婚約式
マルセルとリズルの婚約式が 麗かな春の日差しが差し込む王城のサンルームにてささやかながらも執り行われた。
婚約式にはマルセル側からはマルセルの両親であるカストール前侯爵夫妻と既に家督を継いで現侯爵の長男一家が。
そしてリズル側としてランスロットの生家、オルガ家の当主と夫人がそれぞれ参列した。
イズミルがリズルをマルセル・カストールの
妻にするにあたって取った手段は、リズルをランスロットの兄、オルガ伯爵の養女にする事であった。
婚姻相手の生家を重要視する貴族社会からリズルを守る盾として、イズミル自らオルガ家に打診したのだ。
ランスロットの生家であればリズルを任せられる。
現オルガ伯爵や夫人、そしてランスロットの母である前オルガ夫人の人柄はグレアムのお墨付きだ。
前オルガ伯爵夫人はグレアムの乳母であった人物でもあるので間違いない。
オルガ伯爵夫妻は快くリズルをオルガ家に迎え入れてくれた。
当のマルセルとリズルの気持ちがはっきりしているのだから、べつにリズルを貴族の養女にしてまでも体裁を整えなくても良いのだが、それでは口さがない貴族たちを黙らせる事が出来ない。
マルセルと結婚し、貴族社会で生きてゆく事になるリズルを守るために、
イズミルはリズルの立場を盤石なものにした。
ハイラントの有力諸侯の一つであるカストール家と今をときめく最側近ランスロットの生家オルガ家、そして何より国王夫妻を敵に回してまでリズルの出自に対してどうこう言う者はいないだろう。
加えて今回の婚約式を敢えて王城で行いグレアムと共に出席すること事で、この婚姻が国王夫妻が認めるところなのだという事実を国内の貴族たちに知らしめた。
そしてイズミルは総仕上げとして、ハイラント国内でも絶大な人気を誇るドレスメーカーのドレスでリズルを非の打ち所がない女性に磨き上げた。
生まれて初めて化粧をし、マルセルの瞳の色の緑色のドレスを着たリズルを見たマルセルは、この世に存在するであろう女性を褒め称える言葉を全て使い切るほどリズルを賞賛した。
それこそ真っ赤になったリズルがイズミルに助けを求めるほど、マルセルの賛辞は止む事がなかった。
その光景を皆が微笑ましく見つめ、互いに笑い合う。
イズミルはとても稀有な瞬間に立ち会っているのだと思った。
そしてこのような幸せな瞬間が少しでも多く生まれるように、グレアムと共にこの国をより良くしてゆこう、イズミルは心からそう思った。
やはり国とは人と人の集まりだ。
後宮での暮らしはターナと二人だけだった。
時折リザベルが訪れ、太王太后宮の侍女たちも出入りはしていたがあの広すぎる後宮に二人っきり。
不幸だと思った事はないが、やはり寂しさを感じていたのだとイズミルは気付く。
それが今ではどうだ、周りには大好きな優しい人たちがいて、初恋を実らせた最愛の夫が側に寄り添ってくれる。
そしてお腹には彼との子どもが……。
それら全てがハイラントでは手に入らないと諦めていたものばかりだった。
イズミルがどんなに望んで手にしたとしても、この両手から零れ落ちてゆくと思っていたのものだった。
こんな幸せな日々がくるなんて。
机に齧り付いて学んでいたかつての自分に教えてあげたい。
グレアムの側で恩返しをするという目的のために走り続けた日々。
走り抜けたその向こう側に、こんなにも優しい光で溢れた愛おしい日々が待っている事を。
あの日に恋したグレアムと愛し愛される日々が待っている事を。
イズミルは隣に立つグレアムの手をそっと繋いだ。
「ん?どうした?」
温かな眼差しを向け、大きな手で優しく握り返してくれる。
「ふふ、今、幸せを噛みしめておりましたの」
「本当だな、幸せだ」
グレアムが眩しそうにイズミルを見る。
そして頬に優しくキスをしてくれた。
「ちょっ……そこ!主役の俺たちを差し置いてイチャイチャしないで!」
マルセルがこちらに向かって言ってくる。
それをまた皆で笑いあった。
イズミルは思った。
今日という日もまた、忘れられない日となるのだろうと。
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あと2回で番外編の最終話です。




