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130.  スキルオーブ集め

 明朝プライベートダンジョンに設置された各自の個室で就寝後、僕らは朝食を取って討伐の準備に備えた。 だか一つだけ問題があった。 マリが帰ってきていないのだ。 さてこれはどうしたものだろう。


「マリちゃんは、武具店へ向かったって聞いたけれど、どうしたのかしら」


 朝ハンバーガーを齧りながらレイナさんが聞いて来た。 お嬢様なのに、はしたない恰好だ。 お嬢様といえばミレイさんも同じ部類なのだがどちらかと言うと自由に育てられた感が高い。 もちろん自由人のカナさんは言うまでもない。


「今回はレッドカウに加えてブラックカウのエムレザーも持って行ってもらったからその関係かな。 まさか超高級品だというのがバレてオジサンも一緒に誰かに捕まっちゃったとか?」


「い、いやそれはない。 一応彼には護衛を向かわせたよ。 もう君たちは下界だと重要人物扱いなのさ」


「ええと、なら状況を確かめることは可能ですか?」


「ああ、じゃあ確かめてみるよ」


 鈴木さんは携帯端末を操作して問い合わせ始めた。 昨日はあれから光ファイバーをプライベートダンジョン内に引き込んでいたから第一区画での通信環境は完璧だ。 

 ちなみに今の光ファイバ接続は会議室専用のハブから引き込んでいる。 ゲートは電波を通さないが、その仲間である近赤外線から可視光はある程度通し、同様に仲間の一種である100Hz未満の電気もメタルケーブル経由で通す。 光ファイバ内の光は赤外線なので、ある程度減衰はするものの通信としては問題ない範囲なのである。 この光ファイバーはそのまま第2区画やコアルームまでリピータを経由して繋げている。 


「それで鈴木さん、どうでした?」


 暫くして鈴木さんが携帯端末の操作を止めたので聞いてみた。


「護衛の人達は武具店まで無事に送り届けたようだよ。 だたそこから今まで出てこないそうだ」


「どうしたんだろう。 直接マリに聞いてみるか~」


 僕は携帯端末を取り出してマリに連絡を取ろうとした。


「……ヨシ君。 最初からそうしていれば良かったんじゃないの?」


 ミレイさんが僕に突っ込みを入れて来た。 ここで何かボケてみるのも手だが、鈴木さんもいるし、それは止めておこう。


「うん。 まあそうだけど。 なんか流れ的に鈴木さんに頼ってみた感じ? というか君たちだって連絡できたんじゃ?」


「い、いえ。 男の人にこちらから連絡するなんて……」


「ええっ! 家出までした不良娘なのに今更ぶりっ子をされても説得力がないというか」


「……元々ぶりっ子なんてしてないでしょ? それに不良娘って何よ!」


「ちょっと、楽しそうなところ済まないが、護衛の人から今連絡が入ったよ。 マリ君は武具店を出たそうだ。 そして護衛の人と一緒にこちらへ向かうとのことだ」


「うん。 やはり、先ず鈴木さんに頼って正解だったな! 僕の判断は的確だったな」


「……」


「まぁそういう事にしておきましょう」


 くっ、中々勝利は難しい。 この勝負は何となく負けの気がする。


 僕達はマリをプライベートダンジョン内のラウンジで待った。 プライベートダンジョンの外の様子は外に設置してあるカメラやマイクで拾い、それをネット経由で中の大型スクリーンに映し出している。



 その後30分程してマリがドヤドヤと護衛隊を引き連れて帰って来た音が廊下から聞こえて来た。 そしてマリ一人が会議室へと入り、少し戸惑いながらも僕達のところへやって来た。


「おっ、お前らいたな。 正直開けっ放しのゲートへ入るのは怖いぜ。 この第一区画でヨシを発見できなかったら叩き出される可能性があるからな」


「そうか~。 なら会議室とこことの連絡手段を確保すればいいな。 というか携帯端末を使えよ。 それに光ファイバを中に引き込んでいる時にはリラックスタイムなんだから叩き出されるってことはないよ?」


