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117.  実落とし、花落とし、蕾落とし

 僕の脳裏にあの実習での体験が思い浮かんだ。


「トイレ! じゃなくて、イレギュラースポーンだっ!!」


 僕は大声で皆に警戒を促した。 マリとミレイさんはドロップ品として種集めに行こうとその場から離れかけていた。 対してレイナさんとカナさんはその付近の種を直接拾おうとしていた。 そしてスポーンしたソイツはいきなり種?を発射してレイナさんとカナさんを吹き飛ばした。


「キャッ」

「くぅ」


 くっそ~。 これ以上の攻撃は許さない! 

 

 僕はレイナさんとカナさんがフッとばされた所へと割り込み剣で叩いて敵意を向かせた。 それと同時にHP回復をレイナさんとカナさんに使っておいた。


「治療をおねがいっ!!」


 ミレイさんは、すぐにレイナさんとカナさんへ治療魔法をかけた。 明らかに負傷してしまってHPが減り続けている。 それでも幸いにも軽傷だったようで、ミレイさんの治療によってHPの減るスピードはすぐにゼロになった。 もちろんそれに合わせて僕はもう一度HP回復をかけておいた。


 僕は彼女等に危害を及ぼしたソイツに激しい怒りを感じていた。 いやそんな生易しいものではない。 怒りに我を忘れて剣で殴りかかってしまった。 



「ヨシ、止めるんだ。 そいつは化け物だ。 レベル402のバケモンだ。 逃げろっ!」



 マリの警告が聞こえたが、そんなのは今の僕に重要じゃない。 コイツは許せない! あのイソギン野郎よりも許せない。 絶対倒してやるっ!!


 バシュ!、バシュ!、バシュ!


 ソイツは実を3つ持っていて、それぞれから種攻撃を仕掛けてきた。 そしてその種攻撃は僕の防御力を持ってさえ馬鹿にできない威力だった。 先程レイナさん達の間に割り込んだ際、2発ほど直撃を食らったが、かなりの痛さだったのだ。 こんなのを連続で食らったら、僕でも裸にされるどころじゃ済まない。 大きく負傷してしまうかもしれない。 


 だが、そんなことは今の僕に関係ない。 HPが減れば回復すればいいし、ミレイさんも治療してくれるだろう。 それにソイツの射程はビックリするぐらい長く、土魔法で種を長く加速してくるのでソイツから離れてもそれだけ高速な種が飛んでくるだけだ。 つまり逃げられそうにないし、遠く離れた位置で被弾するとそれだけダメージが大きくなり、単なる怪我じゃ済まないかもしれない。 至近距離で土魔法の加速が十分でなくてもこの威力だ。 これはもう接近戦を挑むしかありえない。


 僕はソイツの種攻撃を剣を使って防ぎ続けているが、3つの実による3方からの攻撃で半分程度は食らってしまっている。 上半身の防具は弾け飛び、打撲で血が滲み、僕の口からは血を吐き出すまでになっている。 そこへミレイさんの治療魔法が飛んできて、それに合わせて僕はHP回復魔法を使っている状態だ。 


 マリは一つの実を水魔法で包んでくれた。 ホウセンカの実を水魔法で包むと土魔法による初期加速が出来なくなるようで威力が全くなくなる。 つまりマリは一つの実の攻撃力をほぼ無効化してくれたのだ。


 そしてミレイさんは、僕の反対側から僕に攻撃しているアクティブな実の一つに近寄り、剣で攻撃している。 先程のノーマルなホウセンカと異なり、一撃では実を落とすことができていないようで何回も斬りつけ続けている。 


 暫く僕等の、防御、治療、回復、切りつけ、水魔法の合わせ技と、ソイツの攻撃とが拮抗していたが、ミレイさんがそれを破って見せた。 青い盾を取り出して一回殴ってから剣で斬りつけたのだ。 それによって明らかに実の根本にはダメージが入るようになり、それを数回繰り返すことで、実を一つ切り落とすことに成功した。


