15. ほんと最低
初めての実習でなかなかハードで貴重な体験をしてしまった。 これって運がいいのか悪いのか僕には良く分からない。 無事だったのだから良い経験を積ませてもらったと前向きに考えるべきだろう。 僕は良いにしても他の面々は大丈夫だったのだろうか。 トラウマになってしまうようなら気の毒としか言いようがない。
F君への治療が終わり、一行はやっと落ち着きを取り戻した。
僕はミレイさん――Dさんを心配したが、今は平然としている。 なんとも大した女性だ。
落ち着いて少し経ってから教官が僕たちの前に歩み出て話始めた。
「今回のような事は滅多に、いや、まず起こりません。 しかしダンジョンについては低階層といえど安心してとも言えません。 ダンジョンは危険な場所なのは間違いないので、これからも君たちは気を付けて探索するようにお願いします。 それではドロップ品を回収して撤収しましょう」
それから僕らはドロップ品を回収してダンジョンを出て、ダンジョン管理センターの建物へ向かった。
教官たちは管理センターの大広間で僕らに待機するように言い渡すと管理センターの奥へと入って行った。 そして戻ってくると僕らにICチップ入りの冒険者証を配ってくれた。 色々と問題はあったが、これで僕らは最下級つまりF-1ランクの冒険者となったのだ。
「皆さんおめでとう。 これで皆さんはF-1ランクの冒険者になりました。 これからの活躍を期待しています」
「最後の戦闘に参加できなかったEさんとHさん、え~とそれからDさん。もし良ければオプションの実習を受けることをお勧めします。 魔物を怖がることは決して悪い事ではないですが、時と場合によっては文字通り命取りになります。 オプション講習は護衛付きで経験を積める良い機会ですので是非ご検討ください」
EさんとHさんは頷いたが、ミレイさんは微妙な顔をした。
「私には頼りになる先輩冒険者が居りますので、そちらで経験を積みたいと思っています」
「……そうですか。 Dさん、くれぐれも無理はしないように心がけてくださいね」
「はい。ありがとうございます」
「ええと、それから冒険者規定によれば、ゴブリン集団戦を終えた時点で、君たちにもドロップ品の取得権が発生しています。 我々はその時点で教官ではなく護衛者扱いになるので、最後に倒したオークのドロップ品は、君たちパーティでの取得品です。 規定に従って換金して冒険者口座へ振り込んでおいたので承知しておいてください。 それでは質問がなければ解散にします」
そして誰も質問をしなかったので、そのままそこで僕達のパーティは解散となった。
冒険者規定のパーティの項目には、トラブルを回避するあらゆるルールが記載されており、パーティにおいての報酬は均一分配が基本と記されている。 また冒険者口座とはダンジョンドロップ品を換金した場合の振込先の個人口座だ。
僕はそっと携帯端末を取り出して口座をみると新たに3万5千円程が振り込まれているのがわかった。 今回に関しては、装備のレンタル料金が1万円だったが結局2万5千円の黒字となったのだ。
僕はその結果に満足して、ほくほく顔でセンターから外へ出ようとしたところでミレイさんに呼び止められた。
「ちょっと、え~と貴方。 何と言いましたっけ? よ、吉村さん?」
「ミレイさん。 僕は吉田です。 吉村ではなく吉田です。 何か御用でしょうか? もしかして”疾風の白狼”への入団に関してですか?」
「……そうでは無いけど、その、何故私が固まってしまっている時に”トイレ”って言い続けたのかを聞きたくて……」
「ああ、そのことですか。 ミレイさんが、緊張しているみたいだから言ってみただけですよ」
「そうだったの。 私はてっきりセクハラされたのかと思って、最初は怒っていたのだけど、そのうち、……気づいたんです」
「よかったですね。 緊張して皆の前でお漏らししたら、いくら美人さんでも恥ずかしいですからね」
「えっ?」
「ん?」
「よ、吉田さん、貴方って……、 あんたって、ほんと最低!!」
僕を睨みつけてから彼女は去って行った。
何でこうなったのか、コミュ障気味である僕でも理解できる。 そして彼女とは多分二度と会うことはないだろう。 彼女のような人に思いを寄せてしまうのは無謀だし結末は見えている。 多分これで正解だったのだろうと思う。 それでも僕の心には浅くない傷が残ってしまったのであった。