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141.  手を重ねた

 カナさんが口を開かないのでパーティに重苦しい雰囲気が満ちた。 ならば僕が何とかしなくてはならない。


「じゃあ、そろそろお昼だし、プライベートダンジョンの中でご飯にしようね」


「お兄ぃ、さんせーです。 エミちゃんは非常に賛成しますぅ」



 エミリはいつも通りの楽観的態度を崩していない。 学業的には優秀だが、傍目からみればお馬鹿キャラにみえてしまうのが問題だが、根は真面目で場合によっては頼もしいと思えるところもある? まあ今はその時なのかもしれない。


 そして僕らはプライベートダンジョンの中へと入り、お昼休憩を取った。 いつも通りの美味しいものを食べて、ついでに凄く贅沢とは思ったが、オーブを全員で10個ずつ食べてみた。 もちろんオーブ食によってステータスの変化はないので、単なる嗜好品として食べたのだ。 でも何となくだがオーブには気分を改善する作用もあるようで、僕等の気分は普段の状態に戻っていた。


「いや~、中級ダンジョンってこれで3箇所目だけどさ、思ったよりも色々あるね。 もっと攻略は簡単かと思っていたよ」


 僕がそういうと、マリが11個目のオーブを食べようとしてエミリに手を叩かれていたのがみえた。 そしてマリは手をさすりながら僕に同意して来た。


「ああそうだな。 思ったよりも厄介だな。 原因はイレギュラースポーンの魔物だぜ。 遭遇するイレギュラースポーンの魔物はかなりの確率で初見だから、いちいちシミュレーターでチェックする必要があるのが面倒くせーんだよ」


「でもマリちゃんがシミュレーターに登録してくれているから何とかなっているのよね。 私達のステータスはこれだけ高くても、あのミーアンキャットみたいなのがいるとヤバイし、レベル400越えの奴だと、それだけで怖いからね」


「マリちゃんがシミュレーターに登録することで、わたくし達以外のパーティの戦いも楽になってきそうです。 新種を看破して攻略法とともに一般に公開するというのは今後のダンジョン攻略上重要な任務だと思えます」


 うんうんと頷きながら、疾風の白狼の家出3人娘たちはマリを賞賛していたが、マリはというとエミリと11個めのオーブの取り合いを始めていた。 それほど食べたいならもう一個渡して二人に食べてもらおうかなと思ったが、どうも単にじゃれ合っているようにも見える。 この二人は出会った時こそ随分険悪だったが、今ではすっかり仲良しだ。 そんな二人に呆れてカナさんがため息をついた。


「はぁ~。 こんな状況なのにあの二人は……」


「そういえばカナさん、たかが中級ダンジョンの中なのに危険を感じるというのは不思議だね」


「ま、まあそうなんだけどさ。 感じてしまったものは仕方がないと思うの。 いずれにせよ、この階層がどうなっているかは調べる必要がありそうだわ」



 僕等はお昼休みを終えてプライベートダンジョンの外へ出た。 そして右側方面――魔物が強くなる方向へと歩み始めた。 ちなみにどちらへ進むかについてはエミリの勘に頼った。

 暫く進むと洞窟が広がった空間が現れて、僕のダンジョン内探知に多数の反応が現れた。 カナさんが”強い魔物”というような表現をしたので慎重に近づいて行き、マリの看破EXスキルにて、群れからはぐれて来た一匹を調べてもらった。 ちなみに魔物はゲームに良く出てくるミノタウルスといった感じで、特徴的なのは角が赤色に光り、さらに炎につつまれた大剣を装備している。



「お、おい。 あいつはレベルが362もあるぞ。 そんなのが沢山いるってことは、かなり厳しいーんじゃねえか?」


「な、な、なんですって? レベル350越えの魔物が集まっているってこと? マリちゃん間違えてない?」


「まちがいねー。 さっきちらっとみえた別の個体もレベルが371だったぞ。 こりゃ~やばいな。 一度後退しよーぜ」


「カナさんの勘はさえているな~。 魔物の強さまである程度わかるなんて。 実はスキル持ちだったりして」



 僕は感心してカナさんにほほ笑みかけた。 もちろん走って先程の場所まで退却しながらだ。



「そんなわけないでしょっ! 私の勘は親ゆずりなの。 私の家系は代々鋭い勘をもちあわせているの。 お蔭で金融商品の取引をすることで裕福な暮らしができているのよ」

 

 なるほど、カナさんの家はFX取引みたいな博打で稼いでいたのか。 そう思ったが、安全なところまで退避できたのでそんな話は頭から排除し、僕等はもう一度プライベートダンジョンの中へと入り、登録された炎のミノタウルスにシミュレーター内で対峙した。 

