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ジルトニア滅亡 4

更新遅れました。

色々と連載を欲張るからですね、申し訳ないです。


今回もお読みくださり本当にありがとうございます。

ジルトニアでの後始末が一応片付いた後、

グレアムは一度ハイラントに戻り、

イズミルと対面してその意思を確認した。


「キミが成人するまでその国土の守護は責任を持って俺が引き受けよう。しかし成人後はどうしたいか?国に戻り、然るべき相手と婚姻を結び直して大公家を復活させ、女性大公として国を治めてゆくという方法もある」


グレアムのその提案にイズミルは首を振る。


そして10歳の少女とは思えない強い意志を持ち、

グレアムに答えた。



「畏れながら殿下、わたくしが成人するまで10年の月日を要します。その間、殿下のお慈悲にお縋りし続けるのも策ではありますが、きっとその後はもう以前のジルトニアとは違う国になっておりましょう。わたしが国に戻ればきっと民は喜びます。でもそれは象徴的なもので、年若い女性大公にいずれ不安を募らせるばかりとなるはず……その時、我こそはと第二第三の宰相のような者が現れないとは限りません。そうなればまた国が荒れます。ここまで国力の落ちたジルトニアがまた乱れれば、破滅の道を辿るしかございません。ならばいっその事、ハイラントの属州の一つにお迎えいただきたく存じます」


その迷いのない聡明な意思にグレアムは驚いた。


10歳の少女には今後の祖国の行く末を左右する決断はまだ無理であろうと高を括っていたのだ。


自分が道を示し、導いてやらねばいけないと。


しかしただ一人遺された元公女であるイズミルを蚊帳の外に放り出して勝手に事を進めるわけにはいかないと思った上での相談だったのだが……


イズミルの正しく先を見据えた判断に

グレアムは内心驚かずにはいられなかった。


「……祖国を失う事になるが、キミはそれでいいのか?ジルトニアという名はただの地名となるのだぞ?」


「悲しくないと言えば、無念でないと言えば嘘になります……でも国は王家のためのものではありません。国民皆のものだと亡き父は言っておりました。わたくしが望むのは国民の安寧な暮らしです。ハイラントの属州となれば他国からの干渉も防げます。殿下のような方がいずれ国王となられる国であれば、安心してお任せする事が出来ます。きっと亡き父もそれを望んでいると思います……」


ここまで言ってイズミルは

行儀良く重ねられていた手をスカートの上でぎゅっと握りしめた。


今まで我慢していたのだろう、

堪えきれなくなった感情がじわじわと

イズミルから溢れ出していた。


どれだけ大公家の公女として、

そして王太子の妃として過不足なく育てられているとはいえまだ10歳の少女なのだ。


その行動が正しいのかグレアムにはわからない、

だけどグレアムの手は動いていた。


ぽん、とイズミルの頭の上に手を置いた。


「泣いてもよいのだ」という意思表示のつもりだった。


するとそれを理解したのか

小刻みに震えながらイズミルから微かな嗚咽が漏れ出した。


力一杯握られた小さな手にポロポロと涙の粒が降りかかる。


付き添いとして隣に座っていた王太后リザベルが

そっと肩を抱き、幼い体に寄り添った。



少ししてイズミルは落ち着きを取り戻し、そして言った。


「取り乱してしまい申し訳ありませんでした。でも殿下、これだけはお伝えしたいわたくしの気持ちがございます。もう少しだけお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」


「ああ。構わないよ」


それを聞き、イズミルはすくりと立ち上がり、

最上級の礼を執った。


淑女としてのカーテシーよりももっと上位の礼である。



「この度の事、殿下には感謝してもしきれない程の恩義を感じております。弱小国の内乱など捨て置いてもよいものを、わたくしを見捨てる事なくお守り下さいました。それどころか亡き家族の仇も討っていただき、更にはジルトニアの国土をも救って下さったのです。このご恩をどうやってお返ししたらよいのか未熟なわたくしには見当もつきません」



ここまで言い、

イズミルは顔を上げて真っ直ぐにグレアムの目を見た。


強い意思の光が彼女の瞳に宿っていた。



「だけど必ず、この生涯をかけて、殿下とこの国に恩返しがしたいと思います……!」



いつのまにか拳を握り前のめりになっているイズミルを見て、

グレアムは優しい微笑みを浮かべる。



「同じく国を統べる者として、そしてキミの夫として当然の事をしたまでだ。そんなに律儀に構えすぎるな、もっと楽にしてくれ。キミはまだ幼い。ただ健やかに成長してくれればそれでいい」


その時のグレアムの接し方は

夫というより兄のような感じであった。


彼自身の気持ちの上でもそうであったのだろう。


しかしイズミルが恋に落ちるには十分すぎた。


〈この方の妃になれてわたしはなんて幸せなのでしょう……!嬉しくて誇らしくて、こんなにも心が揺さぶられる……!〉



一度意識してしまうと

もうまともにグレアムの顔を見られなかった。


グレアムが部屋を出て行くまでイズミルはずっと俯いたまま、

顔を上げられなかった。


耳や頸まで真っ赤に染め上げ、

もはやまともな鼓動は打てないのではないかと思うほどの早い鼓動に必死に耐えていた。


わずか10歳の身に宿った恋心である。


しかし幼い初恋と侮ることなかれ。


これよりじつに10年間、

イズミルは初恋の相手グレアムを想い続けたのである。



あの恐ろしい事件が起き、


後宮が廃された後も変わることなくイズミルの心の中に在り続ける。



自分が廃妃された後

それに伴い王室規範を作り直す事を知った時、


イズミルは規範改定によりグレアムに新しい妃を迎え入れ易くする事こそ、自分がグレアムやこの国に出来る恩返しであると考えた。


そして妃として出来る、最初で最後の仕事だと。



そして時は来た。



イズミルはこの城で暮らす最後の一年を

グレアムのために生きると心に誓い、側に上がった。



たとえ拒まれようとも疎まれようとも

恩返しが押し付けであったとしても、

最後の日まで決して側から離れない。



再びそう決意し、


イズミルは明るみ始めた窓の外を見つめたのであった。











これにてイズミルの過去の話はとりあえず終わります。

次回からはまた拗らせグレアムとの日々です。


……それにしても

昔のグレアムの方が大人の男感がする。


またお読みいただければ嬉しいです。

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