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8.王都へ再び

「じゃあ、行ってくるよ」


村へ帰ってきてからというもの、村中に僕がしばらく王都に滞在するという話が広まるや否や、村のみんなへの対応がとても大変だった。


お土産を渡しに各家を回っているときに、中々帰してもらえず、小規模の村にも関わらず、一周するのに1日使ってしまったほどだ。


「ルクリク、いつでも帰ってきていいからな」


「ちゃんとご飯を食べるのよ」


「うん、心配しないで。父さん、母さん。次帰ってきたときには必ず僕の魔法を見せてあげるから」


僕は村人ほぼ全員に見送られて村を出た。





───村を出て約3日。


僕は無事、再び王都の地に足をつけることができた。

二度目ではあるが、やはりまだ見慣れない大きな壁門を潜り、王都へと足を踏み入れた。


あれだけ村のみんなにお土産を買って行き、更に馬車で此処まで戻ってきたにもかかわらずレオナルドさんから貰ったお金はまだまだ余裕があった。


本来なら返すべきところなのだろうが、あまりは貰っていいと言われた手前、ただ単に余りましたと返すのも申し訳ない。


僕はこのお金をこれから何か必要な時が来るまで使わずに貯めておこうと決意した。


門からリンジェの別荘までは大分距離があるが、歩けなくはない距離にわざわざ馬車を使うのももったいないので僕は歩いて戻ることにした。


王都の大通り周辺には、平民の長屋や集合住宅などが沢山建っており、まだ昼頃ということもあり、あたりはとても賑わっていた。


王都内では不要な衝突を避けるために、貴族街と平民街がある程度隔てられている。

勿論、リンジェの別荘は貴族街の一角に建てられているのだが、広さでいえば平民街が1番大きく、人口も多い。

その分、平民街の大通りが最も活気あふれ、栄えているとも言える。





僕が貴族街の区域に入ると、すれ違う馬車という馬車から奇妙なものを見るような視線を浴びせられた。


それもそうだ。そもそも貴族の人というのは基本的に移動は馬車を使用する。

それがたとえ徒歩圏内であっても、数日の移動時間を要する場所であっても関係ない。


歩いて何処かに移動する、ましてや一人でなんて事はまずあり得ない。


そのようなこの区域の中の常識が存在するために、それらを全て無視するような僕という存在はとても奇妙なものに見えたのだろう。


更に僕の格好もその視線を集めることを助長した。

僕の今の格好は、初めて王都に来たときにうちから着てきた普通の、悪くいえば安っぽい服だ。


それに反して、貴族街を行き交う人々は皆、男女問わず煌びやかな衣装を見に纏っていることが殆どだ。


僕はできるだけ目立つことのないように、道の端っこを歩きながらようやく目的の豪邸に到着した。


門の前に立つ二人の衛兵は既に僕のことを認識してくれていたようで、何も言われることなく門を潜ることができた。


「ただいま帰りました」


玄関に入ると、レオナルドさんが待ち構えていた。


「おかえりなさい、ルクリク。早速ですが、こちらの服に着替えなさい。着替えが終わったらここに直ぐに戻ってくること。あなたの部屋はあのメイドが案内します」


レオナルドさんがメイドさんの方を指すと、メイドさんは「こちらです」と僕を誘導してくれた。


僕は受け取った衣服をマジマジと見る。

こんな立派な服は今まで来たことがない。

こんな服をもらっていいのだろうかとも思ったが、貰ったものに対してそのような事をわざわざ口に出すのも野暮だ。

僕はありがたく受け取ることにした。


それにどうやらこの家には必要最低限の使用人しかいないらしく、僕にも個室が与えられるとのことだった。


小さな村出身で、自分の部屋を持ったことがない僕にとっては、それだけで夢のような出来事だった。


「こちらです」


メイドさんに促されるままに、僕は部屋へと入った。

メイドさんは僕の案内を終えると、スタスタと自分の持ち場に戻ってしまった。


それにしても広い部屋だ。

実家と同じくらいの広さがあるかもしれない。


部屋には既にベッドや机、タンスといった最低限の家具が揃えられていた。


部屋の中を見て回りたい衝動に駆られたが、僕はそれをなんとか抑え早速渡された服に着替えてレオナルドさんの元へと向かった。


レオナルドさんの指導はとても丁寧だった。


僕の付き人としての心構えや役割などについて一つひとつ丁寧に説明してくれて、尚且つその間にもメイド達に的確な指示を出し続けていた。


僕は漠然と、レオナルドさんのような人間になりたいと思った。


さて、メイドと付き人の仕事は大きく異なる。

メイドがリンジェの身の回りの世話のほとんどを行う。

掃除、洗濯、着替えの手伝いなど仕事は様々だ。


一方で付き人は言ってしまえば家にいる間はほとんど仕事がない。

ただリンジェの側にいつでもおり、サポートし、時には護衛もする。


その為には僕も誰かを守れる力を身につける必要があった。

僕には魔法がないから、剣や体術でその大きすぎるハンディキャップを埋めなければならない。


そして、付き人の品性や、立ち振る舞いというのは主人───僕の場合はリンジェになる───の評判に直結してしまう。


つまり、僕の対応が悪ければ、それはリンジェの悪評に繋がりかねないという事だ。

恩を返すと言った手前、悪評判を立てることだけは許されない。


僕はこれから付き人としてのスキルを、学園が始まるまでの約一か月間で自分の体に叩き込む覚悟を決めたのだった。

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