拗らせ王、またまた怒る
「おい、そういえばイズーの姿が見えないが、どうかしたのか?」
ハイラントへ向けて出立して間もなくの時に、グレアムが側近のランスロットに向けて言った。
「そういえば今日はまだ姿を見てませんね」
ランスロットが答える。
「え?まさかイコチャイアに忘れて来た?」
マルセルが軽口を叩くのを睨め付けながらランスロットが言った。
「そんなわけないでしょう。只今侍従長に確認して参ります。お待ち下さい」
ランスロットは手綱を引いて馬首を振り向かせ、直ぐさま隊列の後方へと駆けていった。
それからややあって、ランスロットが戻って来た。
何やら眉間に皺を寄せている。
あまり表情の変わらないランスロットにしては
珍しい事だ。
グレアムはなんとなく嫌な予感がした。
「どうした」
グレアムが馬車の中から尋ねるとランスロットは敢えてかはわからないが抑揚を付けずに話した。
「陛下……落ち着いて聞いて下さいね」
「なんだ……?」
グレアムの眉間にも皺が寄る。
「イズーなのですが、家族の墓が近隣にあるとかで、休暇を取って一人別行動にて墓参りに行ったそうです……」
「……一人でか?」
「はい、侍従長の話しでは。
事前に太王太后様に許可を頂いていたとかで!それを侍従長に止める権限は有りませんからね」
「墓の場所は聞いてるのか?」
「いえ、そこまで聞いてないそうです」
「なぜ聞かないっ!!」
「落ち着いて下さい陛下。しかしイズーから帰りの長距離乗り合い馬車を乗るならどこからが良いか聞かれたそうで、イコリスからの発着の馬車なら、イコリス騎士の護衛付きで安全だと教えたそうです」
「……ではイコリスに行けば拾えるな……」
「……陛下?」
「馬車を止めろ」
「陛下?」
訝しむランスロットを他所にグレアムは停車した馬車から降り、各自へ指示を飛ばした。
「他の者は先にハイラントへ帰城しろ。ランスロット、マルセル、ゲイルは俺に着いて来い。誰か、俺の馬を連れて来いっ!」
その指示にランスロットが食い下がる。
「お待ち下さい陛下!彼女は子どもではないのです。ちょっと墓参りに行って戻って来るだけですっ。しかもイコリスから馬車に乗るなら危険は少ないはずですし、それに陛下がわざわざ行かれる必要はどこにもございません!」
ランスロットのその進言をマルセルとゲイルは黙って聞いていた。
「どうしてもと仰るなら、マルセルとロッドに迎えに行かせますので、陛下はどうかこのままハイラントへお戻り下さい」
「ランス」
「はい」
「俺は怒っているのだ」
「はい?」
「イズー、あんな目に遭ったばかりだというのに、なぜこんな行動が取れるんだ?女の一人旅がどれほど危険か、あいつはわかってないのか?俺は……すぐにでもとっ捕まえて、どやしつけてやらねば気が済まんっ!」
「なんですかその理屈は……」
「うるさい、とにかく俺はもうイコリスへ向かうぞっ!」
そう言ってグレアムは自らの愛馬に颯爽と騎乗した。
「マルセル、ゲイルっ、着いて来いっ!」
グレアムは単騎、駆け出した。
「陛下っ!お待ち下さいっ!!」
引き止めるランスロットに馬上からマルセルが言う。
「まぁ言い出したら聞かない人だからね、仕方ないよ」
「ランスロットさん、とにかく陛下を追いかけますっ!」
言うが早いかゲイルが駆け出す。
マルセルもそれに続いた。
「まったく……」
ランスロットはとにかく残された騎士達に、隊列を護衛し先に帰城するように指示を出してグレアム達の後を追いかけた。
そもそもグレアム一人で一騎当千ではあるので護衛は要らないのだが、それでは国王としては示しがつかないのである。
〈しかし……近頃の陛下はどうもおかしい。イズーの事となるとお人が変わるようだ……これはもしかして……もしかするのか?〉
もしそうなら少々、いやかなり面倒な事になるとランスロットは馬上にてため息を吐いた。
そうしてグレアムたち一行はイズミルの到着より一足先にイコリス入りをし、各方面から乗り付ける中央停車場にてイズミルが来るのを待ち構えていた。
そして現れたイズミルを怒髪天を突いたグレアムが捕らえたのである。
◇◇◇
「こんの……っ、バカもんがぁぁっ……!」
イズミルは驚愕した。
なぜ一足先にハイラントへ戻ったグレアムがここにいるのか。
「へ、陛下……?な、なぜ……?」
「なぜもへったくれもあるかぁぁっ!!」
ドーーンッ!!
