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124.  守秘義務

 到着した船からは多くの人が降りて来た。 窓から見ているとその中には、レイナさんの父の神降(かみおり)さんもいた。 


 いやいやいや。 なんでそんな大事なんだ? 来た人は総勢50名ほどにもなるんじゃないか?


 会議室で待っていると、ハミンちゃんさんの案内で15名程が中へ入って来た。 その中には神降(かみおり)さんもいたが、そのほかにも知っている人がいた。 入ってくるなり神降(かみおり)さんにジロリと見られた時には生きた心地がしなかった。


 あ、あの人はダンジョン省の氷室(ひむろ)担当大臣かな? いやいや、大臣が自ら出向くなんて僕達は何時の間にVIPになったんだろう。 それにしても付き添いのメンバーも凄そうだ。 半数はダンジョン攻略部隊の方々のようで制服を着て全てAランクのようだ。 Aランクは単に能力が高いだけでなれるものではない。 その他の背広組の人々も色々と不気味だ。 そして神降(かみおり)さんが立ったままで、大臣に僕達の紹介を始めた。


「大臣、こちらが例の吉田君です。 そしてこちらの男性が泊里(とまり)君、 そして私の娘の嶺衣奈(レイナ)沙美砂(さみすな)さんに、陰陽(おんみょう)さんです。 あっ、沙美砂(さみすな)さんはお孫さんでしたね」


「あ、ああ。 私は氷室(ひむろ)久治(ひさはる)という。 君たち、よろしく頼むね」


 後は自己紹介が次々と行われたが、その中には沙美砂(さみすな)の苗字の方が2名もいたのには正直驚いた。 それから僕らは席を指定されて着席後に会議が始まった。


「では、臨時ダンジョン対策会議を始めたいと思います。 大臣よろしいですね」


「ああ、始めてくれ」



 議事の進行役は鈴木という方だった。 肩書は教えてもらったはずだが覚えていない。



「では……。 その前に、吉田君たちには守秘義務を負っていただくことに同意してもらわねばなりません。 それでいいですね? 正式な手続きは後で行ってもらうことにします」


 これは逆らえない感じだ。 僕達は大人しく頷くしかなかった。



「先ずは真偽の確認を行いたいと思います。 吉田君、君たちは2986初級ダンジョンの攻略を行い、全員がコアタッチを行った。 それは間違いないですね?」


「は、はい、間違いないです」


「そして昨日、この6963中級ダンジョンも攻略してコアタッチを行ったということで間違いないね?」


「ええそうです。 攻略しました。 認証は済ませたので、今から攻略証を交付してもらうつもりです」


「例の装置にも記録されていたから、攻略が真実であると疑っていませんでしたが、一応確認をさせてもらいました」


「ええと、例の装置って何ですか?」


「ははは。 もちろん君たちは知らないだろうから、経緯から説明することにしよう」



 鈴木さんは僕達の携帯端末に複製不可、転送不可な情報を転送してくれた。 それらは本日中に自動消去されるので後で必ず読んでもらいたいとのことだった。 まるでどこかのスパイ映画のようだ。 携帯が壊れてしまわないことを祈るしかない。


「概要を口頭で簡単に説明しておくよ。 非常にレアなんだがボス攻略時のコアタッチでメッセージ石板というアイテムがドロップすることがある。 それには特殊微細文字でデータ……、ダンジョンに関する情報や、装置の設計データが記載されていたんだ」


 ん? 何のことだ? メッセージ石板なんて初耳だ。 これは本当の本当にヤバイ領域の話なんじゃないだろうか。 できれば逃げてしまいたい。 今はダンジョンの外なので普通の人間だ。 ステータスに任せてに強行脱出などできるはずもない。


「そのメッセージ石板と、それに基づいて製作された装置、――ソリン装置と言うんだが、それを使うことでダンジョンの攻略、ええと、真の攻略情報を知ることができるんだ。 その装置の情報から君たちが2986初級ダンジョンと6963中級ダンジョンを、真に攻略したということが判明したんだ」


「……」


「君たちはコアタッチ時に何かを感じ取ることができたね? 我々はそれをトゥルーコアタッチと呼んでいるんだ。 ある一定期間内に4名以上がそれを行うことで真の攻略が達成されるようでね。 そしてそのダンジョンでは上位種のイレギュラースポーンが完全に抑制されるようなんだよ」


