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152.  残骸

 

「これは……」


 美沙佳さんが驚いた顔をした。



「どうしたんですか? ここが戦の最前線だったってことなのでしょう?」


「私が想像していたのと全く違うの。 鋼鉄製の近代兵器がこんなにズタズタにされたなんて話は聞いてない。 あの撤退戦は多数のエイシェントラプトルを相手にしたものだったとされているわ。 エイシェントラプトルはレベル50程度で、今のエムレザーで補強した防衛戦車を擁するダン自の攻略部隊だと問題なく討伐できるはずなの。 だけどエムレザーで補強されてなかったとはいえ鋼鉄製の兵器類をこれほどまでに破壊するなんて考えられないわ」


「お姉様、あれからかなりの時間が経過しています。 もしかしたら上位種がスポーンした可能性も考えるべきかと思います」


「レイナちゃん。 その推測通りかもしれないわね。 これは一旦撤退して……」


「お姉様。 わたくしのウインドバリアはレベル500程度ではほぼ無敵でした。 いくらなんでもそれを超える魔物はそうそういないかと思います」


「俺としちゃ~、上級ダンジョンの予行演習に丁度いいんじゃねーかと思うぜ?」


「マリ、僕は父の敵のエイシェントラプトルを相手にしたかったんだけど、このままじゃ気が収まらないよ。 とりあえずどんな魔物かを確かめて、強敵だったら一旦撤退してシミュレーターで対策を練ろう」


「お姉様、ご安心ください。 わたくしたちは鋼鉄をくず鉄に変えるレベルの魔物との交戦経験が多くあります」


「お兄ぃ。 探知はどうなの?」


「うん、探知範囲には魔物はいないね。 とりあえず奥へ進もうか。 あ、美沙佳さんはレイナさんの近くにいてくださいね。 高レベルの魔物との戦闘に関しては僕等の方が慣れているので」


「……」



 僕等は上級ダンジョンにいるつもりで奥へと向かっていった。 しばらく探索しても魔物はいなかった。 この密度で魔物がいないということは強力なユニークとかの魔物に遭遇する可能性がある。



 僕はレベル420程度の魔物がドロップした黄色い霞を纏ったレイピアと、レベル634の強敵がドロップした赤く光る丸盾を装備して探知を優先、マリはウォーターバリアを展開し看破EXを使えるようにしているはずだ。 

 レイナさんはウインドバリアを常時最大レベルで展開。 ミレイさんは種弾丸を手に取りオーブ鑑定用のミニゲートを発生させている。 カナさん、エミリはMP回復用のオーブを握りしめており、火魔法と風魔法の地獄の業火を撃てるようにしている。 エミリがレイナさんに擬態(ミミック)すれば究極の地獄の業火の使用も可能だ。


 そして進むこと数キロメートルで僕はとうとう魔物の反応を(とら)えた。



「ストップ、ストップ。 魔物を一匹探知したよ。 暫く移動速度とかに異常がないかを観察させてもらうね」


 僕等はあの転移するミノタンの教訓から学んだのだ。 移動速度が異常に早い場合は気を付けるべきであると。 

 あの時の様にいきなり襲われて素性が分からないままの魔物との戦闘は避けたい。 戦闘が避けられない場合でも僕が魔物の移動パターンだけでも事前に把握しておけば、マリが安全に看破できてシミュレーションを使わなくてもある程度の情報が得られるはずなのだ。



「どう?」



 暫くしてからミレイさんが僕に聞いてきた。 ここまでは僕等のパーティのルーチン的な対応といっていい。



「転移はしないような感じだね。 おそらく近づいても大丈夫だと思う」


「じゃあ行こうぜ」


「て、転移?」


 美沙佳さんがすごく驚いた顔をした。 それの気持ちは分かる。 僕等だって転移する魔物には驚いたのだから。



「美沙佳さん、過去に遭遇した敵の中には転移する魔物も居たんです。 でも安心してください。 ミレイさんが発生させているミニゲートによって直接僕等の(ふところ)へ飛び込まれることはありません。 遠方からの魔法攻撃はウインドバリアやウォーターバリアで防げるし、武器による攻撃を受けても僕が防いでみせます。 つまり守りは万全だと思ってます」


