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100.  バランスが大事

 朝になり目覚まし音楽で起きた。 シャワーを浴びて食事を取ろうとしたところでマリから携帯端末で音声での連絡がきた。


「起きているようだな。 やっとミレイたちと連絡が取れたぞ。 昨夜の活動でかなり不快なことがあって不機嫌なようだが、是非直接会って話し合いたいそうだ。 あいつ等も相談があるって話だ。 あのコンクリート部屋まで来てほしいそうだ」


「ええと、サロナーズオンラインでリモートの相談とかじゃダメなの?」


「なぜだか知らんが、”直接”というのを強調していだぞ。 雰囲気的に直接会うことだけは譲れない気がしたから了解しておいだぜ。 今すぐAI自動車で向うのが得策だな」


 僕はすぐにAI自動車をチャーターしてコンクリート部屋のあるビルへと向かった。 自宅アパートからはかなり遠いが、それほど時間はかからない。 メタバース空間の普及により外出する人が極端に減少し、AIの連携により交通量の最適化が進み、さらに軽量のエネルギー石を使うAI電動ヘリ、つまり空中の輸送手段も充実したため、道路事情は昔と比較すると天と地の差ほどもあると聞いている。 余談だが、ヘリではなくAIドローン自動車も検討されたようだが、ローター数が少ないヘリの方が安全性が高いため人を乗せるドローンは普及しなかったそうだ。


 約2時間ほどで例のビルへ到着し、認証を行ってコンクリート部屋へとやってきた。 そこにはすでに彼女たちが待っていた。


「あ、あの。 おはようございます。 みなさん、相変わらずお美しいですね。 まるで中世のお姫様のようですよ」


「ヨシ君、おはようございます。 マリちゃんに聞いたけど、あなたも相談事があるそうね」



 なんかお世辞を簡単に受け流されてしまったし表情がない感じだ。 相当疲れているか不機嫌な感じだ。 まさか皆一緒にあの時期なのか? 


「そうです。 ちょっと家族のことでお願いがあるんだ。 マリが来たら詳細を話すよ」


「そう、……。 私たちは徹夜だったから疲れているのよ。 それに、”疾風の白狼”の活動が思わしくなくてね。 ちょっと不機嫌だけど許してね。 かろじてレイナだけ理性を保っているから、レイナと相談してよね」



 ええっ? その言い方。 理性を保っているってなんだ? というかミレイさんとカナさんは理性を保っていないのか? まぁ思考が乱れているからこそ、そんな言い回しになるんだろうが、これはむやみに刺激してはイケないパターンなのかもしれない。


 僕はそう思い、ミレイさんからあからさまに距離をとってみた。 そこへマリがやってきた。



「よう、おはようさん。 みんな元気か?」


 あいからず能天気な奴だ。 まあそれが良いところでもあるんだ。



「では集まりましたので、プライベートダンジョンの中でお話しましょう」


 僕たちはプライベートダンジョンへ入り、ソファーへ腰かけた。 そしてレイナさんが話を切り出した。



「ヨシ君ごめんね。 まず私からお話させてもらいますね。 妹さんの件の内容は分からないけれども、こちら側もかなり重要な話になるの」


 僕が了解するとレイナさんは続けた。


「まず、これはミレイに関する件です。 ミレイが治療魔法を使えることは知っていますね? 治療魔法を使える人は比較的多いのだけれど、ダンジョンに関する法律、いわゆるダンジョン法では治療魔法を覚えた者は、習得してから1カ月以内にダンジョン内の治療施設か、公認の上級冒険者グループに所属したり実習教官にならなければならないの」


「……」


「レイナ、それはつまり、一か月以内にミレイが引き抜かれるってことか?」


「ええ、このままではそうなるのです。 特に治療施設ではダンジョン外で罹患した病気の外科的治療で大忙しですからね。 知っての通り、ダンジョンの外で負った怪我は、治療魔法を施さないと治らないのよ。一旦入って直に外へ出ただけじゃ治らないのよ」


 逆にダンジョン内で負った怪我は不思議なことにダンジョンの外へ出たら治る。 ダンジョン外で負った怪我も、中で外科的処置を施した上で治療魔法を使えば治る可能性があるし、自動的に患部も殺菌もされるので都合が良い。 ダンジョン内に設置された治療施設は増加の一途をたどっているのが現状だ。