 なるほど、あの何かが体に入って来るような感覚はトゥルーコアタッチという現象だったのか。 それにしても上位種のイレギュラースポーンが無くなるってことは随分重要なことだったんだな。 ダンジョン省のダンジョン攻略部隊ならばステータスをカンストしている人は多数いそうだから、安全確保のために頑張ってイレギュラースポーンを抑えてほしいものだ。


「初級ダンジョンのトゥルーコアタッチは、……全てのステータスが1000になればできるんだが、中級ダンジョンについては全世界でも達成した実績がなかったんだ。 それなのに君たちが攻略してみせたということで、その情報は全世界のダンジョン組織が保有しているソリン装置で情報共有されたんだ」


 うぁっ、これはトップレベルでヤバイ話なんじゃないか? 

 僕らはそんなことに巻き込まれてしまったのか。 それにこれだと、僕らのステータスがカンストしているのがバレているってことだよな。 それに……。


「あ、あのすみません。 僕ちょっとトイレ行って来ていいですか?」


「……」


「緊張してしまったんです。 このままだと理解できないかもです」


「鈴木君、まあいいじゃないか。 彼らはまだ成人して間もない若者なんだ。 できるだけストレスを与えないようにしてやってくれ」


「大臣、わかりました。 わたくしもこの事態に少し焦っていたようです。 ……そうですね、では10分間の休憩を挟みましょう」


 僕は直に会議室の外へ出た。 廊下は見るからにガタイのいい警備の方々で埋め尽くされていた。


 まあ逃げられるはずは無いとは思っていたが、これでは駄目だ。 僕は本当に観念してしまった。


 結局逃走の手段を考えることもなく、大人しくトイレで用を足してから会議室へと戻った。

 それはミレイさん達も同様だったらしく、少し遅れて会議室へと戻って来た。

 そして会議が再開された。  


「では説明を続けさせてもらいます。 ダンジョンで上位種のイレギュラースポーンを抑えることはエネルギー政策上重要な話でね。 しかも中級ダンジョンの数は多くて産出されるエネルギー石も高品質なものもあるから、魔物上位種のスポーンを抑えて安全化させることは最重要といって良いだろう」


「そういうことならば、僕達に中級ダンジョンの攻略を進めてほしいってことですか?」


「それもあるんだが、一番重要なのはトゥルーコアタッチ条件の解明だね」



 うへっ。 これはますますヤバイ。 

 僕達のスキルの秘密を公表しなければならない時が来たんだろうか。

 いや、でもそれを教えてしまうと、どうやって多数のスキルを得たかがバレてしまうし、スキルオーブの供給を求められて奴隷のように働かされてしまう運命が待っているかもしれない。 それは絶対に避けたい。 それならば、この件について交渉するなら今が絶好の機会かもしれない。



「ええと、中級ダンジョンのトゥルーコアタッチ条件の解明には協力したいと思いますが、こちらからも条件があります」


 そう言って交渉に持ち込もうとしたが、それを阻止するかのように神経質な感じの背広組の人が口を挟んだ。 もちろん名前と役職は聞いたはずだが覚えているはずもない。



「君たちは自分たちの置かれた状況が分かっていないようだな。 全世界が君たちの秘密に注目しているんだ。 我々は君たちを保護するために来たんだ。 世の中には君たちを拉致して辛い目に合わせてでも言うことを聞かせようとする不埒な国家もあるんだよ?」


「まあ、待ちなさい。 この場には私の孫もいることを忘れてもらっては困るな。 彼らの条件を聞かずに協力を強要するとなれば、我々の国がその不埒な国家ということになるのではないかね?」


「す、すみませんでした。 その様な意図は毛頭ありませんでした」



 ミレイさんのグランドファーザーと思われる氷室(ひむろ)大臣が僕らを(かば)ってくれた。  だがその背広組の人の発言で、僕らの置かれた立場が危ういものであることは十分理解できた。



 氷室(ひむろ)大臣のお言葉の後で、鈴木さんが話を続けた。


「とにかく先ず君の言う条件を一旦聞いてから判断することにしましょう。 そして君たちの安全は我々が、我々の国が保証しよう。 だが少なくともトゥルーコアタッチ条件の解明が進まない限り、不自由であっても我々の警護体制を受け入れてもらう必要はあるがね」


