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104.  刺してみる

「あれっ? マリちゃん、そんな顔をしてどうしたの?」


 ミレさん(ミレイさん)がマリに問いかけた。 まあ僕やエミリも同じようなものなのだろうが、ノーマルのサロナーズオンラインでは顔の表情は反映されないので、VIPでログインしているマリだけが表情を読み取られたのだ。


「お、お前らは本当に”ミレカ姉妹”だったんだな。 半分以上は信じてたが、こうして本物と会えるとは思わなかったぜ」


「うぁっ、マジで本物だぁ~。 エミちゃん、ラッキー♪」


「あ、あの初めまして。 僕はヨシといいます。 どうぞよろしゅうに」


「な、なによ? ちょっとヨシ君もマリちゃんも止めてよね。 今更なんなの? 調子くるうわよっ」


「ミレイ、このアバターがこれほど効果的だとは思わなかったわね。 まさかヨシ君まで、……ってまさか、からかっているとかじゃないの?」


「い、いえカナ様、僕はそんな不束者(ふつつかもの)じゃないです」


「ヨシ君、言葉使いが間違っているのじゃないかしら?」


「……」


「エミリちゃん? これで私達が”ミレカ姉妹”って信じてくれた? じゃあログアウトして落ち着いて話し合いましょうね」


「あ、あのすみまふぇん。 エミちゃんと握手してくださいっ!」


「え、ええいいわよ」


 エミリはミレイさん達を握手をして喜んでいた。 マリもちゃっかりその流れで握手に有りついていた。


「あの~、僕も握手いいですか?」


 さらにその流れに便乗して僕もミレ(ミレイ)さんに握手を求めて手を伸ばした。 ところが、何故か避けられてしまった。 だがその程度のことでは諦めるわけにはいかないので、避けられた手を追いかけた。 そして捕まえたと思ったら、弾かれてしまった。 


 掴もうとする僕、払いのけるミレイさん、 そして次第にその速度は上がっていき、ミレイさんと僕との攻防戦は激しさを増していった。 そしてついにミレイさんの回し蹴りが僕に向かって放たれた。


 どふっ。


 僕のお腹にミレイさんの蹴りがヒットして僕は蹲ってしまった。



「ひ、卑怯者っ! ボクシングではキックは禁止ですよっ!」


「はぁはぁ、何言ってるの。 これで三勝二敗で私の勝ちなのよ」


「えっ? もしかしてまだ講習の時の模擬戦に(こだわ)ってたんですか?」


「……」


「ハイハイハイ。 ヨシ君もミレイもそこまでね。 このアバターで長居するとテルとか飛んできて面倒になるから、そろそろログアウトしないと困るわ」


「はぁ、ええ、そうね。 そろそろログアウトしましょう」


「ちょっとまったぁ~! ログアウトする前にエミちゃんと記念撮影をお願いしますぅ~」


 エミリのその提案は受け入れられて僕らは”ミレカ姉妹”と記念撮影をした。 今日のところはこの成果だけでも満足しておこうと思う。 

 そして僕らはサロナーズオンラインをログアウトした。


 ログアウトしてからコンクリート部屋へ集合したのだが、明らかに妹の態度に変化が見られた。



「あ、あの。 お姉様方。 エミちゃんと、エミちゃんと、もう一度握手をお願いできないでしょうか」


「あはは、いいわよ。 エミリちゃん、……エミちゃんね。 これからもよろしくね」


「は、はい。 これからも? よろしくお願いします」



 エミリの態度が落ち着いて来たので、この辺で本題に移ってもいいかもしれない。 僕はそう思って話を切り出すことにした。



「そういえば、エミリ。 どうせならこのお姉様方とちょっと遊んでいかないか?」


「ええっ? いいの? エミちゃんは是非遊んでいきたいの」


「ヨシ君。 それはどういう事なのかしら?」


「レイナさん。 ほらあの場所で、ゴーグルを付けてスライム討伐ゲームでもどうかなって思ったんだ。 駄目かな?」


「あ、ああ。 そういう事ね。 ちょっと強引な気もするけど、……この際だから仕方がないかも。 ええ、いいわね、そうしましょう」



 そして僕はプライベートダンジョンをコンクリートの壁に生成した。



「あ、お兄ぃ。 これはどういう?」


「ああ、この辺に見えないスイッチがあってさ。 この隠し部屋への入口が開くんだよ」


「そ、そうなのか~」


「じゃあ、中に入って遊ぼうか」



 そして僕らはプライベートダンジョンの中へ入った。 



「改めて見ても凄いトリックアートだぁ~。 でもどうしてこんなアートを?」


「それはな。 このVRゴーグルを付けて遊ぶために現実味を持たせるための工夫なんだ。 実はさ、この部屋は移動床式の機能もあってね。 この広い感じを保ったままVRで遊べるようになっているんだよ」


