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101.  デジタルアート

 事情を話し終えて少し沈黙の後、ミレイさんから質問というか意見が飛んできた。


「ヨシ君、ユニークスキルを持っていたのは、お父さんの形見みたいなものだったのね? そして妹さんを巻き込んでしまった。 それで間違いない?」


「父さんの件はそうかもだけど。 妹の件は事故だと思う。 いくらフルーツバスケットに入っていたからって武器とかが置いてある机の上にあるオーブをお菓子だと思うところが変なんだ。 なんでもかんでも口に入れてみる幼児の習性が治ってないのが問題のような気もするけど」


 妹は幼児じゃないんですけど……。 まあ、妹のやったことは児童並みなんだけどな。



「でもね、そういう危険性を予め考えておくのが親の責務だわ。 幼児が間違えて飴を喉に詰まらせて窒息させてしまうなんて、手の届くところにそのようなものを置いておくのは明らかな過失なのよ?」


 僕は親じゃないんですけど……。 親だったらハリセンで殴られたりしないはずだよね。



「まぁまぁ、ミレイ。 ヨシ君を責めても何の解決にもならないわ。 それにヨシ君も妹さんも、二人ともオーブを食べたんでしょ? そういう習性をもつ家族なのだわ」


 僕はそんな習性は持ってないつもりなんですけど……。  



 あれっ? 僕にくれたあの飴玉って父は何と言ってくれたんだっけ。 覚えてないや……。

 それにしてもえらい言われようだが、ここは我慢だ。 きっと妹に降りかかった理不尽な出来事にイラついてくれているんだろう。


「で? お前らはヨシの妹の件に協力するつもりなんだろうな」


「何言ってるのよ。 当たり前でしょ? 私の件よりもずっと深刻に思えるわ。 それに私たちで妹さんを保護するためには、冒険者指導員の資格が必要だと思うの。 それは上級冒険者になることとほとんど一緒よ。 全く問題ないわ」


 マリは彼女たちを見回して皆が同意見であることを確認してくれた。



「それで、俺たちは先ずどうすればいいだ?」


「そうね。 ……先ずは妹さんにレベルを取得してもらって、自らの危険性を分かってもらう必要があるわね。 それから、私たちが保護するべく行動を移すのよ」


「でもどうやってアイツにレベルを取得させるんだよ? アイツ僕の言うことなんか聞かないぞ?」


「う~ん。 このコンクリート部屋までのおびき出し方法を考える必要があるわね。 ヨシ君、妹さんが好みそうな事は何?」


「アイツならお菓子が効果的なんだけど。 さすがにここまでおびき出すエサになるかと言えば微妙なような。 ……あっ! そうだ。 ”疾風の白狼”だっ」


「……」


「今”疾風の白狼”の方はゴタゴタして大変な状態なの。 とても協力できるとは思えないわ。 私たちの状態を見ればわかるでしょ? 今日の話し合いの議題にもしようかと思うくらいだったのよ」


「いや、違います。 疾風の白狼のサイン、つまりプレミアムデジタルアートです。 まさか忘れてないよね? あれで釣れると思うんだよね。 それを使って更にリアル疾風の白狼にも会わせるっていえば授業だって投げ出して飛んでくるはずだと思う」


「くっ、覚えていたのね。 あれは恥ずかしいからできれば出したくなかったのだけど……」


「何を言ってるんですか。 ビキニアーマーを身に着けて、例のポーズで決めた立体画像のサインなんですよ? ファンの間でどれだけ人気があるかわかるでしょ? それにたかだかアバターじゃないですか。 リアルキャラなら……。 そっちの方が僕にとっては価値が有るかもですけど」


「……」


「ヨシ君。 ごめん。 プレミアムじゃなくて普通のデジタルアートで許してください。 実はビキニアーマーなんて恥ずかしすぎてプレミアムの方は一つも作ってないのよ。 あの発表は団長のスタンドプレーだったのよ。 おかげで脱退するかどうかで揉めたんですからね」


「ええと、僕の妹の死活問題と、どちらが重要だと思うんですか?」


「え、ええ。 それは。 その。 あの……」


「ヨシ、お前がソレをほしいのは分かるがな。 アイツをおびき出すなら、普通のデジタルアートで十分だろ」



 くっそ~。 マリめ、余計なことを! でもまあ仕方がないか。 彼女たちの協力が得られなくなったら元も子もないからこの辺で妥協するか~。 でもプレミアムの方が本来の約束だからな!



「ああ、分かったよ。 普通のデジタルアートでいいです。 でもサインとコメントをお願いしますね。 妹に見せないと信じないから」


「ええ分かったわ。 じゃあ、すぐにでも送りますね」


 ミレイさんは携帯端末を操作してくれた。 そして僕はそのデジタルアート、つまり立体映像を堪能したい衝動に駆られたのだが、我慢してそのまま伝言とともに妹に送ってしまった。 コピー不可の仕様なのでこれは仕方ない。


「あの、僕専用にもう一枚ってわけには?」


「それは無理よ。 私たちの独断で渡せるのはそれだけなの。 あとはクランを通さないと無理なのよ。 それには条件が必要なのよ」


「その条件って?」


「それは……。 今は言えないわ。 この件が収まったら話し合いましょう」


「そうですか、残念だけど後にします」


 まあいい。 まだ交渉の余地は残っていると見るべきだ。 いつかデジタルアートを勝ち取ってやるぞ!



「おい、これで方針は決まったというわけだな。 ならばお前らは休め。 そんな疲れ切った姿じゃ、攻略も何もあったもんじゃね~ぞ。 アイツ――エミリと言ったか? アイツを幻滅させるような姿を晒しちゃー駄目だ」


「そんなに私たちって酷い様子かしら?」


「まあ、普段と比べると酷いな。 それに”疾風の白狼”のアバターと比べるとなるとな」


「わかったわ。 休むことにする。 妹さんが着いたら起こしてね。 私たちは2D版VRルームへ籠って休むことにするわね」


「ああ、休め休め。 その時が来たら俺が連絡をいれてやるぜ」



 彼女たちはプライベートダンジョンから出て行った。 そして僕とマリは妹の到着を待つことにした。 ちなみに妹の反応は予想通りだった。 僕の言うことを半信半疑というところだが万一本当ならという期待を込めてくるのだそうだ。


 その後僕とマリは時間を有効利用するためにプライベートダンジョンの奥へと進んでいくことにした。 途中で見つけた”噛みつき石”シリーズの魔物のレベルなどをマリに確認してもらうことと、スキルオーブなどを取得するためだ。


 マリの看破EXによれば途中で遭遇した”噛みつき石”は、レベル150以上。 ”噛みつき岩”はレベル200前後。 そして”噛みつき大岩”はなんとレベル300を超えていた。  改めて”噛みつき石”シリーズの魔物がとんでもない化け物だったことがわかってしまったのだ。

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[一言] プレミアムデジタルアートを誰か描かないかしら
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