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160.  月、そして

  マリが覚えたユニークスキルは”お好み”だった。 全く意味不明なスキルを引っ張ってくるところがマリらしい。 マリは過去に”スキル進化”というユニークスキルを覚えて看破を看破EXにした実績があるのだ。 今度のスキルは字ずらからは予想ができ無いから検証を慎重に行う必要がある。 今はその検証に掛ける時間には制限があるので、今後の攻略の道中で少しずつ実験を行ってどういうスキルかの解明していけばいいだろう。


「あっはっは、流石にマリだ。 個性にふさわしいスキルを引いたね!」


「おめ~に言われたくねーぜ」


「まあまあ、こんな不思議なスキルは聞いたことが無いわ。 可能な限りシミュレーションの中で検証すべきね」


「美沙佳さん、これはユニークスキルなんで、聞いたことが無いのは当たり前かと」


「……」


「コッホン、お取込み中のようだが、いいかな? 今必要なことを優先してやっておくのがいいと思うな」



 准将はユニークスキルにあまり執着が無いようだ。 ユニークスキルはほとんどの場合有用だが、たまにハズレとされるスキルもあるのだ。 今回はそんなハズレスキルだと思われたのかもしれない。


「そうね、今は目先の事を考えましょうか」 



 今必要なこと、それはゲートについて知ることだ。 予想通りあのユニークが消えた後で、背後に大きなゲートがあることが確認されたのだ。 ユニーク魔物はゲートキーパーのような役割を果たしていたと考えられる。 そしてユニーク魔物ゆえ、今後スポーンすることはないと期待できる。 そうなるとその大きなゲートはいつでも使える危険のないゲートになるはずだ。



 気を取り直して皆で一緒にそのゲートへと近づいていった。 

 皆が見守る中でレイナさんがゲート調査スコープをその中へと突き入れた。

 そしてモニターへゲートの先の映像が映し出されたとたん皆が息をのんだ。


 まさかこんなことが!

 いやいや、流石にこれは夢ではないのか?



 モニターに映し出された映像は、殺風景な岩と土?の大地と、暗い夜空の星々で、上空には青と白で彩られた地球が見えていた。 その光景は宇宙をテーマに製作された動画でしか見たことが無い。


「……」

「……」

「……」



「まさか、この先は月世界なのか?」



 皆の沈黙を破ったのは中佐だった。 そして我に返った僕らは直ぐにそれを確信することになった。 

 僕が調査用のドローンをアイテムボックスから取り出して、ゲートの奥へと入れたのである。 その結果ドローンはゆっくりと落下していき動かなくなった。 電動のローターが回っているのにかかわらず空気が無いので飛ぶことができないでいるのだ。 そしてその落下速度はまさに月面上を思わせるゆっくりとした速度だった。



「さ、さすがにこれは驚いた。 私はてっきりここのゲートはカナダ側へ繋がっていると思っていたよ。 ゲートの先が月面上だとは思いもよらなかった。 ゲートというのは随分と遠くにまで繋がっているものなのだな」


「……」


「こ、これはどうなっているのかしら。 そしてこれからどうすべきなんでしょう。 准将、も、もちろんこのゲートの使用権は日本や世界ダンジョン連盟にもありますよね?」



 目を見開き放心したような顔のまま小さな声で美沙佳さんが准将へ問い掛けた。 それに准将は笑顔で首を振りながら返答した。



「まあそうだな。 それがこのダンジョン攻略の事前取り決めだったからな。 でもこうなると知っていたら、日本はともかく世界ダンジョン連盟の方は排除しておくべきだった」 


「でもそれで良かったのではないでしょうか。 対応を誤ると国家間紛争の火種になりかねませんし」


「考えようによってはそうだな。 ただこのダンジョンは現状米国内にしか入口がない。 つまり米国のダンジョンビザが必要になるということだ。 それにダンジョンへの出入口は我々によりコントロールされている。 我々が拒否した者は入ることはできない仕組みになっている」


