11. レベルが上がりました
大会議室での事前説明会は1時間ほどで終わり、お昼休みとなった。 説明会の最後には班分けが行われて、僕はM班のタグを受け取った。 実習は6名ずつに班分けされて、それに教官2名が付き添い、計8名のパーティで行われることになっている。
僕は防具を着こんでM班の集合先へと向かった。 防具はエムレザー製の全身戦闘服で、武器はダンジョンドロップの剣だ。 頭の防具はエムレザー製のヘルメットで、VRゴーグルのように外部カメラを通して視認する仕組みのため、外見上はまるで宇宙服の頭のように見える。
「どうやら時間通りに全員集まりましたね。 それではこれから実習を始めます。 各自一旦ヘルメットをはずして自己紹介をお願いします」
僕たちはヘルメットを外して自己紹介をしようとしたのだが、お約束というか何というか、僕は仰天してしまった。
「なんで、貴方がここにいるのよ!」
まあ、当然そう思うよね。 僕だってミレイさんがいたことを不思議に思うくらいだ。 これはたぶん運命なのだ。
「ああ、ミレイ様、先日は失礼しました。 まさか実習で一緒になるなんて奇遇というか、これは運命でしょうか」
「……ちょっと、貴方こっちへ来て」
僕はミレイ様に隅の方へ引っ張られてしまった。
「私のことを、”様”づけで呼ぶのは止めてくれる? それから私の所属については秘密にしてよね。 で? 何で貴方がここにいるの?」
「えっと、ミレイ……さん。 所属については分かりました。 僕がここにいるのは単に近所のダンジョンだったからですよ」
「ミレイさんは何故こんな場所へきたのですか? まさかストーカー……」
「何を言っているの! それは単に……私を知っている人がいそうに無い、辺鄙なところを選んでこっそり来たつもりだったのよ」
「それはまた、……やはり運命を感じますよね」
僕はそう言ってほほ笑んだのだが、ミレイさんは引き攣ったような表情で、僕からあからさまに距離を置いたのだった。
そこへ教官がやってきた。
「君たちは知り合いだったのかい? 皆が待っているから、あちらで自己紹介をお願いするね」
教官に促されて僕らは自己紹介を行うことになった。 簡単な自己紹介が終わると、各自には認識番号が付与された。 何の因果か分からないが、ミレイさんはDさんで僕はC君になった。 実習では講習の時と真逆の呼称となったのだ。
それから僕らは隊列を組んでダンジョンへと入って行き、スライムが数匹いる場所へとやって来た。
僕は教育見学でサロナーズオンラインのシミュレーションダンジョンには入ったことがある。 それと比較すると実際のダンジョンは歩く距離が長く時間がかかり退屈だ。
スライムは弱い魔物で、触ると酸を出してくる薄い膜でできている。 迂闊に触ると酸で火傷を負うが、エムレザーやダンジョン製の武器には全く影響がないため、全身防具の僕達には雑魚も雑魚、大雑魚なのだ。
「それでは、まずはお手本を見せよう」
そういうと教官Aさんはスライムへ近づいて、剣で軽く突いてスライムを仕留めて見せた。 そして教官は討伐されたスライムがダンジョンに溶け込むの待ち、ドロップしたエネルギー石を拾ってバックパックへと入れた。
「一連の流れが魔物討伐の基本的な手順です。 最後にはちゃんとドロップ品も回収してくださいね。 見ての通り危険はないので気軽にお願いします。 それではまずC君からお願いします」
「はい」
AさんとBさんは教官なのだから、ABCの順番で個人の実習を行うつもりなのだろう。 僕は前に進み出て、数体いるスライムの一匹が集団から離れたところで、狙いすまして軽く剣で突いて事を済ませた。
<レベルが上がりました>
おお~ これが噂に聞くレベルアップアナウンスか~。 それならステータスも見れるようになったんだろうな。
「ステータスオープン」
僕は声は出さずに頭の中で念じてみた。 すると意識の奥底の感覚でステータスを感じ取ることができた。
LV 1
HP 100
MP 100
STR 100
VIT 100
AGI 111
DEX 100
INT 100
MND 100
ユニークスキル 急所突き
初めてスライム――魔物を倒したので僕のレベルが上がってレベル1となった。
そしてレベルが1に上がったことによりステータスを見ることができるようになったのだ。 これ以降レベルが1つ上がれば各ステータスがランダムに上がるようになる。 ただしレベルは上がれば上がるほど、それに必要な経験値が多くなるようなので、経験値によるレベル上げは次第に困難になっていくのだ。
それに対してオーブを1つ使えばレベルが1つ上がるのとほぼ同じ効果が期待できる。 オーブはレベルに関係なくステータスを上げることができるので、高レベルの冒険者のレベル上げは専らオーブに頼っていると聞く。
それはいいとして、問題はユニークスキルだ。
<急所突き>か、これって僕の突きが時々クリティカルになる原因だよね。 僕は最初からユニークスキルを持っていたってことなんだ。
まあ、この<急所突き>に関しては、ゲームの中で有頂天になったり奈落の底へ突き落とされたりで、今更感がある。 それでも特殊技能の原因がハッキリしたことで気持ちがスッキリしたのは良い事だ。
現時点では結構冷静な僕だった。