「ああ、言われてみればそうだったな」


「それでその。 マリは何でこんなに時間がかかったの?」


「それはな」


 そう言ってマリはアイテムボックスから装備を出した。 全部で7セットある。


 あれっ? 僕が注文したのはエミリの分を含めて6セットだけだったはずだ。



「まずな、叔父さんには俺たちの状況を少しだけ話しておいたぜ。 ただ例のトゥルーコアタッチとかは伏せてな。 大分驚かれたんだが、お前に渡されたブラックカウのエムレザーをアイテムボックスがら取り出して見せたら、……当然さらにビックリして倒れそうになっていたぜ」


 ブラックカウのエムレザーよりも、アイテムボックスを持っていることを叔父さんに明かしてしまったこことに驚かれたにちがいない。 


「それで? その説明に時間を要したってことか?」


「いや。 叔父にブラックカウのエムレザーを調査してもらってな、レッドカウのと同等レベル品だとお墨付きをもらったぜ。 ここからが問題なんだがよ、叔父によれば同等レベルのエムレザーを張り合わせば強度が数倍になることがあるんだそうだ。 それで簡易的に張り合わせてもらったところ、確かに強度が上がって叔父に渡した緋色のナイフ? では切れなくなっちまったんだ」


「なるほど、それはすごいな。 それで次にはその張り合わせ装備を注文してくれたのか?」


「ああ、それはもちろんだ。 だが既に作成済の装備に張り合わせなら手間はそれほどかからんらしい。 それでな、今回作ってもらった装備の一部にブラックカウのを貼り付けてもらったんだ。 胸の部分と、VRヘルメット頭の部分にな」


「それで時間が掛ったってわけか」


「ああそうだ。 7人分の装備への張り合わせだから結構忙しかったぜ」


「でも見た目は張り合わせてあるように見えないな」


「ああ、張り合わせ専用のシノズカという装置を使うと何故か溶け込むようになっちまったんだ」


「ほほ~。 君の叔父さんは、シノズカ装置を使えるのか。 結構腕のいい防具職人なんだね。 実をいうとシノズカ装置も、あのソリン装置と同じようにメッセージ石板由来の技術なんだ。 それなりの資格を持つものにしか供給されていないんだよ」


「へ~、あのメッセージ石板由来の装置ってソリン装置だけじゃなかったんだ~」


「ああ、一般には知られていないが、我々が日常的に使っている電源活性化装置もそうなんだよ? あれはエネルギー石を電源に変える装置なんだ。 一般的にはハイテク製品ということになっているんだが、実のところはメッセージ石板由来のハイパーハイテク製品なんだ」


「そ、それは知らなかったです」


「とはいえ、中身は全くの不明なんだ。 単に5種類の小出力のエネルギー石をアルミ板に指定されたパターンで配置して貼り付けただけものなのさ。 それがどういう意味をもつかなんて解明不可能なんだよ。 一応カモフラージュのために意味のないICチップも使われてれているがね」


「ところでメッセージ石板とはどんな代物なんですか?」


「メッセージ石板は、エネルギー石と同じような材質でできていて、ダンジョンの中では壊れやすいが、外へ出すと全く壊れなくなる、10cm四方で厚さは2cmの石なんだ。 そしてその表面には数nm単位の小さな文字がびっしりと書き込まれているんだよ」


「へぇ~。 そんなのは見たことがないですね」


「ああそうだね。 世界で同じものが20枚ほど発見された後は全く発見されなくなったからね。 聞くところによるとコアタッチすることで、いきなり出現したらしいのだよ」


「ああ、それでコアタッチが儀式化されたのか」


「それはわからないが、探索初期の頃コアタッチが推奨されていたのは事実だね」



 僕達はマリから手渡してもらった装備を身に着けた。 もちろん着替えは各自個室でおこなった。 どうやら皆は僕に下着姿を見せるのが恥ずかしいらしい。 驚いたことにエミリまでがそんな調子だった。

