116. 鳳仙花
その植物の魔物はどこかで見たことのある花だった。 だたし人の背の2倍はある大きさだ。
「これって鳳仙花よね。 ピンクに白が混ざって大きくて奇麗だわ」
「よ、ヨシ。 このホウセンカはヤバイぞ。 レベルが210もありやがる。 アンフェアイソギンよりもずっと強い奴だぞ!」
マリの一言で、そのホウセンカに近づこうとしていたミレイさん達は慌てて後退した。
「それで、スキルは?」
「”種まき”って奴と”土魔法”だな。 ”種まき”ってどういうスキルなんだろうな」
「なんだ、触手関係じゃないのか。 それは少し残念……、ならちょっと試して見ようかな」
最近僕のステータスは限界突破の恩恵で爆上がりして少し自信がついてしまっている。 レベル210越えの魔物であっても、触手や糸のように囚われるようなスキル持ちの魔物以外には脅威を感じることができなくなっていた(もちろんアカトンボを除く)。 僕は大胆にもそのホウセンカの魔物に近づいて何が起こるかを確かめようとした。
バシュッ。
ホウセンカの花の付近にあった実が弾けて何かが飛んできた。 だが避けるのは容易かった。
「おい、今”種まき”と”土魔法”のスキルが発動したぞ。 気をつけろ!」
「おっけ~。 でもこのぐらいはダイジョブだよ」
バシュッ、バシュッ。
そんな”種まき”など恐れるに足らないと判断した僕は、さらに近づいて弱点を探ろうとした。
バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ。
”種まき”によって飛んでくる種?の数が増えている。 だがその程度なら躱すのはまだ問題ない。 ホウセンカに更に近づき弱点を探ることにした。 しかし外からは花や葉っぱ、そして実ばかりが見えるだけで茎とかは見えない。
バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ。
あれっ? なんか種?の量が急激に増えていってないか? でもまだ攻撃を躱すのは可能だ。 少しだけ焦りを感じながらも、そのホウセンカに取り付いて、弱点の位置を探るために葉っぱや花の部分かき分けて茎を探した。
バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ、
バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ。
凄い量の種だ。 ホウセンカに取り付いている僕に、僕の体を狙って実の部分が至近距離から種を発射し続けた。 もう完全には避けきれずその種は僕に命中し始めている。
バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ、
バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ、
バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ、
バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ。
もうだめだ。 殆どの種を避けきれなくなってしまった。 僕自体はさほどダメージを受けていないが、これでは装備がもたない。
僕は、邪魔なホウセンカの実を先に始末することにした。
バシュッ、バシュッ…………。
ホウセンカの実は、僕に向かって凄い量の種を連続的に発射し続けているが、それに逆らって実を攻撃しようとした。 だが当然なことに種に阻まれて剣を実に当てることができない。
このままではまた上半身が裸になってしまう!
かなり焦り始めた時にいきなり実が落ちてホウセンカ本体も消滅してしまった。 最初何が起こったのか分からなかったが、近くにミレイさんが来ていて緑色の剣を握っているのが見えた。 僕がホウセンカを引き付けている内に忍び寄って実を切り落としたのだ。
な、なんて危ない事をするんだ! ミレイさんの防御力じゃあの種に当たっていたら怪我するじゃないか。 これは言っておかねばならない。
「ミ、ミレイさん。 危ないじゃないですか。 種に攻撃されたら、……攻撃されたら裸にされてましたよ? も、もしかして、そういう趣味の……」
パシッ!
ミレイさんに剣で叩かれてしまった。
しまった! ミレイさんは既に剣を抜いていたんだった。
剣を持っている時に刺激したのは間違いだった!
