99. 何を求めているんだ?
さて僕にとってはここからが本題だ。 マリに妹のことを相談するのだ。
「マリ、ちょっといいか? 装備とは別件で、本当に困ったことがあって助けてほしいんだ」
「なんだ? お前に”助けて”とか言われると嬉しいような怖いような気がするぜ。 ゲームのことならもう助けは必要ねーだろ?」
「ええと、僕の妹のことなんだけど、かなり危機的な状況なんだ。 それでパーティに助けてもらいたいと思ってさ。 まずはマリに相談ってわけさ」
マリは微妙な顔をした。
「妹って、さっき俺のことを女扱いしたアイツか? 気は進まんが、お前が困っているなら仕方がないな。 どういうことか言ってみろ」
僕は、経緯を説明した。 お金のことやゲームでのフレのこと、そしてスキルオーブを食べたことまでエミリ関係の話を洗いざらい全てだ。
マリは最初リラックスして聞いてくれていたが、スキルオーブの顛末を話したことで一気に顔つきが変わった。
「お、お前それは、ヤバイなんてもんじゃねーな。 スキルオーブを一気に17個だぁ? それにユニークスキルオーブもだとぉ~? ふざけるんじゃね~よ。 そんな話、信じられるか」
「いや、僕がスキルオーブを沢山ストックしているのは、この前見せたよね」
「ああ、持っていたな。 だけどなユニークスキルオーブってのは聞いてねーぞ?」
「あの緋色のナイフと同じく第16区画で手に入れたんだ」
「……なるほどそうか。 16区画にはユニークもいたってことか?」
「ああ、運悪く出くわしたんだよ。 文字通り死にかけたけど無事に討伐できたんだ。 それでユニークスキルオーブも手に入ったんだよ」
「死にかけたってお前、そんな簡単に……。 俺はそんなお前が心配になるぜ。 まったく」
「ああ、分かっているさ。 今回は明らかに運が悪かったし攻略を軽く考えていたことが原因さ。 事前にヘルメットを装着して万全な体勢で戦えば余裕で勝てた相手だったと思うよ」
「……まあいい終わったことだ。 ユニークスキルオーブを手に入れたことは分かった。 だがな、オーブを食ったことが事実だとすると、お前の妹はめちゃめちゃ強くなったったってことじゃねーか。 それのどこが問題になるんだ?」
「僕の妹はもうすぐ高校3年になるんだけど、成人年齢になるのも目前なんだ。 未成年でスキルどころかレベルもないから、普通通りに実習を受けることになるんだけど、レベルを習得した時点でいきなりスーパーなことになって何かをやらかすのが怖いんだ。 あいつはちょっと幼いところがあるから」
「つまり暴走する危険があるってことだな。 そしてそれは下手すると教官にも制御できない可能性があると……」
「一番の問題はユニークスキルなのさ」
「ああ、ユニークスキルを持っていることがバレると厄介だな」
「それだけじゃないよ。 下手すりゃ今この瞬間にもスキルに目覚めてしまう可能性があるんだ」
「なんだと? レベルが無きゃそんなことは起きない……か?」
「普通そう思うよね。 だけど僕はレベルを獲得する前から<急所突き>というユニークスキルを持っていて、実際に使えてたんだよ?」
「あれって、お前が生まれつき持っていたんだよな。 ……だからどうだって言うんだ?」
「衝撃的だったのは、僕もユニークスキルオーブを味わったことがあったってことさ。 妹がお菓子だって思って食べた味が、昔僕が虹色の飴玉だと思って食べた味にそっくりだったんだ」
「ん? どういうことだ?」
「つまり、僕はユニークスキルオーブを食べて<急所突き>を覚えた可能性が高いのさ。 そしてそのユニークスキルはレベルを取得する以前から使えてたってことさ」
「ははは、お前もかなりなもんだな。 まぁお前のことだから、俺はそれ程驚かんながな。 ……それで?」
「妹もユニークスキルを既に使える状態かもしれないということだよ」
「……確かにそれはヤバイ事だな。 お前のソレはダンジョンの外でも使えたのは確からしいからな。 もしアイツのソレがヤバイ感じのスキルでダンジョンの外で使えたら、……大惨事になったって不思議じゃねーってわけだな」
「ああそうさ」
「それでお前はパーティに何を求めているんだ?」
「こうなったら、妹に強制的にレベルを取得させて、僕らが教育を施すしかないと思うんだ。 成年に達したら必然的にパーティに加入させることになるし、まだ未成年だから違法スレスレなのが問題なんだけどね」
「あ、ああ分かった。 ……これはさすがに、……仕方ねーか。 うん、それならすぐにでもミレイたちと相談しねーとな」
「ありがとうな。 助かるよ」
「だがお前、そんなアイツをそのまま家に帰して良かったのか?」
「それなんだよな~。 実は迷ったんだけどさ。 引き留めるのも不自然だし、知らない方が良い気がしたんだよ。 これって判断ミスかな? 今からじゃもう寝てるだろうし、対応するとしても朝になってからだよな」
「ああそうだな。 朝になってからがいいだろうな。 ミレイたちも今は”疾風の白狼”の活動で忙しいって言ってたから、サロナーズオンラインでも連絡つけられんかったしな。 もちろん携帯端末でも無理だ。 まあ、今日の朝にもう一度連絡してみるてやるよ」
「マリ、頼むよ」
「俺を女と間違えるような奴でもお前の妹だからな。 お前が家族のために最善を尽くすのは当たり前だ。 それじゃ早く帰って休もうぜ。 あとは朝からだ」
マリは女に間違えられたことをかなり根にもっているようだ。 間違えたこと自体は妹が悪いが、中性的なマリを間違える人は少なくない気がする。 僕にはマリが可愛らしいが普通の男にしか見えないし、またそのようにしか扱っていない。 その辺が僕とマリがうまくやっていけている理由なのかもしれない。
僕らはそれぞれのアパートに帰り明日に備えて就寝した。
下書きストックが減ってしまい苦しいので当分の間隔日投稿となってしまいます。 申し訳ありません。