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120.  ウインドバリア

 まずはマリをターゲットとして投げ縄で捕らえる練習だ。 その前に投げ縄とはどのようなものかを知るために一旦プライベートダンジョンに引き籠って動画を観察した。 ある程度理解したところでプライベートダンジョンの中で練習開始だ。


「お~い、いくぞ~」


 できるだけ安全な距離を確保したいので、20m程の位置でマリへ投げ縄を投げて見ることにする。 そして何回か失敗した後に漸く捕らえられるようになり、確実にコツをつかんだところでプライベートダンジョンを出た。


 第一の標的はレイナさんだ。 レイナさんに最優先としたのには理由がある。 もしも獲物が全部取り戻されたら魔物はどうするだろう。 当然追ってくる可能性が高い。 フィールドが移動して混乱に陥る可能性があるから、レイナさんのウインドバリアで防御できないかを考えたのだ。

 ミレイさんの土魔法種攻撃で牽制するという案も考えられたのだが安全性の確保を第一に考えたという事だ。 ちなみにカナさんについては可哀そうだが優先度は最下位にするしかなかった。


 マリがロープの端を握るのを確認した後、僕はゆっくりと忍び寄るように例の赤いフィールドへと近づいていった。 そして投げ縄の縄を抱えて回しながらその時を待った。 


 彼女達は周期的にその場から立ち退こうとしては引き返していくのを繰り返している。 今はカナさんがそれをしたばかりだ。 

 暫くしてミレイさんがミーアンキャットの群れから離れようとしてミーアンキャットから手を放して立ち上がった。 そしてこちらを向いたところで僕と目が合いこちら側に来ようとした。 その目は一瞬だけ厳しい顔つきだったが、やがて虚ろな目つきへと変わり、時々立ち止まり、引き返したいような素振りを始めた。 

 その時標的のレイナさんが立ち上がりその場からの離脱を試み始めた。 


 よし、今だ!


 僕はレイナさんへ向かって投げ縄を投げた。 


 よし、掛った!


 掛ったと思った瞬間に縄を引っ張ってレイナさんを拘束した。 だが意図せずにミレイさんも一緒に拘束してしまっていた。 ミレイさんはミーアンキャットの誘惑に長い間抵抗して粘っていたため、投げ縄は2人を一緒に捕らえてしまったのだ。



 こ、これはどうする?  2匹、いや二人同時となるとミーアンキャットが追ってくるかもしれないじゃないか。


 ここで悩んでも仕方ないのでそのまま強引に引っ張ってみた。 そして彼女らを赤いフィールドから引っ張りだした時に、案の定フィールドが僕達の方へ向かって動き出した。



 や、ヤバイ。 追ってきたっ!


 僕は僕に重量魔法を使い、そのまま筋力に任せて更に強く彼女等を引っ張り続けた。 赤いフィールどは追ってきたのだが、それは5m程移動したところで動きが止まった。 これ以上動くと今度はカナさんをフィールドの反対側から出すことになる。 おそらくカナさんを確保しておきたいがためにレイナさんとミレイさんを諦めたのかと思われる。 どうやらカナさんはミーアンキャットのお気に入りだったようだ。


 僕はゆっくりと遠くへ彼女等を引っ張って行った。 彼女らはほんの少しの間抵抗する素振りも見せたりしたが、マリのところへ到着する頃には死んだ魚の目をして僕を見ていた。 


 あ、あれっ? 

 マリ、お前は今ロープを握っていないじゃないか。 

 さっきまで握っていてくれたはずなのに。 まさか裏切った?


