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128.  何食わぬ顔

 とりあえずプライベートダンジョンのコアルーム内ゲートについては大体理解できて、これでスキルオーブ集めが(はかど)ることは疑いようもなかった。 エミリが到着したことで、エミリがトゥルーコアタッチできるかを確認してもらうことになる。 だがエミリには未だ冒険者資格がないのが問題だ。


 エミリのステータスを全て教えてから鈴木さんの判断を待った。


「なるほど、間違えてスキルを覚えてしまったのだね? そしてこのままでは危険だと判断した君たちはレベルも取得させて本人に自覚してもらったということか」


「はい。 ダンジョン見学とかがあると暴発の危険もあったので。 それで冒険者資格を持っていない者がトゥルーコアタッチしても問題ないのでしょうか?」


「法律上の冒険者資格なんだが、……主にダンジョン省のダンジョン管理センターとの取引による権利を受けられるかどうかだね。 一人でダンジョンに入れるかどうかや、ドロップ品の売買、装備のレンタルや購入などだね。 もちろん冒険者資格がないなら冒険者タグもないし攻略証も得られないといことになるね。 だがコアタッチとなると、そんなケースは想定されていないね」


「そうなのか~。 なら見学者としてならコアタッチしても問題ないのか。 でも後々問題にならないですか?」


「法律上は問題ないだろうが、後で規制対象となっても仕方ないところだね。 とにかくこの国のダンジョン関連の法律では未成年の冒険者取得は制限されているからね」


「他の国では認められているんですか?」


「ああ、米国とかでは15才以上で認められているよ。 米国の冒険者資格は条約で日本にも適用できることになっているよ」


「ならエミリがトゥルーコアタッチしても問題なさそうですね」


「……騒がれるだろうが、それはダンジョン省で抑えてみせるよ」



 それから鈴木さんはプライベートダンジョン経由で6963中級ダンジョンの入口へと戻り、そのまま会議室へ戻って行った。 鈴木さんはそこに設置しているVR端末を操作して何やら交渉を始めるのだそうだ。 そして僕らはエミリの教育も兼ねてスキルオーブ獲得作業へと戻った。


 プライベートダンジョンに入り、入口横のゲートから一気にコアルームへ、そして星印6つのゲートを潜り第16区画のハジケホウセンカを倒すのだ。 今回ハジケホウセンカまでのアクセスが容易になったことで、ついでの種の取得までは行わずスキルオーブ獲得に専念することにした。 エミリはレイナさんのウインドバリア内で見学だ。 カナさんとレイナさんに色々とレクチャーしてもらうことにして、僕とマリ、そしてミレイさんとでハジケホウセンカ狩りが始まった。 


 まず僕がハジケホウセンカの敵意を僕に向けさせる。 そしたらマリが水魔法で実を包み、ミレイさんが一気に前に進み土魔法で種を制御しながら、青い丸盾と緑色の剣で一気に実を切り落として倒すのだ。 一匹倒すのに30秒も掛らない。 

 そうやって20分ほどでハジケホウセンカを倒した後は僕だけ第15区画のブラックカウゾーンへと進み。 第14区画の壁側へと走ってブラックカウを激突させて自滅させた。 これも5分程度しかかからない。 

 つまり全行程30分ほどでハジケホウセンカとブラックカウを全滅させてから、コアルーム経由でプライベートダンジョンを脱出する作業が今のスキルオーブ獲得方法だ。


 僕らはそれを7回繰り返した。 結局得られたスキルオーブは63個だった。 途中からレイナさんとカナさんはプライベートダンジョン内のシミュレータを使ってエミリの教育をしてくれた。 戦闘自体は僕達だけで十分だったのだ。



 夕食の時間となり、プライベートダンジョンの中の快適空間で食事を取った。 その際皆が感じていた不安を代表して僕が口に出してあげた。



「ええと、スキルオーブの数はかなり集まったけど、これだとまだ駄目な気がするよね?」


「……そうだね。 ダンジョン探索部隊の中にもスキルオーブを10個以上使った者は存在した。 だがトゥルーコアタッチ条件は満たしていなかったからね」


 鈴木さんが僕が提示した問題を引き継いで見解を述べてくれた。


「厳密なことは言えないが、ダンジョンの特殊性を考えれば、オーブが関係しているのは間違いないだろう。 レベルについては、エミリ君が試金石となってくれるそうだが、問題は希少スキルだね。 特にアイテムボックスとかが条件に含まれているなら……、これは大変なことだ」


