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144.  久しぶり

「カナ、ちょっと待ってください。 貴方は今何をしようとしているの?」


「レイナ、もちろん電話よ。 アイツに相談するのよ」


「何を?」


「……」


 レイナさんからの問い掛けにカナさんが怯んだ。 僕が思った通りカナさんは何を話すか決めずにお父さんと連絡するつもりだったらしい。 遭難した父と連絡が取れるのだ、直ぐにしたい気持ちは分かるつもりなのだが。


「おい、カナ。 何を話すかを決めてから電話した方がいいぜ。 事をややこしくするつもりなら別だがな」


「そ、それもそうね。 わかったわ。 何を相談しましょうか」


「……ぼ、僕としてはですね。 まずは部隊の安否を確認してから、僕等のことをできるだけ秘匿しながら救助という形に持っていきたいかな」


「このダンジョンを攻略した事実はソリン装置で全世界に公開されているのよね。 なら秘匿って意味がある?」


「お、お兄ぃ。 お兄ぃのプライベートダンジョンってヤバイスキルだよ~。 バレたらいいようにコキ使われる未来が見えるの~」


「そうよ。 プライベートダンジョンって、オーブやスキルオーブ取り放題だし、ゲートを使って遠方へ短時間に移動できるからね。 これはもうチートよね」


「カナさん、そういうことさ。 僕のプライベートダンジョンはできるだけ秘匿しておきたいんだ。 まぁ鈴木さんとか護衛の方々にはバレているんだけど、出来る限り表沙汰にはしたくないね」


「つまりプライベートダンジョン経由で全員を脱出させるのは最後の手段ということね」


「ああ、そうだね」


「ということは、ここから外に出れなくしている原因を排除するとことね。 こういう場合十中八九イレギュラースポーンした魔物が原因で入口側のゲートが閉じているっていう話よね。 ならソイツを倒しちゃえばいいのよ」


「カナさん、そうは言ってもソイツの情報が無いし、キャンプの皆に見つからないように倒すのは至難の技だよ?」


「だからその手段をカナ父に相談すればいいんじゃねーか?」



「ここの人達は倒す手段が見つからないからここへ閉じ込められているんじゃないか?」


「私達なら倒せるんじゃないかと思うのよ」


「それはそうだけど、そうするとここの人達に僕等の存在がバレるじゃないか」


「それは大丈夫よ。 トゥルーコアタッチができたからもう全世界に私達がこのダンジョンにいたことはバレているから、今更よ」


「そ、それもそうか」


「……」


「わたくしが思うに、もしイレギュラースポーンした魔物が原因なら、わたくしたちで倒すのが良いでしょう。 でもその場面を皆に見られたくはありません。 ならば交渉してはどうでしょうか。 わたくしたちが魔物を討伐する所を見ないように」


「それなら分かるけど、(かなで)の奴にそんな交渉は無理よ」


「カナ、お父さんを通して、正式に部隊の責任者に相談するということでいいのじゃないかしら?」


「……考えれば当たり前なことね。 ちょっと私も冷静にならなきゃ駄目ね。 わかったわ、まずアイツに責任者と交渉できる場を持てるように相談してみるわ」



 カナさんが皆を見回したので、僕は頷いて置いた。 皆もそれで納得したので改めてカナさんが携帯端末を取り上げて電話することになった。



「もしもし、奏、元気してる?」


「お、おお? カナか。 久しぶりだな。 あっはっは」


「まさか奏、もう酔ってるの?」


「ちょっぴり飲んだだけだじぇ~。 そろそろ酒のストックも少なくなっていて俺は悲しいじぇ~」


「ふ~ん、それでそっちの状況はどうなの?」


「こっちはちょっと面倒な事になっていてな。 当分帰れそうにないんだじぇ~」


「どういう風に面倒なの?」


「ああ、ダンジョンの入口側のゲートにイレギュラースポーンした魔物が出てな。 ソイツのレベルが看破できねーんだじぇ~。 つまりレベル200以上の魔物ってわけだな。 レベル200以上の魔物でも俺等の部隊じゃ攻略できることもあるんだが、思ったより強敵でな。 手を焼いてるってわけだじぇ~」


「そうなの。 それは大変ね。 じゃ、責任者に代わってもらえる?」



 正直驚いた。 

 何が驚いたかって、カナさん達が当たり前のように普通に電話で会話していたからだ。 カナさんもお父さんもここがダンジョンの中で普通外とは電話が通じないことを完全に無視している。  