 それにしても、鈴木さんの防具も用意して来たとは少し驚いた。 何でもオジサンが一般用に試作しておいたものを分けてもらったとのことで、サイズ調整機能付きの一品だ。 サイズ調整機能がある分、強度的には少し劣るとのことだが、戦闘に参加するわけではないので十分だ。


 そして僕らはコアルーム経由でプライベートダンジョンの第16区画へとやって来た。 取りあえず女子達と鈴木さんには見学してもらうことにして、レイナさんのウインドバリアの中に入ってもらった。 そして僕とマリとでアンフェアイソギンの討伐を開始した。

 引き寄せられては触手を切り落としてすぐに討伐していく手順は慣れたものだ。 今回も順調に討伐を進めていたところカナさんから提案があった。


「ヨシ君、その触手は嫌らしい感じで囚われそうで怖いわ。 なんとなく見ていてムカついてきたからちょっと火魔法で焼いてみていい?」


「ええと、実験はシミュレーターでもできるけど、ぶっつけ本番でやってみたいの?」


「そうね、先ずはシミュレーターで試す方がいいかもだけど、私の勘ではイケると思うの」


 カナさんの目は泳いでいない。 つまり本当にイケると信じているようだ。 ならばやってみるがいい。


「マリ、一旦討伐を止めてカナさんの火魔法を試してもらおう」


 僕とマリはレイナさんのウインドバリアの中に退避した。 装備はマリの叔父さんが作ったものを身に着けているので、今までと違い防御力は格段に強化されているはずだ。 しかしもし焦げ目でもつけたら申し訳ない。 そんな些細な理由でバリア内へと退避したのだ。


 僕達はレイナさんのウインドバリアの中に入ったっままアンフェアイソギンに迫って行く。 途中でアンフェアイソギンの風魔法による引き寄せが発動したみたいだが、明らかに上位の風魔法を駆使しているレイナさんのウインドバリアはその効果を無効化してしまっていた。  そしてカナさんの単体火魔法が放たれた。


 見た目凄い火柱でアンフェアイソギンが包まれたと思ったら、次の瞬間消え去ってスキルオーブと緋色のナイフ、エネルギー石、そしてオーブ4つをドロップした。 アンフェアイソギンには火魔法が通じる。 そのことが分かった瞬間だった。


「次は私も土魔法でソイツに挑戦してみたい」


 ミレイさんが次の実験に立候補したが、結果は惨敗だった。 アンフェアイソギンを黄色い種の銃弾で打ちぬくことはできたのだが、触手を切り落とさない限り、かなりの再生力があるようで倒すことはできなかったのだ。


 そうやって第16区画のアンフェアイソギンを討伐し終わると、次に第15区画のレッドカウをまとめて壁に激突させてから止めを刺していった。 それにはミレイさんも参加した。 青い丸盾で叩いた後、緑色の剣を振るうことで止めを刺すことに成功したのである。


 ということで、第16区画のスキルオーブ採取は、僕とマリ、そしてカナさんで手分けすることになり、第15区画のレッドカウは、皆で止めを刺していくことになった。


 そうやってその日は、休み休みではあるが一日中スキルオーブ集めに専念した。 その結果得られたスキルオーブは132個にも達してしまった。 第16区画へのアクセスが一瞬で可能になったことと、皆が討伐に参加できるようになったことで効率が爆発的に高まった結果だ。


 以上で今の僕らの手持ちは、6963中級ダンジョン由来のスキルオーブが63個、2986初級ダンジョン由来のスキルオーブが132個。 同じく2986初級ダンジョン由来でアイテムボックスのスキルオーブにほぼ確定しているのが1個。 さらに普通のオーブが数千個といったところになった。 これだけの材料があれば、とりあえずトゥルーコアタッチ条件の実験はできるだろうとのことになった。



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