「ミニゲートってそれ?」


 ミレイさんが右胸辺りに発生させているミニゲートを指さした。 ミレイさんがミニゲートを作り出す場所はかなり自由なのだ。


「はい、お姉様。 これが私のオーブ鑑定スキルでオーブを取り込むためのミニゲートです。 これを開いて置けば魔物はこの付近に近づいてこないんです。 ダンジョンの階層間のゲートや、ヨシ君のプライベートダンジョンのゲートも同じ効果があるんです」


「オーブ鑑定のスキルを持っているのはミレイちゃんだったのね。 そんなに小さなゲートでも階層間ゲートと同じ効果があるのね」



 納得いただいた美沙佳さんを守るような隊列をとって、今の僕等には適度といえる緊張感をもって進んでいった。 戦闘になればその緊張感が高揚感に変化する。 それは僕等が既に成熟した戦士であることの証だとも言えるだろう。


 そしてマリが魔物を目視可能な位置まで到達して看破した。 その魔物のレベルは381で外見は三つの首を有する体長6m程のラプトルだった。 


 遭遇した初めての敵に対してはシミュレーターで事前に対策を練るのがセオリーだ。 僕等は一度その場から十分距離を取り、プライベートダンジョンに入ってからシミュレーターを起動した。


 そのラプトル――三つ首ラプトルは強力な噛み付き攻撃を主体とし、普通の鋼鉄ごときは容易に破壊できるレベルだった。 僕等の装備している最高級エムレザー製の防具でもやっと耐えられる位である。 攻撃力がかなり強い魔物であることは確かだ。

 その魔物は他に魔法耐性、特に火魔法の耐性が異常に高く、地獄の業火でも倒すには時間がかかりそうだった。 そして弱点は首なのだが、首が3本ある上に再生能力があるのが嫌らしかった。 けれども僕は剣の一撃で首を切り落とし可能だったので、シミュレーターで10分ほど訓練することで安定して三つの首を切り落として討伐することができるようになった。


 実戦でも同様に僕の剣による攻撃が有効だった。 本当にシミュレーターは役に立つ。 本来なら慎重に対応すべきことを、危険を冒さず試すことができるので対策が容易に見つかるのだ。

 そしてその三つ首ラプトルは、ユニークスキルオーブとエキストラスキルオーブを1つずつドロップした。 その他のドロップ品はエムレザー以外は今までと変わらない。



「こいつはユニークだったんだな」



 僕はそう(つぶや)いてドロップしたユニークスキルオーブを取り上げてしげしげと見つめた。 これで父の仇討(あだう)ちは終わったと感じたのである。 しかし……。



「お兄ぃ、まだだよ。 そんな顔をするのはこのダンジョンを攻略してからにしようよ~。 エミちゃんはこのダンジョンがお父さんを奪ったと思ってるんだ」


 エミリの中では仇討ちが終わってなかった。 言われてみればそうなのかもしれない。 魔物はダンジョンから生み出される。 そしてこの花岡ダンジョンは発生して間もない段階でさえイレギュラーなラプトルの大群を生み出して大惨事を引き起こしたのだ。 こんな危険なダンジョンはさっさと攻略してイレギュラーが発生しないように変えておくべきだ。



「エミリわかったよ。 この勢いでここを攻略してしまおう。 だがその前にこのユニークスキルオーブなんだけど。 悪いけど僕に使わせてもらえないかな」


 パーティ会話で一瞬の間があった。 ミレイさん達が驚いた顔で僕を見ている。 そういえば今までドロップしたスキルオーブ等を自ら積極的に使いたいと口に出したのは始めてなのかもしれない。


「ああもちろんだぜ。 俺はそれでいいと思う」

「ヨシ君が希望するなら異論はないわ」

「お兄ぃが強ければ、エミちゃん達は安全なの」



 皆が同意してくれたので僕はホッとした。 そして僕はユニークスキルオーブを使ってみた。 得たスキルは”強化”という名称だった。 カウンターがあり一日10回だけ使えるタイプだ。



「それでどうだった?」


「”強化”っていうユニークスキルを取得したよ。 カウンター付きのスキルなんだ。 早速効果をシミュレーターの中で試したいんだけど」



 シミュレーターの中でもスキルは使える。 ただ違うのは中でカウンターを使い切っても現実のスキルは使ってないことになるし、シミュレーターなら一度退室すればカウンターがリセットされるから何回でも試すことができる。


