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16/202

16.  戦士と僧侶

 それから数日の間、僕は自宅に引き籠ってサロナーズオンラインのRPGにのめり込んでいた。 ヨシ2864というアカウントを使ってのプレイだ。 今のアカウントはゲーム上のクランに所属できていない。

 実は僕には特例として許された別のアカウントがあるが今は封印状態だ。


 野良パーティの募集に注意を払いながら、僕はゲーム内冒険者ギルドの今日のトピックス欄を(なが)めていた。


「よう、ヨシ。 また野良パーティか?」


「ああ、マリ、もうちょっとでレベル100なんだよ。 もしかして手伝ってくれたりする?」


 マリは女性アバターでありながら、実態はリア友の男だ。 マリの実の苗字は泊里(とまり)なので、それにちなんだアバター名を使っている。


「いや、止めて置くわ。 まあ頑張れや。 前にも言ったけど、お前は戦士に向いてねえよ。 (あきら)めて僧侶をメインにしてみたらどうなんだ? 僧侶のレベル上げならいつでも手伝ってやるぞ?」


 女性アバターの高い声で男言葉を使われると奇妙な感じだが、悪い気がしないのが不思議だ。 どうやらコイツは僕以外のプレイヤには、”可愛い女子”で通しているようなのだ。 実にヤバイ奴だといえよう。


「僕は戦士が好きなんだよ。 なんでこう戦士だけいつも募集が無いんだろうな」


「そりゃあな、戦士の実力は人による差が大きいからだな。 強い戦士は囲い込まれるし、弱い奴は自分で募集をかけるからだろう。 お前は弱いんだからパーティプレイしたかったら自分で募集かけろよな」


「お前本人の前でよくそんなことを……。 それにしても、なんで僕の戦士って弱いんだろうな。 動きは他の奴らより良いつもりなんだけどな」


「確かに俺が見た感じじゃ、動きとしては悪くないな。 だけどお前って何故だか異様にダメージを出せてないんだよ。 ……ところで何故お前には普通の戦士との差がわかるんだ? 戦士同士は一緒にプレーできないはずだぞ?」


「僕は戦士を研究するためにサブジョブとして僧侶をやってるからね。 普通の戦士の動きも良く見ているから分かるんだよ」


「そうか、なるほどな。 それでサブジョブの僧侶のレベルはどの位まで育っているんだ?」


「レベル126だよ、文句あるか?」


「う~ん、お前って救われない奴だな。 サブジョブの方がメインジョブよりもずっと上手くてレベルも高いなんて」


 本当に泣けてくる話だ。 突き攻撃さえ使えば無敵の戦士として通用するはずだが、それは自主的に封印している。 そして何故だか突き以外の攻撃は弱いのだ。 ある意味(しば)りプレイをしていることになるのだから、仕方が無いと言えば仕方ない。


「……」


「それで、どうしても僕の戦士に付き合ってくれる時間はないのか?」


「時間的にどうこう言うわけじゃねーんだ。 お前が戦士だと効率が悪すぎて、パーティの雰囲気が悪くなっちまうのが(つら)いんだよ。 お前が僧侶やっている時と戦士やってる時とでパーティの雰囲気に差があるのが分からないか?」


「言われてみれば、そうだけどさ。 うぐっ、改めて言われてみると結構くるものがあるな。 ……このやり場のないイラツキを何にぶつけてやろう。 いっそのことソロでボスに挑戦でもしてくれようか」


「お! やるのか? お前が僧侶で行くなら付き合ってやるぞ?」


「い、いや。 やはり止めておくよ。 意味のない自殺行為だからな。 ペナルティだけ貰いに行くようなもんだし」


「お前が僧侶で行くなら、負けるにしても、粘って粘って粘ってみせるぞ? スリリングで楽しいはずだぜ?」


「……」


「ところでお前、リアルでは冒険者になれたのか?」


「ああ、お蔭様でな。 ……折角資格取ったんだから、そろそろリアルマネーを稼ぎに行かないとかな」


「本当に稼げると思ってるのか? 装備は買ったのか? 中古でも100万ぐらいするだろ、あれは」


「どうするか迷い中なんだ。 装備が無きゃダンジョンに入れてもらえないし、レンタルだと半日で1万、一日で1万6千ってところだから、正直元が取れるか微妙なんだよな」


「ダンジョン管理センターの装備は安心できるから良いぞ。 当分はレンタルと貯金で凌げ。 そしてそのうち黒字になるように頑張るんだな。 自前の装備を揃えるときには俺に相談してくれ。 安い店を紹介してやるよ」


「安い店って? お前もそこで買ったのか? いくらだった?」


「ああ、中古だけどな、56万で全て(そろ)ったぞ。 店主は俺の叔父だから(だま)されることもないしな」


「いいな~、僕も頑張って装備揃えたいな。 仕方がない、戦士のレベル上げは諦めて、リアルダンジョンへ行ってくるか」


「ちょっと待て。 今から行くつもりなのか? それなら俺も付き合おうか? 初めてだとソロじゃ心細いだろう」


「お? いいのか? ドロップ品は半々でいい?」


「ああ、それでいいぞ。 お前の腕前をみせてもらおうか」


「じゃ僕はこれでログアウトするよ。 2986ダンジョン前へ10時集合でよろしくな」


「お、おう、ちょっと遅れるかもだが、お前は装備の半日レンタルを利用するだろうから、そうだな、午後一で突入しよう」


「了解」


 僕はサロナーズオンラインをログアウトした。 

 実習以来、久々にダンジョンへ入ってみることにしたのだ。

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