表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

106/202

105.  ミミック

「あれっ? VRゴーグルを外しても同じ部屋だね~。 この部屋のトリックアートは凄いな~」


 エミリは感心して周囲を見回している。 



「エミリ、落ち着いてよく聞くんだ。 実の所ここは本当のダンジョンの中なんだ。 そして今お前はレベルを取得したんだよ」


「ん?」



 エミリは何を言われたのか理解していないみたいだ。 まあ当然だろう。 徐々に分かってもらう必要がある。


「エミリ、これは本当に現実にダンジョンの中なんだよ。 この部屋もトリックアートでないし、さっきのスライムも本物の魔物だったんだ」


「お兄ぃ、この純心なエミちゃんをからかうなんて、最低なクズなの! そんなわけないじゃない」



 その通りだエミリ。 僕はお前を騙したクズだ。 だがそれはお前のためなんだ。 お前がスキルオーブなんて食うからこんなことをしているんだぞ。



「嘘じゃないさ。 嘘だと思うなら、そこのゲートを(くぐ)って中を確認してみたらどうだ? この部屋の壁がトリックアートで無いことはすぐわかるはずだ」



 エミリは不信そうに僕やミレイさんを見回した後、第1区画へのゲートに向かって歩き出した。 ゲートを潜り第1区画へと戻って行った。 もちろん僕らもエミリに追従している。 第1区画を暫く歩いた後でエミリが立ち止まり口を開いた。 少し怯えたような表情をしている。



「お兄ぃ、ここって何? いったい何なの? エミちゃんは分からなくなったの」


「エミリ、大丈夫だ落ちつけ。 申し訳ないが詳しい事情は後でじっくり話すからな。 まずは、僕を信じて、……いや、あそこの”ミレカ姉妹”の怖いお姉さん方を信じて、”ステータスオープン!”って言ってみてくれないか」


 エミリはミレイさん達が頷くのを確認してから行動に移した。


「ステータスオープン!」


 ある程度慣れていたり、事前に教育を受けていれば声に出すまでもないが、エミリのように未成年だと声に出して試みるのがわかりやすくて良い。



「どうだ? 自分のステータスが見えるか?」


「あ、え? え? た、確かにステータスボードが見えるの。 これってエミちゃんは本当にレベルを取得したってことなの?」


「ああ、そうだ。 本当にレベルを取得したんだよ。 それでお前のステータスの詳細を教えてほしい。 これはお前にとって一番大事なことなんだ。 それに”ミレカ姉妹”お姉様方も望んでることなんだ」


 エミリはミレイさん達に確認を取るように視線を移した後で答えてくれた。


「……わかった。 ええと、レベルは1。 ステータスは、AGIが111で後は100なの。 あれっ? そしてスキルがあるよ? ええと、 体力20、筋力12、頑健14、俊敏4、器用5、アイテムボックス18、重量8って。 うわっ、アイテムボックスって本当?」


「アイテムボックス18って、……お前マリの役目を奪うつもりか? ……あ、いや、まあそのアイテムボックスは本当だ。 あとで検証してみることにしような。 それよりも、ユニークスキルってのが無いか?」


「アイテムボックスの方を教えて! これってどうしたらいいの?」


 ん? スキルの使い方って教えなくても使えるはずなんだけどな……。 冒険者資格試験の勉強をしてないのか? それに今は大分混乱しているな。 普通のスキルならどっちが先でも構わないが、今もユニークが発動したら何が起こるかわからないのは怖いんだよ。


「駄目だ、ユニークスキルがどうかの方が先だ。 こればかりは譲れないぞ? それが片付いた後でアイテムボックスについて教えてやるよ。 少しだけ我慢しろよな」


「……うん、ええと、ユニークスキルでミミックっていうのがあるの。 これは何?」


「ミミック? なんだそれは? そういえば昔のゲームで宝箱のお化けがそんな名前だったような気がするな。 もしかしてお前は宝箱になれるってことか?」


「ヨシ君、それは違うわよ。 ミミックというのは擬態(ぎたい)のことよ。 色々な物を真似て変身することなのよ」


「単純に考えれば色々な物に化けられるスキルということだな。 う~む。 そうだ、この部屋の、この第1区画に置いてあるソファーとかに化けられるかな」


「ええ~ソファーに化けて、お兄ぃに座られたら困るの。 それよりもアイテムボックス、アイテムボックスが使えるんだよね!」


「ああ、そうだ。 もちろん使えるはずだよ。 それにお前のアイテムボックスはレベル18なんだよな、……それって超大容量なんだぞ。 それはな、どの位かというと、………………。 そうだな、豪華客船を何隻も収納できるレベルだな」


