102. レベル98
僕らは第15区画、つまりレッドカウゾーンの入口までやってきた。
「マリ、レッドカウは昨日のエムレザーを確定ドロップするんだ。 それにレッドカウは低確率でスキルオーブもドロップするから殲滅しちゃおう。 めっちゃコスパがいい魔物だよ」
「それって俺がそばに居ても危険はないのか? お前だから安全に狩れるってことじゃねーのか?」
「きっと大丈夫。 不安だったら看破EXで魔物のステータスだけ確認して、後でシミュレーションに登録して試してみるといいさ。 僕が軽く仕留めて見せるからマリには動画の撮影も頼むよ。 それができれば、シミュレーションもずっと正確になるはずだしね」
「なるほどな。 まあいいか」
僕たちは第15区画へと足を踏み入れた。 マリには入って左側の位置で待つようにお願いして、僕はレッドカウを釣るために奥へと進んでいき、3匹だけ絡ませてから連れ戻ってきた。 そして例の如くダンジョンの壁へソイツ等を激突させて止めを刺していった。
「マリ、どうだった? レベルとかの情報は取得できた?」
「あ、ああ。 レベルは155付近だな。 お前の見立て通り”噛みつき石”とほぼ同じレベルだ。 それにしても、凄い迫力だった割りにはあっけなく片を付けたものだな。 お前の言う通り、これは確かに美味しい獲物だな。 まあ俺にそれが倒せるかは別だがな」
「どうする? マリも殲滅を見ていく? これと同じ作業を繰り返すというか、残り全部まとめて第16区画側の壁へ衝突させるだけなんだけどね」
「そんな簡単に? ああ、どうせなら見させてくれ。 俺の走りじゃお前に追いつけね~気がするが、それでもやって見せてくれ。 止めを刺している時には追いつけるだろう?」
僕は第16区画目指して走り出した。 そして全てのレッドカウの敵意を引き付けてから、壁へと誘導して激突させた。 気絶しているレッドカウを一体ずつ止めを刺している時にマリが追いついてきた」
「マリ、とりあえず一体だけでも止めを刺してみる?」
「……いや、止めておく。 お前が全部倒せ。 ……それで、問題の第16区画の奴はどうすんだ?」
「う~ん。 どうしようかな。 僕としては関わりたくない魔物なんだけどね。 マリに看破だけお願いしておこうかな。 攻略法は確立しているし……」
「お、おおそうか。 それでソイツはどんな奴なんだ?」
「あれっ? 話してなかったっけ? 巨大なイソギンチャクみたいなやつだよ。 引き寄せて触手で締め付けてくるんだよ。 事前に剣を持っていれば触手を切り落とせるから一匹だと余裕だよ。 でも何匹かの集団になると引き寄せ合戦に巻き込まれて、詰んでしまう可能性もあるやつだよ」
「……そうか。 成程な。 それで俺はどうすればいい?」
「とりあえず遠くから見学かな。 引き寄せをくらわなければ多分大丈夫だし、引き寄せられても触手を切ればいいだけさ。 あ、そうそう。 もしもの時に備えて、さっきの”噛みつき大岩”でドロップした緑色の剣を構えておいたらいいと思う。 レベルが低い武器だと触手が切れない可能性があるんだよ」
「レベルが低い武器だと切れないだと? それはまた変な触手だな」
「それでさ、さっきのレッドカウが2個スキルオーブをドロップしたし、”噛みつき大岩”が1個ドロップしたから、マリ使っちゃわないか?」
「……」
「本当にお前と一緒だと、スキルオーブもただのオーブと変わらん気がしてきたぜ」
「ああ、それはいい傾向だね。 じゃ早速使ってしまおう。 僕が1個で、マリが2個だね」
「俺が1個でヨシが2個だ。 まずはお前が強くなれ。 俺たちはそれからでいい」
「でもさ、僕一人じゃ対処できない時がありそうなんだよ。 イソギンチャクの魔物で死にかけた時も仲間さえそばにいれば、苦戦しなかったと思うんだ」
「なるほどな。 じゃあ、俺の番ということで使わせてもらうぜ」
「わかった、じゃあそういうことで」
そして僕らはスキルオーブを使った。 マリは頑健5とアイテムボックス4を覚えたようだ。 つまりマリのアイテムボックスはレベル11になり、一辺が100mの立方体が10個入るだけの容量になったってことだ。 これほど巨大なアイテムボックスとなると、さすがに規格外といえるだろう。 ただし僕の1/10サイズなんだけどな……。
「よかったな、マリ。 これでアイテムボックスマスターだ。 世界一かもしれないな」
「いや、本当はそうでもないんだろう? 恐らくお前のは既に俺のレベルを上回っているはずだな。 どう考えても使っているスキルオーブの数が半端ないからな、お前は」
「あ、あはははは。 ま、まさか。 確かにアイテムボックスのレベルは上がってきているけど、僕の引き当てるのはレベルが低いのばっかりなんだよ。 だから今はマリの方が大きいのさ」
