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137.  ドロドロ

 武蔵ダンジョンで狩りを行ったので、プライベートダンジョンが変質したはずだ。 ということで、ゲートを潜りコアルームへ行ってみた。 武蔵ダンジョンの入口へ通じるゲートは解放されていないようだが、第16区画へのゲートは存在していた。 ゲートはトゥルーコアタッチで初めて解放される法則のようだ。 それはさておき、今は第16区画の魔物の調査だ。 僕等はゲート調査スコープを第16区画へのゲートに差し込んで様子を(うかが)った。


「ほ~。 これはでかくて平べったいコウロギだな!」


 僕が感想を述べると、エミリが僕の感想にいちゃもんを付けた。



「お、お兄ぃ。 どちらかというとこれはゴ〇ブリなんじゃないの? コイツ等って生命力が強いのが特徴なのだぁ~」


 ば、ばかな。 何故本当のことを言ってしまうんだ。 セレブな家出三人娘のために折角言葉を選んだのに、これじゃ台無しじゃないか。



「え、エミリちゃん。 そうよね。 これはアイツよね。 ヨシ君に騙されるところだったわ」



 いやいやいや、体長5m程、高さ1m程もあるが、誰がどう見てもこれはゴ〇ブリだろう。 騙されるなんて人聞きの悪いことだ。 それにしても”疾風の白狼”三人娘は大丈夫なのだろうか。



「俺としちゃー、女子達を戦闘に巻き込みたくねーな」


 マリは相変わらずブレない男前な奴だ。 まあでも僕もその意見に賛成だ。 エミリはともかく、セレブ三人娘には耐えられそうにないだろう。


「わたくしはゴ〇ブリだけは大丈夫です。 ミレイとカナは無理かしら?」


「無理無理。 絶対に近寄りたくない」

「私もできれば、見たくもないわ。 離れたところから種攻撃ならできるけれど」


 一番苦手そうなレイナお嬢様が大丈夫とは少し意外だったが戦力としては問題ない。 元々レイナさんはウインドバリア担当だし、ミレイさんとカナさんは遠隔攻撃担当なのだ。 ミレイさんについては近接アタッカーもできるのだが、ステータスが低めだし遠隔に専念してもらっても問題ない。 


 問題ないから突っ込もうとしたが、その前にやっておくべきことを思い出した。


「マリ、アイツ等のステータスはどうなんだ?」


「スコープ越しじゃ、わかんねーな。 オレのスキルは直視する必要があるぜ」


「なら、アイツ等が遠く離れた時に、マリと僕がゲートを潜って直接見て来ようよ」


「できるなら、偵察は俺だけの方がいいな。 どうせ第16区画に入ってから、すぐに出てくるんだぜ? それにゲート付近には魔物は近づかねーんだよ」


「でもさ、直視ってつまりVRヘルメットを付けないってことだよね。 大丈夫かな」


「ああ、大丈夫だ。 今のステータスなら素の防御力の方が防具よりも数倍は高いだろ。 VRヘルメットを付けなくてもそれほど防御力は下がらんぜ」


「わかったよ。 じゃあ行ってこい。 ただし緊急時に引っ張り戻すための、(つな)はつけさせてもらうよ?」


「いやいや、そこまでやる必要があるか?」


「だって、アイツ等は素早そうだし、凶悪そうじゃないか」


「でもよ、俺が入れないようだったら、結局パーティも入れねーから、戦いを開始することはできないと思うがな」


「まあ、そうであればこのダンジョンのこの区画の攻略は諦めればいいだけのことさ」


「……」



 結局マリは折れて、奴らが遠くへ離れた隙を見計らってエムレザー製のザイルを腰に結び付けて中へ入った。  そのとたん奴らが反応したので、僕は全力でザイルを引っ張った。 僕は(あらかじ)め重力魔法を使っていたので、マリだけが一方的に引っ張られることになった。 そしてマリが文字通り飛んで帰って来た。


「ぐふっ、バッチリアイツ等を看破してやったぜ。 後はシミュレーターで練習だな。 それにしてもアイツ等の感知範囲は広いな。 動きはそれほどでもなさそうだがな」



 一旦第一区画へ戻り、マリが奴ら(ヒュージゴキと名付けた)を登録してから2D版VRルームからシミュレーターにログインした。 シミュレーターに使うVRゴーグルには例のメッセージ石板の技術で使われた小型のステータス読み取り機もセットしているので、実戦さながらの練習が可能である。 


 そしてシミュレーターの中で戦闘が始まった。 初期の状況設定は奴らが50m程離れているところからのスタートだ。


 戦闘開始直後からゴキは僕等を検知して迫って来るが、僕が受け止める役目を担った。 一匹目の突進は、重力魔法を使った途端に剣で受け止めて何とか耐えられた。 だが二匹目の突進には耐えられずにフッとばされた。 僕にダメージはないが、飛ばされたのはゴキの体重が重いためだ。


