絶筆の文学少女は本が読めない
「枯木に花を咲かせましょう枯木に花を咲かせましょう」
花が咲く。花が咲く。灰が撒かれて花が咲く。
物語発生地区。ケース<花咲か爺さん>
該当地区は冬であるにもかかわらず、花が咲いていた。生物からだけではない。自販機、自転車、看板、誰かが落としていったイヤホンからも花が咲いていた。
「おーおー、派手にやってんねー」
「遅いですよリーダー。47秒の遅刻です」
「作戦集合時間にはな、開始時刻に間に合っていれば問題ない」
「心構えの問題です。こうした細かいところで信頼関係が築けない場合、チームでの行動には差し障りがあります」
「大丈夫だよ、そんな俺をお前が能力的に信頼してるのを俺は知ってるし、細かいところを指摘するお前の性格を俺が疎んじることがないことを、お前が理解しているから、なんの問題もない」
飄々とした青年男子の言葉に、私は溜息をつく。その通りなのだが、口にされると反応に困る。彼は言葉を続けた。
「イレギュラーはありそうか?」
「いえ、特に地方特性もなく、改変も見られないので、通常の対処で問題ないかと」
「花咲か爺さんなあ。冬は発生回数が多いな。春まで待てば花は咲くんだから、少しは我慢できないかね」
「未だ、発生原因の特定は出来てないので、難しいですね。最近では予兆なく突然発生するケースも観測されてると聞きます」
「おやまぁ、それは仕事に困らなくて結構だな」
<物語>への対処方法は現在のところひとつだけ。現実を改変した<セカイ>の中心にいる、<登場人物>の排除である。
発生後、時間の経過とともに自然消滅する例も確認されているが、そのまま定着している例も観測されている。その場合<登場人物>が行方をくらましたり、変異したりする可能性かあるため、<物語>への対処が困難となるとされている。
「それじゃ、本日も<読書>を始めますか」
いつも通り彼は抜刀し、
「願わくばハッピーエンドでありますように」
私は撃鉄を起こした。
物語対策室、実行部隊。通称『絶筆』。それが私のもう一つの顔。
私たちの戦いは<物語>が終わるまで、続いていく。
あーもう、今日も買った新刊が読めないじゃない。
早く休みをちょうだい!!