「カナ、お前。 責任者って誰の事だよ」


「責任者っていえば、部隊の司令官に決まっているじゃない。 あんたは馬鹿?」


「馬鹿ってお前、父に向って何て口の聞き方だ。 いやそれより何故お前が司令官と話す必要があるんだ?」


「私達がその魔物を退治してやろうってわけよ。 その段取りを相談したいのよ」


「退治ってお前、ついに気が狂ったか? お前なんぞにどうこうできる魔物じゃねーぞ」


「私だけじゃないわ。 私達のパーティで討伐を試みるってことよ」


「私達のパーティって、……ミレカ姉妹のことか?」


「本当に奏ってバカよね。 サロナーズオンラインの中でのはずがないでしょ。 現実世界での話よ。 ダンジョン攻略のパーティのことよ」


「……お前のダンジョンのパーティって、……ああ、この前初級ダンジョンを攻略したいって言ってたパーティか。 ちゃんと手伝ってもらって達成できたのか?」


「あ、ああ~。ううううざい、めんどくさい、もういや~。 早く司令官に代わって」


「お前な~。 初級ダンジョンを攻略とかの段階のパーティと、ここの魔物じゃレベルが10倍も数十倍も違うんだぞ。 寝言も休み休み言え!」


「……」


「カナ、ちょっといい? わたくしに話させてください」



 父の会話の結果ストレスで震えているカナさんを宥めるようにして、レイナさんがカナさんから携帯端末受け取って代わりに話し始めた



「あの、もしもし? わたくしレイナに代わりました。 おじさまお久しぶりです」


「お、おお。 レイナお嬢さんか。 で? この茶番は何なんだ?」


「おじさま。 少し冷静になって考えてみてくれませんか? 今の電話が何故通じているかを」


「ん? ……。 ん? ……ええっ? なんでだ? 俺たちはダンジョンに閉じ込められて外とは連絡出来ねー状況だったはずだ!」


「その通りです。 わたくしたちは今はこのダンジョンの中です。 そして近くまで来ているのです」


「レイナお嬢さん、どうやってここまで。 というかこんな危険な場所まで誰が連れて来たってんだ? ゆるさん、ゆるさんぞ~!」


「おじさま、落ち着いてください。 ここへはわたくしたちパーティだけで来ました。 確かにここは危険な場所ですが、わたくしたちにはその危険をねじ伏せるだけの実力があるのです」


「……そんなお花畑な話を俺に信じろというのか? でも確かに電波が届くってことはこのキャンプ地に来ているってことだな。 ……では俺たちも直ぐにここから脱出できるってことか?」


「いえ、事はそう単純ではありません。 その辺をご説明したいので責任者の方に取次をお願いしたいのです。 事を大きくしたくないので、あくまでもご内密に」


「うっ、……ま、まあ事情は分かった。 だが、司令官ってのは……。 いやまさか、そこにはミレイ嬢ちゃんもいるのか?」


「ええ、もちろんですわ。 代わりますか?」


「い、いやいい。 いずれにしてもこれは俺の手に余る案件だ。 だけどよ、こんな話でいきなり司令官をひっぱってくるのは俺でも無理だ。 一旦クラン長を通していいか?」


「ええ、もちろんです。 ですが守秘義務契約相当でお願いいたします。 そうでないと今後のわたくしたちの立場が危うくなってしまいますので」


「ああ、わかった。 じゃあちょっと待っててくれよ。 準備が整ったらこちらから連絡するってことでいいか?」


「ええ、それでお願いします」


「お、おう。 じゃ、切るぜ。 またな」


「はい、ご連絡をお待ちしております」



 ま、まあ。 さすがはレイナさんだ。 というよりもカナさんのダメ娘ぶりが露見してしまった感がある。 それはカナ父も同様な気がした。


「ふぅ、じゃあ俺たちはここで待ってればいいってことか?」


「どうせならプライベートダンジョンに中で待ちましょう。 どの位時間がかかるかわからないですから」



 僕等はプライベートダンジョンに入ることにした。 カナさんの携帯端末への着信は、ダンジョン内施設のコミュニケーションシステムへと繋げ、僕等はオフラインのサロナーズオンラインにログインした待つことにした。

 そして待つこと1時間半、システムへ着信が届いた。


陰陽おんみょう君、困るんだよ。 本当に君は酒癖がわるいな。 って繋いでしまったのか。 まあ仕方ない。 あ~もしもし? この悪戯しているのは誰なんですか? 今なら正直に言えば問題にはしないよ?」


