162. ボコボコ
どぉ~ん。
どぉ~ん。
どぉ~ん。
バリバリバリバリ。
ドォォォン。
彼女達は向かってくる追加の追加の首長竜3体のセットと次々に戦っていた。 とはいえ圧倒的にこちらの方が有利だ。 彼女等は、あっという間にそれを倒し終えてから奥側へと進んで行く。
僕等、男性陣もそれにこっそりと付いて行く。
そこで僕は気づいて心配になってしまった。
「どうしよう。 僕の探知で見る限り、まだ魔物が向かって来るみたいだよ。 心なしか数が増えているような気がする……」
そんな僕の心配気な表情に、追加の追加の追加の3体を倒し終えた美沙佳さん達が耳を傾ける。
「それはどいうこと? さらに追加がやって来るってことなの?」
「う~ん。 次は5体が同時にやって来てます。 ここへの到着はさほど時間は掛らないように思えますね」
僕の言葉を聞いても美沙佳さんは余裕の表情を崩さない。
「5体? まあ10体同時という訳でなければ今の戦法なら楽勝かもね」
美沙佳さん余裕の言葉に対して僕は本当に気になる点を口にした。
「でも、これがゲームのギミック的な何かなら、倒したら倒しただけ増援が増えるとか。 或いは、雑魚を倒すだけ倒さないと元凶へ辿り着けないとか……」
「……」
「ギミック? ……そんなのはあり得ないと思いたいけれど、そういう性質の魔物がいてもおかしくはないわね。 ダンジョンの中は確かにゲーム世界のような不思議な空間だから、できるだけ用心して対処するのが基本ね」
「倒し続けるだけじゃ駄目ってこともあるんですよね?」
その言葉で美沙佳さんから余裕の表情が消えた。
そんな僕たちのやりとりを大人しく聞いていた中佐が、やっと出番が来たと口をはさむ。
僕等にも活躍の場があることはいいことだ。 例え楽ができなくても、座して状況悪化を待つわけにはいかない。
「つまり早めにこの雑魚どもが、何でこんなに沢山押し寄せてくるのかの調査が必要ってことだな。 丁度俺たちは先行して偵察しに行こうとしていたところなんだ」
自分には倒せそうにないくせに、もはや中佐の中では首長竜の魔物は雑魚扱いになっていた。 だが偵察という提案に美沙佳さんは反応し中佐に振り返った。
「調査って昔もやったんでしょ? こんな状況になる前に判明していたことってある? この先にカナダに繋がるゲートがあることはわかっていたんでしょ?」
「ああ、昔の調査では首長竜の魔物が5体程度集まっていて、その先に大きなゲートらしきものが見えたんだ。 軍の看破スキル持ちによればレベルが高すぎて分からね~ってことだったから、そんなやばい奴へは手出し不要という結論になったんだ」
「それで今回は?」
「今は頼りになる看破のユニークスキル持ちの相棒がいるし、お前たちの戦力は明らかに規格外で奴らを圧倒している。 昔と今は状況が全く違っているといえるな」
中佐にマリを取られてしまった感があり少し面白くない僕だったが、流石に今そのことで議論するほど僕はもう子供ではない。
「中佐、早く行きましょう。 こうしている間に状況は刻一刻と悪化するかもしれないですよ?」
「そうね、そうして頂戴。 私達は一旦後退してから魔物を処理することにするわ。 まだ余裕があるし、ギミック的な何かがあるようなら倒し過ぎも良くないかもだからね」
僕等はすぐに行動に移った。
中佐を先頭にして魔物に気づかれないように調査を開始したのである。
道中すれ違う魔物のグループは全て5体セットだった。 そして4回とも中佐の言う通りゲートフィールドの効果で全く感知されることはなかった。
そして破壊された鉄門を通過してある程度進んだところで、僕はその場に留まっている14体のグループを探知で見つけた。
「この先に14体のグループが密集していますね。 そしてソイツ等はそこを動いていないです」
「14体か。 次はその14体が同時に押し寄せてくるってことか?」
「正確に言うと13体の首長竜らしき反応の中心に14体目の小さい反応があります。 つまり13体の雑魚の中心に元凶がいるみたいです」
「なるほど、もうすぐ例のゲート付近のはずだ。 つまり今回の魔物が押し寄せて来る起点ってわけだな」
なるほどそろそろゲート付近へ到着なのか。 いよいよ奴らの正体がわかるというわけだ。
僕等は慎重にそこへ進んで行った。 そして奴らが視認できるところまでやって来た。
「14体? 俺には13体のグループにしか見えんな……」
「兄貴、俺にも視認できるのは13体だけだ。 でもなんか……」
「マリ、さっきも言ったけど、探知では13体の中心に14体目の小さい反応があるんだ」
「中心? 確かに奴らは中心を囲うような円陣隊形を取っているな」
「マリ、中心の奴は視認できる? 円陣を組んでいる奴は今までと同じ種類の奴?」
