106. 選ばれし者
「あら、ミミックが解けたのね。 時間限定でも他人のスキルが使えるなんてエミリちゃん凄いわ」
「あ、ありがとうございます、お姉様。 で、エミちゃんはこれからどうしたら?」
「ええとね。 エミちゃんのスキルは普通じゃなくなったから、私達のパーティと一緒に行動するのが賢明だと思うのよ。 ミミックはパーティで必要となるスキルをピンポイントで強化してくれそうだし、アイテムボックスは……。 バレたら自衛隊のダンジョン攻略部隊に捕獲されるレベルよね。 それを防ぐためには、私達が上級冒険者パーティになるまで隠しておいてほしいのよ」
「ええ? お姉様たちのパーティに入れてくれるの?」
「そうよ。 どうする?」
「や、やった~。 是非お願います。 エミちゃんはこれからも頑張ります~」
エミリはミレイさん達にパーティに誘われて嬉しそうだ。 だが今はまだ早い。 年齢的なものもそうだが、冒険者になるためのステップが始まってもいない。
「いや、エミリ取りあえずの間は大人しくしておけよ? 僕達はまだお前を受け入れる十分な体制作りができてないんだ。 それにお前は未だ未成年だからな。 とりあえず18才になって試験を受けて講習会修了まで進むまでは、絶対にスキルとかは隠さないと駄目だぞ。 特にだ、アイテムボックスとかは外でも使えてしまうから用心しろよ。 バレたら捕獲だからな」
「ええ~、アイテムボックスとかも使っちゃだめなの?」
「隠れてバレないように使うのはいいが、人に迷惑をかけるような、特に盗みとかは駄目だ。 お前にも心当たりがあるだろう? ほら、クマの縫いぐるみをちゃんと返しておけよ。 アイテムボックスは盗みに悪用できてしまうからな」
「えっ、えっ、ぬいぐるみ? あああああ、返すの忘れてたぁ~」
「本当に気を付けろよ? まあ他のスキルは外では……。 あれっ? まさかミミックって外で使えたりするのか? そうだとヤバイんだけど」
「どうヤバイの?」
「男に化けて更衣室へ侵入するとか?」
「こ、このアホ兄ぃ~!! お前と一緒にすんな~」
「ちょっ、兄弟喧嘩は外でやって! エミリちゃん、ヨシ君の言葉は話半分で聞いておかないと疲れるだけよ? それはわかっているでしょう?」
「え、あ、はいお姉様。 エミちゃんは分かっております。 でもお兄ぃを調子づかせてもいけないの」
「……」
「それはそうと、ミミックの基本的性質は知っておいた方が良さそうね。 一つはダンジョンの外でも使えるスキルなのか。 もう一つはヨシ君のダンジョン生成が使えるのかどうかよ」
「なんで僕のダンジョン生成が?」
「いろいろとヤバイスキルだからに決まっているじゃない。 それにユニークスキルも使えるかどうかの検証も兼ねてね」
「ああ、分かった」
そして僕らは実験を行った。 結果としてミミックはダンジョンの中でだけ使えるスキルで、僕のプライベートダンジョンの中に、エミリのミミックでダンジョンは作成可能だった。
だがエミリが作ったダンジョンは5メートル四方の部屋一つのみのプライベートダンジョンの劣化版だった。
だたその劣化版ダンジョン――ミミックダンジョンには入口の右手にゲートがあった。 それは第2区画へのゲートなどではなく、僕のプライベートダンジョンの入口近くに発生したゲートに繋がっていた。
エミリがミミックを使いミミックダンジョンを作ることで、僕のプライベートダンジョンに相互へ行き来できるようになるゲートができたのだ。
これにより第2区画にミミックダンジョン作って入り、第1区画の入り口側に出てくるということもできるため、プライベートダンジョンの中だけの限定ではあるものの、奥の区画から一瞬で帰って来るという使い方もできるようになった。
普通のダンジョンの中でミミックダンジョンを作るとどうなるかの課題が残っていたが、こればかりは今確かめることができないので今後の検討課題となった。 エミリを普通のタンジョンに連れ出すの困難だ。 現時点では何かの見学ツアーに潜り込むしかないが、人目があるので実験は無理なのだ。
結論として、今のところミミックを使うとユニークスキルも使えるようになるが、場合によっては性質が異なる劣化版になるということだ。
そんな実験も一通り終わり、安心した僕らはプライベートダンジョンの中のソファーに座ってゆったりしていた。
「ヨシ、良かったな。 お前の妹はアイテムボックスの扱いさえ間違えなければ、とりあえず安全だぜ」
「本当に心配したのよ。 エミリちゃん良かったわね」
「うん。 お姉様方ありがと~。 でもエミちゃんって、こんな凄いスキルを生まれつきもっていたんだね~。 選ばれし者だったんだね~」
「あ、ああ。 そのことを言ってなかったか。 お前のそのスキルはな。 食ったスキルなんだよ」
「ん? 食ったスキルってなに?」
