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143.  生首

「ミレイ、どんなスキルだった? やっぱり土の加護とか?」


 カナさんが興味深々顔でミレイさんに聞いたその瞬間ミレイさんの手の付近に直径10cm程のゲートのようなものが発生した。 つまりミレイさんはスキルを使ってみたということだろう。 ゲートが発生したとなると異次元空間に関連する、つまりアイテムボックス系のスキルだろうか。


「おおっ? ミニゲートか~。 僕のアイテムボックスEXの縮小版みたいなスキル?」


「え、ええと。 私が覚えたのは、オーブ鑑定というスキルでした。 名前からするとオーブを鑑定できるみたい」


「そのミニゲートはオーブ鑑定スキルを使って出したのですか? それでオーブを取り込めるならば、早速試してみたらどうかしら」


「え、ええ。 そうしてみるわね」


 僕はミレイさんに、袋に詰め込んだ通常オーブを250個、そして先程ドロップしたスキルオーブと、不明な黒いオーブ?を手渡した。

 するとミレイさんはそれらを一瞬で手付近から出しているミニゲートに取り込んでしまった。


「お、おお。 わかってはいたけどそのミニゲートでオーブを取り込んで鑑定するのか~。 それにしても一瞬で全部を取り込んでしまうなんて。 で、なんかわかった?」


「わかったわ。 通常オーブはどのステータスを上げるかを鑑定できるみたい。 さらに今回の4個のスキルオーブも種類が特定できたわ。 でも黒いオーブはエキストラスキルオーブということは判明したけど、それ以上は不明だわ」


「す、凄いスキルじゃないか。 これが有ればランダムじゃなくて上げたいスキルを選択できるってことだよね」


「でもよ、今の俺たちには不要じゃねーか? 全スキルを上限まで上げるだけだからな」


「逆に言えば、僕達以外の人へ供給する場合には有用ということだよね。 ま、まさかミレイさん。 鑑定専門職として囲いこまれてしまうとかないよね」


「……それは無いと思うわ。 このスキルで鑑定に要した時間は一瞬だったし、アイテムボックスと繋がっているようだから種別の振り分けも一瞬なのよ。 鑑定に時間が掛らないからそのためだけに拘束される必要はないと思うの」


「ん? 繋がってる? ということは、僕のアイテムボックスEXと同じようにオーブなら出し入れが無制限にできるってこと?」


「ええ。 そのようね」


「あはは。 ならミレイさんは僕等のパーティのオーブストッカー役だね」



 今回習得したユニークスキルは戦闘系では無いから劇的にパーティが強くなったというわけではない。 けれどもこれでミレイさんはステータスの限界を突破したはずだ。 そして彼女は通常のオーブを200個ほど使って全ステータスを4000まであげたのだった。 これにより土魔法の最大威力は4倍ほど上がったことになる。 つまり戦闘力は確実に上がったわけだ。


「ミレイの強化も終わったので、ダンジョンの攻略にもどりましょう」


 攻略って、もうこのダンジョンの攻略はトゥルーコアタッチによって終了しているのだが、カナさん推奨の入口を目指す試みは達成できていない。 だがその前に言っておかねばならない。


「ところでエキストラオーブは誰が使うことにする?」


「それは、まあヨシ君よね」

「ヨシくんじゃなければいけないと思います」

「ヨシ君ね」

「お兄ぃに決まっている」

「お前が食べるって決まっているぜ」


「た、食べるってなんだよ。 百歩譲って”使う”ってなら理解も出来るってもんだけど、いきなり食べるって。 エミリお前は食べたいと思うのか?」


「エミちゃんは、お兄ぃの後で食べればいいのです。 あっ! お姉様方が食べたかったらエミちゃんはその後でいいです」


「エキストラスキルってさ、そんなの聞いたことがないから使うのだけでも怖いのに、食べるのは馬鹿じゃないか? とりあえず今は差し迫った事態じゃないから後回し。 そう後回しでいいんじゃないかな」


「……」


「怖いの?」


「ミレイさん、そりゃ僕だって怖いさ。 少なくともこれを使うんだったらダンジョンから出てから試すのがいいと思うんだ。 ダンジョン内だといきなりスキルが発揮される可能性が高いから凶悪な奴だったら命に関わるよ。 その点ダンジョンの外だとスキルの効果は出ないはずだから安全だし、スキルの名前で何のスキルかの予想がつくからね」


「まあ確かにそれはそうね。 では外へ出たらヨシ君が使ってみるってことでいいのね?」


「あ、ああ。 もちろんさ。 ってああ! 僕が使うのは決定事項なのかっ!」


「俺はお前を信じているぜ。 お前なら多少のトラブルが有っても、得意の閃きで何とか対応できるはずだ」


「た、確かにそうね。 私達ならパニックになって泣いちゃうかもしれないわ」


「い、いやいや。 必要だったら使うけどさ。 今はリスクを負ってまで無理して使うメリットが無いような気がするんだ」


「……」


「わかりました。 確かにリスクがありますし、無理して今使う理由もありませんね。 私も保留にするのが良いと思います」


「じゃあそういうことでミレイさん、保管をお願いするよ」


「なんで私なの?」


「だってそれがオーブストッカー役の仕事じゃないか。 それにそのエキストラオーブは単に鑑定に時間が掛るってだけかもしれないじゃないか」


「ってことは、オーブ鑑定の空間に長期間保管したままにするってこと? 放置しておくだけならそれでもいいけど、……個数も1000個は入りそうな鑑定空間だから大丈夫だけど」


