127. 星印
僕達は鈴木さんに事の経緯を説明した。
「つまり、スキルオーブを効率的に取得したくて深層の魔物を倒そうとしたと。 だけどそこはコアルームで、吉田君だけがトゥルーコアタッチ出来たと言うんだね」
「はい、そんな感じです」
「そのコアルームにはゲートが4つあったので、その一つをゲート調査スコープで安全確認して吉田君が入ったというわけだ。 そしたら我々がダンジョンから、この場所へ吐き出されたということだね」
「そういうことです」
「なるほど、ここは先程までいた中級ダンジョンの会議室から大分離れた場所なのだね? そしてここは君たちがトゥルーコアタッチを成し遂げた初級ダンジョンの入口だったというわけか」
「……」
「わたくし達はヨシ君のプライベートダンジョンから真に攻略したダンジョンの入口へ転移できるようになったということなのでしょう……」
「状況から察するとその様に思えるね。 だが、吉田君のダンジョンのコアルームには4つのゲートがあったと言ったね? 一つは第16区画?へのゲート、そして一つはこの2986初級ダンジョン。 たぶんもう一つは君たちが攻略した6963中級ダンジョンの入口へ繋がっていると推測できる。 だがもう一つは?」
鈴木さんが提示した疑問点を無視してマリが口を出した。
「俺たちはクリアしたダンジョンの入口へ自由に転移できるようになったってことか、こりゃーすげーな。 あらゆる地域のダンジョンをクリアしとけば観光し放題だぜ」
そんなマリを鈴木さんは苦笑して許容してくれた。 疑問点は一つずつゆっくりと解決していくのが良いという判断だろう。 重要なのは絶えず現状を把握し続けることだ。
「まあ、その通りなのかもしれないね。 だがここでもそうだったが、いきなりゲートから飛び出てくると問題があるし、出た先の拠点をどうするかも事前に考えておく必要があるだろう。 一応ダンジョン省で特別に会議室を確保しておくよ。 ちょっと手続きをしてくるから待っていてくれたまえ」
そう言って鈴木さんは会議室を出て行った。 鈴木さんのやりたいことはこの会議室を貸し切りにして2986初級ダンジョンの拠点とすることだ。 ここにポータル強化ガラス板を設置しておいて、プライベートダンジョンへの秘密の入口を確保しておきたいのだ。
鈴木さんがいない間に強化ガラス板を出してダンジョンを生成してみた。 ちょっとだけならいいかなと、中へ入ってお茶でも飲もうとして気が付いた。
「あれっ? 入口のゲート脇に、別のゲートが発生しているじゃないか。 これってエミリのミミックダンジョンで発生したゲートとは違うよね?」
「あらまあ、ほんとに新しいゲートが発生したのね。 早速ゲート調査スコープで覗いてみましょう」
そして僕達はスコープでその透明度の低いゲートの先を覗いてみた。 すると見覚えのある光景――このダンジョンのコアルームが見えた。
「おおっ! コアタッチで第一区画からコアルームまで繋がったか~。 これってあのハジケホウセンカのいる第16区画へのアクセスが楽になったってことか?」
「そうだな、それに。 2986ダンジョンの入口や、もしかしたら6963中級ダンジョンへも直ぐに行けるってことだな」
「……」
「これは絶対に実験してみないと駄目なやつだな~」
ほくほく顔でゲートを潜ろうとしたが、それをマリに引き留められた。
「ちょっと待て。 お前が先に潜るとまた俺たちが叩き出されるってことはねーか?」
「いやだって、これはダンジョン内での移動だから大丈夫だよ。 ほら区画間のゲートみたいなものさ」
「ちょっとまって、鈴木さんを待ってからにしない? またトラブルに巻き込んだら温厚な鈴木さんでもいい顔をしないと思うわ」
「なんだよ、ちょっとぐらいいいじゃないか。 減るもんじゃないし」
「減ると思うぞ、信頼が。 それにだんだん話があらぬ方向へ向かってるんじゃねーか?」
「ええと、君たち。 あらぬ方向とは何のことだい?」
「うぁっ! 鈴木さん。 何時からそこに?」
「会議室へ戻ってきたら誰もいなくてゲートが開いていたから入ってみたのさ。 不味かったかい?」
「いえ、そんなことはないです。 ちょうど良かったです。 ええと、このようにあらぬ方向の、いや、予想外なゲートが発生してしまったので今から調査しようとしていたんです」
「なるほど、あらぬ方向へ話が進んでいるというのはこういうことだったのか」
「このゲートはコアルームへ通じているかもなんです。 つまりスキルオーブを落とす魔物の区画までのショートカットが可能になるかもなんです。 スキルオーブ獲得の効率アップに繋がるんですよ。 決して脇道へ逸れた話ではないです」
「おおっ? それなら、あらぬ方向の話ではないね」
それ見たことか。 してやったり顔でマリに微笑んでやった。 僕は常識人なのだ。
「でもよ。 ゲートを潜ってみる実験は、俺とお前だけでやってみようぜ。 女子たちが叩き出されるのは見るに忍びねえぜ」
くっ、マリ、お前はまた美味しいところを持っていこうと……。 いや、考えてみればミレイさんはともかく、レイナさんやカナさんは身体的に恵まれているとは言い難い。 度々ダンジョンの外へ放り出してしまうのは確かに申し訳ない。
「わかった。 僕とマリで調査しよう。 ミレイさんたちは一旦外へ出てくれない?」
「え、ええ。 ありがとう。 放り出されて折り重なって倒れるのは正直言って恥ずかしいと思っていたの」
そう言って女子たちはプライベートダンジョンから退散した。 そして僕とマリ、そして鈴木さんが残った。
「あ、あの。 鈴木さんは出ないんですか?」
「君たちがゲートを潜った時に、残ったメンバーが叩き出されるかどうかを検証する人物が必要だろう?」
「鈴木さんがそれでいいなら。 じゃあ、僕とマリはほぼ同時に潜ってみますね」
慎重すぎるぐらい警戒してゲートを潜ったところ、思った通りコアルームへ出た。 そしてマリは一旦ゲートを潜りなおして第一区画へ戻り、鈴木さんを連れてきた。
「ほら、問題なかったじゃないか。 こんなのを警戒する方が変なんだよ。 これで第16区画の魔物までのアクセスが瞬時に可能になったね。 ちょっと見てくるよ」
そういって第16区画へ通じると思われるゲート、つまり今のゲートの隣のゲートを潜ってみた。 そのとたん辺りが見たことがある景色へと変化して、しばらくして鈴木さんとマリが折り重なって倒れているのが目に入った。 ここは6963中級ダンジョンの入口のゲート前だ。
あれっ? どうして?
