150. 花岡ダンジョン
それから更に一週間が経過し、僕等は美沙佳さんを伴って花岡ダンジョンの前に集合した。 このダンジョンは封鎖されていたのだが、今回特別に調査開放してもらうことで許可が降りたのである。 僕としては父を葬った魔物がどんな奴だったかを確認してやりたい。 その思いで一杯だった。
例の如く僕等はAI自動車――エムレザー装甲の特殊車両に乗りダンジョンへとやって来た。 僕等のダンジョンの外で乗るAI自動車は、この前からこの特殊仕様車になっているが、外見上は普通のAI自動車と違い変わらない。
自動車を降りるとそこには僕等の護衛部隊の方々が待っていた。 いつものダンジョン自衛隊ダンジョン攻略部隊の小泉さん達だ。 だか彼らと一緒だったのは自動車を降りてから花岡ダンジョン手前までの短い時間だけだった。 入口にある封鎖扉はすでに開かれていたので入口のゲートへゲート調査スコープをいれて中を調査した。 その結果少なくとも見える範囲にはよく知られている魔物しかいないことがわかったので直ぐに中へとはいったのである。
中にはいって直ぐにレイナさんのウインドバリアを展開した。 中にいるよく知られている魔物――キラースライムはスライムの上位種の上位種と言った感じで、レベルは70程度だ。 酸を吐いてHPも高いが動きがのろい。 そして同族のスライムを捕食する性質がある。
もちろんそんな魔物は僕等の敵ではないから軽くカナさんの全体火魔法で殲滅しておいた。 ウインドバリアはキラースライム対策というよりはカナさんの火魔法対策のため必要だったのだ。
「か、カナちゃん。 今の火魔法って見たことがないぐらいの凄まじい威力だったわ!」
仇討ちツアーには美沙佳さんも同行していた。 どうせ米国の上級ダンジョンには保護者?として付いて来るのだから隠し事はあまりできそうにない。 ならば早めに手の内を明かしておいた方が都合が良いだろうとの判断だ。
「お姉様。 今のは1/10位に手加減しました」
「そ、そんな訳……」
「美沙佳さん、僕からご説明します。 カナさんは火の加護というユニークスキルを持っていて、それだけで威力が普通の50倍にもなるんです。 それに、……どうせバレるだろうから今のうちに白状しておきますけど、カナさんのステータスはオール4000 つまりMPもINTも4000あります。 さらに火魔法のスキルはMaxの20なんです」
「ユニークスキル? 50倍? ステータスオール4000? 何よそれ!」
「あれっ? ステータスというのは、MP、HP、INT、MND、VIT、STR、DEX、AGIとかですよ?」
「それが4000って本当? 私達は上限に達してしまって1000なのよ?」
美沙佳さんは化け物を見るような目でカナさんを見つめた。 それを受けてカナさんが居心地悪そうに僕に目線を送ってきた。
「お姉様、ヨシ君なんてステータスが全て8000なのです。 私なんかゴミ扱いされているんだから」
「ちょっ、カナさん。 僕のステータスまでバラすなんてあんまりだ。 それにゴミ扱いになんかしてないよね」
「ちょ、ちょっと待って。 ステータスが4000とか8000とか有り得るの? ステータスは1000が上限のはずだったわ」
美沙佳さんは僕に向き直って真剣な表情で問い詰めて来た。 このステータスの件は鈴木さんにも秘匿してきたことなのだが、今後一緒に活動する上では話しておかねばならない。 僕は一旦目を瞑って額に手を当ててから覚悟をきめて話すことにした。
「ステータスの件はもしかしたら美沙佳さんも知っていると思っていました。 ステータスの上限、ええと一般的にはスキル上限といいましたか? えっとそれは1000ですが、ユニークスキルを一つ持っていると2000まで上がりますよね? あとは素のレベルが100に到達しても同じで、両方が組み合わさるとステータスが4000になるんです」
「レベル100? ……それは後回しにしても、ユニークスキル持ちでもステータスは1000で上限がくるのよ? 現にユニークスキルだったら私も持っているけどステータスは1000で止まっているわ」
「ええっ? そんなはずは……」
「ヨシ君。 オーブを食べる必要あるんじゃない? お姉様は多分食べてない……」
「た、たしかに。 私は未だ食べてないわね。 聞いたところではオーブを食べることは中級ダンジョンのトゥルーコアタッチにも影響するそうね」
「では、どうぞ」
僕は、個人用にストックしておいたオーブを一個手に取って美沙佳さんに手渡した。 それを少しの間見つめていた美沙佳さんだったが、吹っ切れた表情をしてから口の中に放り込んだ。
「どうですか? 1000を超えているステータスがあるんじゃないですか?」
「お、美味しい。 じゃなくて、ステータスが上がるどころかアナウンスもなかったわ」
「それって、どういうこと? ま、まさか美沙佳さん、噛まずに飲み込んてしまったんですか?」
「え、ええ。 飲み込んだわ」
「オーブは潰れないと効果が出ないんじゃないかな~。 よく噛んで味を確かめないと駄目ですよ~。 もしかして飲み込むと消化されずにそのままお尻から卵のように出てくる?」
「……」
「お、お姉様に失礼だわ。 謝るべきよ」
「そうです。 失礼です」
「そ、そうよ。 お姉様の怖さを知らないのね」
ミレカ姉妹から猛烈な抗議のお言葉をいただいた。
「いいの、いいの。 確かにオーブは潰して使うのが鉄則だったわ。 つい飲み込んでしまった私に非があるかもしれないわ」
「で、では改めてもう一個どうぞ」
僕は多少ビビりながらも、もう一つオーブを手渡した。 美沙佳さんはそれを今度はちゃんと咀嚼して食べてくれた。
「どうです?」
「アナウンスはあったけど、ステータスを見る限り変化は無いみたいね」
僕は美沙佳さんをまじまじと見た。 美しい。 本当に美しい大人の女性だ。 ミレイさんたちにはない30代ぐらいの気品に溢れた美しさだ。
「えっ? そんな馬鹿な、するとやっぱり年かな……」
っ、睨まれた。
僕の考えがわかってしまったのだろうか、美沙佳さんに思いっきり睨まれてしまった。
なんか凄く怖いものをおびき出してしまったような失敗感で一杯になり僕は完全に怯えてしまった。
「……と、としかな、そうだとしかな、あ、いや。 あ、あああ、あ。 あっ、やっぱりそうだとしか思えないです」
「何なの?」
美沙佳さんの口調が手厳しくなった。 まずいぞこれは!
「僕のプライベートダンジョンが関係しているとしか思えないです」
「……」
「ヨシ、そりゃ~どんな関係だ? 俺にも分かるようにちゃんと説明してみよ~ぜ」
ま、マリお前もそっちの味方か! この雰囲気は何だ。 完全にアウェイな感じじゃないか。
「え、ええとですね。 う、うう。 え、エミリはあの時?」
「エミリちゃんがなにかしら?」
「ミレイさん考えてください。 僕らは皆プライベートダンジョンの中でオーブを食べたじゃないですか」
「だからプライベートダンジョン内でオーブを食べてはどうか、ということかしら?」
「そ、そうだよ。 今はプライベートダンジョン内で食べてほしいとしか言えないです」
「そうね。 そうだといいわね」
ミレカの三姉妹から呆れたような憐れむような目でみられてしまった。 これは外したらさらに追い詰められることになるかもしれない。 僕の運命はプライベートダンジョンに委ねられたと思って間違いない。