 フッとばされた僕は、そのままレイナさんが展開しておいたウインドバリアに取り込まれ、ウインドバリアは難なくゴキの攻撃を遠ざけた。

 だがウインドバリアにゴキが群がる異様な光景にミレイさんとカナさんは青くなって震えてしまった。 


 さてこれからどうしたものか。 


 先程の一撃を受けるまでの間に急所を探ったが全くわからなかった。 これだと外へ出て瞬時に倒すのは難しいだろう。


「どうしようかな。 これだけ囲まれたら、物理攻撃を仕掛けるのは無理がありそうだよね。 なら遠隔攻撃だけど、カナさんの火魔法は……、今は無理か。 う~ん」


「ええとヨシ君。 アレを試して見たらどうかしら?」


「ええっ? いいの?」


「おう、じゃあ任せとけ」


 マリがウインドバリアの内側に、水の膜――ウォーターバリアを張った。 ウォーターバリアは、ウインドバリアで防げない雷属性の魔法を防ぐことができる。 つまり僕等が試そうとしているのは、サンダーストームという広範囲雷魔法だ。 

 雷魔法は付与魔法として主に物理攻撃を強化するのに使われたりするが、サンダーストームのような使い方もできる。 だだし人は火魔法よりも雷魔法に弱いようだし、狙いも不安定になりがちなので、ウォーターバリアが無いとその使用は自殺行為であるとされている。


 ウォーターバリアが張られたならば、遠慮することはない。 僕は全力でサンダーストームも放った。 そのとたん、僕等の視界は暗転し、ゲームオーバーの文字が僕等のVR画面に表示された。


「……」


「い、今のは?」


「おめ~は、さっき全力でサンダーストームを使いやがったな? お前は加減とかはわからねーのか? おれはちゃんとウォーターバリアを加減して張ってやったんだぞ」


「ま、マリちゃん、バリアは全力で良かったんではないかしら。 そしてヨシ君は加減してやってもらった方がいいいと思います。 ヨシ君のステータスはマリちゃんの何倍も高くて魔法には威力があるから危ないです」


 し、しまった。 つい嬉しくなってカナさんのような行動をとってしまった。 雷魔法を全力で使ってパーティを自滅させてしまうなんてあり得ない失態だ。 そう思って自己反省したがカナさんに追い打ちをかけられてしまった。



「本当にヨシ君は、ノウキンよね。 MPを使えるだけ使って全力魔法なんて、勝算が無ければ使うべきじゃないわ」


 ぐふっ、カナさんに言われると僕の立つ瀬がない。 カナさんと同類判定でも面白くないのに、カナさんよりヤバイと思われるのは耐えがたい屈辱だ。



「あ、ああ。 間違えました。 重力魔法と雷魔法の手加減をミスしました~。 ほら、僕は重力魔法を全力で、つまり全MPを使ってあのゴキの攻撃を受けたのに耐えられなかったから、つい雷魔法も同じように……」


「お兄ぃ、魔法は苦手? ならエミちゃんがミミックを使って試してみる? エミちゃんならお兄ぃのステータスの1/4位だから自動的に手加減もできるの」


 ぐっ、エミリにまで、……いや、もしかしたらこれはエミリのミミックの実戦の練習になるかもしれない。 だがその前にやはり僕の練習も必要だ。



「エミリ、まずは僕が練習するよ。 MPを1/4、いやINTも4倍違うから、1/16位で試そうと思うよ。 マリお前は全力でウォーターバリアをお願いな」


「お、おう。 こんどこそ失敗するなよ?」


「マリちゃん、貴方もね」



 シミュレーターでの再戦を開始した。 

 戦闘開始と同時に全力で重力魔法発動、一匹の突進は受け止めて、二匹目以降は吹っ飛ばされるが、ウンインドバリアの内に逃れる。 そしてマリの全力ウォーターバリアが発動した。


「じゃ、いくよ?」


 僕はMPの1/16、つまり500だけ込めてサンダーストームを発動した。 発動してからほんの少しラグを置いて、辺り一面に雷が落ちた、というか雷で満たされた。 そして……。


「ひぇ~。 やっぱり雷魔法はえげつないわね~。 私の火魔法よりも強くない?」


「いや、だってカナさんINTステータスは1000でしょ? 僕はMPを500つかってINTは8000なんだ。 だから、あとは知力のレベル差があるから4倍弱程度の威力が出ていて当然なんだよ」


「そ、そうよね」


 こ、これは不味い。 カナさんのプライドを傷つけてしまったか? いやでも火魔法はウインドバリアだけで防げるので使い勝手が良い。 決して火魔法が戦術的に弱いわけではない。


