表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

156/202

155.  ふざけるな

  オーブなどの素材集めは仕事として、いや自分たちの安全を確保するためと考えて一日8時間と決めてほぼ毎日真面目に取り組んだ。 色々な種類を集めるために今まで攻略したダンジョンの入口までプライベートダンジョンから即時に移動し、中の魔物を一匹だけ倒して戻ると言うこともやっていた。


 スキルオーブについてはミレイさんが分類したことにより、その価値は数倍に跳ね上がると考えている。 分類済のスキルオーブで一番価値が高いと思われるのはアイテムボックスのスキルオーブだと思っている。 そして次に治療魔法スキル、魔力スキル、精神スキル、知力スキルなのだと思っている。 人気のないのは看破と重力のはずだが、中級ダンジョンのトゥルーコアタッチを可能にするフラグ付をするだけならばそれらでも価値がある。   


 僕達はそのオーブの引き渡しのために鈴木さんと会っていた。 例の如くプライベートダンジョンの中で(くつろ)ぎながらだ。 鈴木さんはダンジョン省のダンジョン攻略局長と全世界ダンジョン連盟の理事も兼任するようになっていた。 以前は日本代表補佐にすぎなかったのだから大出世といえる。 世界を相手取りエネルギー政策の交渉に関わるのだから当然といえば当然な結果なのだろう。


 簡単な挨拶の後で鈴木さんがニコニコ顔で話を切り出した。



「とりあえずオーブを預かることにするよ。 それにしても今回は多いね」


「はい、皆で頑張りました。 それに阿修羅上級ダンジョンの魔物を倒した後でプライベートダンジョンに入ると、最終階層のハジケホウセンカ以外は2986初級ダンジョンと同じ種類の魔物が出ましたが、レベルが上がっている様でスキルオーブのドロップ率はかなり上がりましたから。 それに今までと違ってハジケホウセンカからは種だけでなく身体強化系のスキルオーブがドロップしましたからね」


「なるほど、それは良かった。 それで費用のことなんだけどね」


「期待していないです。 僕たちの安全確保にも関わることだから無償でもいいくらいです。 それに必要な物資は自衛隊の方から要求すれば供給していただけてますし」


「いやそういうわけにはいかないよ。 オーブやスキルオーブの価格は上昇しているし、外国へ供与すると言っても有償での話だよ。 特にスキルオーブなどは市場に出回らないからね、獲得のためのお金に糸目をつけないという国も多いんだ。 だたし」


「ただし?」


「踏み倒す国も出るかもなんだ。 こういうのは(ふた)を開けてみなければ分からないものがあるね」


「そうでしたか。 そんな国もあるんですね……」


「まあ踏み倒す云々(うんぬん)はさておき、今まで石油産業で潤っていた国々は特に必死なようだね。 知っての通り石油は発電とかエンジン用のエネルギーだけに使われるわけでなくて化学工業――特に有機化合物の原料にもなるね? 逆に電気エネルギーさえ豊富にあればカーボンなど単体から石油のような有機化合物を作り出すことが可能になるんだ。 結局のところ電気エネルギーが豊富にあることは広範囲の産業へ影響するんだよ」


「いやさすがに、そんな莫大なエネルギーを供給できるとは……」


 思えない、そう言いかけて言葉が途中で止まってしまった。 そういえば上級ダンジョンの奥側では原発一基相当のエネルギー石がゴロゴロ取れるといった具合だ。 これから全世界で上級ダンジョンほどではないが、中級ダンジョンでもそれに準ずるレベルの魔物の討伐が盛んに行われるようになる。 それを考えれば絵空事とは言い難い。


 それに僕たちが上級ダンジョンで集めたエネルギー石のことが気になる。 これはどうしたものか。 確かめたわけではないが原発一基相当の――100万Kw級のエネルギー石を多量にゲットしてしまったはずなのだ。 



「あの~、ところで僕たちが獲得したエネルギー石はその後どうなりましたか?」


「エネルギー石については神降(かみおり)さんから聞いてないのかい?」



 そう言って鈴木さんはレイナさんに目を向けた。 神降(かみおり)さんは僕たちがエネルギー石について最初に相談したレイナさんのお父さんだ。 エネルギー石の扱いついては今でも神降(かみおり)さん経由でお願いしているのだ。



「お父様は特に何も言っていませんでしたわ」


 鈴木さんはそれを聞いて少しため息をついた。



「……そうか。 エネルギー石については本当にヤバイ、……いや、その。 ……現時点でもエネルギー石の国際市場を破壊しかねないインパクトがあるそうだから当分非公開となっているはずなんだ。 そうは言ってもエネルギー不足で困っている国々には売却予定だとは聞いているけどね。 私にはその程度しか知らされていないよ」



 やはりそうだったか。 上級ダンジョンの攻略前でも神降(かみおり)さんは困惑状態だったのだ。 前回の上級ダンジョンで得られたエネルギー石はかなりのインパクトを与えたことだけは間違いない。 

