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157.  CG映像

 試射には美沙佳さんも参加したが、対魔ライフルの反動はほんの少しでだけで済んだ。 美沙佳さんはこの前スキルオーブの試食会で重量魔法スキルを取得している。 重量魔法スキルオーブを3つ程食べているのでスキルレベルは10~20にまでは育っているはずである。 それに加えてステータスは2000になっていたので当然のことである。


「すごいものね。 これで私も有効な物理攻撃手段を持つことができたと思うわ」


 これで試射は終わりね、と考えたのか美沙佳さんは対魔ライフルをストレージに仕舞う素振りを見せた。 だがそこで何か気づいたようで動きが止まってしまった。


「もしかしてこれって……」



 なんだろうと思って美沙佳さんを不思議そうにみていると、美沙佳さんから例の放電が出始めるのが見えた。


 あ、あれ? 何か気に障ることがあった? 

 僕じゃないよね。

 僕は何もしていないぞ。 


 少しだけ狼狽えながらさらに見ていると、美沙佳さんは放電状態のまま、ふたたびシャインスライムへ向き直り、対魔ライフルを構えてそのまま引金を引いた。


 ドォーン! バリバリバリ。


 雷を帯びた対魔ライフルから、同じく雷を帯びた弾丸が発射されたかと思ったら、シャインスライムを大きく吹き飛ばしてしまった。 これはミレイさんの土魔法には及ばないが通常では考えられない威力が出ていることを示していた。


 ダンジョン武器へは属性魔法をエンチャントできるが、中でも雷魔法はその性能が飛びぬけて優秀だった。 だが武器へのエンチャントは人が直接手に持っている場合にしか本来の効果は期待できなかったはずだ。 微量のエンチャントならば手をつなぐなどして人を介しても可能だが、威力としては直接エンチャントの比ではない。



「やはり思った通りね。 ライフルが鉄製だからかしら、弾丸の核へ雷魔法のエンチャントができたようね」


 美沙佳さんは結果に満足したようで微笑みながら対魔ライフルをストレージへと戻した。



「いやそれはおかしいだろう。 普通は鉄のような電気を通す物質でも雷魔法のエンチャントなんて十分にはできないはずだ。 もしかしてお前が日本の雷撃の魔女、あ、いや、女神、つまりあの有名な雷マスターなのか?」


「……そうですが、それが何か?」


 魔女という言葉に反応したのだろうか、一旦治まっていた放電が再び発生し始めた。 


 ……怖い。

 いつも思うのだが、美沙佳さんには何だか得体のしれない怖さがある。 



「雷撃の魔、……女神は噂と違って、イイ女だったんだな。 世にも恐ろしい、という評判だったんだが」


沙美砂(さみすな)美沙佳(ミサカ)一佐の雷魔法は、威力もさることながら、コントロール性が抜群に良いからね。 一佐は日本が誇るダンジョン自のエースなんだ」


 なぜか今まで寡黙だった、名も知らぬ自衛隊の方が口を開いた。 この人は美沙佳さんの信奉者の一人なのだろう。



「一佐? 日本では大佐相当の階級ということか。 ということは今回の攻略では俺より上官になるとでもいうのか……」


「ふむ、ならば今回の作戦では私は必要なさそうだな」


「マクダグラス准将、それはどういう意味なんだ?」


「マカデミア中佐、そしてドロップ少佐。 今回の部隊の指揮権は日本側に任せてもいいと言う意味だ。 元々私のスキルは戦闘員としては使えない部類だからな。 お前たちの暴走が心配ということで私がこの作戦に組み込まれたわけだが、正直私では攻略の足手まといになると思っていたところだ」


「まじか!」


「とはいえ、こちら側からの提供戦力は3名分ということを上層部から指示されていることが問題だ。 だが、まあこちら側としては戦利品、特に武器の獲得が目的なのだからそこを譲歩いただければの話になる」


 なるほど准将は自分が足手まといになるという自覚はあったんだな。 ならこちらの要望も伝えておくべきだろう。



「僕としては、……そのつまりレインボーオーブとしてはユニークスキルオーブ以外の戦利品への(こだわ)りはありません」


 僕の発言を聞いた鈴木さんが慌てて口をはさんで来た。 僕の発言は不味かったのだろうか?



「少なくとも戦闘関係のユニークスキルを持っていないと今回の少人数攻略では厳しいでしょう。 准将のご決断は正しいと思います。 戦利品の件は攻略後に決定しても良いのではないでしょうか」


 その鈴木さんの提案を否定せずに准将が付け加えた。


「私が今回の攻略からはずれる代償として、私から2名に鑑定スキルを付与することをお約束しよう。 私のユニークスキルは鑑定付与です。 この付与スキルは10日に一回だけ使えるのですが、どうせ私が攻略に参加するとなれば2名分の付与が無駄になったはずでした。 とにかく当軍部の面目が立つように配慮願いしたい」


 うぁ~。 鑑定スキルか~。 鑑定って付与されて初めて獲得できるスキルだったんだな。 だからあれだけ魔物を倒しても鑑定のスキルオーブが出なかったんだ。 鑑定スキル持ちが米国に集中していたことも納得できる。