「そこは上手くやってください。 月面への往来が容易に実現できるとなると、本格的に宇宙への進出が可能になるということですからね。 月に眠る資源だけでなく、低重力を生かした新たな産業を作り出したり、巨大な月面基地や宇宙ステーションの建造も夢ではなくなりますからね。 宇宙望遠鏡とかもいいわね」


「まあ開発は容易でないだろうがね。 例え重力は1/6でも空気が無いから隕石の衝突は地球上と比べものにならない規模だろうし、直撃を避けられたとしても衝突で飛び散った破片は二次的な被害も甚大となるはずだ。 太陽からの放射線は直接注ぐことになるし、低温や高温地帯の環境は非常に苛烈だ。 人が住めるとしても地下になるだろう」



 准将はそのまま(あご)に手をあてて考え込んだ。



 月基地や宇宙ステーションか~。 今はそれらの初期段階で多大なコストの割りに得られるものが少ないということで中々進捗が遅い状態だ。 だがこのゲートの存在でそれらは現実的になってしまったかもしれない。 やっと人類も本格的に宇宙への進出が始まるのだと期待できる。


 ……しかしよく考えて見るとそれが何になる? 今の時代VRゲームを使えば無重力のような動きは再現可能だし、そんな危険な場所へわざわざ出ていく必要はないだろう。 一度は無重力がどんなものか体験はしてみたいと思うが、聞く限りでは長時間だと体に悪いしあまり快適ではないみたいだ。



「当面ここは研究開発の場となるはずだな。 研究機材の持ち込みだけでもここは大混雑することになるだろう。 とにかくこの件は直ぐに本部へ報告しなければならない」



 そう言って准将は大きい携帯端末を取り出して何やら通話を始めた。 ここはダンジョンの中とはいえ第一階層で無線基地局も整備されているので本部と直接会話が可能なのである。 しばらく准将の会話を聞かせてもらったが、結果的にこのゲートの存在は極秘事項となってしまった。 

 さらに残るもう2つの封鎖されたゲートについて、東海岸側へ通じるゲートが封鎖されている状況には対処するにしても残る封鎖ゲート――カナダに繋がっていると推定される――の攻略は一時保留するという話になったのだ。 他国からこのダンジョンへ入ることができれば、この月面へのゲートへも入る権利が発生してしまう。 そのためカナダ側との事前交渉が必要とのことだった。



 その様な話が終わり、暫くの間僕等は月面の様子を観察していたのだが、准将の携帯端末へ今度は本部からアクセスがあった。 


 准将は本部との通話を続けていたが、突然大声をあげた。



「なんだと! いったいどういうわけだっ!」



 准将が狼狽えたところは見たことがあったが、こんなに怒りを顕わにするところは見たことが無い。 何が准将の琴線に触れたのか不思議だった。


 准将は通話を終えると僕等に改めて向き直った。



「緊急事態発生だ。 ここのダンジョン内病院施設のある場所で魔物が暴れているそうだ。 どうやらどこぞの不良クランの連中、まあアイツ等なんだろが、何をトチ狂ったか我々が立ち入り禁止にしている関所を力づくで突破し、ゲートキーパーの魔物へ手を出して御供の魔物を引き連れて逃げてきてしまったらしい」



 准将は本気で焦っている。 そして僕たち面々に順に目を向けながら済まなそうな顔でお願いを申し立てた。



「申し訳ないが、助けてくれ。 施設の常駐部隊も壊滅状態に陥って、どうにもならない事態になっている」



 僕等は顔を見合わせた。 僕たちの任務は攻略である。 決してこのダンジョンの治安維持活動ではない。 しかし僕等が人としてやるべきは言うまでもなく人命救助が最優先だ。 僕等は昔、施設の近くでイレギュラースポーンした魔物を一瞬で倒したことがある。 だが今回はそれとは比較にならない位大規模な被害を及ぼしている可能性が大だ。 断ることはあり得ない。