イズミルが恐る恐る問いかけると途端にグレアムの雷が落ちた。
魔力により、本物の小さな雷も同時に。
「キャアッ」
イズミルが耳を押さえて疼くまる。
昔から雷は苦手なのである。
物理的にも雷を落としたグレアムをマルセルが後ろから止めに入った。
「ま、まぁまぁまぁ!陛下!気持ちはわかるけど落ち着いて、ほらイズーが怖がってるからっ」
「っく……!」
グレアムはイズミルの元へと歩み寄る。
「……少々怒り過ぎた、すまん」
そう言って手を差出し、イズミルを立たせる。
イズミルは立ち上がりながらグレアムに言った。
「い、いえ……大丈夫です。でも本当になぜ陛下がこちらへ?」
「……お前が勝手に一人行動など取るからだろう。道中何かあったらどうする!」
「も、もしかしてそれでわざわざ迎えにいらしたのですか?」
「当然だろう。あんな目に遭ったばかりだぞ、危なっかしくて放っとけるか」
「そ、それはご心配をおかけして本当に申し訳ありません……」
イズミルは驚いたやら居た堪れないやら少しだけ嬉しいやらでなんとも言えない複雑な気持ちになった。
「皆さんも、ご迷惑をおかけしてすみません」
イズミルがランスロット達にも謝ると、マルセルが笑いながら言った。
「まぁ隊列を組んでのつまらない道中より少人数での気ままな旅の方が楽しいから僕は大歓迎だけどね」
「お前はホントのん気でいいですよね……」
ランスロットが呆れ半分といった様子で言った。
「とりあえず今日の宿を探しましょうか」
ゲイルが一同を促す。
イズミルは荷物をマルセル馬に乗せて貰い、馬の手綱を引き歩き出す皆に着いてゆく。
まさかグレアムが迎えに来てくれるとは思ってもみなかった……。
ハイラントの隊列は大丈夫なのだろうか。
騎士は皆、隊列の方に残したみたいだが、申し訳なくて仕方ない。
まぁ墓参りを強行した事に後悔はないが。
しかしまたまた困った事が起きてしまった。
今夜泊まるホテルや小さな宿屋は皆満室で、どこにも空きがないのだ。
「申し訳ございません。この時期、イコリスは祭りがありまして、各地から人が集まるんですよ。なのでどこのお部屋も埋まっておりまして……」
宿屋の亭主が心底申し訳なさそうに言う。
もしここで、グレアムが身分を明かせばたちまちに部屋は用意されるだろう。
しかしそれは他の誰かを追い出す事となる。
それは一行の本意ではない。
ならばイコリスの王城の方に使いを出して一晩の滞在を願い出るか?
ハイラント王の突然の来訪となると、それなりのもてなしをしなくてはならなくなるだろう。
ただでさえ祭りで忙しい皆に迷惑がかかるのは間違いない。
よってそれも却下だ。
では一体どうすれば……一同が困り果てた時に、宿屋の亭主が提案をしてくれた。
「楽団の一座がホールで寝泊まりしているのですが広いホールだし、寝場所くらい確保出来ると思います。……お客様達は見たところ貴族様でしょうが、もしそれでもよろしければ、手前どもの方で取り計らいますが……いかがでしょう?」
雑魚寝にはなるがきちんとした寝具はあるそうだし、楽団の中には女性もいるとの事なのでイズミルだけが目を引く事もなさそうだ。
それにもう夕闇が迫りつつある。
野宿よりはマシだと、グレアムは今宵の宿をここにと決めた。