 これはチャンスといえるだろう。 なぜなら鑑定スキルは武器や防具作成において非常に役立つスキルだからだ。



「あの~追加で要望なんですが、その鑑定スキルを付与する対象者の一名は、僕等の武器や防具の手配を担当してくれているマリのおじさんにしてください」


「ああ、そうだね。 そうするとしましょう。 我々も泊里(とまり)さんの恩恵を受けているからね」



 鈴木さんは僕の要望を快く承知してくれた。 これで僕等の装備をグレードアップできる算段がついた。 実をいうと、最近獲得したエムレザーの加工は大変困難で苦労していると聞いていた。 鑑定スキルがあればその辺が大分楽になるはずである。



「そのトマリというのは、あの超高級防具ブランドのトマリのことなのか?」


 准将が意外そうな顔で質問してきたが、それに鈴木さんが答えた。


「ええそうです。 そのトマリです。 過去に米国へ供給した超高級防具はレインボーオーブが供給したエムレザーの素材を使い、泊里(とまり)さんが作成したものです。 もっとも一人では大量のエムレザーと需要を(さば)ききれずに過労で倒れてしまった経緯があるので、今は半官半民の機関へ大量生産の機能を移管中ですけどね」


 僕はマリ(泊里)へと視線を移した。 まさかあのおじさんがそこまで頑張っていたとは思わなかった。 確かに僕等から多量の素材を受け渡していたが、その後どうなっているかのフォローはできていなかった。


「ヨシ、そんな顔をするんじゃね~よ。 叔父は自分の意思で頑張ったんだ。 世の中の役に立てるってことでむしろ喜んでいたぐらいだったぜ。 今は回復して元気だし、弟子も大勢いて色々とやってくれるってことでむしろ暇を持て余しているって話だぜ」


 少しだけホッとした。 僕等はやりたいように活動していたが、その影響は確実に大きくなってきて周囲の人々を巻き込んでいる。 甘い考えかもしれないが僕等のせいで不幸になる人は出てほしくない。 まあ既得権益にあぐらをかいている特権階級はどうにでもなれって思うのだが。



「お前ら実はトンでもな奴らだったんだな。 まあわかった。 認めてやろう」



 中佐はそういって僕の頭を(はた)こうとしてきた。 もちろん素早い動きで避けてやった。 この人は僕よりも大分年上とはいえ、ちょっと上から目線の傾向が強すぎる。 もう少し大人として余裕を持ち寛容な態度で接してほしい。



「お言葉ですが、僕はまだ貴方達の実力を知りません。 つまり僕等に付いてこれるか判断しようがないです」


 少しだけ(あお)ってみた。 さてどう反応してくるだろう。



「お、お前。 ……た、確かにお前らからすると俺たちの実力は未知数だろう。 だがな俺は仮にも米軍ダンジョン攻略部隊の中佐にまで登りつめたんだ。 それで十分だろう」


「ええと、准将は足手まといになるからと辞退しましたよね。 階級と実際の戦闘の実力は関係ありません」


「ぐっ。 お前……」


「吉田君、そこまでにしておこう。 ここはシミュレーターの中なのだから、君らが倒した上級ダンジョンの魔物と対戦すれば君らについていけるかどうかは分かることだ」


 鈴木さんのとりなしに、准将も(うなず)いた。


「その通りだ。 確かに私では足手まといだと言ったが、マカデミア中佐とドロップ少佐の戦闘力は本物だ。 鈴木ダンジョン連盟理事の言う通りシミュレーターで試すのが良いだろう」


「……」


 怪物中佐――マカデミア中佐は僕のことを睨んでいるが、鈴木さんと准将の提案には従うつもりのようだった。 中佐と少佐は、すぐに軍服姿から戦闘用の装備へと変更した。



「これが上級ダンジョンの魔物リストです」


 美沙佳さんが、仮想スクリーンに魔物リストを表示させた。 そのリストにはユニークは乗っていない。



「何だこれは! 炎のラビット・エレクトス、レベル488ってふざけた奴は」


「あ、それは阿修羅ダンジョンのボスモンスターだった奴です。 一体だけだからって油断は禁物です。 さすがにそれは厳しいでしょうから、レベル360の炎のミノタンなんかどうでしょう。 美沙佳さんはそれをソロで撃破してみせましたよ?」



 僕からの挑発ともとれる提案を受けて中佐と少佐は何やら話し合いを始めた。 炎のミノタンはユニークではなく群れて現れる魔物だ。 しかし、いきなり群れとの戦いというのは流石に荷が重すぎて実力を計るには不適切だ。 僕たちだって事前情報を知っていても、ソロで相手できるのは僕とミレイさん、あとミミックを使うこと前提でエミリぐらいだ。 レイナさんでは攻撃を防げるものの有効な攻撃手段はないため勝負はつかない。 マリならユニークのドロップした強烈なドロドロした酸を使えば勝てる可能性はあるが厳しいだろう。 カナさんは相性が悪いので無理だ。



 様子見していると、おもむろに戦闘が始まってしまった。 奴らはいきなりその場に炎のミノタンを出現させたのである。


 シミュレーターでの戦闘初期は数秒程度の待機時間がある。 その間に僕等は退いた。 そして中佐の辺りにうっすらとした何らかのフィールドが発生するのが見えた。 待機時間を過ぎて戦闘が始まるかに見えたが、予想に反して炎のミノタンは動かなかった。


 ん? どういうことだこれは。


 中佐はフィールドの中で例の対魔ライフルを取り出した。 少佐の方はレイピアを取り出して構えている。 そしておもむろに少佐がフィールドの外へと飛び出した。 それと同時にミノタンが動きだした。


 は、早い!