「ああ、俺の見る限りじゃ、雑魚は同じだな。 だが中心の奴は見えねえ」
「……」
「ということは、看破もできないってことだよね? とすると無理矢理にでも陣形を崩してみる必要があるかな」
そんな僕の提案に中佐が反論する。
「俺のゲートフィールドから出れば奴らは動き出すかもだが、13体もいるんだぞ? もしも俺のゲートフィールドに接触されたらヤバくないか?」
「じゃあどうしたら良いと思うんです?」
「そ、それはだな……」
と、その時13体に動きがあった。 13体から5体が離脱して前線へと向かったのである。 そして中心の奴が見えた。 そして30秒ほど時間をおいて取り巻きは13体へと戻っていた。
「ほ、ほら。 俺の言った通りだろ。 待っていればそのうち変化があるってもんだ」
「……言った通りって。 ……まあいいです。 そういう事にしておきましょう。 で、マリ、中心にいた赤唐辛子みたいな奴は見えた? 看破はできた?」
「ああ、バッチリやってやったぜ。 奴のレベルは386だった。 思ったよりもレベル的には低かったな。 それでこの後の攻略はどうすんだ?」
マリ、そんなのは決まっているじゃないか。 とりあえず撤退だ。
「マリ、とりあえず撤退してからシミュレーターで様子見する予定だったよな?」
「……ま、そうだよな。 お前のことだから弱点とか見えたんじゃねーかって思ったんだ。 俺の看破での見立てではかなり防御に問題が有りそうな奴だった。 お前のことだから一発でやれるんじゃないかと思ってな」
「え、ええと。 確かに急所が見えて一発でいけそうな気もしたけど。 やっぱり一度は戻って許可を得ないと、美沙佳さんが怖いし……」
「俺は怖くねーぜ?」
「いや、お前が怖く無くてもさ、僕は怖いんだよっ!」
「兄貴はどう思う?」
「い、いやな。 今回俺は電撃の魔女には逆らわないことにしたんだ」
「魔女?」
「なっ、俺は魔女なんて言ってね~ぞ。 電撃の女神さまの指示には従うべきだって言ったんだ」
「指示なんてあったっけ?」
「お、お前は、結局どうしたいんだ? 電撃のま、……女神様の許可を得ずに突撃に賛成するつもりなのか?」
「う~ん。 やっぱり突撃は怖いな。 仮に相談なしで大事になったら取り返しがつかないかもだから」
「なら議論の余地はないな。 今すぐここを離れてシミュレーションで攻略を考えようぜ」
「マリはそれで納得した?」
「まあ、兄貴がそういうなら。 俺はそれに従うぜ」
そんなこんなで僕等はその場から離れることにした。
だが帰る途中で僕は探知で見えてしまった。
「や、やばいです。 こちらへ向かってくる魔物の数が7体に増えました」
「本当か? なら時間的猶予も余り無いかもしれね~な」
「どうします? 10体程度までなら美沙佳さんは余裕だって言ってたけど。 このままじゃ悠長にシミュレーターで攻略を練るなんて出来なくなるかも」
「……そうだな。 それなら一刻でも時間を惜しむべきだ。 つまり帰る時間も惜しい。 電撃のま、コッホン、電撃の女神様たちは雑魚処理のためにシミュレーターに入って攻略を練る時間はないだろう。 ならばどちらにせよ結局俺たちだけでシミュレーターを試すしかね~ってことだ」
「結局、女神様の許可を得ずにやるってことですね?」
「……。 そ、それは、まあその。 つまりケースバイケースってことだ。 状況に合わせてその場で柔軟に対処すべきかどうかの判断は上級士官の権限でもあるし責務でもある」
「なるほど、中佐は一応上級士官なんですね」
「お、お前。 中佐階級の意味をわかってね~な? 軍曹とかとは訳がちがうんだぞ?」
「ヨシ、そうだぞ。 マカデミア中佐はとっても偉いんだぞ」
「……」
僕はマリの言葉には呆れて、中佐も顔を歪ませた。
そんな会話をしながら僕等はダンジョンの端側で立ち止まった。 そして僕は口では何かといいながらも直ぐにポータブル強化ガラス板を出して、プライベートダンジョンを生成していた。
プライベートダンジョンへ入るとすぐに2D版VRルームでシミュレーターへログインした。 もちろん先程マリが看破したデータはそれへ反映されている。
「では始めてみようぜ」
シミュレーターは、僕等が14体と遭遇したところからスタートしている。 これからやってみること、それは陣形を崩してどうなるかだった。 だがここで一つ問題が生じた。
「なんで雑魚はずっとあそこに留まったままなんだ?」
そう、御供の雑魚どもがボスの周辺から一向に離れようとしなかったのである。
「どうしてでしょうね。 というか、どうしたもんかな、これ」
「うむ、離れようとしないのには訳がありそうだな。 なら強制的に陣形を崩してみてはどうだろう。 まずは、そうだな。 お前、とりあえずゲートフィールドから出て奴らの気を引いてみろ」