「なるほど、ダンジョン内の特別医になれってわけか。 だがその治療はまだ正式に認められたもんじゃねーし、治らない者もいるって話だが、……まあ本当に困っている奴は多いからな。 とりあえず人数確保のためにダンジョン法で(しば)ってるってわけだな」


「パーティに残るためには1カ月以内に私たちが上級冒険者グループになる必要があるのです。 上級冒険者グループは上級冒険者資格者3名以上が必要で、上級冒険者資格は、Cランク以上になることが条件です。 そしてCランクは中級ダンジョンの攻略回数が5回以上必要ということだわ。 上級冒険者グループには一定以上のオーブ納品義務が発生するけれど、それは問題ないはずね」


「ならさ、サクっと攻略しちゃえばいいんじゃないかな。 僕達ならできそうな気がするけど」


「確かに可能かもね。 でも問題は攻略許可をどうやって取得するのかなの。 この前みたいに甘くはないわ。 パーティの人数は最低でも20名はいないと駄目なのが普通だそうよ。 もしくは実力を示すことになると思うわ。 つまりスキル等を持っていて十分な実力を示すとかが必要になると思うの」


「ええと、つまり僕たちが持っているスキルのことを公開するってこと?」


「それができればね。 私やカナ、ミレイはありふれた部類のスキルを持っているのだけれど、マリちゃんやヨシ君のは特殊すぎると思うの」


「え、ええと、マリはポーター役としてアイテムボックスでいいんじゃないかな。 そうだなアイテムボックス4か5であれば、それほどインパクトはないんじゃないか?」


「お、お前。 結局俺はポーター役に仕立て上げられるわけか? 看破役でもいいんじゃねーか?」


「まぁまぁ、マリ、これは運命だ。 諦めてくれ。 それともミレイさんを失っていいとか言うのか? 看破は新しい攻略以外じゃほぼ役に立たないから、必要な能力として認められるか微妙だよ?」


「……」


 マリは黙り込んだ。 覚悟は決まったようだ。



「まあ、それは決定事項として、僕は、……。 う~ん僕はどうするかな……」


「そうよね。 ヨシ君は、たくさんスキルを持っているけど、すべて希少なスキルよね。 アイテムボックスはマリちゃんが担当するとしても、ヨシ君が持っているスキルは身体強化系とHP回復、そしてユニークスキルなのだから悩むところです」


「レイナ、HP回復なんか公開したら、即、上級冒険者グループに入らなければならないんじゃない? そうなると、残る候補は身体強化系だけよ。 身体強化系は希少だから、引き抜かれ対象になってしまうかもだけど大人数攻略部隊ではそれほど重要視されないかもしれないわ」


「ちょっと、レイナいい?」


「ミレイなにか?」


「パーティはバランスが大事よ。 スキルとして公開するとしたら、私は治療、レイナは風魔法で防御担当、カナは火魔法でアタッカーね。 そしてマリちゃんは荷物担当、ならばヨシ君の役割は何かということだと思うの」


「ヨシ、そうなるとお前は盾役だな。 魔物を引き付けて俺たちを守る役目だ。 問題はそれをどうやって証明するかだな。 カナの火魔法で焼かれてみせてやるのが手間が省けていいな」


「まさかマリ、僕に怒ってる?」


「いや、怒ってねーぞ。 俺はちゃんとポーター役をやってやるから、お前も盾役としてちゃんと防御力を見せてみろってことだ」



 う~ん。 マリの言うことはわかるんだけどな~。 カナさんは危ないからな~。 この前自分の火魔法レベルが大きく上がったことを忘れてやらかしそうだよな。



「じゃあ、そういうことにしましょうね」


 いやいや、これで決まりかいっ! って思ったけど、何も言えなかった。



「それでは、次に”疾風の白狼”の件の相談といきたいところだけど、まずはヨシ君の相談を聞いてからにしましょう」


 それではと、僕の妹の件を報告した。 

 それを聞いた彼女たちは最初冗談だと思っていたみたいだったが、話し終えた時には彼女達は打って変わって深刻な表情をしてくれていた。 

 僕の相談内容をしっかり受け止めてもらえたのだ。


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[一言] 有力グループ以外のヒーラーを医療で独占するシステム 人命がかかって断りにくくダンジョン攻略の足を引っ張るシステムですね。探索者の新陳代謝を阻害するしヒーラーの成長もそこで滞る 上級者グループ…
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