「これで決まりだね。 オーブの素性が分かったら教えてくれよ」


「わかったわ」


 MP回復用に使う通常オーブを各自20個ずつ確保してから、僕等は手持ちのオーブは全てミレイさんに渡した。 



「話変わるけどさ、さっきのユニークはヤバイぐらい強かったね。 一応シミュレーターで戦って攻略法を確定しておいた方が良くない? 同系統の能力持ちが居たら今後も苦戦する可能性があるからさ」


「ま、まあ、シミュレーターでの魔物戦なら安全だし、やっておいても良いかもね」



 その後僕達はプライベートダンジョンの中へ入り、シミュレーターで奴の攻略方法を探った。 

 そして見つけた方法の中で一番効果があったのはミレイさんのオーブ鑑定を使うことだった。 



 またソイツが手ばかりを狙ってくるのは武器を持っているからだということが分かったこと。 つまり武器さえ持っていなければ襲われなくなるという性質があったのだ。 

 そして奴はある一定以上の魔法攻撃でスタンさせることができるということも判明したのである。


 魔物はゲートを潜れない。 そしてゲート近くには近寄って来ない。 そして僕のダンジョン生成で作られるゲートやミレイさんのオーブ鑑定用のミニゲートもゲートの一種で、魔物はそれらから一定の距離を取るようなのだ。 つまりミレイさんがオーブ鑑定用のミニゲートを開いて置けば魔物は手の届く範囲まで転移して来なかったのである。 


 今回の相手はこの対処方法で十分だといえるのだが、同種の敵に対しては一つだけ課題が残った。 直接近寄れないとしても遠隔攻撃は可能だということである。 今までの経験上、ゲート付近で魔物が近寄れなかったとしても間接的な攻撃は受けてしまうのだ。 そしてそれは魔法攻撃も同様だ。 ゲートを潜ったとたんにアンフェアイソギンに引き寄せられたのがいい例と言えるだろう。 でもそれはレイナさんのウインドバリアで防げるだろうから、ミニゲートとウインドバリアやウォーターバリアで防御はかなり高くなったといえよう。


 攻略法の調査はこのぐらいにして僕等はこの不明ダンジョンの入口方向への逆攻略を再開することにした。 そこからは順調で、ゲートを潜るたびに遭遇する魔物は次第に弱くなっていき、16回ゲートを潜ったところでやっとレベル200を切る程度の強さの魔物となった。 それでもレベル200越えで且つ新種となると油断がならない。 ここまで来るのに広い階層もあったので4日を要している。



「やっと通常の魔物がレベル200程度になったね。 この分だと直ぐにセーフティゾーンがあるはずよ」


「普通ならそうだがな、俺たちのいるダンジョンが普通かどうかはわからねーぜ?」


「でもさ、僕等はプライベートダンジョン経由でダンジョンの外へ出られるから、セーフティゾーンが無くても問題無いよね」


「お兄ぃ、本当にプライベートダンジョンを経由すればここから出られるの?」


「何言ってるんだよ。 出られるに決まっているだろう」


「本当に?」


「……いや試してはいないけどさ。 な、なんか改めて確認されると不安になるな」


「じゃあ、お兄ぃ、エミちゃんが外へ出られるかを試してみようか? エミちゃんなら外へ出たとしても直ぐにミミックダンジョン経由でお兄ぃのプライベートダンジョンへ戻って来れると思うの」


