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2.彼女の正体

今日はいよいよ適性検査だ。

僕はリンジェと共に彼女の家を出発した。


何故このような状況になっているのかというと、リンジェが僕を助けてくれたあと、リンジェは僕を大きな家の前まで連れて行き、「ここで待ってて」と僕を門の前で待たせて豪邸へと入っていった。


数分たった後にリンジェが家から顔を出すと、この家は彼女の別荘で、訳あって実家に泊めさせることは出来ないものの、別荘であれば許可が下りたという事で、ありがたいことに泊めてさせて貰えることになったのだ。


大きな門を出たところで僕は彼女の家の方へと振り返る。


端的に言えば、リンジェは貴族様のようだった。


まぁ彼女の挙動や所作からも恐らくそうだろうとは思っていたけれど、何分僕の村にはこんなにも大きな家は建っていなかったからとても驚いた。


連れてこられた時、王城に連れてこられたのかと勘違いして慌てているところを見て、リンジェがお腹を抱えていた。


「どうしたの?早く行くわよ、ルクリク」


豪邸を振り返り固まっている僕にリンジェはそう声をかけた。


「分かりました、リンジェさん。いや……リンジェ様?」


僕が冗談交じりに───いや、ほとんど本心でそう言うと、リンジェは頬を膨らませ、露骨にムスッとした表情になった。


「もう、リンジェでいいって言ってるでしょ?」


彼女のむくれた表情もとても可愛い。


「ごめんごめん、さぁ行こうかリンジェ」


「今日は大切な日なんだから。しっかりしてよね」


僕はまたごめんごめんと謝り、リンジェの隣に並んだ。

すぐ目の前には立派な馬車が用意されている。

リンジェの家が所有している馬車なのだろう。

僕が村から乗ってきた馬車とは比べ物にならない程に豪勢な作りをしていた。


僕は、生きる世界の違いをまじまじと感じ、尻込みしながらもリンジェに促されるままに馬車に乗りこみ今日の適性検査の会場となる王都中心部へと向かった。






目的地に到着し馬車を降りると、そこには既に数え切れないほど多くの人々が集まっていた。

集団の端が視認できないほどの人集りだ。


これほどの人数を果たして1日で捌けるのだろうか、と不安になるが、リンジェ曰く例年このくらいの人数が集まっており、多い年はこれの倍ほどの年もあったと言う。

全く恐ろしくてたまらない。


でも、圧倒的人数に収拾がつかなくなったことなんて聞いたことがない。

これは僕の村が田舎だからだというわけではなく、リンジェにも確認を取ったがそのようなことはこれまでにないと言う。


先ほどの、異例の人数が集まった年は流石に許容範囲ギリギリだったと言う話だが、それを機に更なるシステムの改良と増量が行われ、その年以上の人数も余裕を持って対応できるほどになっているらしい。


これだけの人数が集まれば静かにしろというのも無理があるが、やはり辺りは喧騒で満ちていた。

皆、どんな適性があるか、不安半分期待半分といったような具合で会話に華を咲かせている。


「私たちも受付を済ませましょう」


リンジェの言葉で僕は圧倒されていた世界から引き戻された。


「う、うん」


僕はただただリンジェの後をついていくのだが、それにしてもさっきからやけに視線を感じる。


勿論、物理的な刺激はないので気のせいと言われればそうなのかもしれないが、人の視線に敏感でもない僕でも違和感を感じるほどで、こちらを見ながらヒソヒソと何かを話し合っている人もいた。


「リンジェ、やっぱり僕みたいな田舎者は目立つのかな?」


「そういうわけじゃないと思うけど、ルクリクが目立っているのは確かね」


僕は思わず辺りを見回してしまった。


「あれって、王女殿下じゃない?」


「おい、あの王女殿下の隣で歩いてる馬の骨は誰だ?」


あれ、なんか聞き捨てならないようなワードが聞こえたような……。


僕は恐る恐るリンジェに尋ねた。


「リンジェ、どうやら王国の王女殿下が来ているらしいよ」


これは半ば諦めと、半ば最後の抵抗だった。


僕が昨日出会い、寝る場所を提供してもらい、隣に並んで歩くだけでなく、あろうことか呼び捨てにしているリンジェがどうか王女殿下ではなく、良いとこのお嬢さんであってくれという願いが丹念に練り込まれていた。


「えぇ、だって私がこの国の王女だもの。リンジェ・フォン・リゼルスト、それが私の名前よ」


リンジェはこちらを振り返り、揶揄うように微笑んだ。

リンジェの笑顔に周りからおぉ、と声が上がる。


うん。僕帰って良いかな?


普通にタメ口きいちゃってたけど不敬罪とかならないよね?

ていうか、普通王女ともあろう方がその日あったよく分からん男を家に泊まらせるか?


多分別荘とかだったんだろうけど、それにしても家にも執事らしき人が一人とメイドが数人しかいなかったし。

一生に一回の適性検査の前日くらい、実家でゆっくり過ごすもんじゃないの?

まぁ僕みたいな田舎から王都に出てくるような人は別だろうけど。


僕は平然を保ちながらも、頭と心は完全にパニックになってしまっている。

もしかしたら、僕をこういう状況に陥らせるために身分を隠していたのかも。

僕はどんどん疑心暗鬼になっていく。


リンジェ───リンジェ様の方を見ると、相変わらずこちらをチラチラと覗きながらしてやったり、と言わんばかりの笑みを浮かべている。

所々で上がる完成に軽く手を振り返すほどの余裕も持っている。


僕は失礼を承知で彼女の横に並び、恐る恐る尋ねた。


「ねぇ、僕って不敬罪になったりしない───しませんよね?」


「大丈夫よ。お父様にちょっぴり叱られるくらいかな」


リンジェはクスクスと笑う。


全然大丈夫じゃないよ。

お父様ってことはこの国の国王陛下でしょう?


終わった。お父さん、お母さん、じいちゃん、ばあちゃん、村のみんな。

今までありがとう。

僕は今日、旅に立ちます。だから、村には帰れません。

向こうでみんなを待ってます。


僕は旅立つ覚悟を決め、もうどうにでもなれという勢いで、適性検査の受付へと向かったのだった。


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