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164.  カナダ?

 走り去っていく僕を皆が呆れ顔で見ているのは間違いないだろうが、実際に戦利品を他人に取られるのは面白くないので、僕の行動自体は不思議ではない。 そして全力ではないが、それなりのスピードで現場へ到着した。



「お、遅かったかっ!」


 だがそこには期待していたドロップ品は無かった。 僕の探知範囲内に入った時点でカナダ側からの侵入者は確認できてなかったのに、こんなに早く盗まれるなんて待ち構えていたとしか思えない。


 僕は茫然自失としてその場に(たたず)んだ。 



「ヨシ君、ドロップ品は回収できた?」


「……」


 そんなところへミレイさんが最初に辿(たど)り着いた。 ミレイさんの質問に僕は何と回答して良いかいいか迷ってしまった。  マリやカナさん、レイナさん、エミリは元々走るのが苦手なので、僕が押し黙ってから追いついて来るのに暫くかかった。



「はあ、はあ、わたくしは短距離走は苦手です」


「はあ、はあ、レイナ、結構な距離を走ったと思ったけど?」


「ええ、でもダンジョンの中ですから、このぐらいの距離では全力疾走が基本です」


「お兄ぃ、やはりユニークはドロップしたの?」


「……」


「はあ、はあ、はあ、はあ。 ちょ、はあ、はあ、ちょっと、はあ。 待て。 はあ、はあ。 待て」



 どうも僕等のパーティメンバーの中ではマリが一番走るのが苦手みたいだ。 これは中佐にでも鍛え直してもらった方が良いかもしれない。 それにしてもエミリの呼吸は乱れていない。 そういえば奴は走るのが得意だったかもしれない。 もしかしたらミレイナ姉妹に遠慮して走るペースを調整したのかもしれない。



「ヨシ君、どうして黙っているの? ま、まさかもうドロップ品は回収されちゃったの?」


「あ、ああ。 僕がここへ来た時にはもう何も残されていなかったよ。 それにしても……」


「はあ、はあ、はあ。 だからちょっと待てって言ってるだろうが! はあ、はあ、はあ」


「ん? マリどうした? そんなに走るのはキツかったか?」


「ど、はあ、どうもこうも、オーブは、ふぅ。 オーブとかは奴が倒れた時点で俺が直ぐに回収しといてやったんだ。 今は見せられねーがな」


「あれっ? あの状況でいつの間に?」


「おめ~が、例の『ええっ!』をブッパしたところで、俺は気づいたんだぜ。 そんで俺だけ直ぐに引きけ~して回収しておいたってこった」


「あ~、そうだったのね。 それで今は見せられないとはどういうことなの?」


「ああそれはな、回収した時点でアイテムボックスのカウンターがゼロになったからだぜ」


「……」



 なるほど、そうだったか。 確かに僕はあの雑魚の首長竜たちを連れ回し始めてからは余裕は無くなっていたからマリがその後何をしたかまでは把握できていなかった。 だが一応僕は安心できた。 

 そこへ美沙佳さんや中佐達が追いついて来た。



「お前ら走るの早すぎ! 全くビックリするぜ」


「それで、オーブは無事に回収できたの?」 


「お姉様、マリちゃんが既に回収済だったようです。 生憎(あいにく)と今はアイテムボックスのカウンターがゼロになってしまって取り出せないみたいですけど」


「そうだったの……」



 そんな時僕は不思議なことに気が付いた。 そして僕は美沙佳さんに向き直った。 これはいったいどういうことなのだろう。



「あれっ? そういえば雑魚を倒すのにエミリがアイテムボックスを使ってたんですよね? あんなに沢山の雑魚をどうやって? カウンターは10までしかなかったはずだけど」 


「それは、……う~ん。 エミリちゃん説明してあげてね」


「はい、大姉さま。 えーと、エミちゃんは一瞬だけミレイお姉様にミミックしてアイテムボックスのカウンターをリセットしてたのです」



 うげっ! ミミックするとカウンターの残量がリセットできるのか。 そんなことができるならば僕なんかよりもエミリの方が最強なんじゃないかな。



「でも、エミちゃんのミミックのカウンターもこれで残り1だけになっちゃった。 アイテムボックスのカウンターも残り2だし」 



 それを聞いて僕は青ざめた。 この作戦では雑魚処理の(どど)めとして最後にアイテムボックスを使うのが必須だった。 つまり倒せる雑魚数には上限があり、それはアイテムボックスを使える数で決まっていたということなのだ。 

 ミレイさん以外は人命救助の際の瓦礫処理でアイテムボックスのカウンターの残りがわずかのはずだったから、エミリのミミックによるカウンターリセットがなければ危なかったのかもしれない。



「実は雑魚処理も結構ギリギリだったんですね」


「ええ、貴方が魔物をトレインして沢山引き連れて来た時は、さすがに緊張したわね」



 美沙佳さんが僕を見つめてきた。 折角トレイン話から話題を逸らしたはずだったのに元に戻ってしまった。 改めてこれはピンチだといえるだろう。



「まあ、俺たちとしてはそれも予想してできるだけ早めにユニークを討伐したってわけだぜ」



 意外なことに中佐が僕のフォローに入ってくれた。 だが予想ってなんだ? 僕たちにはそんなことができる状況じゃなかったはずだ。 


 こ、これはまさか、後付けの言い訳か?


