133. 隠れたヒロイン
翌日から暇な時に討伐を進めていた。 最近の僕達にしては時間がたっぷりあるので攻略ペースはかなりゆっくりだ。
ほとぼりが冷める期間をどの位にするのか。 そこが問題だったが鈴木さん達がオーブやスキルオーブを持って6963中級ダンジョンのコアルームへ行き、二次的な検証を済ませて事を落ち着かせることを考えれば1週間程で良いはずだ。 そんなことを考えていたら突然思い出してしまった。
「あっ! そういえば、エミリのミミックについて追加検証するのを忘れてたっ!」
僕が叫ぶと、皆は目を見開いて驚いた顔を見せた。
「お兄ぃ、追加検証って何?」
「自分のことなのに、もう忘れたのか……。 まあいい。 前回のミミックの検証はプライベートダンジョンの中でやったけど、普通のダンジョン内ではやったことが無かったよね。 それをやってみたらと思ったんだ」
エミリは首を傾げているが、ミレイさんが僕に補足してくれた。
「ええと、他のスキルはともかく、プライベートダンジョン関係についてよね?」
「ああ、それも有るし。 実際のダンジョン内でミミックを使うのは初めてだろうからね」
「じゃあ、エミちゃんは一旦お兄ぃのプライベートダンジョンから出てミミックを使ってみればいいの?」
「ああ、そして僕に擬態して、ダンジョン生成を使ってミミックダンジョンを作ってほしい。 その結果僕のプライベートダンジョンにミミックダンジョンがどういう効果を与えるかを見たいんだ」
2986初級ダンジョンの小部屋へ出て検証を行った。 その結果エミリは僕がプライベートダンジョンを作っていない場合も、強化ガラス板にミミックダンジョンを作ることが出来た。 ただし、その中に僕のプライベートダンジョンへ通じるゲートは無かった。 だが、僕は別の強化ガラス板にプライベートダンジョンを作っていたら、ミミックダンジョン内に僕のプライベートダンジョンの入口へ通じるゲートが発生し、そこを潜ると僕のプライベートダンジョンへ入ることができたのだ。
つまり、離れた場所でミミックダンジョンを使うことで僕のプライベートダンジョンへ転移することができるし、逆も可能という結論だったのだ。 このことでプライベートダンジョンから転移可能な場所は、トゥルーコアタッチ済みのダンジョンの入口とミミックダンジョンということになった。
ミミックダンジョンの中でプライベートダンジョンを作るとどうなるか、についてはミミックダンジョンがそのままプライベートダンジョンに置き換わるという面白い結果になった。 まぁだからどうだという訳ではないが、何かの役に立つことを期待したいところだ。
その後、その他の検証も行った。 ヤバかったのはレイナさんのウインドバリアだ。 エミリのミミックは時間限定であるが、同じ威力と思われるウインドバリアを使えたのには驚いた。 そしてミレイさんの土魔法だ。 現在素のステータスはエミリが2000でミレイさんが1000だ。 ステータスの影響を受けたのか、ミレイさんの種弾丸の威力を凌ぐ弾丸を打ち出すことに成功していた。 エミリのミミックは、一日あたりの使用制限や、継続時間の制限がなければ正に最強のチートとも言えるスキルだと思えた。
そして僕らが引き籠ってから一週間が経過した。 残しておいたスキルオーブや得られたスキルオーブなどで皆の強化を行った結果、全員がレベル100を超え、アイテムボックス、筋力、頑健、俊敏、器用は全て20にすることができていた。 そして驚いたことにレベル100を突破したことにより全員がステータスの限界を一つ突破できていたのである。 またレベル100になることはプライベートダンジョンのトゥルーコアタッチを成功させる条件にもなっていた。
今の僕らの強さは以下のようになった。
ヨシ、 レベル103
ステータス:all 8000
スキル:アイテムボックス20max、体力20、筋力20、頑健20、俊敏20、器用20、
魔力8、知力8、精神0、重量20、看破18、回復3、治療0、雷魔法20、
