1. 現実のダンジョン
ザシュッ、 ドスッ。
僕はオークを剣で切り裂き、突きで止めを刺した。 するとオークの体はダンジョンに溶け込むように消えていき、エネルギー石とエムレザーがドロップした。
ここは僕のプライベートダンジョン。 誰でも入れるダンジョンのはずなのだが、僕が作ったダンジョンだ。
僕には非常に特殊なユニークスキルである<ダンジョン生成>と<急所突き>がある。
<ダンジョン生成>は、ある一定以上大きな岩に手を翳して使えば、そこにダンジョンができるというスキルで、<急所突き>は何故か分からないが知らぬ間に持っていたスキルだ。 僕が<ダンジョン生成>を手に入れたのは、つい先日のことで、物語は僕がダンジョンの講習を受けたところから始まったのである。
◇ ◇ ◇
20××年、人類に大きな事件が発生した。
いわゆるダンジョンが世界で初めてオーストラリア大陸で発見され、翌年までにはその数が世界各地で数十になり、更にその翌年には数千にまで増えた。 そして12年経過した現在では、ダンジョンの数は世界で数万を超えるまでになり、新たなダンジョンの発生は稀になって数的には安定を保つようになっている。
当初このダンジョンは不思議な未知の生物が生息する洞窟と思われ保護対象だったが、ダンジョンの壁面が未知の物質で構成され破壊不能であったことから大規模な調査が進められた。 その結果、未知の生物が非常に攻撃的で、倒すと消滅してアイテムを残したり、人間にレベルやステータスといったゲームのようなダンジョン内限定の能力を与えたりすることが判明したのである。
今ではその未知の生物は魔物と呼ばれており、倒すとしばしば得られるエネルギー石と呼ばれる電気エネルギーを蓄えた石とオーブと言われる玉、そしてダンジョン特有のドロップ品を残して消滅することが知られている。
ダンジョンは、その殆どが山の急斜面に形成されるため、山の多い日本では国土面積に比べて高い密度でダンジョンが発見されている。
日本のダンジョンに関しては、当初自衛隊の特殊部隊がその調査の主役であったが、ダンジョンの数が増えて魔物の討伐方法が確立されるようになると、次第に民間へと開放されてダンジョン省が管轄して管理するようになった。
またこの12年間の研究の結果、エネルギー石は安定した直流電源で、その電圧は正確に113.20V、最大電流は最低でも0.1A以上、バッテリー容量としては最大電流値で例外なく約730日間の連続使用に耐えることが判明している。 そしてエネルギー石の最大電流値は、それをドロップした魔物のランクに応じて変化することが知られている。
これらエネルギー石が多く産出されるようになると、エネルギー石を事業的に扱うビジネスが発展し、携帯型バッテリー、大型発電システムを徐々に置き換えるようになって、それまでの石油や原子力エネルギーに頼る構造を一変させるような産業革命を起こしてしまうまでになっている。
ダンジョンで魔物を討伐して得られる素材には剣や斧のような武器や、布とも皮とも言い難い特殊なシートがドロップすることがある。 この特殊なシートはエムレザーと命名されて、主にダンジョン攻略用の防具に使われる素材になっている。
エムレザー製の防具は非常に強靭で、品質の低い品でも下手な金属製の防具よりも高い防御力を持っていた。 また魔物もこのエムレザーのような皮膚で覆われているためか、通常の拳銃などでは歯が立たないことが多い。
これに対して、ダンジョンでドロップする剣や斧のようなダンジョン産の武器は、魔物のエムレザーのような装甲を比較的容易に貫くことができたので、今では近代的な銃火器よりもダンジョンドロップの武器を使うのが魔物討伐の主流となっている。
尚、ダンジョンでの魔物ドロップ品――つまり、エネルギー石、オーブ、武器、エムレザーは、現在の科学で解明できないような未知の物質で出来ているとされている。 そして特にエネルギー石はダンジョンの外へ出すと破壊不能なほど強固になるため、この世の物理法則から外れている物質からできているのは間違いないと結論づけられている。
魔物からは低い確率でオーブと呼ばれる人間に能力を付加することができる、直径2cm程度の大きさの弾力性のある玉がドロップする。 この玉を壊すことで、壊したその人のステータスをランダムに1%~20%程上げることができることがわかっている。 それで上昇するステータスは、力、頑健さ、素早さ、器用さ、知力、精神など様々だ。
また希少だが強い魔物を倒した場合にスキルオーブと呼ばれるオーブもドロップすることがある。 これにより魔法のような能力を得ることも可能だった。 スキルオーブでどのような能力が得られるかは使ってみなければ分からないため、その人に必要な能力が得られるかは運次第と言って良い。
尚、スキルオーブで得られた能力はスキルと呼ばれ、その人がそのスキルを使う意思を示さないと発現しないアクティブタイプのスキルがほとんどだった。 そしてスキルはダンジョンの外でも有効なケースもあったのである。