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4月1日書籍発売 忘れられた妃ですので 〜初恋の旦那様に贈るしあわせな再婚〜  作者: キムラましゅろう


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ユニコーンの封印箱

「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ……」


イズミルの恩師グレガリオが王城に召喚されて早3日目。


その日、なんとも愉快そうにグレガリオが執務室から出て来た後から、国王グレアムの機嫌はずっと悪かった。


怒っているわけではない。

しかし明らかに何かに対して気分を害しているようなのだ。


それがなんなのかわからないまま、側近達や侍従達はこれ以上国王の機嫌を損なわないように慎重に行動していた。



そんな不機嫌王は、執務室で各部署からの報告書に目を通していた。

しかしなんだか集中出来ない。


何故これほどまでに心乱されるのか、グレアムには理由がわかっている。


先ほどグレガリオが以前霊廟から発見されたユニコーンの目についての見解を述べに来た。


イズーを探しているのだが見つからず、執務室に居るのではないかと訪ねて来たそうだ。


しかしイズーが居ないとわかり、退室しようとするグレガリオを引き止めてユニコーンの目に関する賢人の見立てを先に聞く事にしたのだ。


グレガリオはこう言った。


「これはガラスの球体に見えますが、これ自体が魔力の塊で出来ておりますのじゃ」


「ほう……これがか」


左様(さよう)。かなり高位な、そして純度の高い魔力ですぞ。それは間違いなく聖獣ユニコーンの魔力から出来た世界でも稀に見る開封が困難な封印箱なのです」


「何?ユニコーンの魔力?」


執務室に居たランスロットが繁々と球体を見つめる。


「これが封印箱とは……」


「ふぉっ、ふぉっ、さすがはダンテルマ様じゃ。このような逸物を用意出来るとはのう♪ますますファンになっちゃったぞい」


「左様ですか……」


ランスロットが目を眇めて返事した。


「では、この中に規範の書の一部が隠されていると?」


「そう考えても良いでしょうな」


「開封困難と言ったが、なぜ困難なのだ?何か特別な道具でも要るのか?」


「特別と言えば特別ですな。尤も必要なのは道具ではなく、人ですかな」


「人?特殊な能力者か?」


「まぁそんなところですかのう。この封印を解くためには、エンシェントブラッドを持つ清らかな処女(乙女)の血が必要なのですわい」


「清らかな処女(乙女)……」


「しかもピチピチの若くて瑞々しい女の子の♪もし処女(乙女)でない女性や、ましてや男の血なんか塗ったりたら、たちまち封印箱の魔力で串刺しにされてしまいますわい。それこそまさにユニコーンの角の様な魔力で……お~怖っ」