 僕は少しショックを受けたが、例の赤いフィールドが2つに分裂してその片方がこちらへ近づいてくるのが見えた。


「れ、レイナさん。 ウィンドバリアをお願いしますっ!」


 反射的に叫んでみたが、レイナさんの目は未だ死んだままだ。



「ええっ!! トイレ! しっかりしてください。 レイナさんウィンドバリアを!」



 レイナさんはハッとして目を見開いてから、すぐにウィンドバリアを展開した。

 そして僕達の思惑通り、赤いフィールドはウィンドバリアに阻まれて僕達に迫ってくることはなかった。 もちろん例のミーアンキャットの上位種もバリアに阻まれて入って来れない。



「ヨシ君、ありがとう。 助かったわ」

「ありがとう、ヨシ君。 助かりましたわ。 カナ、カナは?」


「あれっ? ミレイさん。 縛られたことに怒りを感じないんですか?」


「なんでそうなるの? 助けてもらえたのに怒りだなんて……。 でも、できればこの(いまし)めを解いてくれると嬉しいけれど……」


「あ、ああそうでしたね」


 僕がそういうと同時にマリが彼女らの縛めを解き始めた。 それを確認してから残るカナさんに目を向けた。 

 カナさんは相変わらずミーアンキャットの群れに囚われて、執拗にミーアンキャットを撫でまわしている。 それだけ見れば微笑ましい光景なのだが、実際には洒落になっていない状況だ。 


 カナさんを救出するために、もう一度投げ縄で捕獲することができるだろうか?  だがそれが難しいことなのは状況的に明らかだった。 ウィンドバリアの周囲に例の赤いフィールドが複数集まってきて取り囲みだしたからだ。

 そのフィールドの数は5つ。 ウインドバリアの効果範囲が赤いフィールドよりも狭いため、今僕らは四方八方全周囲その赤いフィールドに取り囲まれている状態だ。 ドーナッツの円のように、レイナさんを中心にした範囲だけが安全地帯になっている。

 今ここでウィンドバリアの外へ出て赤いフィールドの中に入ったら誘惑に負けてしまうだろう。



「取り残されたカナが心配だわ。 一人だけ取り残されるなんてショックが大きいのではないかしら」


「ええと、まずレイナさんだけを(つか)まえてから安全を確保して、ミレイさん、そしてカナさんの順番で救出するつもりだったんです。 ほんのちょっと予定は狂いましたが、今のところ作戦は順調といったところです」



「そうでしたか。 安全確保してから一名ずつ救出するということなのですね。 それは、……カナにはわるいけれど正しい判断だったと思います。 ですがこのままではカナが可哀そうです。 早く何とかしないと……」


「ええと、ミレイさん。 土魔法でミーアンキャットを狙撃できますか? それを期待して二番目に救出する予定だったんですよ」


「これってミーアンキャットが原因なの? ミーアンキャットってレベル50付近の無害な魔物だったはずだけれど」


「……」


「あ~マリ、説明お願いな」


「お、おお。 ええとな。 レベル263だ」


「ん? マリちゃん、一体何のこと?」


「お前らを誘惑したミーアンキャットはレベル263だったんだぞ」


「誘惑って、……確かに魅了されたみたいだけれども、あの子達がレベル263なの?」


「アイツ等の中に耳の片方が黒いのがいるだろ? それが多分レベル260付近の上位種だ。 いや上位種の上位種かもしれんな。 とにかく危険な奴が混ざっていたってこった」


「では片耳が黒いのだけを狙撃すればいい感じなの?」


「おお、それでいいはずだぜ」


「ミレイ、カナを救出するだけなら上位種だけ駆除すればいいかもですが、それだけでは十分ではないわ。 カナ情報によれば上位種は、ええとイレギュラースポーンは、ダンジョンの環境に左右されるそうよ。 長らく倒せなかった魔物の近くや、倒された時にスポーンするらしいわ」


「じゃあ、ミーアンキャットの群れを一旦殲滅しない限り、アレは再スポーンする可能性があるってこと?」


「そうね。 上位種が混ざってしまった場合には、ゾーンごと殲滅が必要になると話していたような気がするわね。 可哀そうだけどミーアンキャットは殲滅する必要があるかしら」


「それを私がしなきゃいけないの?」



 ミレイさんが悲しい目をした。 あれだけの事をされても未だそんな甘いこと考えているのか? と思ったが、一人だけで可愛い相手を無慈悲に殺戮するのは流石に負担があるのかもしれない。



「ええと、ミレイさん。 ミレイさんは上位種だけ殲滅してくれればいいです。 カナさん救出にはそれだけで十分です。 残りの雑魚は僕がやります。 憎い上位種だけをやってもらえればいいです」