「そうなんですよね。 準備としてアイテムボックスや身体強化系のスキルオーブを用意しておきたいところなんですけど。 ……僕のダンジョンは変質しちゃたからな~」


「確かにね。 攻撃魔法を覚えることができてパーティの実力はあがったのだけど、希少性の高いスキルが得られなくなったのには残念な気がするわ」


「おめーら。 飯の時まで仕事の話とかやめよーぜ。 そんなのは明日考えればいいこったぜ」


「マリ、今日はもう狩りはやらないってことか?」


「俺的には、今日は十分頑張ったと思うぜ? 今日はトゥルーコアタッチ条件の調査初日だろ? あまり根詰めすぎるのは良くないぜ」


「あ、ああ。 たしかにミレイさんは僕やマリと比べるとステータスが低いからちょっとキツかったかな?」


「いえ、私は……」


「ミレイ、やめておけ。 今日は十分だ。 明日頑張ろうぜ」


「ええ、そうするわ。 正直疲れました」


「まぁわかったよ。 でも僕はまだ余裕だし、ちょっと試したいことがあるから少し一人でやってみるね」


「ふぅ。 お前は本当に真面目な奴だな」


「いや違うよ。 気になることがあると寝つきが悪くて苦しいのさ。 気になったことは試してスッキリしてしまってから休もうってことさ」



 ということで僕だけ残業で調査を継続することになった。 ステータス値が高いと疲れにくいから可能なのだ。 それでも一人だけ残業というのは少し寂しい。 ステータス値が高すぎるのも考えものだ。


 残業はキッチリ2時間ということに決めて、皆にはプライベートダンジョンから退出してもらった。 そして僕はゲートを使ってコアルーム、そして2986初級ダンジョンの入口へ出た。


 僕が確かめておきたいこと。 それはプライベートダンジョンが何故変質したかを確かめるためだ。 一番ありそうで誰でも思いつきそうな理由は、地理的なこと、そして最後に入ったダンジョンがどこであるかの2つだ。 ダンジョン変質前後で僕のステータス関係は大きく変化していないのでこの辺から当たりを付けるのが筋だ。


 いきなり入口を出たところで出会った職員の方には、”例のダンジョン省関係者です”と言い逃れておいた。 実際に鈴木さんが、僕達の出入りについては詮索不要ということを通達していたようで、引き留められることもなくアッサリと会議室へ入ることができた。


「ダンジョン生成!」


 一人だと寂しいが恥ずかしくないので声に出して会議室に立てかけてあったポータブル強化ガラスにプライベートダンジョンを作った。

 その中に入りコアルームから第16区画で魔物を確かめた。 そこにいた魔物はハジケホウセンカだった。 


 魔物を確認後、直ぐに撤退してプライベートダンジョンを出た。 地理的な理由でプライベートダンジョンが変質したのではないことは分かった。 ならば次は……。


 会議室を出て、2986初級ダンジョンの入口から初級ダンジョンの中へ入ってから、直ぐに引き返して、会議室でもう一度プライベートダンジョンを出して見た。 そして第16区画にはハジケホウセンカがいるのを確認した。 つまり最後に入ったダンジョンによって変質したわけでもないことがわかったのだ。


 あ、ああああ。 なぜ変質してしまったんだ?


 確かめたいと言いながら自分の考えていたことが間違いだったとわかるのは、それはそれで大きなストレスになる。   


 プライベートダンジョンのレベルが上がったとかなんだろうか? それにしては魔物のレベルは同じようなものだったし、僕のステータスやレベルも上がった時でなかった。 

 ダンジョンのレベル、魔物のレベル、僕のレベル。 レベル、レベルか~。


 そこでピンと来た。


 ああっ! もしかしたら。


 僕はプライベートダンジョン経由で、2986初級ダンジョンの入口へでて、そこから中へ入り奥へと走って行った。 そして見つけたスライムを一撃で倒してみた。 そしてその場で強化ガラスを取り出して中に入り第16区画の魔物をチェックした。


 ビンゴ!


 第16区画の魔物はアンフェアイソギンに変わっていた。

 つまりこういうことだ。 人はダンジョンの中に入るだけではレベルを得ることはできない。 魔物を倒すことで初めてダンジョンからの影響を受けるのだ。 だから僕はダンジョンの中でスライムを倒して、そのダンジョンから影響を受けてみたのだ。


 やった、やった。


 僕は嬉しさのあまり小躍りしながらプライベートダンジョンを出た。 そこには不思議そうに僕を観察している3人組のパーティが居た。


 あ、ああ。 やってしまった! 

 ついに見ず知らずの人に僕の秘密を見られてしまった!!

 これは警戒を怠った僕が悪い。


 僕は何事もなかったように小躍りを止めて、すぐにポータブル強化ガラスをアイテムボックスに収納した。

 そのとたん3人が騒ぎだした。


「えええっ? 今の何? さっきのゲートのようなのは? さっきの板は? それに貴方はだれ?」


 僕はすぐにその場から全速力で逃げた。 ダンジョンの中での僕の全速力は時速300Km/hを優に超えるだろう。 さっきの3人にとって、僕が逃げ去るのは一瞬の出来事だ。 つまり僕は消えたように見えたかもしれない。 


 そして僕は何食わぬ顔でダンジョンの入口から出て会議室へと帰った。 あの3人には一部始終を見られて、僕の顔も見られてしまったが、すべて消えたので証拠はない。 誰に何を言っても夢のような話のはずだから信じて貰えないはずだ。 あの3人には幻でも見たとでも思ってもらいたい。


 そして僕は、得られた成果に満足してプライベートダンジョン経由で、鈴木さん達がいる6963中級ダンジョンの会議室へと戻ったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 原因が判明してプライベートダンジョンの自由度が一気に上がることに成るね
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