 そしてシミュレーターの中で判明した”強化”の正体は、パーティメンバーのステータスを一時的に――10分間だけ2倍にするというとんでもない代物だった。 単純に考えれば魔法はMPとINTで4倍の最大威力となる。 このスキルを使えば一時的とはいえパーティの強さを2倍~4倍に引き上げることができる。

 このスキルで更にヤバイのは、エミリのミミックとの連携だ。 エミリが僕に擬態して強化を使えば更に2倍にすることができた。 ただしエミリがミミックを解除したとたんにその効果は消失するので使いどころはよく考える必要がある。


 そんなミミックにも限界がある。 ダンジョンの中でしか使えないし、ミミックの対象者は少なくとも一度はパーティメンバーとなり、可能になるフラグを立てる必要があるようだ。 これはパーティ以外の第三者へ試した時に分かったことである。


 僕等はダンジョンの奥へと進んで行った。 遭遇するのはイレギュラースポーンと思われる魔物が殆どとなった。 つまり未だダンジョンの浅い階層にもかかわらずレベル100越えの魔物が当たり前となったのである。 

 だがレベル210より低いレベルの魔物は一般冒険者に看破されていて特徴は公開済であるし、僕等はそれらの情報を頭に叩き込んでいた。 それはかなりの数になるのだが、サロナーズオンラインのゲームに登場するモブと同じだったから覚えることが可能だったのだ。


 そんな感じで以降の討伐はかなり順調だった。 時々レベル210越えの新種に遭遇したものの、僕等の脅威となる魔物はいなかった。

 そしてコアルーム前のボスモンスターの手前までやって来た。 そのボスモンスターは美沙佳さん達にとって因縁の魔物、つまり炎のミノタンだった。


 美沙佳さんはこのダンジョンでステータスが2倍となった。 それはMPとINTが2倍になったということで、雷魔法の威力は4倍になったということだ。 素早さも2倍になっているので美沙佳さんの戦闘力は大きく上昇している。



「この魔物、ミレイちゃんの種弾丸であれば簡単に吹き飛ばせると思うけれど、私にリベンジの機会をもらえないかしら」


 美沙佳さんは案外と負けず嫌いなタイプのようだ。 よほど相手が特殊であるか動きが早くなければユニークスキルの恩恵で撤退するのは簡単とのことだった。 それに今はレイナさんのウインドバリア、全員の治療魔法、そして僕とミレイさんの狙撃でもしもの時の対応も万全だ。 だからこの申し出を強く断る理由はなかった。


「やっちゃってください。 でも一応シミュレーターで事前練習とかどうでしょう?」



 これには素直に同意してくれて、その成果もあって、美沙佳さんは実戦で炎のミノタンを圧倒して勝利することができた。 雷魔法の威力が4倍、筋力や速度も2倍にはなっているから攻撃をさけるのが容易になり、与えるダメージも格段に大きくなっていた。


 実戦を終えてボスモンスターを倒した僕らはコアルームへと到達し、トゥルーコアタッチを行った。 当然ながら美沙佳さんもトゥルーコアタッチに成功していた。

 これにより僕等の仇討ちは本当に完了したと思えた。



 攻略の余韻も覚めない内にプライベートダンジョン経由で花岡ダンジョンの入口まで戻ると、そこには僕たちを出迎える護衛部隊の方が待っていた。 



沙美砂さみすな一佐 。吉田さん、お待ちしていました。 攻略が終わったらすぐに本部の方へ帰還していただくよう要請が出ています」


「あら、今井一尉。 数日は自由にして大丈夫と思っていたのだけど……」


沙美砂(さみすな)一佐、理由は知らされていませんが急な話ということです。 送迎用のAI自動車もすでに待たせてあります」


「ここからだと、AI自動車よりも一旦2486ダンジョンへ向かってからの方が早くないですか?」


「あそこは今事故渋滞が発生しているようなので、こちらの方が早そうです」


「事故渋滞? 今時事故なんて珍しいわね」


「すみません、私からはお話できません。 車内通話で詳しい事情を問い合わせてもらうのが良いかと思います」


「え? その事故って私達に関係があるの?」


「すみません、お答えできません」


「……」



 何だろう。 今の質問を今井さんは否定しなかった。 ということは僕たちに関係のある事故っていう可能性がある。 

 僕たちに関係する事故って何だろう。 僕達は一抹の不安を抱えながらも送迎用のAI自動車に乗り込んだ。 

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