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後宮よりこっそり出張、廃妃までカウントダウンですがきっちり恩返しさせていただきます!  作者: キムラましゅろう


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番外編 くだらん!

イズミルがハイラント国王グレアムの正妃となって早7ヶ月、結婚式からは2ヶ月が経過していた。


グレアムの妃への寵愛は日が経つにつれ、

ますます深くなるばかりであった。


にも関わらず未だイズミルに懐妊の兆しは無く、

気の早い一部の貴族からは側妃も迎えるべきだという声がちらほら上がり始めていた。


それを国王グレアムは一蹴する。


「バカバカしい。まだ一年も経っていないというに。子が出来ようが出来なかろうが、側妃など迎える気は毛頭ないからな」


眉間にシワを寄せて魔獣の唸り声のような低い声で言うグレアムを見て、側近のランスロットが棒読みで答えた。


「はいはい、わかってますよ。

そんな声が上がってると一応お耳に入れといただけです。第一そんな事を言い出してるのは自分の娘を側妃にしたい貴族の輩ばかりですからね、ホント

くだらないですよ」


「このような戯言、決してイズミルの耳には入れるなよ。彼女の傷付いた姿をチラとでも見てしまったら俺はそんな戯言を吐いた者を八つ裂きにしてしまうかもしれないからな」


グレアムの穏やかではない惚気を聞き流しながらも

ランスロットは主に向かって注進をする。


「もちろん入れるわけないじゃないですか、

でも人の口に戸は立てられませんよ。もしかしたら

もう妃殿下のお耳には入ってしまっているかもしれません」


「なに!?」


ランスロットのその言葉を聞き、

グレアムは勢いよく立ち上がった。


「朝、なんだかいつもと違うなと思っていたのだ、

もしかしたら今頃泣いているかもしれんっ……!」


「え!?ちょっ……陛下っ!?お仕事中ですよっ」


「すぐに戻る!」


そう言い残し、

グレアムは脱兎の如く執務室から走り去った。


後に残されたランスロットが深いため息を吐く。


「……まったく……妃殿下の事になると、いつも人が変わるんだから」





◇◇◇◇◇



「妃殿下、今日はご公務はお休みなのですから、

少しゆっくりされてはいかかですか?」


お茶の用意をしながら、侍女のリズルがイズミルに

向かって言った。


「そうね、

じゃあせっかくだからみんなでお茶を頂きたいわ。

ターナもリズルもソフィアもみんな座って」


「ええ?わたし達もですか?」


女性近衛騎士のソフィア=ローラインが驚いた声を

上げる。


ソフィアは伯爵家の令嬢でありながらも騎士を志し、今ではハイラント初の令嬢騎士としてイズミルの護衛の任に就いている。


イズミルが後宮にただ一人残る第三妃であったと

知った時、ソフィアは不思議と驚かなかった。

いや、驚かなかった自分に驚いたといった方がいいかもしれない。


そのくらいイズミルはグレアムに相応しいと

思っていたから。


一度イズミル自身にグレアムの妃にならないかと

言われたが、その時も自分よりもイズミルこそ

グレアムの妃になればいいのにと本気で思った。

まぁその時は既にイズミルがグレアムの妃であったなどとは想像もしなかったが。

かなり後になって後宮で起きた惨事の事を知り、

イズミルが身を引こうとしていた理由(わけ)も理解できて、あの時のイズミルの心境を思って胸が痛んだのはソフィアだけの秘密だ。


「そうよ、みんなでお茶にしましょう」


イズミルがそう言った時、

ターナが慌ててイズミルの自室に入って来た。


「姫さまっ陛下がお越し…「イズミル!」


ターナが国王の訪を知らせようとしたと同時に

グレアムが入室して来た。


リズルとソフィアが慌てて礼を執る。


「まぁグレアム様、

いかがなさいました?そんなに慌てて……」


イズミルがきょとんとした顔で夫を出迎える。


「あ、いや……」


てっきりイズミルが泣いていると思い込んでいた

グレアムが拍子抜けしたように安堵のため息を吐く。


「いや、なんでもないんだ。

突然政務に空き時間が出来てな、キミの顔が見たくなって来たんだ」


空き時間なんてそんなものはない、

とランスロットのツッコミが聞こえてきそうだ。


「まぁ、嬉しいですわ。

丁度今、お茶をいただこうと思っていましたの。

陛下もご一緒にいかがですか?」


イズミルの笑顔が花のように綻ぶと、

グレアムは眩しそうに目を細めて答えた。


「もちろん」


というわけで急遽

国王夫妻のお茶の時間と相なり、侍女たちは二人の