「あ、ありがとうヨシ君。 そうしてもらえれば、心が軽くなるわ」



 僕は早速、例の黄色い種を100個、そしてまだら模様の種も10個ほどアイテムボックスEXから出してみた。 こんな時に不謹慎と思われるかもしれないが、とりあえず実験だ。 レベル260なら相手に不足はない。 種の狙撃がどの程度通じるか是非試してほしい。

 狙撃対象は、ウインドバリアを取り囲んでいる5匹とカナさんを捕らえている1匹だ。


 さて戦闘を開始することになるのだが、一つだけ問題があった。 土魔法の狙撃では距離が大事なのだ。 至近距離の敵には効果が薄い。 そして現在のウインドバリアの効果範囲は半径5m程だ。 これでは威力は半分どころか1/10程度しか出ないかもしれない。 バリアの直径は10mなのだが、ミレイさんの土魔法狙撃の効果を最大限に高めるには30mの距離が必要だ。


「ミレイさん、狙撃効果を上げるために距離を取った方が良いですよね?」


「そうね、カナを捕らえている奴は遠いから狙撃対象よ」


「う~ん。 でも一撃で倒せなかった場合、カナさんに危険が及ぶことはない?」


「……」


「確かにそうかもしれないわ。 でもそれならどうしたら?」


「レイナさん。 土魔法の威力を高めるために、ウインドバリアの直径を大きくできませんか?」


「……できると思いますけど、直径を大きくすると効力が低くなるはずだわ。 どこまで低くなると赤いフィールドに負けてしまうのかはわらないわ。 どうしましょう、やってみた方がいいかしら」


「そうですか、リスクを伴うんですね……」


「ええと、ヨシ君。 思い切って走ってみたらどうかな?」


「えっ? ミレイさん。 僕が囮役になって一気に赤いフィールドを突き破って走るという事? そ、それはどうなんだろう。 僕って誘惑に強いかな」


「お前のステータスは高いから、誘惑をレジストできる可能性もあるが、それもリスクだな。 ヨシが囚われたら……、考えたくもないな」


「いえ、違うのよ。 私達全員で走るのよ」


「ええっ! 全員でバリアを出るっていうの?」


「……はぁ、そんなわけないでしょ? ウインドバリアを移動させてカナの近くまで行くのよ。 まず救出に向かうのよ」


「え、ええと。 それって走る必要はないんじゃ?」


「……まぁ、百歩譲ってそうかもね」


「譲る必要もないんじゃ……」


「ハイハイハイ。 とりあえず救出を第一目標として、ミレイ案が可能かどうか実験しましょう」


「あの~実験は事前に……」



 僕がしゃべり終わる前にレイナさんがカナさんへ向かってゆっくりと移動を開始した。 歩く速度なのだがバリア内から出ないように気を付けて付いていく必要がある。 


 今は緊急事態なのだから事前了承は必要ないのかな? ……あれっ? でも本当にそれっていいのか? でもまあ始まってしまったものは仕方ない。 レイナさんの判断を信じてついて行こう。 


 赤いフィールドを発生させているミーアンキャットの上位種達は、ウインドバリアから微妙な距離感を維持して付いてくる。 ウインドバリアからは剣は届かないのが忌々しい限りだ。 とにかく今はミレイ様案を試してからだ。 


 そして僕達はカナさんを捕らえているミーアンキャット上位種のところまでやって来た。 予想に反してミーアンキャットの上位種は、ウインドバリアを避けるように遠ざかり、カナさんは動かなかったので、アッサリとカナさんをウインドバリアの中に取り込むことに成功してしまった。 

 なんてことはない、上位種を倒さなくても実に簡単にカナさんを解放できてしまったのだ。 

 解放されたカナさんは暫く呆けていたが、やがて我に返るとワンワン泣き出してしまった。


 こんなに勝気なカナさんを泣かすなんて。 

 おのれ! ミーアンキャットめ、許すまじ! 


 次なる僕らの目標はミーアンキャットの殲滅だ。 

 さてどうやって討伐したらよいだろうか、それが問題だ。

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[一言] 泣いた理由ってしばらく一人きり、後回しにされたからなのでは?
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