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147.  ダブルマスター

 プライベートダンジョンから2986初級ダンジョンへと戻ったわけであるが、出迎えてくれた護衛部隊の方々は戦々恐々としていた。 その一つの理由はもちろん僕達の帰りが遅くなったことだろう。 そしてもう一つは、僕達と一緒に1名が出て来たからだ。 その1名とは、沙美砂(さみすな)一佐――美沙佳さんである。


 プライベートダンジョンから出るにあたり、僕は一番最後に出ないとならない。 そうしないと残る仲間が入口から外へ叩きだされてしまう。 僕が最後にプライベートダンジョンから2986初級ダンジョンの入口へ出た時には、必然的に美沙佳さんが既に出た後だったのだ。


「吉田さん、良くぞお戻りになられました。 早速特別プロジェクト会議室へとお越しください。 小泉隊長からは直ぐにお話しなければならないことがあると聞いています」



 出迎えてくれたのは当直の護衛の方――以前僕が泣かせてしまった、あのメガネをかけた女性の方だった。 

 わだかまりは無いはずなのだが、何となく余所余所しい感じがするのは気のせいだろうか。

 いや、違うな。 

 彼女は時々ちらりちらりと美沙佳さんの方を見ていることから察するに、美沙佳さんが原因なのだろう。



「はい。 特別プロジェクト?会議室ですね。 えーとそれって何処でしたか? 以前はそんなのは無かったように思うんですけど」


「はい、つい最近になって急遽設けられた施設です。 まだ仮施設なのですが、どういう経緯でそうなったかは説明があるものと思います」


「その特別プロジェクト会議室には、私も入室しても良いのかしら?」


「い、一佐。 それは私にはお答えできかねます。 隊長――いや、もっと上層部の方に問い合わせる必要があるのかもしれません」


「……そうなのね。 ……何となく事情は察するものがあるけれども、私も是非とも会議に参加させてもらいたいものだわね。 上へ報告するためにも私達を救出してもらった経緯も知りたいのよね」



 美沙佳さんの右肩の付近が光ったような気がした。 これは放電? やはりこの人はダンジョンの外でも電撃能力を使うことができるような超能力者?なのかもしれない。


 ダンジョンの入口のゲートすぐ近くに専用の通路へ連なるドアが設けられていて、そこを通り上の階へと案内された。 もちろん以前にはそんな専用のドアや通路等は無かったはずだ。  特別プロジェクト会議室の手前までくると、美沙佳さんと一旦お別れをして僕達は中へと入った。


 そこは会議室というよりは大きなモニターが多数並ぶ広いホール状の作戦指令室といった感じだった。 そして入ってすぐのところに僕達になじみのある強化ガラス板が設置してあり、ご丁寧に付近まで光ファイバーケーブルが何本も来ていた。  これはつまり、ここでは僕達がプライベートダンジョンへ直ぐに入れるような環境になっているということなのだ。


「では、こちらでお待ちください。 直ぐに鈴木局長が参ります」



 女性の警護の方は強化ガラスの方へと手を差し伸べた。 



「ここでなくて、プライベートダンジョンの中でということですか?」


「はい、その様に指示されています。 ダンジョンの中でなら安全だそうなので」


「えっ? ここは安全じゃないんですか?」


「そういうわけではありませんが、ダンジョン内のようなステータス強化が現れない地上よりは安全性が高いということです。 この施設は高級エムレザーで完全防護されていますが、万一テロの対象になったらどうなるかわかりませんからね」


「テ、テロの対象ですか? それってあまりにも極端な話じゃないですか?」


「極端かどうかはともかく、取りあえず中に入ってからでお願いします」


「わ、わかりました。 とりあえず、 ……ダンジョン生成!」



 僕達は光ファイバーを中へ引き込んで、プライベートダンジョンの中へと入った。 そしてファイバーを通信機器へと繋ぎ、専用のモニター画面へ表示させた。  このモニターは事前に鈴木さんから支給されていたテレビ会議システムのものだ。 VIPサロナーズオンラインの2D版VRルームと比べると随分とレトロ感がある代物だ。  仮想空間を使うと言うのも時と場合による。