「なるほど~。 エミリの癖に良く気づいたな~。 でもこんな得体の知れないダンジョンから外へ出るのは危険じゃないかな」


「お兄ぃ、何を言ってるの? 出る先は2986初級ダンジョンって決めているでしょ?」


「いや、それはそうだけどさ。 もしいつもと違ったら……」


「お、お兄ぃ。 そんなことを言ったらエミちゃんは何もできなくなるよ~。 さすがにそれは過保護なんじゃないかな~?」


「確かにエミちゃんの言う通りね。 ヨシ君はエミちゃんに対しては心配症過ぎるのよ。 でも一人だけで試すのが怖いなら私も一緒に御供しましょうか?」


「あら、ミレイも試すつもりなのです? もしもの場合でも、わたくしのウインドバリアがあれば安全だわ」


「じゃあ、もしもの場合の攻撃要員として火魔法担当も必要よね。 私の勘では直ぐにもどって来れるはずだし」


「じゃあ決まりね。 女性陣だけでプライベートダンジョン経由で一旦ダンジョンの外へ出てみましょうよ」


「……」


「俺もそれに賛成だぜ。 俺の看破とヨシの強さがあればこっちは大丈夫かもだな」


「ちょっ、本当に今から試すつもり? そんなのこのダンジョンから脱出できそうにない事態になったらやってみればいいだけなんじゃ?」


「……それは正論かもだけど、そんな緊急時になってから焦るぐらいなら事前に試しておいた方が良い気がするのだけど」


「あ、あああ。 わかったよ。 でももう少しこのダンジョンの敵が弱くなったらでお願いするよ。 イレギュラーとかがいると怖いから」


「え、ええ、そうね。 そうしましょう」



 そして僕等は更に入口を目指して8階層ほど進み、次のゲートを潜るためにゲート調査スコープをゲートに差し込んで中を見たところで全員が驚愕して固まった。


 ゲート調査スコープに写り込んだもの、それは大規模な探索部隊のキャンプらしき光景だった。 さらにゲート調査スコープは地上10m程の高さから中を見る感じだった。 それにキャンプにいる人々の動きは明らかに緩慢で活気が感じられなかった。



「ここは攻略部隊のキャンプ? これほど大規模ってことはもしかしてこのダンジョンは、大規模な攻略部隊が遭難したっていう阿修羅ダンジョンなのか?」


「……そのようね。 あそこに(かなで)もいるし、確定ね」


「カナデ?」


(かなで)はカナのお父さんよ。 陰陽(おんみょう)(かなで)、クラン(たちばな)所属のA-2ランク冒険者資格を持っているわね」


「カナさんのお父さんはカナデさんっていうのか。 ……カナカナ親子か。 そしてステータス上限とスキル上限を言い間違えて、ややこしくした犯人か」


「……まぁ、そうね。 しょうもない奴なのよアイツは」


「でもなるほど、僕達は遭難した部隊に遭遇したってことか~。 でもさ~、修羅ダンジョンって不思議ダンジョンで、セーフティゾーンの奥は5階層しかなくて、さらにダンジョンコアが無いって噂なんだけど? まさかこのキャンプの人達って僕達と同じように一方通行みたいなゲートからここへ入り込んだってこと?」


「……」


「それはないんじゃないかしら。 これほどの人数がそんな罠に嵌るなんて考えられませんわ」


「わ、罠って。 ああ、そういえばカナさんに導かれてここへ来たんだった。 あれは罠だったのか」


「……」


「あっ! 右端を見て。 ゲートが2つあるわ」


「おお~、そうだなゲートが2つあるな。 ってことはアレの片方が入口側でもう一方が奥側ってことかもな」


「なら私達がいるここのゲートは何? でも変よね。 阿修羅ダンジョンのセーフティゾーンにゲートが2つあるなんて聞いてないわ」


「ミレイ、あそこにゲートが2つあるぜ?」


「ま、マリちゃん、……奥側へ連なるゲートが2つってことよ。 でもここの3つ目のゲートの方を誰も見ないわね。 高いところにあるから?」


「ミレイ、今お前は3つ目って言ったぜ?」


「……と、とにかく。 ここのゲートはあちら側から見えてないんじゃないかな」


「……ちょっと、カナ。 ゲート調査スコープのプローブファイバを曲げて、あちら側からこちら側がどう見えるか確かめてみてくれない?」


「オッケー、じゃあこうして……」



 カナさんはスコープのプローブを操作して僕等のいるゲートを映し出した。



「こ、これって壁?」


「お、お兄ぃ。 ダンジョンの壁からファイバーが突き出ていて、ウニウニ動いて気持ち悪いかも」


「……まあでも、これで謎が解けたな。 つまりあちら側からは、このゲートがダンジョンの壁と同じに見えるってことで、しかも高いところにあるから気づかないってことか」


「それで間違いなさそうね。 これでダンジョンの世界七大不思議の一つが解明されたわけね」


「ああ、この阿修羅ダンジョンにコアが無いっていう不思議のことか。 でもそうなると不味いじゃないか? 僕等は阿修羅ダンジョンを攻略しちゃったってことだよね。 これってもちろん外にはソリン装置のリストに載るからバレているよね」


「……」


「そ、そうね。 仕方ないわ。 (かなで)の奴に相談してみるわね」


「相談ってどうやって?」


「携帯端末を使ってに決まっているでしょ? ヨシ君は知らないの? こういう大部隊は携帯端末の基地局をダンジョンの中に持ち込んでいるのよ」


「でもよ、こっちとあっちの間にはゲートがあるぜ? ということは携帯端末で連絡はできないだろ~」


「か、カナさん。 まさか頭だけゲートを潜って電話するつもり? うぁっ、あちら側から見るとダンジョンの壁にカナさんの生首が生えるわけか」


「ば、馬鹿じゃない? もちろん光ファイバー経由でのリピーター電波中継器を使うに決まってるじゃない」


「そ、そうよね。 わたくしも不覚にもカナの生首を想像して引いてしまったわ」


「……」


「レ、レイナまでそんな……。 ま、まあいいわ。 とりあえず奏に連絡してみるわね」


 気を取り直したカナさんはリピーター電波中継器の片方をゲートの外に出して、携帯端末でお父さんに連絡を取ることにしたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 久しぶりに楽しそうなことが起こりそうな予感
[一言] 遭難中に突然娘から電話が! もしもしカナちゃん?私は今あなたの上にいるの
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