「うぁっ! なら早く何か大きな物を収納してみた~い」


「あ! 武器やゴーグルは駄目だからな。 取りあえず武器とかは僕に返せ。 まあ、アイテムボックスの練習なら入口のソファーとかテーブルがいいぞ。 ついでユニークスキルで化けて見せろよ。 化けたソファーならアイテムボックスへ収納できるかも。 ……ということはエミリを持ち運べるかもってことか~」


「こらっ! ヨシ君。 変なことを考えちゃ駄目よ。 生き物はアイテムボックスへ入らないのよ。 もし収納できたとしてもアイテムボックスの中で人に戻っちゃったら危ないでしょ?」


「あ、ああそうだな。 まあ、とりあえずアイテムボックスもミミックも入口のソファーとかで試してからだな」


「そういえば、そのミミックというスキルにはカウンターがあったりするか?」


「カウンター?」


「ああ、アイテムボックスには 10/10ってのがあるだろ? ミミックはどうなんだ」


「ええとね、10/10と360ってのがあるの」


「成程な。 つまり1日の使用制限が10回で、360は、……何だろうな」



 僕らはそんな話をしながら歩き続けて入口まで辿り着いた。 入口には念願のソファーが置いてあるのだ。


「よし、エミリ。 アイテムボックスを使ってみろよ。 入れたい物とスキルをイメージして取り込んでみるんだ。 その時に小さく分けるか、まとめて取り込むかも考えていると良いぞ」


「お兄ぃ。 エミちゃんはやってみるの」


 そのとたん、テーブルの上に置いてあったクマの縫いぐるみとソファーが消えた


「よし、取り込めたな。 じゃあ元に戻して見るんだ。 アイテムボックスを開けっ放しにすれば、カウンターの消費を抑えながら連続して出し入れができるからな」


 そのとたん元の位置にソファーが現れた


「おお、やったじゃないか。 成功だな。 これでお前は、……マリの助手ができるな」


「よっしゃ~、やった。 やった。 お兄ぃの言う通り、エミちゃんは生まれつきスキルも持っていたエリートなのね~」


「いや、それは、……それよりも、エミリ。 ミミックを試してみるんだ。 それが今日のメインイベントなんだぞ」


「えええ? 何か嫌なんだけど……」


「うだうだ言ってないでやってみろよ。 ほら”ミレカ様”も期待しているぞ?」


「そうなの?」


 エミリはミレイさん達に確かめるように視線を移したが、彼女等は僕の言った通りに頷いてくれた。


「ええと、じゃあ。 ……あれっ? スキルは発動しないみたい」


「……」


「つまりソファーにはなれないってことか。 残念だな……」


「なら、魔物だな。 スライムをイメージしてみろよ」


「え~。 そんなの嫌だぁ」


「これは重要な実験なんだぞ。 ほらミレカ姉妹も見てるぞ」


「……イメージしたけど無理みたい」


「それなら、お前がなりたいものになってみろよ。 何かになれないか?」



 そのとたん、エミリはミレイさんになった。 というかミレイさんに化けた。


「うぉっ!」

「えええっ?」

「こ、これはなんという」

「あ、ああ。 そんな!」


「お前はミレイさんになりたかったのか!」


「ええ? エミちゃんはお姉様になれたの?」


「ああ、そうだ。 それで、お前に変わったことはないか? ただ姿が変わるだけか? ミミックのカウンターはどうなっている?」


「ええと、カウンター? は9/10で 342、341、340って変わってる。 あ、それにスキルに治療5が増えてるっ!」



「ええと、ステータスは? 他のステータスはそのままか?」


「レベルは1でステータスはAGI以外は100で変わらないの。 これっていい事悪い事?」


「要はスキルだけは真似できるってことか。 ……その治療を使ってみることはできるか?」


「ええと、どうやって?」


「エミリちゃん。 誰かをターゲットして使ってみるのよ。 それで問題がある箇所が表示されて治すかのどうかの選択ができるのよ」


「わかった。 それじゃ……」


 エミリはミレイさんにスキルを使ったようだ。


「お姉様、一箇所問題があるけれど、これは治しちゃダメなやつ?」


「あ、あああ。 それは駄目。 うん完全に治す必要はないわ。 それが分かったってことは、スキルが使えるみたいね。 大丈夫みたいね。 あはははは」


 そして制限時間が経過したのか、エミリのミミックは解けた。 



 うん、中々面白いスキルじゃないか。 これを使えば色々な人のスキルを一時的にでも使えるんだな。 これならば、……いや不味いな。 僕にミミックされたら、スキルが全バレじゃないか。 まあ今更隠しておく必要もないんだけど……。


 それにしてもミミックか。 凶悪そうな名前だけれど凶悪なスキルじゃなくて本当に良かったよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ミレイ様は大人の女性だったのか(´・ω・`)
[良い点] 非処女かーw
[気になる点] スキルで治しちゃ駄目なやつってなんだろ? 定期的なやつで治すとまた初日からやり直しになるとか 思い出の傷とか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