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後宮よりこっそり出張、廃妃までカウントダウンですがきっちり恩返しさせていただきます!  作者: キムラましゅろう


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初夏の大夜会

暗くて重い過去編にお付き合いくださりありがとうございました。

今回から本編に戻ります。



「いよいよですね、夏の大夜会」


高等官吏のゲイル=ロッドが声を掛けてきた。


イズミルは夜会に関する書類をグレアムに

提出するべく執務室へ向かっている時の事だった。


ゲイルは爽やかな笑顔をこちらに向けてくる。


なるほど、これは城に勤めるメイドさん達が

騒ぐわけだ。


〈市井にいるという婚約者さんも

 心配されているのでは?〉


余計なお世話と思いつつも

イズミルはふとそんな事を考えてしまった。


「ええ。いよいよです。

わたしは裏方とはいえ初めての参加ですので

緊張しますわ」


毎年、王城で社交シーズンの幕開けを告げる

国王主催の夜会が催される。


今まで後宮に閉じこもっていたイズミルは

当然初参加となる。


側近の補佐という裏方だが。


それでも毎年話に聞くだけだった大夜会を初めて

この目で見られるのだから、

イズミルはとで楽しみにしていた。


なんと今年の夜会は

リザベルの生誕八十ウン歳を記念して、

国王グレアムと太王太后リザベルの

ファーストダンスが披露されるらしい。


あの事件からもちろんグレアムは王城主催の

夜会といえど、王妃不在を理由として

ファーストダンスを取りやめていた。


しかし今回リザベルに

「冥土の土産」というたっての願いを発動されて、

グレアムが渋々聞き届けた……らしい。


まだまだお元気とはいえやはり八十ウン歳の

リザベルへの配慮として、ダンスの曲、踊りの種類をイズミルが決める事になった。


その内容が書かれた書類をグレアムに提出するために執務室に向かっているのだ。


〈グレアム様のダンスかぁ……素敵なんだろうなぁ〉


イズミルは想像して一人でうっとりとした。


「ロッド様は婚約者様といらっしゃるのですか?」


イズミルが問うと

ゲイルは少しはにかみながら言った。


「ええ。陛下に是非にと言って頂いて。

でも彼女は気後れして心配しているんです。

何か不作法をしたらどうしようと」


〈確か婚約者様も平民でいらしたものね。

そんな事、グレアム様はお気になさらないと思うけど、婚約者様にしてみれば畏れ多いと思ってしまうわよね〉


「大丈夫ですわ。陛下自身が不作法上等で

生きておられるような方ですもの。なんの心配も

要らないと、婚約者様に伝えて差し上げて下さいませね」


イズミルが敢えて軽口でそう言うと

ゲイルは微笑んで、

「そうですよね、伝えます」と言った。



そうこうしているうちに


とうとう夜会当日を迎えた。


イズミルはその日

裏方の人間らしく、控えめなワンピースドレスを

着るつもりであった。


しかし当日の朝になって突然、

太王太后宮の侍女達がドレスと装飾品を持参して

押し寄せて来た。


「な、なぜ!?どうして!?」


と狼狽えてるうちにターナによって

夜着を脱がされ、バスタブに放り込まれる。


そしてターナと侍女達に寄ってかかって

全身を磨き上げられた。


そして化粧を施され髪も夜会用の華やかなものに

結い上げられる。


「ちょっと待って、これは一体どういう事なの?

リザベル様は何故このような事を?」


イズミルが侍女達に問うも

侍女達は、「太王太后様に直接お聞き下さいませ」

としか言わない。


あれよあれよとドレスまで着せられ、

姿見の前には成人してから初めて正式に着飾った

自分の姿があった。


「わぁ……!」


センスの良いリザベルが

イズミルのために選んだであろうドレスは

とてもイズミルに似合っていた。


瞳の色に合わせた淡いスミレ色のドレスは

流行のオフショルダーとふくらはぎ丈のものだ。

ふんわりとしたシフォンで仕立てられてはいるものの、広がり過ぎず絶妙なラインを醸し出している。

華美にならないよう小さなペンダントトップのアメジストのネックレスとイヤリングがまるでイズミルの瞳のように輝いている。


でもドレスで着飾るなんて

公女であった時以来である。


イズミルは戸惑いを隠しきれなかった。


〈リザベル様はどのようなおつもりでこんな事を?〉


その時、

夜会の開始時刻が迫っていると告げられる。


リザベルの侍女たちに伴われて、

イズミルは夜会会場へと向かった。







◇◇◇◇◇




国王グレアムがハイラントの夏の訪れを

高らかに宣言する。


それにより夜会と、

ハイラント社交界の今シーズンの幕開けとなる。


皆の前で開催のスピーチを終えた後の

グレアムの耳に不測の事態が告げられる。


この後すぐに行われる国王と太王太后の

ファーストダンス。


しかしリザベルが足を負傷し、

踊れなくなったというのだ。


「大丈夫なのですか、おばあさま。

それでずっと椅子に座っておられるんですね」


グレアムがリザベルに言った。


「そうなの、ごめんなさいね。

せっかく(わたくし)の我儘を聞いて貰ったというのに……」


リザベルが申し訳なさそうに言うと、

グレアムは微笑んだ。


「仕方ありませんよ。残念ですが

ダンスは取り止めに…「何を言っているのです、

プログラムにも記載されていて、皆が数年ぶりの

貴方のダンスを楽しみにしているのですよ!」


取り止めようと告げようとしたグレアムの言葉に

被せるようにリザベルが言った。



「……しかし、足を負傷されたのではダンスは

踊れないでしょう。ご無理をされてはいけません」


「無理はしないわ。名代を立てます」


「また名代ですか!?

……俺は嫌ですよ、知らない女性といきなりダンスだなんて」


グレアムが眉間にシワを寄せて言った。


段々と警戒の気配を醸し出してきている。


「知らない相手ではないわ」


その時、グレアムの側近のランスロットが

会話に入って来た。


「リザベル様、陛下のファーストダンスは

臣下の皆が注目しております。迂闊にどこかの

高位令嬢と踊られますと、下手な憶測を生んで、面倒くさい事態になりかねません。そこのところを踏まえてお考え頂きたく存じます」


「面倒くさいと言ったわね、…まぁいいわ。

大丈夫よ。ダンスの相手には王宮魔術師による時間差認識阻害の魔術を施してあります。ファーストダンスが終わった後には皆がぼんやりとしか顔を思い出せないようにしてあるの。だから思いっきりダンスを披露して来て頂戴」


それを聞き、グレアムは呆れた。


「はぁ?そ、そこまでして俺に踊らせたいのですか?」


「貴方に、というよりあの子にね。

思い出を作ってあげたいのよ……」


「え?」


リザベルが小さく呟いた声は

グレアムには届かなかった。


リザベルはぱんっと、手を打ち場を整えた。


「とにかく!

(わたくし)の冥土の土産を叶えてくれるのでしょう?国王()に二言はありませんね?貴方には私の名代、イズーと踊って貰います!」


「え……?イズーと?」


「イズー、ここへ」


グレアムはリザベルが声を掛けた方へ

慌てて視線を移す。


するとそこには事態の状況に驚き目を丸くして

立っているイズミルの姿があった。






































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