「へぇ~。 じゃあ遊びって、そのVRゴーグルを付けてやるの?」


「ああ、ちょっとこれを着けてみてくれよ。 僕らも後でつけるからさ」



 ミレイさん達が傍にいるので何の疑いもなくエミリはVRゴーグルを装着してくれた。 ただしそのVRゴーグルはARモード(現実の情報にバーチャルな視覚情報付加して表示するモード)に設定してある。 つまり実際に見えている風景は現実のままなのだ。


「お兄ぃ、皆はVRゴーグルをつけないの?」


「あれっ? 気が付かなかったか? もう僕らは装着しているよ。 その高機能VRゴーグルは僕らの顔をそのまま見せるように設定してあるんだ」



 妹よ。 これは全くのペテンだ。 これから恐怖を感じずに事を成してもらうために必要なんだ。 すまん許してくれ。



「わかった、それでこれからどうするの?」


「ああ、これから奥へと歩いていって、モンスターを討伐するゲームをやってみるんだよ。 ここには移動床があるから実際に歩く感覚があって面白いんだぞ。 まずはチュートリアルとしてスライム討伐からだ」


「なるほど~。 これが噂に聞くVIPサロナーズオンラインなの?」


「いや、それとは別ゲームだよ。 ログインしてないし僕らはアバターに変わってないだろ? まあ、そんなことはどうでもいいから、この剣を持って先へ進んでみよう」


 そう言って僕は、アイテムボックスからレイピアを出してエミリに握らせた。 今までの様子を見ていたマリやミレイさんたちは呆れ顔だったが、こればかりは仕方がないと思っている。

 そして僕らはプライベートダンジョンの第1区画から徒歩で第2区画のゲート前へと移動していった。


 実のところ僕はエミリにレベルを取得させてしまうことを企んでいる。 そしてその後、エミリが思いもよらず習得してしまったスキルについての説明と検証と教育を(ほどこ)すつもりなのだ。


 レベルを習得するには、弱い魔物を自力で討伐するか、一定以上の強さの魔物をパーティで討伐する必要がある。 今回はエミリに最弱のスライムを討伐してもらうことにしたのだ。 ゲームのつもりで討伐してしまえば恐怖を感じることもないし、説得する手間も省ける。 あの状態だとミレイさん達に説得してもらうという手もあるが、今のところ手を汚すのは僕だけにしておきたい。



「さあ、エミリ、ここを(くぐ)ればゲームが開始できるよ。 僕の後に付いて来るんだ」



 実物の移動式床、例えば2D版VRルームの床は、こんな感覚じゃないし、全員が一緒に移動して対応できるような代物でもない。 しかしエミリはその感覚を経験していないので気づかないで僕に付いて来た。



「おおっ、あそこにスライムがいるじゃないか。 よしチュートリアルを開始するぞ。 剣で倒してみようか」



 そう言って僕はエミリの手を引っ張ってスライムに近づいて行き、スライムを一撃で倒して見せた。



「エミリ、面白いからやってみな」


「このスライムをこの細い剣で刺せばいいの?」


「そうだ。 刺してみるんだ」



 エミリに渡した剣は、あのイソギンのユニークがドロップしたレイピアだ。 僕が持っている武器の中でも最高レベルかもしれない一品なので、万が一でも攻撃不足ということはないはずだ。 恐らく少し先端が触れただけでも討伐できてしまうだろう。

 エミリは恐れげもなくスライムに近寄って行き、スライムをレイピアで突っついてみた。

 案の定それだけでスライムは消え去り、同時にエミリが固まるのが見えた。 


 固まったのはレベルが上がったアナウンスが頭の中で響いたからだろう。 僕はすぐに周囲のスライムを一瞬にして討伐しておいた。


「お兄ぃ、エミちゃんの頭の中でレベルアップのアナウンスがあったよ。 これってサロナーズオンラインと同じだけど、何だか変な感じがするの」


 エミリは、未だにこれがゲームなのだと勘違いしているようだが、そのままでは今回のミッションの意味がない。 僕は現実に引き戻すために種明かしを始めることにした。



「エミリ、とりあえずVRゴーグルを外してみてくれるか? 重要な話があるんだ」


 エミリは、一旦ミレイさん達に振り返って確認した後で、素直にVRゴーグルを外してくれた。 

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