 暫くして、美沙佳さんもプライベートダンジョンの中へ入って来た。 そのとたん今までリラックスしていたミレイさんたちが背筋を伸ばすのが見えた。



「お許しが出たので失礼させてもらいますね。 ……ところで、このゲートの中へは誰でも入って来れるようだから、中から重い鉄の扉とかで塞いでおくのをお勧めするわ」


「あっ、そうですね。 でも、……間違って入口を塞いだまま、コアルームの方の出口から外へ出てしまうと厄介です。 まあ、エミリがいればミミックダンジョン経由で戻っては来れますけど」


「ミミックダンジョン? ……吉田さんには他にも色々と秘密がありそうだわね。 それはそうと確かに入口を塞いだままあちら側から出てしまうようなことがあれば問題ね。 なら生体認証で開閉できる簡易的な自動ドアがいいかもしれないわね」


「自動ドアですか……、ありがとうございます。 後で鈴木さんにお願いしておきます」



 美沙佳さんは僕達が救助したことに対して丁寧に感謝してくれた後、いかに部隊が差し迫った状況になりつつあったかを説明してくれた。  そうこうしている間に鈴木ダンジョン攻略局長が到着したようで、僕等はモニターに集中することになった。



「君たちが無事帰還してくれて良かったよ。 まず小菅中級ダンジョンと阿修羅上級ダンジョンの攻略ありがとうございました。 いやしかし中級ダンジョンを攻略したら直ぐに戻ると思っていたから、今回は少々焦ってしまったよ」


 鈴木さんはそこで一呼吸おいてから話を続けた。


「捜索隊を組織しようとしていたら、どういうことか君たちが阿修羅ダンジョンを攻略したという情報が入ってきたじゃないか。 その時は正直嘘かと思ってしまったよ。 無事が確認できたのには安心したんだが、まさか上級ダンジョンを攻略してしまうとはね。 私は衝撃でめまいを起こして倒れそうになってしまったよ。 ははははは」


「御心配かけて申し訳ありませんでした。 僕達もまさかコアルームの先に突然ゲートが発生して、それが上級ダンジョンへ繋がっているなんて思いもよりませんでした」


「突然ゲートが発生ですか……。 まあ詳細な状況は後で報告願うとして、まずはこちらの状況を君たちに伝えなきゃならないよ」


「上級ダンジョンを攻略したことが関係していますか?」


「そうだね、大騒ぎになっているよ。 上級ダンジョンは今までコアへの到達すら出来なかったからね。 それがいきなりトゥルーコアタッチで完全攻略したんだからね」


「すみません、つい出来心でやっちゃいました」


「……」


「でもなんで今更? 僕達は僕のプライベートダンジョンでもトゥルーコアタッチを成功させています。 プライベートダンジョンも上級ダンジョンだと思うんですけど、そちらは話題にはならないんでしょうか?」


「ソリン装置にはプライベートダンジョンの攻略情報は載っていないね。 恐らくスキルで作られたダンジョンだからじゃないかな」


「つまり今回世界で初めて上級ダンジョンの攻略情報が伝わったということか~。 そしてそれが大反響だったということですか……」


「上級ダンジョンのセーフティゾーンの先の魔物は軒並みレベル200越えで、レベル210を超える魔物はレベルが高すぎて看破できないからシミュレーターに登録すらできないから討伐は困難を極めているんだよ。 それで日本へ上級ダンジョンの攻略依頼が数件来ているというわけさ」


「あ、ああそうですね。 ま、マリの看破EXがチートなんです。 高レベルの魔物でも看破できたからシミュレーターで事前に試せて僕達も安全に攻略できたというのが正直なところです。 中には看破する余裕を与えてくれずに攻撃してきた魔物も居ましたけど」


「お、おいヨシ。 どう考えてもチートは俺だけじゃねーぞ。 お前のダンジョン生成と急所突き、レイナのウインドバリア、カナの強烈な火魔法、ミレイの種弾丸、そしてそれらをサポートするエミリのミミックじゃあねーか。 元を辿れば全部お前が原因だ」


「マリ、お前の能力は公開することになるだろうな。 でないと高レベルの魔物のシミュレーター情報を開示できないし、開示できないとなると上級ダンジョンは全て僕達任せになってしまう可能性があるんだ。 とても対応できそうにないよ」


「ま、待ちたまえ。 上級ダンジョンの攻略の全てを君たちに依頼することは流石にあり得ないよ。 それでも数件だけは早急にお願いしたい事情はあるけどね。 それはそうと攻略過程で高レベルの魔物も多種類相手にしたってことだね?」


