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12.束の間の休日

リンジェのクラス分け試験も無事に終了し、学園の始業式が行われるまで残り二週間ほどとなった。


試験の次の日のクラス発表も僕はリンジェに同行し、学園まで赴いた。


初めから心配はしていなかったが、無事にリンジェは最上位クラスのSクラスに割り振られ、偶々会場で会ったコラソン君もSクラスだったそうだ。

まぁリンジェに模擬戦で勝利した彼なら当たり前の話だけど。


クラス分けは上からS、A、B、Cと分かれていて、各年によって入学する人数が違うので正確な人数は決まっていないが、全受験生の試験内容を比較して、良い成績を修めた順番にリスト化した際に、上位一割がSクラス、その次の上位二割がAクラス、その次の三割がBクラス、そして残りの四割がCクラスに割り振られるらしい。


上のクラスになればなるほど、教師の質も上がり尚且つ少数で授業を受けることができるのだそうだ。


リンジェは自分のクラスを確認すると、少し喜んだのち直ぐにその場を離れていった。


訳を聞くと、試験当日に少し目立ってしまったからあまり大勢の前に行きたくないのだという。

素直じゃないが、要は注目されるのが恥ずかしいのだろう。

なんとも可愛い理由に少し笑ってしまった。


僕がリンジェと共に家に戻ると、玄関で師匠が待ち構えていた。


「お帰りなさいませ、お嬢様。少々ルクリクをお借りしてもよろしいですか?」


「ただいま、レオナルド。ええ、いいわよ」


師匠は「ありがとうございます」と軽くお辞儀をすると僕の方に向き合った。


「じゃあルクリク、また後でね」


リンジェはそう言い、軽く手を振りながら自分の部屋へと戻っていった。


「師匠、ただいま帰りました」


師匠は頷いた。


「ルクリク、今日はこれから剣術の訓練をしてもらいます。これに着替えて庭に出てきなさい」


僕は師匠から運動着を手渡された。


今日からついに剣術の訓練が始まるみたいだ。


僕が王都に戻ってきてから今日までの約二週間の間は、リンジェの隣に侍る際の所作や、王都とこの国に関する最低限の基礎知識、それに稀に行う掃除、洗濯の方法など、付き人としての役割に関する指導が中心だった。


しかし付き人はただただ主人の近くにいるだけでは存在価値が大きく下がってしまう。


時には護衛として主人を脅威から守らなくてはならないし、それが出来るだけの力を携えてなくてはならない。


殆どの人は魔法を使って護衛をするのだが、いかんせん僕には魔法が使えないので、剣術や体術といったものでカバーするしかない。


僕は自分の部屋へと戻り、受け取った着替えに素早く着替えて庭へと出た。


庭に出ると、師匠が木剣を二本持って待っていた。


「師匠、お待たせしました」


すると師匠は今度は木剣のうちの一本を差し出してきた。

木剣は鞘に終われており、その鞘には肩にかけるための紐が付いている。


「これを肩にかけた状態で、この家の敷地を手始めに30周しなさい。お嬢様をお守りするためには何よりも体力が必要になります。自分では到底敵わない敵と遭遇した時は、無謀に戦わずに逃げるという選択肢を取らなくてはいけない場面もあるでしょう。それに備えてあなたにはまず強靭な肉体づくりをしてもらいます」


師匠は「30周終わったらしらせてください」と言い残し、自分の仕事へと戻っていった。


僕は木剣を肩に斜めにかけて、早速走り出した。


別荘といえども、王家の子女が滞在する家だ。

当然広大な土地を持っている。


僕は走り出して直ぐに確信した。

恐らくこの外周を30周することなど、それこそ無謀であると。

むしろ一周でも厳しいかもしれない。


それに足が地面につく度に背中に剣の鞘があたり、そのダメージもだんだんと蓄積されていく。

しかし僕はこんなところで折れるわけにはいかなかった。


リンジェに恩を返すと決めたんだ。

走りくらいで逃げ出すようでは到底恩返しなどできないだろう。


僕は日が暮れるまで走り続けた。


「ルクリク、そろそろ夕飯だから終わりにして食べましょう」


リンジェのその一声で僕の走りはストップした。

結局、1日走り続けても30周を完走することは出来なかった。


村では山に食材をとりに行ったり、山が遊び場のようなものだったので体力には自信があったのだが、なにかを背負っているのとそうでないのがこんなにも違うのかと身をもって体感した。


その日は疲労によって泥のように眠ってしまった。


その日を境に、僕は毎日木剣を背負いながら家の外周を走るということが日課になった。


日を跨ぐごとに周回数もだんだんと増えていき、やがては30周を完走することもできるようになっていった。


初日に師匠は剣術の訓練をするといっていたが、まだ剣を使った訓練を全くしていない。


ただひたすらに走り続けるだけだ。



30周を夕方前までにこなせるようになったある日、師匠は次の段階へ進むと言って、木剣を持って素振りを見せてくれた。


姿勢はピンと伸び、一回一回の振りに力がしっかりと込められている。


「これを1000回やりなさい。明日からはいつも通り走りが終わり次第これに移りなさい」


そういうと、師匠は仕事があると家の中へと戻っていった。


僕は試しに軽く木剣を構えてみた。

予想外の重さに手首がつい震えてしまう。

僕は木剣を大きく振り上げ、そして素早く振り下ろした。


木剣が地面と平行になったあたりで止めようとしたが、勢い余って地面を思い切り叩いてしまった。

衝撃が木剣を伝って手首に響いた。


「痛ったーーー」


つい大声を上げてしまった。


師匠はこれをもっと素早く、尚且つ簡単そうにこなしていた事を考えると、いったいあの人は何者なのだと恐ろしくなる。


しかしこれもリンジェを守るためだと自分に言い聞かせて、僕はなれない素振りを続けた。


「僕、魔法を使えるようになるために王都まで来たのに……。これじゃまるで剣士じゃないか」


僕は自分のやっていることに疑問を持ちながらも、夕焼けが王都の街並みを綺麗にオレンジ色に染め上げる下で黙々と剣を振り続けるのであった。

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