グレアムは机を叩いて憤慨した。


「なんだそのいやらしい条件は!」


「いやらしくは無いですぞ、ユニコーンの尤も愛するものは清らかな処女(乙女)ですからな♪」


「なるほど、確かにエンシェントブラッドの血筋で未婚の若い娘となると、なかなか見つけられませんよね……」


ランスロットが顎に手を当てながら言う。


「誰かご存知ありませんかな?エンシェントブラッドの若い可愛い女の子♪」


「容姿は別に必要ないのでは?あ、そういえば、イズーはどうです?彼女はエンシェントブラッドを持つ身ですよ!」


その言葉を聞いた瞬間、グレアムの顔から表情が消えた。


そう。だって彼女は……。


「ふぉっ、ふぉっ、我が愛弟子は既婚者ですぞ」


「あ……そうでしたね……」


「既婚者で、夫がいる身となれば……ねぇ?」


「ねぇ?ってなんですっ、わたしに振らないで下さいよっ」


明言を擦りつけ合う二人を遮るようにグレアムが告げた。


「もういい、封印箱については後でイズーも交えてもう一度検討しよう。グレガリオ、下がっていいぞ」


「でわ♪御前を失礼致しまする♪」


ふぉっふぉっふぉっと独特な笑い声を響かせながらグレガリオは執務室を去って行った。



後には急に不機嫌になったグレアムとランスロットが残された。



「……陛下、エンシェントブラッドの娘を探すのであれば、人脈の多い太王太后様を頼られるとよいかと存じます」


「……ああ」


それっきり、グレアムは黙り込んだ。


それを見たランスロットはため息を吐き、

「お茶を淹れて参ります」と告げ、執務室を出て行った。



グレガリオに暗にイズミルが処女ではないと言われた時、グレアムは胸の内が焼かれるような痛みを感じた。


自分の知らない誰かがあの髪を梳き、あの白い肌に触れた。

彼女の吐息も何もかもがそいつのものなのだと思うと、たまらない焦燥感に駆られた。


その男を殺してやりたくなる。


しかし……自分にはどうする事も出来ない。


どうしようもないのだ。


その後もグレアムはもう只々悶々欝々とした時間を過ごした。



今日の政務を終え気分転換に庭園でも散歩するかと執務室を出た所で、側近室がやけに騒がしい事に気付いた。


グレアムと共に執務室から出て来たランスロットが何事かとマルセルに問う。


「あ、やっと出て来た。機嫌直った?いやぁ、見ものだったんだよ、あのガラスの球体って封印箱だったんだってね?ユニコーンの魔力から出来た特別なものだって聞いた?」


マルセルに逆に問われ、グレアムが不機嫌そうに答える。


「……ああ聞いた。それで、何が見ものだったんだ?」


「それがね、グレガリオ先生にユニコーンの目の種明かしを耳打ちされたイズーが顔を真っ赤にしながら封印箱を開封したんだ」


「……!?」


「え?イズーが!?ど、どうやって!?」


ランスロットが食いつき気味に尋ねた。


「どうしたの?そんなに慌てて」


「いいから、早く答えて下さいよ!」


焦れたランスロットが続きを促す。


「いやね、グレガリオ先生から何やら聞いたイズーが指先をちょっとナイフで切ったんだ。一瞬何を?とか思うでしょ?そしてその指先から出て来た血をユニコーンの目に塗りつけたんだよそしたら途端に……」


「途端に?」


「球体が急に大きくなって、それからパカっと二つに割れたんだ。そして中から書物の一部らしき物が出てきたんだから驚くよね!」


「……解いた?封印を?イズーが?」


要領を得ない感じで聞いてくるグレアムにマルセルは呆れた様に言った。


「だからそう言ってるでしょ?」


「イズーが……?解いた……?」


呆然とするグレアムに代わって…かどうかは知らないが、ランスロットが言った。


「しかしそのイズーの姿が見えませんが、彼女はどうしたんです?」


「ああ、切った指先はほんとちょっとだったけど念のために医務室に消毒に行かせたんだ」


「なるほど、それは大事ですね」


「そうでしょ……」


「解けた……ユニコーンの封印が……?」


「ちょっ……さっきから何?どうしたの?陛下?」


マルセルが訝しげにグレアムに詰め寄ったとき、後ろからあの独特な笑い声が聞こえた。


「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ……これはこれは皆さん、お揃いで♪」


飄々と現れたグレガリオにランスロットが尋ねた。


「グレガリオ先生……イズーが封印を解いたとか、これは一体どういう事です?」


「ふぉっふぉっ、どうもこうも、そういう事じゃな」


「だからどういう事です?」


「イズーは処女(乙女)じゃった、そういう事じゃよ♪」


「でも彼女は既婚者ですよね?」


「まぁ白い結婚?そういう事なんじゃない?ふぉっふぉっ」


「白い……結婚」


グレアムが呟きながら反芻した。



これは……本当にどういう事だ?


イズーは夫と契りを交わしていない?


わからない、わからないが……口の端が上がるのが止められない。


〈いやでもだからといって、彼女が既婚者である事に変わりはないのだから〉


自分をそう戒めても、グレアムは心が安堵と喜びに満たされるのを感じていた。


俺は一体どうしたい?


一体、どうすれば………。


しかしいくら考えても答えが出ない。


二つに割れたユニコーンの目を見つめながら、グレアムは大きくため息を吐いた。





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