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154.  げっ! それって

 空自のヘリがダンジョン自衛隊本部のヘリポートに着陸するのは異例なことなのだそうだ。 考えてみれば同じ自衛隊といっても管轄省庁が異なる時点で組織としては別物なのだ。 とはいえダンジョン自衛隊が元々は防衛省の自衛隊組織から派生した組織であることから省庁関係者以外の制服組はかなり関係が深いと聞いている。 管轄省庁が分かれている理由は、主に他国との対外的協力関係を円滑にするためなのだ。 つまり日本の自衛隊の入国を拒否するような国であっても、タンジョン自衛隊だけは全世界のダンジョン連盟を通せば問題なく派遣ができるのである。 最近ではダンジョン自衛隊という名称をダンジョン攻略隊と変更すべきという議論すらある。


 ヘリの中ではローターの爆音を消すためにフルフェイスのヘルメット着用が義務付けられていた。 そしてその中では先程の事件についての空自経由で情報交換がされており、僕等にもその情報交換の場に参加させてもらっていた。 

 ダンジョン自衛隊の本部屋上のヘリポートへ着陸したがヘリの中でビデオ会議が継続していた。 そのビデオ会議が白熱してしまい、止める切っ掛けを失ってしまっていたのである。 

 僕だって事件の謎解きや背景調査には興味があるが、正直疲れてしまっていたので口に出して見た。



「あの~、それで僕たちはこれからどうすればいいのでしょう?」


「ああ、すまない。 君たちには念のため一旦病院で検査してもらい、それから取り調べに協力してもらいたいかな。 まあ、状況的に何が起こったのかは直前の通信会議記録から明らかなんだけどね」


 知らない方――話からするとその方は公安警察の方――が回答してくれた。 僕等に襲い掛かった事件は、もはやテロといえるレベルなのだそうだ。 閑散とした道路で僕等以外に被害にあった車両はなかったものの、銃乱射どころかグレネードによってエムレザー装甲の車が完全に破壊されてしまったのだ。 直接的な目撃者は居なかったはずなのだが周辺への騒音は隠せてないし、自衛隊のヘリも複数やってきたので世間的にも問題視されないわけがない。


「一旦会議は中断して、彼らを安全な場所へ避難させたらどうかと思います」



 鈴木さんの発言だ。 ここは屋上とはいえダンジョン自衛隊の本部敷地内だ。 ここより安全な場所ってそんな場所があるのだろうか。 



「安全な場所? ああ、ここにある初級ダンジョンの中の病院ということか。 確かにこの規模のテロ事件を起こす過激な組織だとすると、何をしでかすか分かったものじゃないね。 最悪の場合ミサイル攻撃だって受けてしまうことを想定しておくべきか」



 み、ミサイル攻撃!!  そんな極端なことなどあり得ないし信じたくもない。



「ダンジョン内の病院での検査は必要と思いますが、その前にトゥルーコアタッチを行ってもらい、彼らがダンジョンの中に避難していることを公にしておくことが良いと思われれます」


「なるほど、今回の事件は明らかに展開が急すぎて不自然だった。 奴らは花岡ダンジョンの近くで網を張っていたとも考えられるが、攻略直後に事件が起きたとするとトゥルーコアタッチ情報を知ることができる組織の関与が疑われますね。 逆にダンジョンの中にいることを伝えれば彼らは攻撃できないし、我々も巻き添えにならないで済むということか……」


「流石にミサイル攻撃等の戦争行為に及ぶまででは無いと思いますが、その位の対策は簡単なのだからやっておいて損はないでしょう」



 あまりに大きな話になってきて頭がクラクラする。 会話の内容から察するに相手は犠牲者の数など気にせず、戦争も辞さないのだろうか?



「この通信も傍受されている危険があるから、避難は早めがいいと思います」



 その一言で僕等はヘリでの会議を中断し移動を開始した。 直ぐに外へ出てから建物の階段をおりて、ダンジョン自衛隊の中にある訓練用の初級ダンジョン――通称、自衛隊ダンジョンの中へと入った。 


 もちろん直ぐにトゥルーコアタッチをしておいた。 そこは初級ダンジョンとはいえコアまでの距離はそれなりに長い。 しかしこのダンジョンでは専用のモノレールのような車両が設置されており短時間での移動が可能だった。 ゲート付近では高速で移動する物体は弾かれるから、入口以外にゲートのない初級ダンジョンだからこそコアルームまでの直通かつ高速移動が可能だったのである。


 トゥルーコアタッチを済ませると直ぐにダンジョン内の病院へと案内されて検査を受けた。 その後美沙佳さんと今井さんだけが会議に招集されてから僕等は解放された。 


 解放されたとはいえダンジョンから出ないように要請を受けてしまったので病院内の小部屋へと籠ることになった。 もちろんダンジョン内に留まるのは任意なのだが、無理に外へでる必要もないから素直に従うことにしたのである。 それに僕等にはプライベートダンジョンがあるため小部屋でも不自由は感じない。


