大学で野球を続ける友人
合唱祭で使った記憶のあるホールには、スーツを着て固まった男達と、振り袖を着た女子達が集まっていた。男子は分かるけど、女子は化粧をしていて、誰が誰だかわからない。
「なあ、あれ松田じゃね?」
俺は龍吾が指差す方向に目を凝らした。目元はキリッとしており、髪の毛が高く巻かれていた。
「そうだ。すげぇ」
口では見たいと言ったものの、いざ本人を見つけると照れくさかった。龍吾がそんな俺の気持ちを汲むはずがない。
「行こうぜ。写真撮ってもらおう」
んー、とYesともNoともとれるような返事を返す。きっと龍吾が写真を取りたがるのはインスタグラムに載せるためだ。
無理やり龍吾に連れて行かれ、松田の前に立つ。
「うぉ! 大輔じゃん!」
ミヤジマダイスケじゃん、と松田が俺を呼んだ。きっと恥ずかしいのだろう。俺も調子を合わせて
「マツダホノカじゃん」
と言った。
「今は大学?」龍吾が聞いた。
「うん。東京の大学。昨日帰ってきた」
へー、と俺は相槌を打つ。龍吾は質問が尽きないようで、サークルやら、バイトやら、ひたすらに質問をし続けていた。
「こちらから入場して下さい」
そう言ってマスクを付けた係員が検温を促している。しかし、誰も入ろうとしない。きっとギリギリまで喋っていたいのだろう。俺は「ちょっと野球部のやつのとこ行ってくるわ」と言ってその場を離れた。
「大輔! 久しぶり」
「おっ、誠也じゃん!」
短かった髪を少し伸ばした誠也は、部活のときより大きくなっていて、スーツがよく似合う。
「痩せたなぁ」
「そっちは大きくなった。あんなに細かったのに」
「ベンチプレス、ベンチプレス」自分の腕をポンポンと叩いた。
「野球続けてんの?」
俺は「サークルだけど続けてる」と言った。
「誠也は?」
「一応声かけてもらえてさ。今は寮で暮らしてる」
「まじ? すげぇじゃん!」
「でも全然よ。やっぱ上には上がいるわ」
今度キャッチボールしようぜ、と言われ、ラインを交換した。
「んじゃまた」
「いたいた!」と龍吾に腕を捕まれ、俺は席についた。
「このようなご時世で、成人式を開催できたことを非常に喜ばしく思っております。ぜひ今日は、オンラインで盛り上がっていただきたいです」
市長のよく練られた言葉に拍手が起こる。この会場の中で、スピーチを作り上げる時間を想像したのは俺だけだ、と思う。
「居酒屋だって。あの駅の近くの」
龍吾はそう言って立ち上がった。
「駅のって、もしかして、"まつだや"のこと?」
「じゃない? 松田の両親が貸し切ってくれるみたい」
「すげぇな」