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第二章 3

会議室にグレアムが入室してきたのは

予定の時間よりも少し早めであった。


着座していた者は立ち上がり、

皆、一斉に国王の方へと向き

右手を胸に当てて臣下の礼を執る。


「よい、みんな楽にしてくれ」


そう言いながら自身も着座して早々に持参の書類に

目を通し始める。


イズミルは侍従長が淹れたお茶を受け取り、

グレアムに差し出した。


「……これはなんだ」


低くそこはかとなくドスの利いた声に

イズミルは首を傾げながら答えた。


「紅茶ですけれども…「要らん、さげよ」


イズミルが答え終わらないうちに

グレアムが切り捨てるように言った。


(もしかしてわたしが淹れたお茶だと思われている?)


「ですが、侍従長がお淹れになったお茶ですし、お毒見もされておりますわよ?」


「たとえ毒見がされていたとしても、差し出す相手が信の置ける人間でなければ決して口にはしない…直前に変な薬でも入れられる可能性もあるからな」


グレアムが素気なく言った。


(あらま。わたしが信用ならない人間だと言いたいのね。でもそういえば過去に先王の側室や高位令嬢たちに媚薬や惚れ薬を盛られた事があると聞いたわ……本当に大変な女性問題を経験してこられたのねぇ……)


そう思いながら、

イズミルは改めてグレアムの容姿を眺めた。


サラサラした艶やかな黒髪、

目に掛からない程の長さの前髪は

半分は下ろし、半分はサイドに撫でつけるスタイルだ。

襟足は襟に付かないギリギリの長さで、

男性的な首筋をより引き立てている。


切れ長の二重瞼の奥には

深く澄んだ湖のようなブルーの瞳。


スッキリとした鼻梁に程よい薄さの唇は

辛辣な言葉が出てくるとは思えないくらい優しげに感じる。


長身で細身ではあるものの、

胸板の厚さと肩から腕にかけての筋肉の盛り上がりが

彼の逞しく引き締まった体を容易に想像させた。


服装はいつも、

ダブルブレストの黒いレディンゴートと

足元は軍靴(ぐんか)だ。


レディンゴートのウエストを

剣帯(けんたい)と共にベルトで締めている。


レディンゴートの襟の縁は

金糸の刺繍で彩られ、

金のボタンと統一感を醸し出している。


式典用のレディンゴートと違い、

これまた金糸で形作られた肩章が控えめなのは

これが国王としての普段着であるからなのだろう。


首周りは今日は白シャツと黒タイだが、

白いクラバットをのぞかせている時もある。


長身に長いレディンゴートが映え、

我が夫ながら(妻だと認知されていないが…泣)

本当に美しい男である。


「かしこまりました。確かに陛下の仰る通りでございます。平にご容赦くださいませ」


かなり嫌味を含んだもの言いをしたにもかかわらず、

イズミルはさほど気にしていない様子だった。

あまつさえ笑顔すら浮かべている。


強がっている様子もなく

淡々とした仕草で紅茶を再び下げながら、


「ご無礼致しました。新しいお茶を侍従長にお願いして参りますわ」

とそう言い残し去ってゆく。


それを見てグレアムはなんとも言い難い複雑な気持ちになった。


(間違った事は言ってないはずだ。なのに何故、こちらが罪悪感を抱かねばならんのだ)


そんなグレアムの心情を見透かしてか、

マルセルが軽口を叩いてきた。


「あーあ、あんな言い方しなくてもいいのに……可哀想なアリスタリアシュゼットシュタイン嬢」


グレアムがムっとした表情で幼馴染に言い返す。


「俺は自身の身を守る為に言っただけだ」


「それにしても彼女、

 陛下に何を言われても全然堪えていませんねぇ」


ランスロットがグレアムに書類を渡しながら話に加わって来た。


「どんなに冷たい態度を取られても、時には存在自体無視されたとしても、彼女はいつも泰然としています」


それを聞き、グレアムが眉間にシワを寄せた。


「おい、その言い方ではまるで俺が彼女をぞんざいに扱う酷い人間みたいではないか」 


「おや、ご自覚がお有りで?」

ランスロットが揶揄うように言った。


逸れそうになった話を拾うようにして

マルセルが続けた。


「それ、俺も不思議に思っててさー。

 それでこの前、彼女に直接聞いてみたんだ」


マルセルの発言にグレアムとランスロットは

引き付けられた。


「……なんと聞いたんです?」


「どうしていつもそんな扱いを受けても平気でいられるのか、もしかして被虐趣味でもあるのかな?ってさ」


「おまっ……女性に向かってなんて事言うのです」


ジト目で見据えるランスロットに

マルセルは構わず話を続ける。


「そしたらさ、自分の中で良い教訓があるんだって

 教えてくれてさー……」


「良い教訓?」


「その教訓をいつも自分に言い聞かせてるらしいよ」


「……なんと言い聞かせているんだ」


グレアムが不機嫌そうに眉を寄せる。

嫌な予感しかしない。


マルセルは満面の笑みを浮かべ、嬉しそうに言った。


「『陛下の側で仕事するために必要なのは、

 聖母の如き心の広さと鋼の精神力』だってさ!」


「なんだそれはっ!!」


グレアムがバンッと机を叩くのと同時に

マルセルが腹を抱えて笑い出した。


対してランスロットは感心したようだ。

「……なるほど、至言ですね」


「おい」


幼馴染二人の無体な態度に気分を害したグレアムは

不貞腐れながら侍従長が改めて用意したお茶を口にした。



「でもさ、逆手に取るとそんな教訓を自分に言い聞かせてまでも陛下の側に居たい……という事にならない?」


マルセルのその発言にランスロットの眼鏡が怪しく光る。


ちなみにランスロットは眼鏡男子である。

シャープな銀のフレームがスタイリッシュなのだ。


「マルセル、お前も彼女には何かあると思っているわけですね?」


「まあね。だって彼女、出来過ぎでしょ〜。

 どこに出しても恥ずかしくない子、みたいな?」

「やはり……」



見目麗しい三人の男子が

額を合わせてコソコソする様子は

(はた)から見たらなかなかに残念な光景であった……。

















グレアムは常に帯剣しております。

魔力持ちで炎や雷を操るのが得意ですが、

何故か帯剣する事に拘りがあるよう。

城内で帯剣が許されるのは近衛騎士とグレアムのみです。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 嗜虐趣味はいわゆるドS、痛めつける事を好む嗜好でこの場合は虐められることが好きという事だと思うので「被虐趣味」になるかと思います。
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