 プライベートダンジョンの中に入ることでやっと一息つけた気がした。 



「こんなことになるなら、最初から自衛隊ダンジョンでトゥルーコアタッチしておけばプライベートダンジョン経由で直接もどれたのにね」


「ミレイさん、僕もそう思ったよ」


「ヨシ君。 自衛隊ダンジョンは余程のことがない限り自衛隊員以外は入れないところなのです。 トゥルーコアタッチは主に自衛隊員が初級ダンジョンのコアタッチ条件をクリアできたかを判定するためだけに行われていると聞いたことがあります」


 レイナさんがその様に説明してくれたので事情は理解できたような気になった。 カナさんがそれに続けた。


「だけどさ~。 今回のような事件が起こらない限り、私達に危険が迫っているなんて知ることはできなかったと思うのよね。 これからはダンジョン攻略後はこの自衛隊ダンジョンへ帰って来るのがよさそうかも」


「これじゃ俺たちは当分ここから出れね~ってことじゃね~か? 今更ここへ安全に戻れる手段があっても攻略目標のダンジョンまで辿りつけねーよな」


「ええそうね、上級ダンジョンの依頼もそのままってことになりますね」


「本当にこれからどうなるんだろう……」



 結局今後のことは考えても仕方がないという結論になり、僕等は暫くプライベートダンジョンの中で様子見することにしたのだった。 プライベートダンジョンの中でも、外とは通信可能な状態になっているので、外出ができないだけで他には不自由はない。 

 サロナーズオンラインへのログインも可能だし、必要な物があれば自衛隊や鈴木さんへ頼むことも可能だし、ネットを通して購入することも可能だった。


 暫くの間プライベートダンジョンの中の娯楽室(2D版VR室でない)でうだうだと暇な時間を過ごしていると、美沙佳さんが中へと入って来た。 プライベートダンジョンの入口には、この前のアドバイスを元に生体認証型のエムレザーが使われている鋼鉄製の扉が取り付けられている。 美沙佳さんや鈴木さんには開錠する権限を与えていた。 もちろんカナ父には権限を与えていない。



「みんな元気がないわね。 大丈夫?」


「あ、美沙佳さん。 僕等は、ま~大丈夫です。 ただちょっとやる気が無いだけです」


「お姉様、負傷した今井さんはどんな状態ですか?」


「外傷は完全に治癒して休養中だわ。 傷は直ぐに治ったとはいえダンジョン外で片腕を吹き飛ばされるなんていう強いショックを経験をしたのよ。 これからメンタルケアも必要のようだわ。 これがダンジョン内だったらVITの恩恵でそれ程激痛を感じなかったのだけれど……」



 そう言うと美沙佳さんは改めて僕等を見回した。 そして僕等のダラけきった姿にため息をついた後で話を続けた。



「どうやら貴方達にもメンタルケアが必要なようね」


「そんなことは無いです。 ただ僕等は理由が分からない組織から狙われていることと、行動の自由が奪われているのが辛いだけです」


「なるほどね。 それはそうと、私達を襲った組織にある程度目星がついたわ。 聞きたい?」


「もちろん聞きたいです。 どういう理由で僕等を狙ったのかも」


「端的に言うと、目的はダンジョンクリアの阻止、つまりトゥルーコアタッチの阻止ね」


「それって、つまり僕等が上級ダンジョンをクリアしちゃたから?」


「もちろん上級ダンジョンもそうだけれど、その前に中級ダンジョンもトゥルーコアタッチ条件を見つけたのも原因ね。 短期間でそれだから随分敵視されたのだと思う」


「どんな組織が関与していたんですか?」


「世界ダンジョン教よ。 あっ、誤解しないでほしいのだけど、ダンジョン教の中の(ごく)一部が関係していると見ているらしいの」



 僕は不思議に思い、首を傾げてしまった。

 ダンジョン教、それはダンジョンは神が人を救済するために創造主が作りたもうたと考えて、ダンジョンをあがめて信仰する宗教団体だ。 カルト性もなく無害とされていたはずなのだ。



(ごく)一部って?」


「そのダンジョン教の中でも、”ダンジョンのクリアは神への冒涜(ぼうとく)だ”と主張している反コアタッチ派だそうよ」



 ん? 反コアタッチ派? ダンジョン教については講習会経由の雑知識で知っているかぎりそんな派閥は無かったはずだ。



「聞いたことがない派閥だな~」


「ソイツ等はマイナーな過激派みたい。 ただ問題なのはその背後に、エネルギーインフラ系、つまり石油、天然ガス、石炭、原子力、太陽光発電関連の企業が関与しているらしいのよ」