 なるほど、やはり上級ダンジョンで得られる素材は半端ないということだ。 となると今後の事を聞いておかねばならない。



「今度は米国のシエラネバダ上級ダンジョンを攻略することになってますよね? そこでのドロップ素材はどうなるんでしょ」


「……それは厳密には交渉中といったところなんだが。 攻略人数で等分という案でお願いしたいという方向になりつつある」


「まさか、攻略に何人も引っ付いて来るってことが?」


「そこなんだよ問題は。 日本の自衛隊からの派遣は美沙佳さん一人とするから、米国でも同様にしてほしいと要求を出して話し合い中なんだ。 君たちもお荷物が増えると困るだろう? 現時点では1名から3名の派遣ということで議論中だよ」


「はぁ~、困るんですよね。 美沙佳さんにしても僕たちが鍛えたからこそ何とか連れていける位になったんですけど、大丈夫かな~」


 それを聞いた鈴木さんは引き攣った顔をした。 何でだろうと思ったが藪蛇(やぶへび)な気がしてあえて追及はしなかった。

 暫く黙っていると鈴木さんが話題を変えて来た。



「ところで昨日米国からダンジョン攻略軍の方々がやってきたのは知っているかい?」


「ええ、美沙佳さんから聞いていました。 それって対物、いや対魔物ライフルや弾丸ができたってことですか?」



 依頼された上級ダンジョンの攻略を一か月間待ったのは、対物ライフルや十分な数量のフルメタルジャケット型の種弾丸を確保するためだ。 ということは試射訓練とかも必要なのだからいよいよ銃を撃ってみるチャンスなのだ。



「それについては米国内での引き渡しということになったよ。 どうやら実物とその具体的な性能については、暫くの間は機密扱いとしたいらしいね。 ダンジョン連盟の幹部とN国にはその存在を明かしてはいるものの、有効な魔物対策があると世界全体に知れ渡ると大騒ぎになってしまうからだそうだ。 それも今は中級ダンジョンの攻略方法が分かったことで色めき立っている状態だからね、供給体制が整うまでは公開はしないつもりらしい」


「でも日本は種の存在を知っているわけだから、こちらに持って来る分には支障は無いのでは?」


「……その通りなんだ。 彼らの主張によれば、結局のところ日本も信用ならないとのことなのさ」


「意味がわかりません」


「他国への情報漏洩的にということだよ」


「まさか(うわさ)(ささや)かれている通り、日本ってスパイ天国だからですか?」


「……そこはノーコメントだね。 日本国内での引き渡しを拒まれた件については納得し難いところはある。 元を正せば君たちが供給元なのだからね。 しかしダンジョンに関する優位性が日本に傾き過ぎているのも問題視されていてね、国内の議論でも今のうちに米国側へ優位性をもたせて、味方に引き込んでおいた方が良いと言う意見もある。 出る釘は打たれてしまうのが道理だが、それが2本あるなら1本当たりへの影響は1/2になるって理屈だね」



 そう言われても何となく納得できない。 ただし政治的なややこしい交渉事には巻き込まれたくない。 少なくとも僕は政治には興味がない。 不服ですが譲歩しましょうという(てい)(うなず)いておいた。


 そんな僕を知ってか知らずか、鈴木さんはまたも話題を変えて来た。



「まず君たちにこれを渡しておくよ」



 そう言って鈴木さんは大き目の携帯端末を僕等に配ってくれた。



「携帯端末は自分用のを持ってますけど、まさか軍専用の端末とかですか?」


「もともとは軍用目的で開発されたものではないが、今は軍用ともいえるね。 これは携帯通信機能付きのAI通訳端末だよ」


「音声の通訳アプリなら僕の携帯端末にも入ってます」


「それはね、一般の通訳アプリは外部との通信機能が正常な時のみに動作するんだ。 実際の処理はネット経由で大型のサーバーに(ゆだ)ねているのだよ」


「ということは、この携帯端末――AI通訳端末は大型のサーバークラスの処理能力が?」



 その携帯型のAI通訳端末をひっくり返したり、コツコツと突いてみたりして確かめてみた。 携帯端末の処理速度は消費電力で決まっていると聞く。 つまり高度な機能を求める程、端末は大きくなり発熱が多くて熱くなるのが常識だ。 電池自体は高価なエネルギー石を使えばいいのだが、発熱だけは避けられない。 それを考えるとコイツはむしろ冷たいぐらいだ。 電源が入っていないのだろうか。



「その通りさ、ハードは中型サーバー並みの実力があるし、その上でAI制御の元で最高レベルの自立型のソフトが動いて通訳してくれるんだ」


「そうでしたか……。 でも全然発熱して無いようですよ? 電源が入っていないのかな」


「今は電源は入っていないが、実際の使用時にも発熱は殆どないよ。 ダンジョン金属を基材にしてできているから可能な装置なんだ」



 ん? ダンジョン金属は断熱もしくは耐熱目的に使われるんじゃなかったか? ダンジョン内でしか効果が無く、その効果も限定的だから需要が乏しいハズレ素材だったはずだ。

 僕が(いぶか)し気な顔をしたことに気づいた鈴木さんは説明を続けた。



「ごく最近のことなんだが、新しいメッセージ石板が見つかってね。 ダンジョン金属を特殊条件下で加工すると、ダンジョンの壁のように一定温度になることがわかったんだよ。 それを冷却フィルムにしてチップや基板に直接貼り付けることで発熱を抑えられるんだ。 ダンジョン内限定なんだが、効果は絶大だったと言っていい。 今君たちに渡したのはプロトタイプの製品なんだ」