 結論から言えば僕達には雑魚だった。 まず奴らの攻撃力が高いのだけは確かだったが、耐性は火魔法だけで動きが僕等よりも大分劣るからだった。 それにミレイさんの種弾丸が有効だった。 僕と手をつないでの攻撃により容易に倒すことができた。 ただ残念なのは黄色い種では一発で種が使い物にならなくなる点だった。 だが僕等の黄色い種の在庫は豊富だから全く問題ない。


 安心した僕等はそのまま炎のミノタン――僕らがそう名付けた魔物の群れへと向かい、瞬く間に殲滅した。 奴らはスキルオーブをポロポロ落とし、炎の大剣も3本ドロップした。 炎といっても攻撃対象以外には無害だ。 ちょっと触ってみたがゆらゆら揺れる赤い光といった感じである。

 

 そんな感じで僕等は魔物が強くなる方向へと進んで行った。 そして驚いたことにだんだんそのレベルが上がっていった。 炎のミノタンはどうやらイレギュラースポーンした魔物ではないらしい。 ここの魔物は素で350を超える、いや400近い奴らだったのだ。 ゲートを2つばかり潜った時に遭遇する魔物はレベル400を超えていた。 幸いと言っては何だが、厄介な特殊攻撃をする相手はいなかったことと、シミュレーターを使った事前攻略のお蔭で危なげなく討伐することができていた。 


 次のゲートを潜ると、そこにはそのまた次のゲート付近に陣取る一匹の魔物を見つけた。 それはレベルは488で全身が炎に包まれた2足歩行の人型ウサギだった。 そしてそいつの感知範囲は広いみたいで、マリがレベルを確認したと同時にこちら側へ迫って来た。 僕らは直ぐにその場から撤退して元のゲートを潜った。


「あれって何? まるでボスモンスターみたいな奴ね。 あの先に第二のコアルームが有ったりして」


「第二のコア……か。 確かにあの消滅したゲートを潜った時から明らかに魔物は別レベルに強くなったね。 こんなのは聞いたことがなかったよ」


「もしボスモンスターなら、あそこはボスモンスタールームで、倒すとコアルームへ行けるのね。 レベルは今までの魔物と一線を画するけれど私達ならいけると思う。 なんにせよこちらにはシミュレーターがあるからね」


 相変わらず楽観的な観測だが、マリが少し考え込んでいるのが気になった。


「マリ、どうした?」


「ちょっと気になってな。 アイツのスキルには炎エンチャントとポジションフェイクってのがあったぞ。 これってヤバくねーか?」


「……でもさ、僕達にはシミュレーターがあるから問題ないさ」


「ああそうだな。 まあ俺たちにゃ、色々な手段があるからな」


「じゃあ、夕食を食べてから決戦にしよう」



 この付近の魔物のレベルが高くなってから討伐に長い時間が掛っている。 たかだか2階層突破するのに1日半を要していたのである。 広大なダンジョンならそれもあり得ると思うのだが、ここはそれほどでもない。 何に時間が掛っているかというとシミュレーターでの攻略法を探るのに時間がかかっていたのだ。


 僕等はプライベートダンジョンに入り夕食を取ってからお風呂に入った。 そしたら眠くなってしまったが、我慢してシミュレーターを使って、あのボスモンスター――炎のラビット・エレクトスの攻略を始めた。



「じゃあ始めるよ?」


 レイナさんがウインドバリアを展開した。 そしたら直ぐにカナさんが全力の単体火魔法を使った。


 どぉぉん。


 ラビット・エレクトスにヒットしたが、全くダメージが入らず、奴のHPは減ってない。 ちなみにシミュレーターでは敵のHPや与えたダメージ量がある程度分かるようになっている。


 次にカナさんが躊躇なく火の加護を使い、もう一度全力の単体火魔法攻撃を行った。


 どぉぉぉ~~~~ん。


 結果は変わらなかった。 炎を纏った奴には火は効かないのだろうか。 

 そして駄目押しの検証として、エミリがミミックを使ってレイナさんの風の加護を使い、カナさんの火の加護の火魔法に風の加護の風魔法を複合させた地獄の業火を放った。


 びゅーーーどどどぉぉぉぉぉ~~~~~~~~ん。


 正に凄まじいと言える究極の地獄の業火魔法だ。


 そしてラビット・エレクトスへはダメージが入り、HPが2%ほど減ったのが確認できた。 流石に究極の火魔法だ。 相手が明らかに火属性なのにダメージが結構入る。 だがこの検証はここまでだ。 火の加護やミミックの使用回数は1日あたり10回だ。 日を跨ぐ戦闘をすれば最大20回使えるが、いくらなんでも耐性持ちには非効率的だ。


 カナさんには下がってもらい、次は僕の雷魔法の出番にした。 単体雷魔法だから僕等への危険はないはずだが、一応マリにウォーターバリアを使ってもらい全力でやってみた。


 がががぁぁ~ん。


 という音がするはずだったが、実際はこうだった。


 ぱすっ。


 ん? これは一体どうしたことだ。 不発? いやそもそも魔法が発動しなかったのかな?