 よし、これで戦況が有利になった。 と思ったがそれほど状況は甘くなかった。 

 問題は花だった。 

 一輪の花が実に変化しようとしていたのが見えたのだ。 

 花の数は実と比べると沢山ある。 それらがすべて実になってしまったら僕らの負けは確定してしまう。


 僕はミレイさんに、その実になろうとしている花を剣で指し示した。 それに気づいたミレイさんは実になろうとしている花に攻撃対象を移した。 その花は青い盾の殴りと剣の切りつけの1セット攻撃で簡単に落ちてくれた。 だが、それでも安心はできなかった。 次々に花が実になろうとしていたのだ。


 そして暫くの間、先程のように防御、治療、回復、水魔法、そして花落としと、ソイツの攻撃とが拮抗していたが、花は次第にその数を減らしていき、遂に全ての花落としに成功した。


 よし、これで戦況が有利になった。 と思ったが、今度はソイツが花の(つぼみ)を作り出しはじめたのがわかってしまった。 だが、その蕾が花になり実になるまでには、時間的余裕がありそうだ。


 ミレイさんは(つぼみ)に警戒しながらも、再び青い盾と剣を使って僕を攻撃しているアクティブな実の根本に攻撃を開始し、暫くして実を落とすことに成功した。 これによってそいつの攻撃手段はマリがキープしている実一つを残すのみになった。 


 あとは消化試合だ。


 僕も自由になったので、蕾から花へと変わったやつを次々に落としていく。 ミレイさんもマリがキープしている実を無視して、花と蕾落としを始めた。 そうして蕾になる可能性があるところを、あらかた処理し終わったところで、マリがキープしていた最後の実の処理にかかった。


 ミレイさんが青盾で殴る。 そして僕が緑色の剣を実の根本へぶち込む。 その一回だけで最後の実を落とすことができ、そのとたんソイツは消滅していった。



 戦い終わって暫くの間、全員が無言だった。 その無言を破ったのはレイナさんだった。


「ごめんなさい。 私は負傷しただけで何も役に立てなかった……」


「何言っているんですか。 先程誰かが適材適所のようなことを言いましたよね。  その前のクロオリクモの時は、レイナさんとカナさんが頑張りましたよね」


「え、ええそうね。 あっ! ヨシ君。 これを」


 レイナさんが突然気づいて僕に予備の防具を差し出してくれた。 僕も半裸状態になっていたことを忘れてしまっていたのだ。 改めて後ろ向きになってから新装備に着替えた。 そしてレイナさんとカナさんを見ると、装備が汚れているのが見えた。 種の攻撃は打撲攻撃なので本来装備はそれ程痛まないはずなのだが、少しだけ強力すぎたのかもしれない。 というよりも彼女達の装備は性能よりも幾分見た目優先なのだ。 まあその方が僕としては普段は歓迎なのだが。


「あ、あの~。 レイナさん。 君たちもここで着替えた方が良くないですか?」


「あらそうね。 装備が汚れてしまったわね……」


 そのとたんカナさんがセーフティテントを取り出した。


「ええっ! その中に入って着替えるんですかっ!」


「ちょっとヨシ君。 驚くのは止めて! それに外で着替えてどうするのよっ!」


「別に僕は構わないですし。 僕は外で着替えましたよ?」


「……」


「ふぅ。 わかったわ。 少し気が晴れた気がする。 ありがとう」


「わかってくれましたか。 それじゃアイテムボックスへ……」


「あ、アホか。 本気で言ってたんか? ほらもう一度いってみな?」



 カナさんが怒ってしまった。 これはやり過ぎたかもしれない。 もう一度言ったら丸焼けにされて、また装備を替えることになってしまうかもしれない。


「あ、あははは。 あ、アイデムボックスへ、ボックスへ。 ……ドロップ品の種を回収しておきます」


「……」



 カナさんとレイナさんは、セーフティテントの中へ入って行った。 僕とマリ、そしてミレイさんは種集めを開始した。


 今回アイツがドロップした種は黒と黄色のまだら模様だった。 つまり奴は”噛み付き大岩”クラスのユニークだったということだ。 そしてその種の重量は、ノーマルのホウセンカよりもかなり重かった。 こんな重さじゃ土魔法で飛ばせないじゃないかと思ったが、どうやらそれは間違いのようで、この種は土魔法と親和性が良いらしく、むしろ飛ばしやすいとのことだった。 回収した普通の種は1万6千個を超え、まだら模様の種は3千個程にもなった。


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