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9.クラス分け試験

「ルクリク、今日はお嬢様のクラス分け試験が行われます。あなたはお嬢様のそばに着き、試験会場まで送り届けなさい」


「はい、師匠」


僕の今日の仕事はリンジェを学園敷地内で行われるクラス分け試験会場まで送り届け、また迎えに行くことだ。


ちなみに、僕はレオナルドさんを尊敬を込めて師匠と呼んでいる。


最初は師匠もその呼び名を遠慮していたが、僕が懲りずに呼び続けた結果、半ば強引に認めさせるという結末となった。


僕はまず、リンジェを部屋へと迎えに行く。


本来ならこれはメイドの仕事の一環なのだが、今日は特別に僕が呼びに行くことになった。


学園のクラス分け試験は、その魔法の多様性や強度、規模などによって新入生を4クラスに編成する。


僕は理論クラスに入学するので試験のようなものは存在しないが、ほとんどの学生にとって、この試験は落とされる事はないものの事実上の入学試験となっており、みんな上のクラスを目指して毎年激しい争いが繰り広げられるという。 


僕は検査会場で悪目立ちしていたので、その場所にいたであろう学生達が沢山集まる試験会場に足を運ぶのは正直好ましいものではなかったが、リンジェが受けなくてはならない為にそのような事は言ってられない。


「はぁい」


僕がリンジェの部屋の扉を軽くノックすると、中から気の抜けた返事が返ってきた。


「リンジェ、そろそろ朝食の時間だよ。今日はクラス分け試験なんだから、しっかり朝ごはんを食べて力をつけないとね」


僕は扉越しにリンジェにそう声をかけた。


基本的に付き人がリンジェの部屋に入る事はない。

リンジェに腕を引っ張られ、強引に引き摺り込まれた事はあるが、当人の許可や提案がない限り、勝手に入っていくという事はない。


「ルクリク、ちょっと来て」


「うん」


僕はリンジェの許可をもらった上で、彼女の部屋へと入った。


彼女の部屋は投げ捨てられた服で足の踏み場もないほどに荒れていた。


どうやら今日のクラス分け試験に来ていく服を吟味していたようだが、両手に抱えているドレスからとても嫌な予感を感じる。


もしかして、あれも候補に入っているのだろうか。


どこのパーティーに参加するのか、というような煌びやかなドレスを試験会場に来ていく事など言語道断だ。


恐らく受験生でなく来賓か何かだと勘違いされてしまうだろう。


「リンジェ、多分今日は動きやすい格好の方がいいんじゃないかな。多分模擬戦みたいな試験もあるだろうし」

「それもそうね」


リンジェは両手に抱えていたドレスをクローゼットにしまうと、再びタンスを探しだした。


多分、本気でドレスを着て行こうとしてたな……。


結局、長袖長ズボンの、とても動きやすそうな、且つ安っぽく見えずある程度の上品さを兼ね備えた服に落ち着いた。


僕はリンジェが着替える間は部屋の外で待機していた。


部屋を出ようとした僕に、「ここに居ていいのよ」なんて言葉をかけたリンジェは恐らく、それで動揺する僕を見て楽しもうと言う魂胆だろう。


まぁまんまと引っ掛かったのだけれど。





着替えと朝食を済まして、いよいよ試験会場へと向かった。

と言っても、馬車で向かうので僕はリンジェの乗る馬車に同乗するだけ、という形なのだが。


ちなみに今日はクラス分け試験という大切な場なので、馬を師匠が引いている。


師匠がいれば何かトラブルが起こるという事はないだろう。


そう考えると、僕の存在意義がないのではないか、と疑問に思ったが、それは一旦考えないことにした。


試験会場に着くと、既に多くの学生が集まっていた。


皆、王家の馬車を見て、歓声や感嘆の声を上げている。

馬車を広いスペースに停めると、まず先に僕が降りて、リンジェの降車を支える形で、馬車の入り口に待機した。


リンジェが姿を表すと、周りの声はより一層大きくなったが、もうそんなこと慣れっこなのか、リンジェ本人はあまり気にした素振りを見せず、むしろ僕の方が気にしてしまっていた。


「ありがとうルクリク。それとレオナルドも」


「どういたしまして」


「いってらっしゃいませ、お嬢様」


師匠はリンジェにお辞儀をすると、早々に馬車を動かして駐車スペースの方へと消えていった。


リンジェに対する黄色い歓声だけでなく、僕自身の噂話もあちこちから聞こえてきた。


気にしないようにしようと思っていたもののやはり実際に聞こえてくると少し落ち込んでしまう。


そんな僕を見計らってか、リンジェが軽く僕の背中を叩いた。

僕はリンジェと顔を見合わせる。


そうだ、僕はリンジェの───王女殿下の付き人。

僕がクヨクヨしていたら、リンジェにも迷惑がかかる。


僕は師匠の言葉を思い出す。


「ルクリク、あなたはお嬢様の隣にいることを許された者。たとえあなた自身がそのような資格はないと思おうが、お嬢様はあなたを選びました。その自覚を持ちなさい。一国の王女に選ばれたという事実は確かにあなたの中にあります。それが分かれば自ずと胸を張れると思いますよ」


そうだ、リンジェは他でもない僕を選んでくれた。

僕は俯きかけていた体をピンと伸ばし、自信を持ってリンジェの隣を歩く。


リンジェも静かに微笑んでいた。


そうすると、不思議と周りも見えるようになった。


周りではリンジェを取り囲む集団の他に、いくつかのグループのような人だかりができていた。


「あそこの集まりはなんなんだろう。リンジェは知ってる?」


「あぁ、あそこの集団の真ん中にいる金髪の生徒は、フルミール伯爵家の跡取りのコラソン様ね。確か雷属性に秀でていて、10年に一人の逸材と呼ばれていたわね」


「そうなんだ……」


全く知らなかった。


やっぱり、王立の学園なだけあって国中から優れた魔法師見習いが集まってきているのだろう。


そうしていると、試験内容の説明と、それに伴う移動に関する説明が放送された。

放送が終わると皆、ぞろぞろとそれぞれの会場の方へと移動していく。


「じゃあリンジェ、頑張ってね」


「ありがとうルクリク。ちゃんと迎えにくるのを忘れないでね」


リンジェはお茶目に微笑んだ。


そして何故か片手を上げている。


「ほら、こういう時はハイタッチ。常識よ?」


「そうなんだ。ごめんごめん、頑張って」


僕はリンジェとハイタッチをし、会場へと向かっていくリンジェの背中を見えなくなるまで見送るのだった。


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