お邪魔にならないようにと別室にて待機していた。


まぁ……新婚だし、相思相愛だし、

世継ぎの誕生も切望されているわけで……。

お茶だけで済まなかった事でグレアムを

ケダモノ扱いするわけにはいかないだろう。

多分。



それからひと月ほどが経ったある日の事だ。


かつて先王の治世時代、ジルトニア大公国へ大使として赴任していた経験もある、ブリソン伯爵が

グレアムに謁見を求めて来た。


内々の話なので執務室で良いと向こうが言うので、

ランスロットはブリソン伯爵を執務室へ通した。


「この度は急なお願いにも関わらず、拝謁の許可を

賜りました事、誠に恐悦至極に存じます」


50代前半の恰幅の良いブリソン伯爵がグレアムの前で臣下の礼を執る。


「いや、かまわん。

それで?内々の話とはなんだ?伯爵」


「はい、この度末娘のミレーユが永く遊学していたハイラム王国から帰国いたしまして。これが親の贔屓目を差し引いても中々出来た娘でして……」


「ほう……それで?」


「見目が良いだけなく中々に聡明ではあるのですが……如何せん勉強ばかりしておりましたので、

行儀作法が今ひとつなのであります。そこで是非行儀見習いとして妃殿下のお側に置いて頂けたらと思いまして……」


「……イズミルの?」


「はい。妃殿下はマナーや礼法など全て完璧にマスターされていると聞き及んでおります。そのようなお方の側で学べれば、きっと娘も妃殿下のような素晴らしい淑女になれると思った次第にございます。このような事をお願いするのは甚だ心苦しくはございますが、どうか愚かな親心と思し召し頂ければと……」



そこまで聞き、グレアムは椅子から立ち上がって

窓の外を見、ブリソン伯爵に背を向けた。


「確かに我が妃は完璧だ。見目が美しいのはもちろん、心も美しい。数カ国語を操るだけでなくエンシェントスペルにも精通し、加えて呪術の解呪のスペシャリストだ。宮中や各国の祭事、礼法、礼節に詳しくその歴史にも造詣が深い」


つらつらとイズミルを誉め讃えるグレアムに

ブリソン伯爵は同調する。


「そうでしょう、そうでしょう」


「しかもそんな完璧な女性であるにも関わらず、少しも驕ったところがないのだ。それどころか謙虚にして控えめ、決して我を通す事なくいつも周りの者を立てる。しかし、言うべき事はハッキリと発言し、間違った事は間違っていると言える正しさも併せ持っているのだ」


「な、なるほど…でしたら尚更…「それにだな!弱き者へ手を差し伸べられる優しさとその者を守ろうとする強さも持っている。歌が上手く、複数の楽器の演奏も出来る。ダンスも私の癖やタイミングまで全て熟知してくれていて踊りやすい事この上ない。彼女の素晴らしい所はまだまだ有るがとりあえずはこのくらいにしておくが、そのくらい我が妃は完璧な女性なのだ」


発言しようとしたブリソン伯爵に被せるように

尚も妃自慢を聞かされ、その間ブリソン伯爵は口を

パクパクさせている他なかった。


しかし漸く妃自慢が終わり、

ブリソン伯爵は先ほどの言葉を言い直そうとした。


「そのような完璧な妃殿下のお側に置いて頂けるのであれば……「しかし却下だ」


が、結局はまた最後まで言わせて貰えなかった。


グレアムはブリソン伯爵を一瞥する。


「何故、伯爵の娘の教育に我が妃が協力せねばならんのだ。彼女には公務もあるというのに。そのような事は本来なら太王太后へ頼むのがスジであろう?貴族令嬢の城への行儀見習い等は太王太后宮が取り仕切っている事を知らぬ伯爵ではないだろう」


「で、ですから内々にお願いをと……」


「特例は認めん。却下だ。どうしても言うのなら、

太王太后に頼むがいい。用件はそれだけか?用がないなら下がれ」


「っ……御前、失礼いたします……」


グレアムから微かな冷気を感じた伯爵は

それ以上は何も言わず執務室を後にした。


グレアムが乱暴に椅子に座る。


「まったく……!くだらんっ!!」


ランスロットが呆れたように言った。


「妃殿下の側で行儀見習いなんて建前もいいところですね、その実は陛下の近くへ自分の娘を送り込みたいのでしょう。陛下の側にさえ行ければなんとでもなると思ったのでしょうが……いやはや、相当な自信ですね」


「ホンっトにくだらんっ!!

そんなくだらない事のためにイズミルを利用しようだなんて万死に値するっ」


ドンッとグレアムは机を叩いた。


ランスロットはため息を吐いた。


しかしこれは始まりに過ぎないだろう。


妃殿下がお世継ぎをお産みにならない限り、

こういう輩は有象無象に現れる。


それがいつかイズミルの心を傷付けないか、

心配しているのはグレアムだけではなかった。





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