「うへっ、これってめちゃくちゃ高価な奴なんじゃ」


「高価というよりは希少品だね。 現時点ではどんなにお金を積んでも個人が手に入れるのは不可能と言っていい。 これは米国のダンジョン攻略隊からの支給品なのだからね。 君たちが、……君たちの数人の英語に不安があるということで今回特別に用意されたものなんだ」


「そこまでして僕等のパーティに同行したいんですかね」


「エネルギー石は別にしてもスキルオーブでも膨大な富をもたらすからね。 それで今日はその候補者御一行が来日したという訳なのさ。 これから引き合わせたいんだが大丈夫かい?」



 いずれにせよ1名の受け入れは避けられない。 だとしても今から会う? プライベートダンジョンの中で彼らと会うというわけには行かないが、ダンジョン自衛隊本部の初級ダンジョンの中でなら安全だ。



「今すぐにですか?」


「今は自衛隊幹部の面々と打ち合わせ中だから、交渉を多人数対少人数の関係にできるはずだ。 味方が多い方が君たちも安心だろう?」



 なかなか鈴木さんも腹黒いところがあるなと思ったが、確かに僕等のような駆け出し冒険者みたいなパーティではあちら側に()められてしまうかもしれないから納得できる話ではある。 鈴木さんにいいように誘導されてしまっている感もあるが文句はない。


「わかりました。 それでいいです。 ところで変装とかは必要ですか?」


「変装? ああ、美沙佳さんが言っていたことか。 まあ今回は必要ないだろう。 あちら側の身元はしっかりしているからね。 それにダンジョン攻略を一緒に行うとなると印象を悪くしない方が良いと思うよ」



 そういうわけで僕等は鈴木さんの案内で、ダンジョン内施設の会議室へと連れて行ってもらった。 ドアを開けて中へ入ると、一斉に中の人の注目を浴びることになった。



「初めまして、僕は吉田幸大といいます。 Y君とお呼びいただいて結構です」



 あろうことか、本能的な反射で言葉を発してしまった。

 だが、暫くの沈黙の後で鈴木さんがフォローしてくれた。



「ご紹介します。 こちらが例の、パーティ”レインボーオーブ”の面々です」



 ん? パーティ名レインボーオーブって? ま、まさか僕たちが結成したサロナーズオンラインのクラン名”虹色の宝珠”を英訳したってこと? でもそれを何故鈴木さんが知っている? あ、ああ、もしかしたらレイナさんのお父さん――アバター名は忘れた、から聞いていたのかもしれない。 いや、何となくだが以前どこかでパーティ名を問われた気がするが、その時にクラン名とパーティ名を混同して伝えたかもしれない?  まあいい、パーティ名なんてどうでも良い事だ。


「おい、冗談だろう? そんなガキどもが上級ダンジョンをクリアした凄腕クランだとでも言うのか? ふ、ふざけるな」


 金髪青目で身長2メートルを超え、そしてマッチョな凄みのある外国人が発した驚きの声(アメリカ系英語)は、響くような低音の大声だった。 


 すげ~、制服がピチピチだ。 格闘技のヘビー級チャンピョンでも通じる体格だ。 


 よく見るとその人の襟章から階級は中佐だとわかった。 鬼軍曹といった風体なのに実はバリバリの士官で中佐とか非常に違和感がある。   



「エリック、さすがに初対面でそれは失礼だよ。 ここ数か月で彗星のごとく頭角を現したパーティなんだ。 その構成員が若者で、2名は大学生男子、4名は高校生女子だってことは事前調査で分かっていたことだろう?」


 小柄――といっても身長は僕よりは高そう――でスリムな黒人、そして大佐の襟章を付けた上品な方がその中佐を(たしな)めた。


「ああ、お前たちすまね~な。 俺が悪かったぜ」


 マリと同じ話し方をする人だった。 マリは女子かと思うぐらいの優男、そして中佐は怪物と言っても過言ではない風貌だ。 それでいて話し方が同じというのは面白いというか混乱してしまう。 話し方についてはマリの方が変というのが一般的な見解となるのだろうが、僕たちはマリに慣れてしまっている。


 自衛隊の面々が見守る中、僕等は互いに自己紹介を行った。 大柄な金髪男性は、エリック・バトラー・マカデミア中佐、上品でスリムな男性はギャレット・マクダグラス准将、そしてもう一人、僕たちと同じく黒髪黒目で鋭い目をした中肉中背の人はモリソン・ドロップ少佐という方だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 弾をドロップする敵の設定が変わっているように感じます。 第149部分「帰還」で、「アンフェアイソギン」から弾を確保したようになっています。 この第156部分で、阿修羅上級ダンジョ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