「エネルギーインフラ系って、そんな大規模な組織が関わっているなんて……。 トゥルーコアタッチで安全且つ安定的にエネルギー石が供給される目途がついてしまったのが逆鱗に触れたということ? そんな国家を凌駕するような企業組織に狙われたら僕たちは……」


「もちろんエネルギーインフラ系の企業は、着々とエネルギー石産業への事業転換も進めているようだけれど、急激な変化が許せないと言ったところなのかもね。 でもそれは単なる利権の問題だから政治的に何とかしてもらいたいものだわね」


「単なる利権って、今までの歴史を考えると、詰まる所ほとんどが利権がらみが原因で戦争なんかが起こっているんじゃないですか?」


「まあそうね。 でも国家間の問題は全世界ダンジョン連盟を通してダンジョンの世界共有化で何とかなるはずだわ。 S国とN国の紛争なんかも、それぞれの国家の独占が原因だしね。 企業の利権については国家が強く干渉すれば抑えられるわね」


「そんな理想的に物事が進みます? それって美沙佳さんの希望的観測なんじゃ?」


「先程の会議で明かされた事実として、ダンジョンの世界共有化プロジェクトは順調に進んでいるみたいよ? 中級ダンジョンのトゥルーコアタッチで必要になるスキルオーブの提供を餌にしてプロジェクト推進派を拡大しているみたい」


「げっ! それって」


「そうよ。 貴方達が多量に供給してくれたスキルオーブが成立のキーだわね」


「つまり、スキルオーブを提供して中級ダンジョンの攻略を可能にしてやるから、ダンジョンを世界共有化しろってことか。 でもマイナーな国家は了解するだろうけど米国のような大国は反対するんじゃ?」


「いえ。 種弾丸、あれは攻略手段として絶大な効果があると認められたわ。 中級ダンジョンのイレギュラーな高レベルの魔物にも立ち向かえる武器になるからね。 それに貴方達から供給された高レベルの魔物情報も交渉の材料になるわね。 それらがタイミング良く得られないと世界的なエネルギー石獲得競争で敗退することなりかねないからね」


「うあっ、僕たちってもしかして重要人物になっちゃった?」


「それは今更なんじゃないかしら?」


「い、いえ。 これ程までとは思ってませんでした」


「……」



 エミリ以外は事の重大性に狼狽えた表情になってしまった。 だがこれって僕等が恐れていたように、今後は種弾丸やスキルオーブの取得に専念しないとならないってことなのだろうか。 



「……。 それで今後なんですけど、僕等はどうなるんです? 上級ダンジョンのクリア依頼をこのまま進めていいのかどうか」


「う~ん、そこなのよね~。 偽名の冒険者票を作ると言う手もありそうだけど、貴方達は目立ちすぎるのよね」



 あれっ? オーブ獲得とかよりも上級ダンジョン攻略が優先と判断されている?



「目立つって、綺麗な美沙佳さんほどじゃないですよ~」


「あら御上手ね。 私も目立つとなると更に問題だわね……」


「でも美沙佳さんは、ちょっとだけ化粧で誤魔化して怖そうなお姉さんにすれば……」



 美沙佳さんは天使の微笑みを浮かべたまま表情が固まり、周辺に静電気放電が発生し始めた。


 ま、不味い。 これだから女性ってやつはメンドクサイ。



「えっと、コッホン。 誤解を与えてしまったようなので言い換えます。 かなり、かな~り化粧を濃くして変装すれば優しそうな……。 あ、いや、こ、怖そうなお姉さんに化けられると思います」


「そうよ。 それでいいのよ。 言葉には気を付けてね~」


「わ、わかりました」


「でも変装というのは良いアイディアかもね。 偽名と変装、なんだか古いスパイ映画みたいな感じになってきてるけど、濃い化粧の怖い教師に引率された子供達のダンジョン見学ツアーってのもいいかもね」


「ぐっ、子役は拒否します。 できるなら怖い教師2号みたいなのがいいです」


「……」


「まあ、いずれにしても、少し状況が落ち着いてからの話ね。 これで米国のダンジョン組織関係者も取り込めるから、テロの問題もダンジョン共有化の問題も政治的に解決する方向に動くはずだわね」



 恐れていた取り調べとかもなく、その後ダンジョン省局長で鈴木さんからも同様の説明を受けた。 そうなると僕等がすべきことはプライベートダンジョンに籠って、スキルオーブやエネルギー石、種、超高級エムレザー、その他の素材集めとなる。 僕等は我慢してそれらの獲得に専念した。 


 そして一か月近くが経過したところで、米国からダンジョン関係の軍人が派遣されてきた。 それはつまり上級ダンジョンへ攻略の準備にとりかかる段階になったということなのだ。


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