プロローグ18歳③ 再会と決意
ぽつりぽつりと頬を濡らす。濡れる瞳が写したのは走り回る騎士と見慣れた人間に話を聞いている騎士たち。慌てふためく人間の音、タイルを歩く音、ガヤガヤと周りの音を耳が拾っている。むかし聞いたことがある音だなぁっと自分のことなのにまるで夢を見ているような感じがしている。いいやこれは悪い夢以外のなんでもないと自分に言い聞かせる。父も母も生きていると少ない可能性を信じるために自己暗示をかける。
その邪魔をするように誰かが声をかけてきた。
「少年、君もディアー村から送られてきたのかい?」
甲冑を身にまとった人間が優しくされど雄々しい声が俺に尋ねてきた。ディアー村は自分たちが住んでいた村だったため頷いた。
「少しお話を聞かせていただけるかな?」
俺は頷いて案内されるまま騎士について言った。詰所のようなところに到着し部屋に入らされて椅子に座るように指示された。俺は言われるがまま椅子に座った。
「少年、君の名前と村で何があったか教えてくれるかな?」
目を閉じても蘇る光景、今でも夢だと思いたい光景を口に出す。
「名前はダンギク、村で急に灰色っぽい人型のものが現れて…そ、それで父さんが刺されて…母さんがお、おれを逃がすために森で…」
「ダンギクだと…少年、父と母の名前を教えてくれ」
騎士の顔は悪い
「父さんはアスケラ、母さんはサルビア」
その名を聞いた途端騎士の顔は真っ青になった。
「あの方達が敗れた…そんなまさか…そんな化け物が襲ってきた…」
ブツブツと騎士は呟く
「母さんが魔人が復活して魔王の復活が近い。ま、魔人といわれるものは瘴気を隠すすべがあること…そして漆黒の剣と銀の賢者が四天王に殺されたっで伝えろって」
俺は知らずに涙を流していた。もう両親が死んだことは頭で理解していた。
騎士は立ち上がり俺に言った。
「少年、少しここでまっていてくれないか。少し上と話をしてくる」
俺はただただ頷いた。俺は何もせずに、何もできずにただただ座っていた。
しばらくすると扉が開き2人の女と1人の男が入ってきた。それは今でなければ懐かしくまた妬ましく感じていただろうが、今はただただ見たくない顔だった。
「久しぶり、ダン」
少年が、ジニアが声をかけてきた。
俺は頷いた。
「それぐらい返しなさいよ!」
と怒りながらアイビーが言ってきた。
「まあまあアイビーも落ち着いて」
それをジニアが収めるという懐かしい風景がそこにはあった。
「じゃあ辛いと思うけど何があったか教えてくれないか?」
俺は騎士に話したことをそのまま話した。そしてまだ言えなかった心の内を言った。1度言い出すと止まらなかった。
「俺を庇って父さんが刺されて母さんも俺が弱いせいでしん…だ。俺が死んでいればさっさと価値のない俺が死んでいれば父さんと母さんは死ななかった!俺なんか死ねばよかっ「パァン!」 」
俺はありえない衝撃を受けて吹き飛び壁にぶつかった。アイビーが俺を叩いたことがあとからわかった。
「俺なんか?死ねばよかった?ふざけるな!ダンの言葉で2人の死を穢すな!あんたがあんたの価値を下げる度に2人がなんで死んでしまったか分からなくなるだろ!生きろ!2人の分まで生きろ!」
アイビーが泣きながらそう言っていた。
「だけどもう…」
「うるさい!黙れ!生きて何かしろ!」
そう叫んでアイビーは部屋から飛び出した。
「ははっ、アイビーがまたごめんね。でも僕もアイビーの言う通りだと思うよ。辛いかもだけど2人の分まで生きなきゃ」
そう言ってジニアも部屋から出ていった。部屋にいるのは俺とフリージアだけになった。俺は言った。助けをこうように、許しを求めるように弱々しくなった声を発した。
「ジアは俺のせいで死んだと思ってるんだろ?俺がいなけりゃ2人は死ななかったって。弱い剣士の俺が死んだ方がよかったってそう思ってんだろ?」
ジアは少しの沈黙の後口を開けた。
「……ダンのせいで2人が死んだのは自明。……2人が死んだのはとても辛い」
「そうだろ。だったら俺は死ぬべ」
「だけど!」
フリージアが今まで出したことない声量で言葉を発したことに驚いて言葉が止まった。
「ダンが死ぬのもとても辛い。……強いか弱いかで価値は決まらない。……今ダンが今してる行いがもっとも価値を下げる。……今ダンがしているのは自分が許されたいから、辛い現実からの逃走、アイビーが言っていたような2人の行動への冒涜」
俺は頭がぐちゃぐちゃになっている気がした。心のままに声を出した。
「だったらどうすればいいんだよ!どうしたらよかったんだよ!俺は今から何を…」
「……生きて、生きて生き続けるの、どんなに辛いことがあっても死を背をって生き続けるの。
……そのために何かすることを見つければいい
……じゃあ私達もこれから忙しくなるからバイバイ」
そう言ってシルビアは部屋から出ていった。部屋に置き去りにされた俺はどこにあるか分からない生きる目的を考えていた。悲しみが渦巻く心の中に灯る黒い火を見つけた。そして決意した。必ず生き残ると。強くなって父さんと母さんを殺した魔人を殺すと。それが俺の生きる理由になると。しばらくすると騎士が部屋に入ってきて出てもいいと言った。俺はその言葉に従い部屋を出る。
「これから誰が死んでも必ず生きて殺し尽くしてやる」
俺のつぶやきは誰もいなくなった部屋にコダマして消えた。