ユニークスキル:
ダンジョン生成、急所突き、ダンジョン内探知、アイテムボックスEX。
マリ、 レベル101
ステータス:all 4000
スキル:アイテムボックス20max、体力20、筋力20、頑健20、俊敏20、器用20、
魔力10、知力10、精神0、重量8、看破0、回復0、治療0、水魔法20、
ユニークスキル:看破EX。
ミレイ、 レベル101
ステータス:all 2000
スキル:アイテムボックス20max、体力20、筋力20、頑健20、俊敏20、器用20、
魔力8、知力18、精神0、重量5、看破14、回復0、治療5、土魔法20、
ユニークスキル:なし。
レイナ、 レベル101
ステータス:all 4000
スキル:アイテムボックス20max、体力20、筋力20、頑健20、俊敏20、器用20、
魔力10、知力17、精神0、重量15、看破2、回復0、治療0、
風魔法20x50、
ユニークスキル:風の加護。
カナ、 レベル101
ステータス:all 2000
スキル:アイテムボックス20max、体力20、筋力20、頑健20、俊敏20、器用20、
魔力15、知力13、精神0、重量14、看破3、回復0、治療0、火魔法20、
ユニークスキル:なし。
エミリ、レベル100
ステータス:all 4000
スキル:アイテムボックス20max、体力20、筋力20、頑健20、俊敏20、器用20、
魔力4、知力8、精神0、重量14、看破3、回復0、治療0、風魔法8、
ユニークスキル:ミミック。
僕のステータスは他のパーティメンバーの2倍~4倍といったところだ。 今のパーティで不足している課題は、精神、回復、治療魔法だといえるだろう。 エミリは皆の魔法スキルが20になるのを待ってから風魔法を覚えた。 こればかりは運だったのだが、一番安全な魔法を覚えてくれたことには僕としては胸をなでおろしたのだった。
それから僕らは2986初級ダンジョンを出ることに決めて出口へと向かった。
出口付近には20名程の人々がダンジョン内キャンプを張っていた。 このダンジョンは過疎るほどではないが、出口付近にそんな人数がキャンプを張っているのは不自然だ。 何となく状況は察せられたが一応確認のために話しかけてみた。
「え、ええと。 みなさんご苦労さまです。 何かありましたか?」
「お、おお。 やはりこちらに潜伏していましたか。 鈴木ダンジョン攻略局長からお伺いしていましたのでお待ちしていました。 我々が今後の警護担当を引き受けさせていただきます」
やはりそうか。 色々な面倒に巻き込まれたくなくて逃げたのだが、何処に潜んでいたかは鈴木さんにはバレていたようだ。 それにしてもダンジョン攻略局長ってなんだ? 鈴木さんはダンジョン省の特命室長とかいう謎の役職だったはずだ。
「あの~、ダンジョン攻略局長って?」
「おっと、そうだったな。 君たちが潜伏している間に色々とあってね。 今はダンジョン省の特命室長からダンジョン攻略局長になったそうだよ。 トゥルーコアタッチという現象が全世界的に一般公開されて、そして同時に初級ダンジョンや中級ダンジョンのトゥルーコアタッチ条件も示されたんだ。 その条件を見出した立役者の一人という訳だそうだよ。 君たちもそうなんだろ?」
「え、ええと。 何のことやら分からないです。 僕達は潜伏していたのは、ちょっとパーティメンバーの不純な動機で……」
そこでミレイさんが慌てたように口を挟んで来た。
「ちょっ、ヨシ君。 言葉の使い方は慎重にしてねっ! 不純な動機じゃなくて、単に修行目的でダンジョンに籠っていたのよ。 オーブを獲得するために頑張っていたんです」
「ん? ここは初級ダンジョンだったはずだが、そんなにオーブって取れるのか?」
「……」
ああ~。 ミレイさん、やってしまったな。 さてどうしよう。
「え、ええとですね。 もちろんオーブはドロップしますよ? 以前僕達は、……ええとオークを狩った時にだってドロップさせています。 まあレア扱いですけどそんな低級な魔物からでもドロップしますね」