「ええそうです。 そのデータの提供を?」


「ああ、お願いしたいところだね」


「わかりました。 では今すぐにでもサロナーズオンランへアップロードを……」


「いや、待ってくれ。 そのデータは一旦ダンジョン省経由で世界のダンジョン連盟へ届けるのが筋だ。 世間一般に公開すると今の比じゃないぐらい騒ぎになる可能性があるからね。 現段階では必要なところだけに開示する方が賢明だと思うね」


「確かにそうですね。 ソリン装置の存在は世間一般には知られていないから、トゥルーコアタッチの情報もほんの一部のダンジョン関係者しか知らないんですよね?」


「そういうことだね。 君たちが有名人になりたいのならば話は別だが」


「……今は止めておきたいです」


「ああ、それが良いだろうね。 警護もやりやすくなるからね」



 そこで僕は気が付いた。 美沙佳さんが何か言いたそうにしていることに。 そしてミレイさん達がそれを気にしていることにも。



「あの~、ところで阿修羅ダンジョンの方々の情報はまだですか?」


「まだだね。 彼らは正規ルートを辿って帰って来るんだろう? だとすればあと1週間はかかるだろうね。 あのダンジョンのセーフティゾーンは15階層にあったはずだ。 大部隊というのは機材の運搬でかなり時間がかかかるものなのだよ」


「それはアイテムボックスの容量が関係していますか?」


「その通りだね。 戦車なんかは一旦アイテムボックスへ入れないと大きすぎてゲートを潜れない場合もあるからね。 アイテムボックス持ちがいない場合には、ゲート手前でバラしてから潜った後に組み立て直す必要があるから非常に時間かかってしまうね」


「それはこの前聞いた話ですね。 それで思い出しましたが、予約済のスキルオーブについてはどうします? 実は正確に種類の選別ができているんですけど」


「正確に選別? スキルオーブがどのスキルに対応しているかが事前に分かると言う事ですか?」


「ええ、その通りです。 そういうスキルをミレイさんが獲得しました。 通常のオーブもどのステータスに対応しているのかも鑑定可能になりました。 そしてその鑑定は一瞬でできてアイテムボックス内で分類管理できています」


「お、おおお……」


「ヨシ君、いきなり獲得したスキルを教えるなんて……」


「鈴木さんには全て知っておいてもらうことにしたじゃないか」


「それは中級ダンジョンのトゥルーコアタッチ条件を明らかにするためだったのよ? でもこの能力は大々的に活用すべきだからいいけどね」


「ということで、鈴木さん予約済のスキルオーブは全て鑑定してお渡しできます。 あっ、今回のダンジョン攻略で、新たに約1000個ほどスキルオーブを獲得しました。 アイテムボックスのスキルオーブ数はミレイさんに聞いてください」


「アイテムボックスのスキルオーブの在庫は今のところ150個ね。 プライベートダンジョンの魔物も時々狩ってたから多めに得られたわね」


「いやいやいや、話が違う。 この前はせいぜい12個から20個程度の話だったはずだよ。 いきなり個数が1桁増えるなんて……。 前回の予約の件は一応補正予算案には入れてもらったが、これは流石に無理そうだ」


「じゃあどうします?」


「吉田さん? 本当にアイテムボックスのスキルオーブを獲得したのですか? ちょっと信じがたい話ですね」


 美沙佳一佐が突然会話に刺さり込んで来た。 まあ、彼女達にとってみればスキルオーブはそうそう獲得できる代物でもないし、ましてやアイテムボックスのスキルオーブ確定とか口で言われても信じがたい話なんだろう。


「ミレイさん、アイテムボックスのスキルオーブを全部ここへ出してもらえますか?」


 僕はお菓子を入れる籠をアイテムボックスEX経由で、プライベートダンジョン内のテーブルに置いた。 ミレイさんは黙ったまま、オーブ鑑定のアイテムボックスからそこへスキルオーブを積み上げた。