「ドロップ少佐。 レインボーオーブの面々の道案内をお願いします。 彼らの走るスピードは自動車を上回ります」


 美沙佳さんが即座に反応した。 少佐はその言葉にちょっと驚いた顔をしたが、俺について来いといったジェスチャーをして直ぐに走り始めた。

 僕はその場で強化スキルを使い、全員のステータスを底上げした。 そして最初はゆっくりと、そして僕等が問題無くついて来れると判断した少佐は速度をあげた。



 現場には10分強位で到着した。 

 そこは正に地獄と化していた。 建物の半分は破壊されて、人々が逃げまどっている。

 僕はそんな惨状を()の当たりにして少しだけ震えてしまったが、それは束の間のことだけだった。

 僕たちは直ぐに行動に移った。


 暴れている魔物は5匹だが、その周辺に多数の人が転がっている。 それらは僕のダンジョン内探知で直ぐにわかった。 まずいと思ったのは、その探知される人々の反応が少しずつ消えて数を減らしていたことだった。


 マリがすぐに暴れている魔物を看破して警告を発した。 



「気をつけろ、魔物のレベルは230位だ。 こんな第一階層で沸くにしては強敵すぎるぜ」



 その魔物は首長の恐竜を少し小さめにしたような奴らだった 

 報告を受けてミレイさんは付近にいる魔物の頭めがけて即座に対魔ライフルと土魔法を使って攻撃した。



 どぉ~ん。

 どぉ~ん。

 どぉ~ん。


 いきなり大きな音が連続して鳴り響き、種弾丸により魔物の頭は吹き飛ばす事には成功した。 僕等はすでに対魔ライフル6丁と2万発の弾丸を手に入れているが、それを扱うための練習はシミュレーションの中だけしかやっていなかった。 まさかミレイさんがいきなり実戦で使うとは予想していなかった。


 だがこれで一匹処理完了したな、と思いきや奴は倒れなかった。

 なんと奴の頭が再生し始めやがったのだ。 


 だが幸いなのことに再生中は行動を止めるようで再生には時間がかかるようだった。 ミレイさんはいったんその再生中の頭をもう一度吹き飛ばそうと対魔ライフルを構えたが、それをそのまま放置して次の魔物が暴れている方へと向かって走って行ってしまった。


 魔物は直ぐには倒せそうにない。 だが今はそれで十分だ。 

 今は討伐よりも足止めが大事。 

 その間に人々を救助する方を優先させるのだ。

 魔物の足止めはミレイさんに任せておけば良いだろう。


 僕は視認できて且つ倒れている人に次々にHP回復スキルを使い延命措置を施していった。 そこへマリ達がオーブを使って治療魔法スキルを全力で使っていく。 


 治療スキルが先か、それともHP回復が先か。 

 それは今の僕等には判断できない。 あまりに重傷の場合はどちらも必要じゃないかと思われる。 現状HP回復魔法は僕にしか使えないが、治療魔法スキルは全員持っているので僕はHP回復を優先して使うことにしたのである。

 HP回復魔法のMPの使用量は1/10程度に抑えている。 その理由はオーブを使うことにある。 オーブを使用してもMP回復までには30秒ほど時間がかかる。 一人にそれだけ時間を使っていられない。 要はマリ達の治療魔法が発動するまでの間だけ延命できれば十分なのだ。


 どぉ~ん。

 どぉ~ん。

 どぉ~ん。


 ミレイさんの銃撃は続いている。 頭を吹き飛ばして動きを止めて、再生されたらまた吹き飛ばすを繰り返している。 魔物との戦況は一進一退の膠着状態となってしまっているが、その間に僕等は人命救助を進めている。 治療で立ち直った人々は少佐の誘導により安全地帯へと避難を開始していた。


 そうこうしているうちにマリ達も治療魔法のMP使用量の調節ができるようになってきていた。 例え重傷者であっても僕たちが到着するまでの間、怪我を負ってから生きていた人々なのだ。 MPを全て消費しなくても全快まで持っていけるのが分かったのである。 それにより救助の速度がどんどん上がっていった。


