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6.予想外の謁見

「私の名はクロンツォ・フォン・リゼルスト。この国の国王をやっており、リンジェの父親でもある。面を上げよ、ルクリク」


僕はあのままリンジェに連れられて本当に国王陛下謁見することになってしまった。


「はい」


僕は言われるがままに顔を陛下の方へと向けた。

ただし姿勢は片膝をついたままだ。


それも、ついさっきリンジェに陛下の前ではこのような格好でいろ、と教えられたからであって、この格好にどのような意味があるのかという事は僕には分からない。


それにどうして国王陛下ともあろうお方が僕なんかの名前を知っているのだろうか。


リンジェとは昨日今日とほとんど一緒に行動していたし、陛下に伝える暇なんてなかったはずなのだが。


「ルクリク、お主のことはレオナルドから聞いておる。どうも財布を盗まれて途方に暮れているところをリンジェに助けられ別荘に泊まったようだな」


───ヤバい、これは怒っていらっしゃる。


僕は恐怖で歯が鳴ってしまうのをなんとか体に力を入れて回避する。

それにレオナルドって誰だ?


僕の疑問が顔に出ていたのか、リンジェが陛下の横から僕に教えてくれた。


「レオナルドは昨日の家にいた執事のことよ」


そういうことか。

確かにかわいい娘が使用するような別荘の執事が陛下と直接つながっていても何もおかしくない。

いや逆に繋がっていない方がおかしいくらいだ。


「ルクリク」


ヤバい、説教だ。

僕が泣きそうになっていると陛下は予想外の言葉を口にした。


「そう怯えるでない。其方をここに呼んだのは別に説教をしようと考えたからではない。しかしその日会ったばかりの女性の家に泊まるとはどうかとも思うが……。まぁ其方にも事情があったということでこの件は水に流すとしよう」


僕の体から一気に力が抜けた。

良かった、これで僕はまた明日を迎えられそうだ。


僕が一人で安堵している中、陛下は言葉を続けた。


「其方を此処へ連れてくるようリンジェに言ったのは、どうやらお主、魔法適性どころか魔力もゼロだそうではないか。それは真か?」


「はい、本当です。此処にその用紙もあります」


僕は肩に提げた鞄から、検査官にもらった紙の束を出して、リンジェに渡した。

陛下はリンジェからその紙の束を受け取ると一枚一枚確認しながら無言で相槌を打っている。

全ての紙を確認し終えると、陛下は再び口を開いた。


「確かに、本当のようだ。私もこのような事を聞くのは初めてでな、機械の不具合が連続したのではないかと疑っていたのだが、この用紙の量から察するに恐らく真実なのだろう」


謁見の間にしばらくの沈黙が流れた。

適性もゼロ、魔力もゼロなどという前代未聞のことが起こったのだ。


驚きに思考が鈍ってしまうのは当然のことだろう。


その中でも僕はまだまともな判断ができたと思う。

何せ、僕はこれまで生きてきて全く魔法との関わりがなかったのだ。


確かにショックではあったが、元々やったことがないことに対して、それは君にはできないと言われてもピンと来ないのは当たり前のことだろう。


それに僕は元々魔法そのものに興味があった。


王都の人たちはどうやら魔法とは使うもの、という認識が強いようだが、魔法に精通していない僕にとっては魔法とは、使うものというよりも学ぶものという意識の方がむしろ強い。


それだから、例え捨てクラと揶揄されていようと、僕のような魔法が使えない者でも魔法を学ぶことができる機会が得られる学園はまさに僕の理想に十分近かった。


「陛下、少々下世話な話になってしまうのですが発言してもよろしいでしょうか」


僕はリンジェに言われた通り、発言する前に陛下に対して許可を取り、尚且つ可能な限り丁寧な言葉を用いることを心がけた。


「許可する」


陛下は手元の用紙をリンジェに渡して僕の方へと視線を向けた。


僕はそれをみて、ありがとうございます、と会釈をしてから話を続ける。


「検査会場にて、僕のような魔法が使えない者でも誰でも入学することができる魔法理論のクラスが魔法学園に存在すると耳にしたのですが、それは本当でしょうか?」


「本当だよ。不名誉な呼び方をされる事もあるが、確かに誰でも入学できるクラスは存在する。──────ただし、入学金を払えれば、の話だがな」


その言葉に僕の顔は濁る。


まず、誰でも入れるクラスが本当に存在するというが分かったのは僥倖だったが、金銭的な面で僕には現在全く余裕がない。


王都にある冒険者ギルドに登録して冒険者として入学金を稼ぐという手もなくはないが、魔法が使えない僕は冒険者としては相当大きなハンディキャップを背負うことになる。


魔物退治などは勿論、盗賊退治や迷宮攻略など、冒険者の花形と呼ばれる仕事はまずできないだろう。


それ以外の仕事となれば、難易度も下がるが自ずと報酬も下がり、ほぼ雑用のような存在になってしまう。


そうなると、その日の生活費を稼ぐのに精一杯で、入学金を貯めるなど夢のまた夢だろう。


僕が様々な案を頭に巡らせ、これからの生活について考えていると、陛下が「ただし───」と、前置きを置いた。


「其方は私が国王に就任して以来、いや私の知る中で初めての適性なしだ。私は個人的に其方に興味がある。其方も初めて見るものには興味が湧くだろう?」


陛下が笑顔で僕に語りかけてくる。

陛下の笑顔はどこかリンジェと似ており、やはり親子なんだと納得させられた。


「それはそうですが、どういう意味でしょう」


僕にはなぜ陛下がこのような質問を投げかけてきたのか分からなかった。


「つまり、私が個人的に其方を学園に入学させてやろうと思うのだがどうだろう。勿論入学金は必要ない。必要ないというよりは肩代わりする、というのが適切かもしれんな」


僕はどうやら夢を見ているようだ。

こんなに僕に都合のいいようにことが運ぶはずがない。


僕は隠れて自分のお尻を思い切りつねった。


「いたっ」


しっかりと痛みを感じ、声が漏れてしまったのをリンジェは聞き逃さなかったようで、いつもの笑顔でクスクスと笑っている。


「陛下、しかし僕にはそのようにしてもらえるような資格はありません。どうやってその恩を返したらいいのでしょうか」


「何も無料でとは言っとらん。まあ無料でも構わないのだが、それでは其方に心労をかけることになるだろうからな。そこでだ。其方にはリンジェの付き人として働いてもらいたいのだ。私もこんなに楽しそうにしているリンジェは久しく見ていない。仕事内容なんかはレオナルドから学ぶといい。無論、あの別荘で生活する事も許可する」


陛下は「いいな、リンジェ」と言ってリンジェの方へ首を向けた。


「はい、お父様」


リンジェはお淑やかに一礼した。


「そんな……。ありがとうございます。本当にありがとうございます。僕は……僕は本当に幸せ者です」


僕の涙腺はそこで決壊した。


どうしてこんなにも僕によくしてくれるのだろうか。


前代未聞の結果と言ってしまえば聞こえはいいが、適性、魔力共にゼロという事は言ってしまえば無能である。

そんな僕にチャンスをくれた二人に対して僕は一生頭が上がらないと思った。


顔を上げると揺れる視界の中に、笑顔のリンジェが見えた。


「よろしくね、ルクリク」


僕はそう言って伸ばされたリンジェの手をそっと取るのだった。

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