「ええっ! た、たしかにこれはスキルオーブのような。 いえ、そんなはずは。 こんなに沢山のスキルオーブを一度に見るのは初めてよ。 こ、これは本当に?」


「御疑いなら試しに食べてみます? これがすべてアイテムボックスのスキルオーブであることを確認するための抜き取り検査です。 4つぐらいでどうでしょう?」


「た、食べる? どうして? やはりこれは単なるゼリー状のボールのお菓子なのじゃ?」


「食べると中級ダンジョンでトゥルーコアタッチが可能になるという御利益があるんです。 それになかなか美味しいですよ?」


「……。 いえもしスキルオーブだったら、私は自衛隊所属の公務員だから不味いのではないでしょうか」


「美味しいはずですよ」


「そういう話じゃない……」


「分かってますとも。 でもこれは僕達がスキルオーブを鑑定できるかどうかを判定する試験なんです。 でないと、これらが本当にアイテムボックスのスキルオーブかを信じて貰えそうにないです。 今この場でやってほしい試験です」


「美沙佳一佐、試験はどのみち必要だ。 私が許可を与えるからやってみてほしい。 この場は常時録画状態だから、その試験結果は証拠として提出する必要がある」


「鈴木さん。 私は貴方の直接の部下じゃないですよ?」


「あ、いい忘れていましたが、私はダンジョン局長であるとともに、ダンジョン連盟の理事でもあります。 その関係でダンジョン自衛隊にもある程度権限を移譲してもらっているので問題ありません。 その権限は必要に応じて行使できます」


「それは一佐の私へも有効な命令なのですか?」


「ええ、そうです。 将官相当の権限を有しています。 もちろん事後報告は必要ですけどね」


「そ、そんな」


「お姉様。 わたくし達に関わるなら、このぐらいは慣れないと駄目だと思います」


「レイナちゃんまでそんな……」


「では潔く4つ抜き取り検査をお願いします。 これは必要な手続きです」



 ”潔く”という言葉に美沙佳一佐は一瞬反応を示したように見えた。 こ、この人はこの言葉が弱点なのだろうか。

 そして決心がついたようで、150個程あるスキルオーブから4つを抜き取った。 そして一つ口の中へ入れた。 そのとたん美沙佳さんの顔つきが崩れた。



「あ、ああ美味しい。 ……じゃなくて本当にアイテムボックスのスキルオーブなのね。 アイテムボックス4を取得できました」


「では続けてどうぞ」


 一佐は2個め、3個目を食べた。 そして躊躇しながらも4個目を食べたところで固まった。


「あ、あれ? どうしましたか?」


「アイテムボックスが20になってしまいました。 これってどの位の容量なのでしょう。 それに気になるのはアナウンス上のレベルと計算が合わないことです」


「ああそれは、レベルがmaxになったからですよ。 スキルはレベル20以上には上がらないのはご存じですよね。 容量についてはほぼ無限に感じられると思います。 計算上は一辺が200km程の立法体相当ですが確かめようがありません」


「……」

「……」

「……」


「4つは過剰だったかな~。 でもこれでこれらが全てアイテムボックスのスキルオーブだと納得してもらえましたか?」


「え、ええそれは勿論だわ。 でも、こ、困ったわ。 私はこれからどうなるんでしょ?」


「ははは、プラズマ兼アイテムボックスのダブルマスターだね」


「鈴木さん、揶揄わないでください。 怒りますよ?」


「い、いや困る。 君のことは聞いているよ。 怒りで自然放電されると電気機器が壊れるから怒らないでくれ」


「本当にもう……」


「だがね、これでここに150個ものアイテムボックスのスキルオーブがあることが証明できたじゃないか。 いずれアイテムボックスは自衛隊内でもかなり普及することになるんだ。 それほど恐れることはないさ」


「でも予算がないのでしょう?」


「う~ん。 この個数だとね。 予約も厳しいものがあるね」


「え~と提案なんですが、スキルオーブの半分程度そちらへ預けておきます。 必要な時にご使用いただければ良い気がします。 というかこのままではスキルオーブの価格が暴落する恐れがあるので、出回る個数はある程度制御した方がよいかもです」


「わかったよ。 一応その案を受け入れるとするよ」


「理不尽だわ。 私達の攻略部隊がやっとスキルオーブ10個程度手に入れることができただけなのに……」


 と、そこへ外部から通信が入った。 どうやら僕等の会議に参加する人がいるようだ。 一体誰だろう。 僕はスクリーンにその人物が映し出されるのを待った。  

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