「……まあいい。 どうせこのサイズだとほぼ不自由しないし、お前が大容量のを持っていたって大差ないな。 それはいいとして、お前は何を取得したんだ?」
「僕は、重量4ってやつだったよ。 これって自分の体重を重くするってやつだよね。 世間一般ではハズレスキルの一つだよ。 ……あっ、でもこれを使えばレイナさんのウインドバリアを突破しやすくなるね。 それに、……もしかしたら走るときに足を滑りにくくして加速する事も可能になるかも。 ちょっと試してみるよ」
そして走ってみたところ思った通り今まで以上に加速できた。 このスキルは体重を重くすることができるが、慣性質量は増加しないみたいだ。 この感覚はVRシミュレーションの中で馴染みがある。 ほぼ重力が強い環境に踏み入れた時の感じなのだ。 STRやVITなどのステータスが高い僕にとっては使いどころを間違えなければデメリットにはならない。 僕はステータスを見てみた。
LV 98
HP 2123 + 140%
MP 2000
STR 2000 + 300%
VIT 2000 + 400%
AGI 2008 + 180%
DEX 2000 + 200%
INT 2033
MND 2000
スキル: 体力7(ON)、筋力15(ON)、頑健20(ON)、俊敏15(ON)、器用13(ON)、回復魔法3(50/50)、アイテムボックス12 (10/10)、看破6、重量4(OFF)
ユニークスキル: 急所突き、ダンジョン生成、ダンジョン内探知
そしてステータスを閉じようとして気づいた。
あれっ? これは……。
そう、ステータスが2000を超えているのが3種類ある。
どういうことだ? 慌ててオーブを取り出して10個ばかり使ってみた。
HP 2123 + 140%
MP 2048
STR 2040 + 300%
VIT 2000 + 400%
AGI 2090 + 180%
DEX 2058 + 200%
INT 2094
MND 2253
やっぱり、ステータス上限が破られているじゃないか。 いつからだ? 今のレベルは98か、そうすると96の時には上がり始めたってことだな。 う~んまったく理由がわからんな。
そうやって少しの間考え込んでいると、マリに先へ行くよう急かされた。 仕方がない。 これは非常に重要だけど、今やるべきことをやってしまおう。
そして僕らはVRヘルメットを装着し、慎重に第16区画へと入っていった。 前回と違い、いきなり引き寄せを技をくらうことはなかった。 遠くにあのアンフェアイソギンの奴が見える。
「マリ、アイツがアンフェアイソギンってやつだ。 この前はこの区画へ入った途端不意打ちをくらって引き寄せられたんだ。 触手を切るための剣を持っていなかったら焦ったよ。 それでアイツを看破するとどんな感じだ?」
「レベルは175だぞ。 恐ろしく強い奴じゃないか。 それに”風魔法10”っていうスキルを持っているな。 お前のいう”引き寄せ”ってのは持ってないな」
「本当に? おかしいな。 まさかスキルが変わっているとかじゃないよね。 風魔法だと攻撃魔法としては余り恐ろしくないかもだから、う~ん。 とりあえず試しに戦ってみるよ。 もし危なくなったら加勢してくれよな」
「おお、やってみろ。 骨は拾ってやる」
アンフェアイソギンに近寄ると”引き寄せ”をくらった。 この前と同じだったので、ある意味安心してしまった。 それだと問題ないのでこの前のように触手を切り落としてから止めを刺した。
そこへマリが走り寄って来た。
「傍から見ていても確かに引き寄せられたように見えたな。 だけど使ったスキルは風魔法だったぞ。 その引き寄せ技は風魔法の応用なんじゃないか?」
「そうなのか、そういえば確かにそうかもしれないな……。 それじゃぁ、早速だから試しに重量4を使って戦ってみるよ。 風魔法なら体重増加で変化があるはずだな」
それから、僕はソイツの殲滅を開始した。 重量4は確かに効果があったようで、少し引っ張られるという感じで完全に引き寄せられてしまうことは無かった。 奴を倒してもエムレザーのドロップは皆無だったが、緋色の指輪と緋色の小刀はポロポロ落としてくれた。
一応マリにも練習で討伐してもらったが、緑色の剣が有効のようで難なく触手を切り落とせていた。 ただしVITが僕よりも低めなので触手に囚われた後での締め付けに少しばかり難儀していた。
僕らはアンフェアイソギンを殲滅し終えたところで、一旦戻ることにした。 スキルオーブは6つも得られた。 マリには3つ使ってもらったが、後は使わずに残してある。 パーティメンバーの中で僕だけが強くなり過ぎてもバランスが崩れるだけだからだ。