 少し驚いた。 少佐の動きは正に疾風だった。 僕よりも少し早いぐらいのスピードが出ている。 少佐はそのスピードで炎のミノタンに迫り、喉元へレイピアの一撃を喰らわせた。


 ガシッ!


 だがミノタンにはダメージが入らなかった。 少佐は一瞬だけ驚いた顔をみせたが、直ぐに立ち直り連続して攻撃を繰り出した。


 ガシッ、ガシッ、ガシッ、ガシッ、ガシッ、ガシッ。


 連続攻撃は全て喉元の一点に集中してヒットしている。 しかし一向にダメージが通る気配がない。 

 結局少佐は苦々しい表情を浮かべて中佐の所へと退避した。 フィールド内に入ったとたん炎のミノタンは少佐を見失ったようだった。



 次は中佐の番だった。 対魔ライフルを構えてミノタンへ向かって狙撃を開始した。


 ドォーン! ドォーン! ドォーン! ドォーン!


 初めから連続してライフルをぶっ放す。 一発一発はミレイさんの土魔法ほどは威力が出ていない。 しかし何発も撃つことでそれをカバーしている。 狙撃された方向に気づいたのかミノタンは中佐の方へと向かって来ていたが、あるところから近づかなくなっていた。

 中佐の狙撃が一発当たるごとに炎のミノタンは徐々に弱っていき、何発撃ったかわからなくなった頃、ミノタンは消え去った。



 う~ん。 これはどう評価していいだろう。

 

 中佐のフィールドは何だかわからないが有効のように見える。 少佐のスピードも本物だ。 しかし攻撃について有効だったのは、僕等から供給された種弾丸のみだ。 しかも弾丸は命中するごとに砕けて消失してしまっている。



「強敵だったな。 対魔ライフルを使ってやっと倒せたってところだ。 本当にお前たちはこれを倒したのか? それとも看破したのみで戦わず回避してコアルームへ辿りついたとかか?」



 中佐の顔つきは不本意といった感じで歪んでいる。  僕等がこれを倒したことが信じられないのだろう。 ならば分からせてあげよう。  


 僕はミノタンを出現させた。 

 そしてステータスに任せて一気に奴へと迫り、 黄色い霞を纏ったレイピアで急所をついてやった。 もちろんそれでミノタンは砕け散った。



「い、一撃かっ!!!」



 僕のパーティメンバーと美沙佳さんは当然といった顔だったが他の人々は違った。 凍り付いたように動かなくなってしまった。



 こ、これはやりすぎてしまったかな?



「え、ええとですね。 今のはフェイクです。 貴方達を驚かそうと思って(あらかじ)め用意しておいたCG映像をお見せしたんです」


「……」


「いや、そんなことは有り得ねー。 確かにシミュレーターの中でCG映像を見せること自体は可能だが手間がかかる。 それにこれは自衛隊のシミュレーターなのだろう? そんな小細工ができたはずがない。 これが俺等とお前たちの実力差の現実なのだろう」


 くっ、やはり僕のフォローは明らかに無理があって見抜かれてしまった。 

 結果的にはその場の重苦し雰囲気を助長させてしまった気がする。 

 そうなるとこれからどうなるんだろう。 そう思っていると准将が口を開いた。


「リストの内容をチェックしてみたが我々が苦戦したことのある魔物とそっくりな性質をもつ魔物も登録してあった。 このシミュレーターに登録されている魔物は本物だ。 そして君らの実力、上級ダンジョンに出現する魔物の強さは良く分かった」


 そういった後一呼吸おいてから准将は話を続けた。


「それでもこちら側からは1名だけでも攻略に同行させていただきたいと思う。 この攻略には国家の威信がかかっているといっても過言ではない。 そんな攻略に我が国から誰も派遣しないというのは許されないのだ。 是非レインボーオーブの方々には我々に助力願いたい。 我々は最大限の歓迎と敬意をもって受け入れたいと思う。 またシエラネバダダンジョンへの送迎は我々の威信をかけて安全確保することを保証します」


 准将の話は重すぎる。 覇権国家の威信がかかっていると言われてしまえばどうしようもない。 逆らえば影響は僕たちどころか日本政府にまで及びかねない。 だからと言って僕はそんな脅しのような文言で説得されるつもりはない。 むしろ准将の要請により攻略への目的意識が高まり自分の意思として攻略したいと思ったのである。


 僕等はシミュレーターから出て米国への移動の準備にとりかかることにした。

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