 それから僕らは練習を続けた。 結果ヒュージゴキは今の僕の全力の1/50程度の攻撃でかろうじて全滅させることができるぐらいだった。 エミリもミミックを発動したテストを行ってみたが同程度の威力――エミリの全力の1/12位で全滅させることができていた。  しかしカナさんの火魔法では全力でも効果が無かった。 どうやらゴキは火に耐性があるようだ。 ゴキの耐性についてはマリが看破したスキル情報には表示されていなかったのでシミュレーターで試して初めて分かったことだ。


 シミュレーターの練習で備えが万全になったので本番を迎えることにした。 

 

 先ず僕が第16区画へのゲートを潜り、前へ進み出ると同時に重力魔法を全力で自分へかける。 少し遅れたタイミングでレイナさんがウンドバリアを張り、二匹目の激突で吹っ飛ばされた僕がバリアの中に退避したところでマリが全力のウォーターバリアを展開、そして僕はオーブを使ってMPを回復してからサンダーストームをヒュージゴキたちに浴びせかけた。


 どぉん、バリバリバリバリ。


 その一撃でかなり広範囲のゴキが全滅したので、ウインドバリアの中に入ったままで場所を移動。 そして次々に襲ってくるゴキをまとめてサンダーストームで処理していった。 ものの10分程度で、一匹だけ残して全滅させることができた。


 残りの一匹、そいつは今までのゴキより少し小さめだが色が少しだけくすんでいた。 そしてこちらに敵意を向けてきたと同時に口からドロドロとした粘液を僕等に浴びせかけてきた。


 うげっ、こりゃ気持ち悪い!


「ヨシ! こいつはレベル406だ。 あのハジケホウセンカのユニークの奴、ユニークホウセンカと同じレベル帯の強敵だぞ!」


 しまった。 

 よく考えればこの区画にユニークが紛れている可能性は高かった。 何故なら今まで第16区画にはユニークが居たから。 そしてユニークなソイツは厄介な奴だった。


「ど、どうしよう。 逃げる?」


「逃げるって言ってもどうやってよ? ウインドバリアを解除した途端にあのドロドロ(まみ)れにされてしまうわ」


 ここがプライベートダンジョンの中でなければ、ウインドバリアの中にプラべートダンジョンを出して、中でシミュレーターの練習ができるのだが。 今回はそうはいかない。 このまま戦うしかない。


「サンダーストームは必要はなさそうだから、単体雷魔法で攻撃したいけど、どう?」


 実は先程のシミュレーターの中で、単体攻撃についても練習を行っておいた。 単体の雷魔法は威力が高いが、対象が一匹に限定されるため、マリのウォーターバリアの防御には余裕ができていた。 つまり僕の全力の約半分の攻撃でも味方には被害を及ぼさずに済んでいたのだ。


「ああ、やってみるがいいぜ。 だがなMPを補充するときは俺のウォーターバリアも張り直すから先走るんじゃねーぞ」


「はは、わかったよ」


 ということで単体雷魔法攻撃を放ってみた。 先ず一発目、奴が閃光に包まれた。 効いてないわけではないが思ったよりもダメージを与えられていない。 

 二発目、オーブを使い、ウォーターバリアを張り直して三発、四発。 

 そして十発目を放とうとしたところでカナさんが火魔法単体攻撃を奴に浴びせた。 そのとたん奴の色が赤へと変わってしまった。


 えっ? これってお怒りモードとかじゃないの? カナさん何をやってくれて……。


 そんなことを考えながらも惰性で十発目を放ってしまった。 だがその一発は特別だったようで、かなりのダメージを与えたようだ。 なぜなら奴の動きが(のろ)くなり、ドロドロの体液を浴びせかける頻度が明らかに減少したからだ。 だが僕の雷魔法攻撃でソイツの色は元へと戻った。


「カナさん、ナイス! カナさんの火魔法の後だと僕の雷魔法が効果的なのかも。 カナさん、次もお願い」


 カナさんは嬉しそうに(うなず)くと、ゴキに震えながらも全力で火魔法を浴びせかけた。


 ごぉぉぉぉ~!


 そして僕の単体雷魔法が着弾。


 どぉ~ん、バリバリバリ!


 その攻撃でソイツは消え去り、ユニークスキルオーブとエネルギー石、スキルオーブやオーブ、そして緑と黄色の趣味の悪いまだら模様の杖をドロップした。 

 いやそれだけじゃない。 あのドロドロの体液も残っていた。


 何となく僕でも勘が働いた。 きっとドロドロの体液は酸だろう。 となれば今ウインドバリアの外に出るのは危険だ。 さてどうしたものか。

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