 でもこの際結果オーライだったのだからこれに乗るしかない。



「そ、そうですよ。 僕たちはできるだけ早く討伐すべきと考えて、頑張ったんです。 その結果雑魚に関して検証がちょっとだけ不十分になったってわけです」


「なるほど、そうだったのね。 結果を考えれば、各自の連携が上手くいったということなのね」


「おう、俺もそう思うぜ。 これは数ある魔物戦においても大成功を収めた例として歴史に刻まれるかもな」



 そんな中佐の発言で、僕たちは始めて笑い合うことができた。 

 この事件では沢山の犠牲者が出たが僕等が現場へ到着してからは犠牲者は出ずに無事に討伐することができたはずだ。  この悲惨な事件ではそれだけが救いとも言える。



「あはは、そうですよね。 これは僕らの大勝利ですよね。 これでカナダ側にも楽に行き来できるようになったし」



 そんな僕の発言に中佐は微妙な表情をした。



「我々の国からすると、このダンジョンの占有権が無くなるのは痛いところだがな、まあ今回は仕方がないところだろう」


「じゃあ、早速カナダへ入国してみますか~? って、あ! 入国にビザって必要あるんでしたっけ?」



 美沙佳さんが優しい目をして僕に答えてくれる。 怖いときは半端なく怖い人だが、普段は真逆なところにはいつも困惑してしまう。



「こういう場合は確かダンジョン連盟の規定で決まっていたような……」



 僕等はカナダ側へ行くことを話しながら、不可視になっているゲートへと近づいて行った。 ゲートはその先がうっすらと見えるのが普通なのだが、その程度にはバラツキがある。 今回のゲートは真っ暗で外の様子は全く分からない。 めずらしいケースだが封印されてしまっているゲートはこんな感じだ。


 そしてゲートへ辿り着いたところでゲートの下側に見覚えのある物体が突き出ているのを発見した。



「これって、ゲート調査スコープのセンサー? ……ということはカナダ側からこちらを調査してるってことかな?」



 僕はそれに近づいて、笑顔でピースサインを出してみた。 そしたらゲートから人影が入ってきた。 慌てて僕はその人たちにピースサインを向けてにっこりと微笑んだ。



「ハロー。 一体ここは何処なんです? まさかゲートの外に人がいるなんて意外でしたよ」



 4名がやって来た。 その人達の恰好は中佐たちとほぼ同じで、肩の所には米国軍人を示す印が付いていた。

 僕たちはしばらくお見合いをしていたが、すぐに気を取り直した美沙佳さんが問い掛けた。



「あ、貴方達は? そちらはカナダ側なんでしょ? どうして米国のダンジョン攻略軍の方がそちらに?」


「カナダ側? いえ、この先はシエラネバダダンジョンのセーフティゾーンキャンプです。 そちらは何処から来たのです?」


「こ、ここはシエラネバダダンジョンの……、鉄門の先です」



 大変驚いた。 てっきりこのゲートはカナダ側に繋がっているとの話だったのに。



「中佐っ! 話が違います。 カナダ側に繋がっているんじゃないの? 僕等の計画が狂ってしまうじゃないですか」


「な、なんで俺に抗議するんだ。 ここがカナダ側に繋がっているってのは攻略軍が断定……いや、推定したんだ。 決して俺ではない」


「でも、この場所へ近づけたのはゲートフィールドを持っている中佐だけなんじゃ?」


「おれはただ動画を撮っただけだ。 俺はその後の分析にはタッチしてね~よ。 だがな、このゲートの形状がカナダ側の崖の中ほどにある形状とそっくりなことは間違いねえ」



 ゲートの形状は見た目ほぼ同じなことが普通だが、時々特異な形状になる場合があり、確かに今回は斜めに傾いた楕円形状になっていた。 こういうのはめずらしいと言えるだろう。

 そんな僕等のやり取りに、あちら側から来た人が会話に割り込んで来た。



「ちょっといいですか? ここがシエラネバダダンジョンの鉄門付近ってことは本当ですか? もしそうなら、あの厄介で長い道のりをショートカットできるってことですよね?  あっ! 申し遅れました。 私は攻略軍のエネミー大佐と言います」