「お前が僕の部屋で食べた丸いお菓子がな、あれがスキルオーブだったんだぞ。 お前があれ程多くのスキルオーブを食ったから、僕は死ぬほど心配したんだぞ? ほら虹色模様のとか」
「ええっ? 食べたって? まさかあの甘くてピリっとしたお菓子のこと?」
「ああそうだ。 あれはユニークスキルオーブの味だ。 まあ選ばれし者のお前にしかできない所業だったな」
「……」
「まぁまぁ、それはもう過ぎた話なのよ。 エミリちゃんも気にしないでいいからね。 ユニークスキルはともかく、スキルオーブは、スキルオーブは、貴重よね……」
「……」
「ああ、確かに貴重だけどさ、今では結構簡単に手に入るようになったよ。 ほらこれはさっきマリと集めたスキルオーブだ」
僕はマリと取って来たスキルオーブ26個を彼女達に見せた。
「う、うそでしょ~? 信じられない。 貴方達は何なの? 化け物なの?」
「あはははは。 それはどうだろう。 けどこれを使って君たちも化け物になるのだぁ~」
「……」
「……」
「いや、冗談はともかく。 本当に結構簡単に手にはいるようになったから使って貰いたいんだ。 ただし攻撃魔法系は全く習得できないかもだけどね」
「いや、ヨシ君。 1個とか2個ぐらいなら理解できるかもだけれども、貴方達がこれを稼いだのは半日なのよね? はぁ~、これからどうなってしまうの?」
よし、彼女達はスキルオーブに慣れつつあるようだ。 最初の頃は1個でもビビッていたのにもうその程度では驚かなくなっている。 もう少し押してあげれば良い感じに変わるかもしれないな。
「ええと、ほら、エミリはもう17個もスキルオーブを使ってしまってるんだよ? エミリのお姉さん達もその位使わないと沽券にかかわるじゃないか。 それに、このスキルオーブの中には高確率でアイテムボックスのスキルが含まれているんだよ? アイテムボックスで仮設トイレなんかじゃなくて、ホテル丸ごとでも運べるかもだよ?」
「……」
「でもね、まずはヨシ君ができるだけ使うべきだわ。 私たちはあくまでも……」
「ああ、もちろん僕が優先的に使うことにするよ。 だけどこれは重大な秘密なんだけどね、スキルの上限があるらしいんだ」
「ん? スキルの上限って、ステータスの上限のことでしょ? そんなのは当たり前な……」
「あああ、ややこしいな。 誰だスキルとステータスを間違えて用語化した奴は、……って、あ! カナさん、ごめん……」
「いいのいいの。 お父さんの件はいいの。 それよりも、今の話しぶりだと、スキルのレベルにも上限がありそうってこと?」
「ああ、たぶんレベル20が上限かもなんだよ。 重複進化のレベルアップアナウンスで明らかに20以上になるはずだったのが、20で止まってしまっていたからな。 それにエミリのスキルだって20が最高だったしね。 スキルレベルに上限が有りなのは、かなり信憑性が高いんだよ。 まぁいずれは限界突破するとかもあるかもだけどね」
「何? その限界突破って」
「あ、いや、その。 あの、ほら、これは別の話だよ。 今はちょっとややこしいからスキルレベルの話だけにしようよ」
「……」
「それで?」
「このプライベートダンジョンで得られるスキルは偏りが酷いというか、種類が大分限られているように思うんだ。 つまり遠からずして僕のスキルレベルは頭打ちになるはずなのさ」
「なら、ヨシ君のスキルが頭打ちになってからでいいんじゃない?」
「まあ、それでもいいけどさ。 僕だけが強くなっても苦しくなるだけなんだよ。 全部僕がやらなきゃならないじゃないか。 ほら、仕事を分担したり、僕を助けてほしいんだよ」
「……」
「あ、あああ。 なるほど、この前聞いた本音の通りなのね。 分かったわ。 でもできることなら、程々にお願いするわ」
何とか彼女達を説き伏せて、スキルオーブを使ってもらえた。 使った数は、僕が3つ、マリが2つ、彼女達が7つずつだ。
その結果、スキルは以下のようになった
ヨシ、 アイテムボックス15、体力9、筋力15、頑健20、俊敏15、器用13,重量9、看破6、回復3、急所突き、ダンジョン生成、ダンジョン内探知。
マリ、 アイテムボックス16、体力8、筋力4、頑健12、器用1、看破EX。
ミレイ、 アイテムボックス14、筋力4、頑健11、俊敏8、器用4,重量5、治療5。
レイナ、 アイテムボックス14、筋力2、頑健14、俊敏5、器用4,重量2、風魔法7。
カナ、 アイテムボックス17、体力12、頑健15、器用6,看破2、火魔法11。
エミリ、 アイテムボックス18、体力20、筋力12、頑健14、俊敏4、器用5,重量8
予想通りというか、アイテムボックスと頑健への偏りが大きかった。 それに相変わらず攻撃魔法系が出ていない。 アイテムボックスはともかく防御力の向上はそのままパーティの安全性に直結するので大変良い結果だ。 それにしても少しマリが弱い気がする。 まあ看破15がまるまる無くなったせいもあるけれどもう少し応援が必要なのだろう。