「は、はい。 警護の件はありがとうございます。 ですがダンジョンの中であれば僕らは強いので必要ないかもしれません」


「……それは、追って判断することにしましょう。 それでは君たちの条件をお聞かせください」


「はい。 まず第一に、僕達の安全の保証と自由意志の尊重です」


「ははは、それはもちろんの事だね」


「第二に、自由意志に関わるところなんですが、オーブやスキルオーブの取得については秘密厳守でお願いしたいことと、強要しないことを保証してください。 でないと僕は、僕達はダンジョンの中に引き籠って抵抗します。 ダンジョンの中でなら、このダンジョンの管理責任者のコーちゃんさんレベルの人なら100人集まっても僕達を揺るがすことはできないと思います」


「ん? コーちゃんさん?」


 今度は制服組の人が鈴木さんの疑問に答えた。


「鈴木さん。 攻略部隊を早期に自主引退した、通称”磯釣りコースケちゃん”のことです。 彼のステータスは全て1000で、さらにスキルオーブを2個つかって火魔法10と筋力8を得た強運の持ち主です。 そして彼らはこのダンジョンの攻略許可証を得る時にコースケをやり込めたそうです」


「なるほど、あの”磯釣りコースケ”をか。 ……まぁ大した自信のようなようだが、それはこの際関係ないだろう。 もちろん秘密厳守も強要もしないことを確約しよう」


「第三に、僕達の親族の保護もお願いします。 脅迫されたら太刀打ちできません」


「それも、もちろん当然なことだね」


「最後の条件ですが、トゥルーコアタッチ条件の解明は僕達主導でやらせてください。 もちろん検証のために数名協力者が必要ですが」


「それは、……困ったな。 この件は重要だからあまり時間を掛けられないんだ。 我々には優秀な解析チームがいるから信用して任せてもらえないか?」


「分かっているとは思いますが、僕達は短期間でトゥルーコアタッチ条件を達成した実力者です。 それにそちらの優秀な人達に僕達のことを信用してもらえないかもしれないし、僕達もその人達を信用できないから場合によっては双方に不利益をもたらす可能性もあり得ますよ?」


「……」


「鈴木君。 確かに彼らは短期間で実績をあげたのは間違いないだろう。 ならば期限を切って任せてみるのもいいんじゃないか?」


「期限、……で、ございますか。 外国からの干渉さえなければ、実績あるパーティに1週間、いや2週間は任せるのも有りなのかもしれませんね。 う~ん、でも検証役をどうしたらいいのか」


「ええと、ステータスや保有スキルが分かっている人を、まず2名程お願いします。 あとはこちらから指定する人物を1名だけ。 といってもその1名はすでに条件を満たしている可能性が高いですが」


「何だって? 条件を満たしているかもしれない人物がもう一名だって?」


「ええそうです。 現時点では身元を明かせませんが」


「なるほど、それはいいが、問題は検証役の人員選定だな。 少し時間をもらえるかい?」


「いえ、できるだけ早期に検証したいので1名だけは早期に確保ねがいます。 あっ! でも、その人は検証終了時にはかなりの強者になってしまう可能性もあるので、その後の身の振り方については事前に了承を取ってもらってください」


「……」


「鈴木君。 君がその役を引き受けたらどうかね? 君のキャリアは大したものだが、そろそろダンジョンという現場を知って置くのも良い時期だと思うな。 何よりも検証の中に入り込むことで今後の話をスムーズに進めることが可能になるのではないか?」


「ええと、それって僕達の情報が鈴木さんを通して筒抜けになってしまうのでは?」


「吉田君。 ダンジョン条約の守秘義務契約を交わせば問題ないはずだ。 破れば通常よりも厳しい刑罰が待っているんだ。 ……大臣、分かりました私が最初の検証者になります。 そうすれば次の検証者役も選定しやすいでしょうから」


 その後僕らは相互に守秘義務契約を交わして会議は終了となった。 その後レイナさんがお父さんの神降かみおりさんから怒られていたのが見えたが、家出娘なのだから仕方が無い話だったし、少しだけ心が温かくなる場面も見られたので良かったと思えた。

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― 新着の感想 ―
情報開示の対価を請求と言うか交渉しないと駄目だね。安全を保障するって、どのようにして安全を保障するのか、また安全を保障するのは当然でしょう。それが対価っておかしいでしょう。
[一言] ダンジョンにそんな隠し仕様が有ったのか まだまだ隠し要素がありそうなダンジョンだな
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