「確かに弱い魔物でも極たまにオーブをドロップしますね。 ですが、あなた方は初級ダンジョンのトゥルーコアタッチ条件をクリアされてますね。 つまりスキルの限界――ああ、面倒だな、誰だスキルとステータスを間違えて用語化した輩は。 コッホン、失礼しました。 ええと、君たちはステータスの上限に達するほどオーブを多用されてますね。 そんなあなた方が何故今更オーブを?」
ぐっ、この人は好奇心というか猜疑心が強いな。 どうしよう、このまま誤魔化しを続けるか、それとも……。
「あ、ああ。 それですか~。 確かに僕らはオーブを多量に使ってステータスを上げ切りました。 だけどそれはステータスを上げるために与えられたオーブだったんですよ。 今僕らが欲しかったオーブは、その、つまり、……食べるためです。 知ってますか? オーブって美味しいんですよ?」
「ええっ! 食べる? あっ、確かに中級ダンジョンのトゥルーコアタッチ条件にはオーブを食するっていうのが最近公開されたばかりですね。 で、でも君たちは中級ダンジョンのトゥルーコアタッチ条件もクリアしていたはずで、やはり必要はないのでは……」
「だからですよ。 必要がないのに食用としてオーブを貰うわけにはいかないんです。 だから無理をしても取りに行ったんですよ。 僕はともかく、彼女らは美味しいものを食べるためなら多少の努力は惜しまないタイプなんです。 本当に食いしん坊なんです」
「し、しかしだね。 君たちは実力者じゃないか。 初級ダンジョンでわざわざ……」
くっそ~。 中々しつこい奴だ。 誤魔化すのは面倒だからさっさと奥の手を使ってしまおう。
「あ~それですよね。 それはちょっと鈴木さん絡みの任務も関係していたんです。 詳しいことは言えないので任務については直接鈴木さんに聞いて貰えますか?」
「あ、いや。 そこまで私も君たちの事情を知りたいわけじゃないよ。 なるほど特別な任務のついでということだったんですね」
「え、ええ。 そういうことです」
最初から鈴木さんに絡めて言い訳をしておけば良かったかもしれない。 だができるだけ迷惑をかけずにこの場を切り抜けたかったので粘ってみたということだ。
そんなやり取りの後、僕らは出口付近で待っていた護衛の方々と一緒に2986初級ダンジョンを出て、特別に用意された会議室へ入った。 そして会議室監視用の装置類を設置した後プライベートダンジョンに入った。 プライベートダンジョンの中へは光ファイバケーブルを引き込んだので、僕らが逃げていた一週間に起こった出来事を知ることができた。
「な、なるほど。 つまり普通のオーブを食べておくことは必須で、スキルオーブについては食べない場合は10個使う必要があって、食べれば1つか2つで良かったってことか~。 アイテムボックスや身体強化系のスキルオーブなら1つ食べればOKで、その他は最低2つ食べる必要があるとか、……良く突き止めたな~」
「も、もしかしてエミちゃんは食べることで貢献できた感じ?」
「あ~なるほど。 確かに僕達がオーブを食べたのは、エミリが食べてみて美味しかったからだな。 よく考えたらエミリが食いしん坊だったことが中級ダンジョンのトゥルーコアタッチに結びついたわけだな。 なるほど凄いじゃないか。 エミリは隠れたヒロインだな」
「本当にそうね~。 エミリちゃんお手柄だったわよ?」
「おお、そうだな。 いけすかねー奴だったが、やるもんだな、見直したぜ」
エミリは褒められてご満悦だ。 だがそれだけで終わらなかった。
「それにしても、ヨシ君の苦しい言い訳、私達がオーブを食べるためにとか言い過ぎだったのでは? 最初から鈴木さんに頼れば……」
彼女達に不満を言われたが、失言したのはミレイさんだし、事を収めたのは僕だ。 それから暫くの間、他愛もない会話を続けて楽しむことができた。 それというのも、世間の興味が僕達に向いていないことを確認して久々にリラックスできたからだった。