 そしてあらかた視認できる人々への治療が完了した頃に美沙佳さんが到着した。

 あとは魔物に破壊された建物の瓦礫に埋まっている生存者の救出が残っているのみになった。


 ここで問題なのは、どこに人が埋まってしまっているかが、僕の探知スキルでしかわからないことだった。 


「そこに2名が瓦礫の下敷きになっているぞ」


 皆にお願いしたと同時に僕等の掘り起こし作業が始まった。

 僕等のステータスは異常に高いので瓦礫を力で除くことには苦労はない。 もちろんそのために重機も使う必要がない。

 だたしこういう場面ではもっと有効な手段がある。


「マリ、お前の能力を発揮すべき時だ。 一旦アイテムボックスへ瓦礫を収納してしまおう」


 アイテムボックスへの収納は一瞬で終わる。 ただし一日10回の制限があるから無制限とはいかない。 もちろん小さい瓦礫ならば僕のアイテムボックスEXを使えば何度でも収納可能だ。

 ここには美沙佳さんも含めて6名の巨大アイテムボックス持ちがいる。 

 僕が探知で見つけた人々の場所を、アイテムボックスを順番で使って瓦礫を取り除いていった。

 ここの人々に僕らがどれぐらいのサイズのアイテムボックス持ちかを知られてしまうことになるが、今はそんなことは言っていられない。 ぶっちゃけ後で何とか米軍攻略部隊に誤魔化してもらおう。


 そうして下敷きになっている人々の救出作業を進めているうちに僕は気づいて焦りを感じた。



「や、やばい。 魔物の増援が来てる! 3匹だ。 どうしよう」


「なんだと? どっちからだ」


「あちら側です」



 僕が方向を指し示すと、少佐がすぐさまそれに応えた。



「俺に任せておけ! 気を引いてあっち側で連れ回しておく!」



 そう言って少佐は待っていたとばかりに駆けて行った。 少佐にしてみれば今の状況であまり活躍できていないことに苛立っていたのかもしれない。 

 この場に残ったのは僕たちレインボーオーブの面々と美沙佳さん、そして救出された施設の常駐部隊の方々だ。 アイテムボックスへ一旦収納した瓦礫は、アイテムボックスを開きっぱなしで、つまり使用制限カウント消費をできるだけ抑えたままで、次々と空地へと移動していっている。 

 僕らは空地へ乱雑に瓦礫を移すだけだが、施設の常駐部隊の方々はその整理を行っていた。


 そして准将と中佐が到着した。 彼らは立ち直った米国の部隊を取りまとめて、常駐部隊の方々から事情を聞いた後に瓦礫の整理作業を始めた。 


 暫くして残すところわずかとなったところで、また気づいてしまった。



「さらに増援が3匹来てる! このままじゃやばい、なんとかしないとっ!」


「おかしい! そこのゲートキーパーの御供は6匹だけだったはずだ」


 僕の警告に准将が疑問を呈した。 だが事実は事実だ。 このままではここで9匹を相手どることになってしまう。 それに更に増援が来てしまう可能性がある。 そうして無数に魔物が増えてしまうと僕等でもどうにもできなくなってしまう。


 どぉ~ん。

 どぉ~ん。

 どぉ~ん。


 近くにいた再生途中の魔物の頭をミレイさんが吹き飛ばした。 


 バリバリバリバリ。

 ドォォォン。


 再生途中の魔物へ凄まじい雷撃が着弾し、同時に業火に包まれた。

 ふと見ると美沙佳さんの周囲に放電が発生していて、カナさんが怒りの表情でオーブを口にしようとしていた。


 あ、ああ。

 すぐ感情を顕わにするカナさんだけでなく、美沙佳さんも怒り心頭で攻撃しちゃったようだ。

 ちょっと怖くて寒気がしたが、さてその効果はどうなんだろう。


 僕は救助作業を続けながら事の成り行きを見守った。

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