「ぐっ、どうしてこうなった。 それでここは?」
「ヨシ、お前。 すぐに調子に乗ってやっちまったな。 本当に女子たちを置いてきてよかったぜ」
「おかしいな。 なんでだ?」
「お前、どうしてさっき選んだゲートが第16区画へのやつだと思ったんだ?」
「ええと、あれっ? そういえば、潜っていなかった2つのゲートがどこへ通じているかを確かめる……」
そこへガタイの良い護衛部隊の方がやってきた。
「ええと、鈴木室長。 どうやってこちらへ? 会議室で作戦会議中だったはず」
「えっとですね。 僕らはその、……」
「ああ、吉田君。 私が対応するよ。 君はなんと言ったかな」
「はい、第3護衛小隊長の佐藤といいます」
「ええと、佐藤さん。 我々は今、いろいろと実験中なんだ。 一見すると不思議なことも起こるんだが、多少のことは目をつぶって融通を利かせてもらえると助かるよ。 護衛が必要な場合は追って連絡するからね」
「は、はい。 わかりました。 ですが、つい先ほど吉田絵美里さんという女性の方が到着されて控室で待ってもらっていますが、どうされますか? 先ほどまで通信を遮断されていたようなので連絡がつかずに困っていたのです」
「そうか。 来てくれましたか。 では会議室へお連れしてくれたまえ。 我々も会議室へ行くとしよう」
「はい。 わかりました」
護衛小隊長の佐藤さんは、部下に指示して僕らについてきた。 そして僕らは会議室の中へ入った。
「お兄ぃ。 エミちゃんはどうして招かれたの? いきなり学校に怖い人達が大勢来て驚いたよ~」
「ああエミリ、まあ待て。 鈴木さん、これは僕の妹のエミリです。 今回の調査に協力してもらうのでよろしくお願いします」
「君が吉田絵美里さんだね? 私はダンジョン省、特命室長の鈴木といいます。 現在吉田君達のパーティに重要な任務に就いてもらっています。 私はその任務の補佐兼検証役です」
「うあっ! もしかしてこの人って偉い人?」
「お前、もう高校2年生だろ? その天真爛漫な態度をそろそろ改めないとバカに見えるぞ」
「あ、あの。 失礼しました。 わたくし、この出来損ないの兄の妹になってしまった絵美里と申します。 どうぞよろしくお願いします」
「エミリ、その言い方。 ……まあいい。 それで鈴木さん。 どうします?」
「そうだね。 ……まず残してきたメンバーを迎えに行こうか。 いや、その前に第16区画へのゲートがどこかを確かめることが必要そうだね」
「わかりました。 では」
そして僕らはエミリも含めてプライベートダンジョンの中へと入り、入ってすぐのゲートを潜りコアルームへとやってきた。 ここからが気をつけなければならないところだ。 よく見るとゲートの上の方に小さな印のような記号がついている。 丸印があるのが今僕らが通ってきたゲートだ。 そして三角印のゲートと、星印が1つのゲートと、2つのゲートがある。
考えてみれば先ほど僕は星印2つのゲートを潜った気がする。 となれば試してみるべきは三角印のゲートだ。
「じゃあ、マリ。 あの三角印のゲートを潜ってみてくれないか? 戻れるようだったらすぐに戻ってきてくれ」
「お、おお、俺が? まあいい、やってやるぜ。 こんなことならゲート調査スコープをレイナから借りてくるんだったな」
「まあ、それは今更言っても仕方がないな。 じゃあ頼むよ」
マリは緑色の剣を握り、躊躇うことなくゲートを潜り、すぐに戻ってきた。
「で、どうだった?」
「ああ、あのハジケホウセンカがいたぜ。 第16区画でまちがいねーな」
「よしっ! じゃあ次は、星一つのゲートだな」
「お、おお。 すぐに戻ってこなかったらお前らも来いよな」
「ああ、わかった」
マリは戻ってこなかった。 そこで鈴木さん、僕の順番でゲートを潜った。
エミリは叩き出されるよりもどこへ行かされるかを怖がったので、どちらを選ぶか選択させたのだが、叩き出される方を選んだ。
思った通り僕らは2986ダンジョンの入口へと出ることができて、エミリは案の定ゲート前で突っ伏してしまっていた。