「ヨシ君。 別に勝算が無かったわけじゃないの。 あの種の加速は土魔法によるものなのよ。 土魔法による加速の前にコントロールすれば、私でも多少は防御できるのよ」
「それじゃ、僕を防御してくれたら……」
「それは無理。 近づかないとこの土魔法の効果は減衰してしまうの。 それに、それにさっきナイフ投げで攻撃した時に実の付け根が弱いことが分かっていたから、私が直接手を下すのが早いと思ったのよ」
なるほど。 とっさの判断としては理屈は通っている。 実が僕の方を狙っている限り、僕には実の付け根は見えない。 他の方法があったかどうかは今は考えないことにしよう。 だけどできることなら危ないことはしてほしくなかった。
「わかりました。 でも危ないことはできるだけ避けてくださいね。 裸になるのは、……まぁいいとしても、僕よりずっと防御力が弱いんですからね」
「ええ、承知しています。 ヨシ君が盾役として、そのホウセンカを引き付けてくれていたからこそできた事よ」
まあ、そのように考えれば良い判断だったかもしれない。 僕の装備は結構ボロボロになってしまっている。 このままだったら本当に裸にされてしたかもしれない。 僕はため息を一つついた。
「とりあえず。 助けてくれてありがとう。 なんか最近助けて貰う機会が増えて来た気がするな~」
「あら、それはヨシ君の思惑通りじゃないの? パーティプレイで魔物を討伐しているじゃない」
思えば確かにその通りになっている。 こ、これはやはり僕の勝利だったんではないだろうか。
「はははは、そうですね。 ……それにしてもこの魔物のドロップ品はオーブとエネルギー石だけか……。 苦労した割には……」
「おい、ヨシ。 そいつが放った種が、黄色い種が残っているぞ。 消えてねーぞ。 どういうことだ?」
確かに周辺にそのホウセンカの魔物がまき散らした黄色い種が散乱したまま消滅していない。 それを一つ拾い上げて観察してみた。 大きさに比べて非常に重い。 感じとしては鉄の塊よりも比重が圧倒的に大きいんじゃないだろうか。 これは一体……。
「あっ! これって私の土魔法で操作できるみたい。 もしかしてダンジョン武器の一種?」
「凄い! もしこれがダンジョン武器相当の強度があるのなら、ミレイのような土魔法持ちには福音ともいえるかもしれないですね。 土魔法を持ってなくても大型ライフルの弾の核として使えそうかしら」
ダンジョン武器相当の弾丸か。 本当にそうかどうか試してやる。
僕はその種を一つ上に放り投げて、思いっきり緑色の剣で叩きつけるように斬りつけてみた。
がつっ!!
大きな音がして手応えもあった。
剣で叩き切ったはずの種はそのまま破壊されることなくダンジョンの側面へと飛んでいき、そのまま跳ね返って来た。 つまり僕の力と緑色の剣では破壊できないぐらいの強度をもっているということだ。
「きゃ~~。 何するのヨシ君!」
「ああっ、つい反射的にダンジョン武器として使えるか試してしまったぁ~」
「わざとらしい! でも実験は成功ね。 っていうか実験は事前に了解を得てね」
「わかったよ。 本当に閃いたんでやってしまったんだ。 ごめん」
「……」
「ミレイ、これって土魔法用の武器で使えるという事ですか? ならば全て回収しておきましょう」
「え、ええと。 これって僕が回収するんですか。 アッチコチに散らばっていて面倒なんですけど……」
「ああ、ヨシ君。 大丈夫よ。 わたくしは風魔法で、ミレイは土魔法で一か所へ集められるわ。 カナは……」
「あっ! カナさんは何もしないでいいです。 悪い予感しかしないです」
「……」
「何よ。 私だって思いっきりやれば爆風を起してあつめ……」
「いやだから。 それをやらないでくださいってことです。 少しは加減を覚えてください。 本当に恐ろしいです」
「……」
「カナ。 今回は私達に任せてね。 魔法には得意と不得意があるのよ。 今回は我慢して」
「わかったわ。 ……そうする。 今に見ていろぉ~」
「お、俺も水魔法で、水を出してソイツを操作してみたいんだが、いいか?」
そしてミレイさんレイナさんマリの3人による種集め競争が始まった。 種集め競争の結果は、一位がミレイさんで、二位がマリ、そしてレイナさんと続いた。 種が重かったせいで風魔法は思ったより苦戦してしまったようだ。 種は合計で500個程確保できた。
それからどうするかを話し合ったが、種はいくつあっても良いし、スキルオーブもほしいので、このままこの区画のホウセンカを殲滅してしまうことに決めた。 ミレイさんによれば実に近づいてしまえば、土魔法である程度種の加速を中和できるとのことなので安全に処理できそうとのことだった。
僕が盾役としてホウセンカの実を引き付け、ミレイさんが実落とし担当に専念、マリは水魔法による防御補助役だ。 レイナさんとカナさんはお休みしてもらうことにした。 一度試したが火魔法ではあまりダメージを与えられなく、かえって狂乱状態になって面倒だった。
そうやって討伐を進めていくうちに判明したことは、水魔法で実を包むと種の威力をさらに低下させることができるということだった。
結局、僕が突っ込み種を避けながら敵意を向ける。 そしたらマリが水魔法で実を包んでからミレイさんが近づいて剣で攻撃するというパターンでホウセンカ対策は万全となった。
スキルオーブもいくつかドロップしたので要所要所で使っていった。 それによって僕は雷魔法を取得することができたし、マリ達も魔法強化が出来ていた。
そして、区画の魔物もあと一匹というところで異変が起きた。 倒したばかりのホウセンカの場所に小さな黒煙が立ち始めたのだ。 これは魔物がスポーンする兆候だ。 しかもこのタイミングではイレギュラースポーン、つまり上位種が現れる可能性が高い。