グレアム君現る
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「………えっと……グレアム…様?いえ……」
後宮の地下で見つかった隠し部屋の封印の解術と部屋の調査に立ち会ったグレアムが、頭を抱えた側近達に部屋に連れて来られた姿を見て、イズミルは戸惑いながらもこう呼んだ。
「グレアム……君?」
「なんだお前は?偉そうだな。グレアム君だと?俺はこの国の王太子だぞ」
なんとグレアムの体は子どもの頃に、いや体だけでなく記憶まで過去に戻った姿となってしまったのだった。
「そ、それは大変失礼いたしました。グレアム様、その…大変お可愛らしくなられて……」
「可愛いとはなんだ男子にむかって。俺はもう八歳だぞ!」
「さようでございますか……」
イズミルはぷりぷり怒るチビグレアムを呆気にとられながら見つめた。
するとグレアムの幼馴染にして乳兄弟でもあるランスロット=オルガがイズミルに言った。
「先触れでお知らせする事もなく陛下をお連れして申し訳ございません。隠し部屋のトラップにより陛下がこのような状態になってしまい、私共も大変狼狽しておりまして……」
「トラップ……部屋の封印によるものですか?」
イズミルが尋ねると、遅れて部屋にやって来たグレガリオが答えた。
「封印によるものではない、隠し部屋そのものが呪いだったのじゃ」
「師匠、ではもしかして隠し部屋は……」
「最初から存在しなかったわい。解術してドアを開けたら壁……ビックリおったまげじゃ☆そしてその瞬間、呪いが発動された」
「封印を解いた後ドアを開ける、という行為が発動の鍵になる仕掛けだったのですね……」
「まぁそういう事じゃな。いやはやしてやられたわい。さすがはダンテルマ様じゃ」
数百年前に実在した妃の名を耳にし、イズミルはグレガリオに尋ねた。
「師匠が呪いの施術者をダンテルマだと判断された理由をお訊きしても?」
「儂や側近達を見よ。皆無事じゃろう?呪いに掛かったのは陛下だけじゃ。それだけで王族だけを狙ったものだと考えられる。そして数々の王族への呪いや嫌がらせをしてきた者と言えば?」
「狂妃ダンテルマ……なるほど……肉体を子どもに戻すだとか、地味にダメージを受けるものにしたところがダンテルマらしいですわね」
「そうじゃろ?さすがじゃろ?」
「師匠……楽しんでますわね」
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ♡」
イズミルは小さく嘆息して視線をグレアムに戻した。
グレアムは部屋の中を怪訝そうに見渡している。
マルセルがイズミルに告げた。
「今の陛下には八歳までの記憶しかないね……十歳で知り合った俺の事は知らなくて、もっと幼い頃から知っているランスの事だけを知っているみたいだから。まぁ本人は、大人のランスをランス本人だと認めていないようだけど……」
「それはそうでしょうね……」
となれば当然、イズミルの事なんて全く知らない赤の他人だろう。
そう考えていたら、チビグレアムが今度はイズミルの顔をじっ…と見つめてきた。
イズミルはチビグレアムに尋ねる。
「グレアム様、如何されましたか?私の顔に何かついておりますか?」
するとグレアム君は少し頬を赤らめて言った。
「そ、そなたは……何者だ?見かけぬ令嬢だが……」
イズミルは一瞬何と答えてよいのか迷ったが、例えグレアムの体が子どもに戻ったとしても、彼が彼である事に変わりはないと思い正直に答えた。
「わたくしの名はイズミル。貴方様の妃にございます」
「なっ……!?な、な、き、妃っ!?」
イズミルの言葉を聞き、チビグレアムは途端に顔一面を真っ赤に染め上げ、狼狽えた。
「そ、そんなバカなっ、そなたのようなっ……その、まさかっ……」
と言った後に小さな声で、
「こんな美女が俺の妃…やるな、俺。でもいつの間に?」
と呟いたのがばっちり耳に届いた。
女性不信を拗らせる前のグレアム君はなかなかマセた子どもだったようだ。
その後、一旦本人を落ち着かせる事と、この状況をランスロットから説明する為に、チビグレアムは別室に連れて行かれた。
イズミルはグレガリオと解呪の方法について訊いてみる。
「師匠はグレアム様に掛けられたあの呪いを解くにはどうしたらよいとお考えですか?」
「ふーむ、ちと考え中じゃ。宿題にしてもよいかの?」
「ええ。それはもちろんですわ。わたくしも古い文献などをあたって調べてみます」
「それにしても……後世の王家の者にも嫌がらせを残しておくとは……本当にチャーミングな女性じゃの♡ダンテルマ様は♡」
「……チャーミングと言う言葉で片付けてよいものか悩みますわ」
今回はさすがにイズミルも困り果ててしまったようだ。
このまま呪いが解けず、グレアムが子どものままとなればどうなるのか……。
グレアムの成長を待って挙式……というには歳の差がありすぎる。
やっと想いが通じ合って本当の夫婦になれたというのに。
イズミルの心は当然、穏やかではいられなかった。




