートにゲートスコープを入れてみた。 すると見える範囲に頭に殻を被った鶏のヒナのような魔物が6匹程度の群れをなしているのが見えた。 ゲートを潜ればすぐに看破できそうだったので、僕とマリが一瞬だけ中に入り戻って来る方法で看破を行った。



「どう? レベルはどの位の魔物だった?」


「ああ、カナのいう通り、レベルは500程度の奴らだったぜ。 レベル500の魔物が群れてるってのはなかなか怖えーが、まあ今の俺達がシミュレーターで予習をすれば問題ないんじゃねーかな」


「……じゃ次を調べましょう」



 弱い方面の調査が終わったので、次はカナさんが分からないと主張したゲートへ向いスコープを突っ込んで中を見た。



「なかなか綺麗な景色ね」



 ゲートの奥はダンジョンの外で自然あふれる世界だった。 ならばやることは決まっている。 ここから何処へ出るのかを調べるために、予め用意してあったGPS機器をゲートに差し入れた。 



「今度こそ、カナダ側へ出るのゲートだったな。 それにしても変だ。 カナダ側のゲートは最初から閉鎖されていて通れなかったはずなんだが」


「あっ、もしかしてこのゲートは一方通行だったりしないですか? こっちからはゲートを通れるけど、あちらからはここへ来れないとか」


「もしそうなら……」



 その推測は正しかった。 何故ならゲートに突き入れたゲート調査スコープも、GPS機器もこちら側へ引き抜くことが出来なくなっていたからだ。

 僕等は引き抜けなくなった機器に加えて通信アンテナをゲートに差し込んでから、ゲート近辺にベースキャンプユニット――セーフティテントの上位版を設置した。 僕等にはプライベートダンジョンがあるのでキャンプユニットは無用な設備だが、この場所へはレベル300程度の敵を倒せば直ぐに到達でき、安全な帰路も確保されているため、高レベルの敵を倒すには都合の良い場所であるといえるので、後から攻略部隊がやって来る可能性を見越したのである。


 僕等はそれらの状況を外部へ連絡を入れてから、ベースキャンプユニットの中にプライベートダンジョンを設置して中へ引き籠った。

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