「あ、あああ~。 ヨシ君。 君には無理かも。 アイツは位置を誤魔化しているの。 だから勘で位置を特定して魔法を使う必要があるのよ」


「ええ~? そんな~。 僕には位置が特定できないのか……」


「じゃあ、ちょっと試してみる?」


「どう試してみるって言うんだよ」


「こうやってやってみるのよ。 どう?」



 カナさんは僕の手を取った。 これはつまりそういうことか?



「か、カナさんは積極的だとは思っていたけど、こっちもか~」


「ん? 何のこと? 私の勘を活かして雷魔法を放ってみてよ」


「え? あっ、そういうことか。 僕はてっきり……、いや何でもないよ」


 そして僕はカナさんの誘導を受けて雷魔法を放ってみた。 



 がががぁぁ~ん。


 今度こそ、魔法がヒットした。 そしてHPが1%程減るのが確認できた。


 よ、よし。 時間をかければ安全に倒せそうだ。 だが問題がある。 MP回復用のオーブを短期間で100個食べるのは正直厳しい。 エミリなら問題ないだろうが、僕はやりたくない。


 とっとと、次の検証に移ることにした。


 次は、ミレイさんの土魔法を用いた種弾丸による狙撃だ。 もちろん遠方からの攻撃ということになるので、僕のアシストが必要だ。 だが、これも問題がある。 つまり奴の位置を特定できないのだ。



「次は私の狙撃ね。 ヨシくん、カナ、お願いね」


 ミレイさんは、右手で僕の左手を握り、左手でカナさんの手を取った。 そして気づいたようだ。


「あ、ああ。 これじゃあ種が持てないわ」


「……」


「がはは、ミレイにしては面白い事やりやがったな。 俺は嬉しーぞ」


「ミレイ、左手をヨシ君とカナで挟んでもらったらどうかしら」


「わ、私も丁度そう思ったところなのよ。 でもレイナありがと~」



 ということで改めて僕、ミレイさん、カナさんが手を重ねた。 そして僕はミレイさんが右手に握った種に雷魔法を付与した。 雷魔法はエンチャントが可能な魔法なのだ。 これにより、僕の高いDEXによる精度と、急所突きのスキルが使える。 それにカナさんの勘も有効になったはずだ。


 バリバリバリ。


 黄色い種が雷属性を帯びたと思ったら、ミレイさんが弾丸を打ち出した。 そして、それは奴の急所にヒットして、HPを一気に60%も減らすことができた。 そして2発めで奴を消し去ることに成功したのだった。


「あははは。 私が本気だせばこんなもんよ~」


 ミレイさんは有頂天だ。 まあ分かる。 僕やカナさん、そしてエミリでは倒せなかった奴なのだ。 現状ミレイさんはユニークスキルを持っておらず、一人だけステータスが低い状態だ。 だから戦闘に対して少し引け目を感じていたのかもしれない。 本人も自分の力だけで倒せたとは思っていないだろうからここは素直に祝福しておこう。


「さ、流石は、ミレイ様です。 やりましたねっ!」


「……普通なら少し馬鹿にされたように感じるかもだけど、ヨシ君のことだからたぶん本心ね。 あ、ありがとうね」



 うっ、これって普通は馬鹿にしていると思われてる発言なのか? これは今後気をつけねばならないな。 誤解されて剣で叩かれたら心が痛くなってしまう。


 早速プライベートダンジョンを出て、実戦へと移った。 そして狙撃の射程距離に入ったところで、2連続の全力射撃で炎のラビット・エレクトスを撃破することに成功した。 ちなみにソイツはスキルオーブを2個ドロップした。 つまりユニークではなかったということだ。


 ほっとした僕らは、そのままゲート調査スコープで安全確認をしてからゲートを潜った。 そこは予想通りコアルームだった。 コアがあるということは、ここが別のダンジョンであることが確定したと言って良い。 魔物の強さから考えて上級ダンジョンだと思うのが自然だ。 

 

 僕等は全員で順番にトゥルーコアタッチを行ってから来た道を引き返すことにした。 コアルームを出て階層を上がり、最初にこの上級ダンジョン?に紛れ込んだ位置まで戻ってきた。 そしてプライベートダンジョンを出して中で就寝したのだった。

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