「俺は、……私は攻略軍のマカデミア中佐です。 そしてこちらの美女が日本のミズミサカ一佐……、つまり大佐相当で我々の部隊長です。 ご存じかとは思いますが、あの有名な電撃の魔、……女神様だ、です」



 エネミー大佐は少し驚いたように美沙佳さんを見た。 それから僕等を不思議そうに見てきた。



「エネミー大佐、お初にお目にかかります。 私は美沙佳一佐です。 ご質問についてですが、確かにここは鉄門の奥にあるゲートです。 大きな事件が起こったのでそれを収拾するために急遽ボスの魔物、つまりゲートキーパーを討伐し終えたところです」


「鉄門は2箇所にあったはずだが、どちら側の? ……どちら側にしてもそんな簡単に討伐できる代物ではないはずだが」


「ここはダンジョン内病院施設に近い方です。 カナダ側へ繋がっていると予想されていた場所です」


「そうでしたか、それにしても討伐したとは凄い快挙ですね。 で? 何故ここに日本の若手が?」



 僕等が日本所属であることは、日本語を使っているし、日の丸のワッペンを付けていることからも分かる。 僕等は今も英語対日本語で話している。 それはAI通訳端末を用いて可能になっている。

 美沙佳さんはエネミー大佐の質問に答えた。



「この子たちはレインボーオーブというクランの所属です。 こう見えて彼らは大変優秀で一か月半前位に上級ダンジョンの攻略を初めて達成しました。 そして次はここの攻略を目指しているのです」



 ”この子”という言いぐさには異論を挟みたかったが、美沙佳さん相手に戦いを挑むほど僕は愚かではない。



「上級ダンジョンの攻略? 今ではそんなことが可能になったのか? ちょっと信じがたいが」



 そんな大佐の感想に中佐がタメ口を使い始める。



「大佐、確かに今までの苦労からすると信じがたいことだけどな、コイツ等は中級ダンジョンのトゥルーコアタッチに成功したと思ったら、すぐに上級ダンジョンのトゥルーコアタッチまで達成しやがったんだぜ? さすがにそれは世界に衝撃を与えたぜ」



 中佐、なんでもいいけど言葉遣いが元に戻っているのはちょっと早すぎるんじゃないだろうか。 それに僕等をコイツ等呼ばわりするなんて、後で少しばかり分からせて……、いや、止めておこう。



「ええっ? トゥルーコアタッチ? まさかそんな。 攻略というのは普通はコアに辿りつくことだよな。 まさか真の攻略を達成したとか嘘だろう?」


「これが本当なんだな。 それにコイツ等の実力が本物なのは、今さっきここのゲートキーパーを倒したことでも十分証明できる。 それに今じゃ米国の英雄扱いになっているはずだ」


「英雄? どういうことだ?」


「それは話が長くなるから後で話す。 今はこのダンジョンのショートカットが実現したことを本部へ報告しなきゃならねーな。 大佐、報告しに行こうぜ」


「そうだな。 おいお前ら、キャンプに戻って今の話を伝えてこい。 あとショートカットが出来たからって職場を放棄するなとも言っておいてくれ」


「はい、わかりました」


 大佐に御供で付いて来た3名の内2名がゲートの先へ戻って行った。 そして僕等はキャンプ地を覗いてみようとしたが、その前にやっておくことがあった。



「吉田君、悪いけれど、もう一匹――一体の魔物も討伐してしまいましょう。 ゲートキーパーじゃなくて、イレギュラースポーンしてワシントンDC側の出入口を塞いでいる奴ね」


「ふぅ、そうですよね。 でもなんか今日は疲れたんですけど……」


「私も疲れたけれど、偵察だけでも、ね? やれることを早めにやってしまって後で楽をしましょう」



 う~ん、後で楽ができるってたぶん嘘だよな。 やはり美沙佳さんって意識高い系だったようだ。 まあでも、あまり長期間このダンジョンの入口付近に留まると、いろいろとウザいことが起こるかもしれないから早めに本格的な討伐へと向かった方が良いかもしれない。



「はい分かりました。 偵察といえば中佐ですけど……」


「……」


「くっ、わ、わかったよ。 大佐、すまねーが、ちょっとイレギュラースポーンした魔物を討伐しに行ってくるんで、大佐たちだけで報告しにいってくれねーか? あっ、一つだけ言っておくが、ここの魔物が暴れたせいでダンジョン内病院施設は酷い有様になっているが、そのカタはついているから、そこにいるマクダグラス准将に会えばいいぜ」


「……なんだか腑に落ちないが、一応了解した」



 ちょっと行ってくるというのは気楽過ぎる発言だと思ったが、確かにイレギュラースポーンの魔物は大したことは無かった。 そいつは阿修羅上級ダンジョンで倒したことがあった奴だったので速攻で処理できたのである。


 そして僕等は鉄門の先へと戻り、セーフティゾーンキャンプへと向かった。

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