「え、ええと。 わたくしは神降(かみおり)嶺衣奈(レイナ)と申します。 初めましてよろしくお願いいたします」


 僕らは音声通話ではなく、ビデオ通話モードに切り替えた。 したがってレイナさん主体で話はしてもらってはいるが、その背後には僕等が映っている状態になった。 そして僕等側には、小島クラン長とカナ父が映っていた。



「ん? 神降(かみおり)さん? は、はじめまして。 私はクラン橘のクラン長の小島といいます。 こ、この映像は悪戯にしては現実味がありすぎるな。 それにこんな凝ったCG映像で悪戯をやるような余裕は内部の者にはないはずだ。 ということは本当に外部からの通信なのか?」


「外部というのがこのダンジョンのことなら外部ではありません。 外部というのが部隊以外ということならイエスです」


「ふむ、ならば 陰陽おんみょう君の話は本当なのか……」


「ええ、わたくしたちは自力でここまで辿り着きました。 そして問題になっている魔物を倒して脱出する案を提案したいと思っています」


「ん? 魔物を倒す? い、いやいやいや。 それは無理だ。 君たちはここへたどり着いたんだろう? ならばその経路を逆にたどれば帰還できるじゃないか」


「ええとそれは無理なんです。 私達はダンジョン内に突然発生したゲートを潜りこのダンジョンに迷い込んだのです。 そして現在そのゲートは消失しています。 なので来た道を帰ることはできません」


「なら君たちも遭難したってことじゃないか。 こ、これは困った」


「いえ、遭難しているとは思っておりません。 何故なら私達には帰還する手段が魔物を倒す以外に2通りあります。 どちらも選びたくない手段ですが……」


「ふむ、それを教えてもらうわけにはいかないだろうか」


「はいお教えできますが、できればそちらの司令官とも話し合って決めさせてください。 わたくしたちも納得の上で帰還手段を選択したいので」


「わ、わかりました。 ではこのままお待ちください。 穂積(ほづみ)司令官をお呼びしてきます」


「あっ、言い忘れましたが、わたくしたちの事は内密にしたいので、そちら側は穂積司令官と、小島クラン長と陰陽のおじさまの3名だけの会議ということでお願い致します」


「ま、まあいいだろう。 では呼びにいってくるよ」



 そう言って小島クラン長は映像画面に写り込んでいる部屋から出て行った。 どうやらこのキャンプの中でもかなりしっかりした建物の中の一室のようだった。 一室の片隅にはかなり酔っていると思われる陰陽さんが椅子に腰かけていた。


「レイナお嬢ちゃん、見たところそこにはガキしかいないようだが、そちらのパーティのリーダーは何処だ?」


「ええと、わたくしたちのリーダーは、そこのヨシ君――吉田幸大さんです。 彼はわたくし達のパーティの代表者兼わたくしたちが設立した法人の社長でもあります」



 ちょ、レイナさん。 僕を前面に出さないでくれ。 ほら陰陽さんが僕を睨んだじゃないか。



「そんなガキが代表者で社長だと? おい、お前! 俺の大事な小娘たちをこんなところへ連れてきやがってどう責任を取るつもりなんだ!」


「この、くそ親父っ! 私達のことを小娘扱いしやがって~」


「か、カナさん落ち着いてください。 おとうさんも冷静になって……」


「お前にお父さん呼ばわりされるいわれはない! うちのカナは嫁には出さんぞ」


「こ、この酔っ払いの駄目馬鹿親父! お前は黙ってろ。 私がこんなのと結婚するわけないでしょ」


「か、カナさん。 こんなのとは酷いじゃないか」


「そうよ、カナ。 私達が強くなったのはヨシ君のお蔭じゃないの」


「あ、ああ。 ごめん。 売り言葉に買い言葉でつい思ってもいないことを……」


「こら、カナ。 お前はその男に騙されているぞ。 いいかげんに目を覚ませ……」



 そんな白熱した議論で盛り上がっていた僕等だったが、小島さんが穂積司令官を連れて来たことで皆は静かになった。 そして僕達は何事もなかったように体裁を整えて、今後の方針を決める会議に臨むのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 部隊内でも交換機を通じて無線機代わりに通信や連絡とかしてるから 誰かに外部から電話がかかっても不審に思われないパターンか! もしくは酔って幻聴が聞こえて娘と最後のお別れごっこをしてるだけだ…
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