108. やっておくべき準備
エミリが自宅に到着しログアウト後、僕とマリはステータスを上げるためにオーブを次々に使用していった。 結果僕は250個程の使用で全ステータスを4000にまで高めることができた。 マリも同じく200個程の使用で全ステータスを2000に出来たとのことだった。 予想では僕のステータスは3000か4000で止まると思っていたので4000ならば予想の範囲だ。 この4000という値が、限界突破2回目の結果なのか、3回目の結果なのかは分からない。 僕はユニークを3つ使っていてスキルオーブも30個を超えていたのだから、もう一段限界突破していてもおかしくはなかったのだ。
それはさておき、一番の懸念事項が解決したので今日はゆっくりと遊ぼうと思っていたのだが、カナさんたちは許してくれなかった。
「ヨシ君、頼み事があるんだけどいい?」
「カナさん何でしょう」
「実は物資をたくさん確保してみたの。 プライベートダンジョンの中に入れてもらえないかな?」
「うーん。 いいけど物資って何?」
「ええとね、災害救助用の物資なの。 ヨシ君ってプライベートダンジョンを持ち運べるようになったから、被災地とかに行けば役に立てるじゃない」
災害救助用の物資か~。 僕達の会社のお金で色々と準備してくれているとは思っていたが、ボランティア活動でも始めたいのだろうか。 まあそれでも僕らのダンジョンでのキャンプも快適になるだろうし、それ自体は歓迎だ。
「なるほど。 それでその量はどの位なんですか?」
「とりあえず、コンテナにして100個位だったかな。 ここからそう遠くない大型倉庫に保管してあるのよ」
「な、なるほど。 それを僕のプライベートダンジョンの第1区画に保管したいって事なんですよね」
「そうよ。 それに……2D版VRルームユニットも6つ手に入れたからそれもお願い」
おおっ? こっちが本命か? ダンジョンの中でもVIPサロナーズオンラインをオフラインで遊びたいってこと、……いや、違うな。 新しい魔物をシミュレーションで練習するための設備ってことか。
「わかったよ。 じゃあプライベートダンジョンをここに出すから入れちゃってください」
「ええっ? これから取りに行くのよ? だから手伝ってって言ったじゃない」
「どうしてさ。 カナさんも知っているでしょう? カナさんのアイテムボックスは僕のプライベートダンジョンの第1区画の容積を遥かに凌ぐ大きさのはずだよ? カナさんが持ってくればいいんじゃないかな」
「あっ! そういえばアイテムボックスが異常にデカくなったんだった。 でも……」
「……」
カナさんは何故か不満そうだ。 もしかして理由を付けて僕と二人きりになりたいとかか?
「ああ、分かりましたよ。 一緒に取りに行きましょう。 いや~カナさんと一緒に夜の倉庫デートですか~。 なかなかユニークなデートなんでワクワクしますね」
「あ、アホか! 皆で行くの! それで皆で何があるかを仕分けたりするの!」
「な、なるほど」
カナさんの主張には非合理的な所もあるかもだが、まあ人の感情なんてそんなもんだ。 僕もだんだんそういうのが分かった来たのだ。 とにかく詰まらないことで波風を立ててはいけない。
そして僕らは、夜の倉庫街へと繰り出した。 マリは相変わらず彼女等の言いなりだ。 懐が深いのか流されやすいのか、よくわからないところがある。 僕に対してもそのような態度で接してくるので、たぶん懐が深いのだろう。
AI自動車はある巨大倉庫の前で停車した。 僕らはカナさんの案内でその巨大倉庫の中へと入って行った。 そして電気をつけるとその全貌が明らかとなった。
これって、コンテナ100個どころじゃないだろ? どう見てもその数倍いや数十倍はあるんじゃないないか?
コンテナの数を数えようとしたところで、レイナさんが説明を始めた。
「ええと、カナには言ってなかったけれど、昨日お父さんからの依頼で冒険者用の余剰物資を預かることになりました。 まさか時間的に間に合うとは思ってませんでしたし、皆に話しておくのも忘れてました。 本当にごめんなさい」
「余剰物資ってなんですか?」
「ええ、賞味期限切れが近いダンジョン食とか、ダンジョン探索部隊用の古い設備や、移動コストが高すぎて扱いが微妙なリサイクル設備、そして新ダンジョンが出来た場合に備えて新しく冒険者センターを建築するための建築資材などだそうです」
「なんか凄いけど、そんなの預かってもいいのかな?」
「ええ、お父さんの意見では、ヨシ君の巨大倉庫を使えば迅速に且つ有効に活用できるんじゃないかとのことです」
「ええと、僕のプライベートダンジョンは倉庫じゃないです」
「あ、ああ、ごめんなさいね。 ダンジョンの第1区画のイメージが、まさに超巨大倉庫だったから。 それに第2区画だって、スライムとかの弱い魔物だけだもの、普通のストレート型ダンジョンのような工場だって作れるはずなのよ」
「普通のって……、ああ、日本で2箇所だけ残っているダンジョンの事か~。 なるほどそれは分かるけれども、何となく僕のプライベートが侵されてしまうようで微妙な気持ちになるな~」
「それは、……それは大丈夫じゃないかしら。 他人が入り込んで嫌ならば、ヨシ君がダンジョンから退出すれば、強制的に叩きだされるわけだから」
「ま、まあそうですけどね。 う~ん。 まあいいか。 とりあえず預かるのは了解です。 だけど、皆のアイテムボックスは既にモンスター級の大きさだから分担して持っておくの有りだよね。 共有の設備とかはプライベートダンジョンの中に設置してもいいと思うけど」
「そうですね。 私もそれがいいと思うわ。 ヨシ君だけに負担を掛けるのも心苦しいしね」
「ああ、助かるよ」
そして、巨大倉庫の中身は、プライベートダンジョンと僕らのアイテムボックスの中に格納された。 そして特筆すべきは、なんと普通のストレート型ダンジョンで用いられているAIタイプのオートメーションシステムが設置されたことだ。 これによりプライベートダンジョンの中で複数の作業用のAIロボットが稼働できるようになった。 そしてみるみる内に中に建物や大型の設備が建設されていった。 その中には例の2D版VRルームも含まれていた。 どうもこの大型設備の建設は神降さんから頼まれていたことらしい。 プライベートダンジョン内が快適になるのはいいが、何の目的で建設するのかに多少不安も覚えた。
僕が外へ出ると、人が叩きだされるだけでなく、プライベートダンジョンの空間は時間停止するようなので建築を進めるためには僕が引き籠る必要があった。
これで一応中級ダンジョンを攻略する前にやっておくべき準備は完了した。
まだマリの叔父さんに頼んでいる防具や、スキルのブーストとかは完全ではないが、できるだけ早期に攻略を進めなければならないからこの辺で妥協した。 そうしないとパーティからミレイさんを引き抜かれてしまう。
その夜はプライベートダンジョンの中で過ごし、翌日から中級ダンジョン攻略を進めることになった。 中級ダンジョンのボスはレベル100前後とされている。 僕達の今の実力であれば攻略なんてちょろいもんだ。