どうしてその役目は僕なんだ? マリでもいいじゃないかと思いながらも、どうせシミュレーターなのだから死んでも何の問題もないから素直に従うことにした。 そしてゲートフィールドから出て、14体の魔物の前に進み出た。
「うぁっ、やべ~よこれ」
ドカッ、バキッ、スカッ。
一瞬で感知され、13体が一斉に僕へ向かってきて、流石の僕も取り囲まれてボコボコにされた。 シミュレーター内での出来事とは言え、これはトラウマものである。
そしてトライアル2回目。 今度はマリがその役目を担った。 それとほんの少しだけ遅れて僕は本体へと特攻を試みた。 だがしかし。
「駄目だ。 あっという間に御供が発生して突撃を阻止されてしまったね。 一旦利離脱したら30秒は余裕があると思ったのに意外でした」
再びフルボッコされた僕と、初めてフルボッコにされたマリとがシミュレーターの中で復活して暗い表情を浮かべた。 せめてもの救いがあるとしたら、それは女子達をこれに巻き込まなかったことだけと言えるだろう。
「次はどうします? ……それにしても何故、13体が一斉に向かって来るんだろう? って、あっ!」
もはや癖となって仕舞っている気がするが、僕の中で閃きが走った。
「ヨシどうした? 『ええっ!』攻撃とかを試してみるつもりか?」
「そんなんじゃないよ。 マリは僕を何だと思っているんだ。 僕が閃いたのは、事の発端ついてなんだ。 ならず者クランが奴らに手を出したとして、その時も雑魚の取り巻きは少なくとも5体以上いたはずですよね? それなのに病院の方へは3体しかやってきてない」
「そうだな。 確かにその通りだ。 お前らが感知されたら取り巻き全部が襲ってきてたな。 それにあのどうしようもないクランの一部の者が生き延びて、病院まで引き連れてこれたのが気になる」
「僕が推測するに、奴の感知距離は結構長いんじゃないかと思うんです。 そして長距離で感知した場合には少数の取り巻きだけが襲ってくるのかと」
「お、お前。 見かけによらず中々の分析力を持っているんだな。 確かにそうだ。 遠くで敵を感知した場合にはその脅威度は低いと言える。 俺たちでも陽動作戦を恐れて本丸を丸裸にしてまで戦力を投入したりはしないぜ」
「なら試してみます?」
そう言って僕はマリを見た。 マリは少し怯んだようだが、所詮ここはシミュレーターの中だ。 異論など許すつもりはないし、マリなら進んで不愉快な役でも引き受けてくれるだろう。
「では相棒、お願いするな。 一旦ログアウトしてから、シミュレーターの遠くへスポーンしてみてくれ。 それで取り巻きの一部が離脱するようだったら、次の一手が打てるだろう。 奴らがここから離脱して距離が離れたら、相棒はボコボコにされる前にログアウトしていいからな」
くっ、ログアウト!
言われてみれば確かにそうだった、ボコボコにされそうになったら即ログアウトすればあんな不愉快な目を2度も体験せずに済んだのだ。
「じゃあ、一旦俺はここからログアウトして、鉄門の付近へスポーンしてみることにするぜ?」
「ああ、お願いするな」
鉄門付近でのスポーンでは思った通り奴の感知範囲外だった。 マリがそこから徐々にスポーン地点を近づけていくと、約400mの辺で13体の取り巻きのうち、5体がそこから離脱するがの確認できた。 そこからが第二ラウンドの始まりだった。
5体が離れた隙を狙って特攻を試みたが、またも即ブロックされて少しボコられた。 もちろん僕はすぐにログアウトしたので心的被害は少ない。 それでもマリと違い、僕は今度も殴られてしまったのが不満である。
ならば次はどうするか。
「次は中佐の番ですね。 是非特攻を試みましょう」
「お、俺が特攻してどうなる? 単にボコボコにされて終わりじゃね~か?」
「もちろん、それも良い体験かもだけど、今は生憎とそんな悠長なことはやってられないです。 僕が言いたいのは、取り巻きの一部が離脱した時に、ゲートフィールドの中に居たまま忍び寄るんです。 そして取り巻きがリスポーンする前に、僕がフィールドの中から奴を剣で刺してやります」
「生憎ってなんだ? でもゲートフィールの中から攻撃っていうのは有りだな。 しかし剣で刺すぐらいなら、先ず対魔ライフルで撃ってやったらどうだ? それかお前の魔法を使ってみるとか」
「た、確かに、そうですね。 でも僕の魔法は雷魔法です。 照準が甘くて急所を突けそうにありません。 ……対魔ライフルで試すことにします」
「急所を突く? そんなことは普通は期待しねーもんだ」
「ええと、その説明は後でします。 早速やってみましょう」
シミュレーター内での第三ラウンドが始まった。 まずマリが400mのところでスポーンし、取り巻きの一部が離れたところで、僕は対魔ライフルを赤唐辛子の魔物に向かってぶっ放した。