11.模擬戦
次の模擬戦会場に到着すると、一定距離を離れたところに、祭壇を模したようなものが対面する形で設置されていた。
「えー、それではみなさんにはこれからあそこに見えます魔道具を使用して模擬戦を行っていただきます」
教師はそういうと、魔道具の一つに近づき、魔力測定の機械にも搭載されていた円盤型の魔力出力板に手を当てて魔力を流した。
すると教師の前に魔法が展開され、もう一つの魔道具の方へと飛んでいった。
「えー、これは皆さんの魔力を効率的に魔法に変換するための補助装置です。しかしこれは魔法の強度を上げるものではなく、あくまで魔力を魔法に変換するスピードを調節して互いに魔法をぶつけ合い、魔法の強度と多様性を判断するための装置となっています。ちなみに、あの魔道具を囲むようにして結界魔法が張られているので流れ弾が被弾する恐れというものはほぼないに等しいです。なお、結界は二重に張られているので、一枚目が破壊された場合、もしくは片方が魔力切れを起こし、続行不能となった場合、模擬戦は終了となります。それでは早速始めましょう。まずはリンジェさんとコラソン君。位置についてください」
早速私の出番だ。
私の予想通り、模擬戦の相手はコラソンだった。
評判通りであれば、コラソンの得意魔法は雷属性。
コラソンが何種類の属性を使うことができるのかは現時点では知らないが、コラソンは雷属性に絶対的な自信を持っているようなので、よっぽどのことがない限りは雷属性の魔法で攻めてくるだろう。
雷属性に対する優位属性は土属性だが、あいにく私には土属性の適性はない。
私の適性は火、風、無の三つだけど、適性検査で新たに分かった無属性に関しては実際に使えるほどの熟練度はない。
となると自ずと火属性と風属性で攻めることになる。
魔道具越しにコラソンと対面するが、まるで負ける気がないような笑みでこちらを覗いている。
「それでは二人とも、準備はよろしいですか?」
私が頷くと、コラソンは軽く片手を上げて準備完了の合図をした。
「それでは、始め」
私は早速円盤に魔力を流していく。
幸い、この試験では魔力の変換速度は試験内容に含まれておらず、魔道具によって自動的に魔法が同時展開されるように調節されている。
これは魔力の変換効率というのは、才能もあるが、熟練度───つまり、その魔法をどれだけ展開したか、どれだけ訓練を行ったかが大きく関わってくる。
学園は家柄に問わずに教育を行うというその方針故に、十分な練習環境を得られない平民階級の受験生と、家の敷地内に魔法の訓練場があるような貴族階級の受験生との間で大きな差が生まれないように考慮しているようだ。
なお、魔法の強度や多様性というのは、才能に頼る部分が大きいため、平民階級の受験生も貴族階級の受験生もほとんど関係がない。
しかし実際にはこれは建前で、貴族階級出身の受験生は親が著名な魔法士であったりすることが多く、魔法の適性は遺伝による影響も少なくないため、事実として、上のクラスには貴族階級の生徒が多くなってしまうというのが現状である。
私はまず手始めに、一番得意属性である火属性の魔力を単純に流した。
この魔力の使い方は、初級魔法の《#火球__ファイアボール__#》の使い方だ。
対してコラソンは思った通り、雷属性の初級魔法である《#小雷__リトルショック__#》を繰り出した。
互いの魔法は中央で衝突し、小さな爆発を生んだ後、霧散した。
私は立て続けに、中級魔法の《#火槍__ファイアランス__#》を発動した。
それに対応するようにコラソンは同じく中級魔法の#雷槍__サンダーランス__#》を繰り出した。
またしても中央で魔法同士が衝突したが、今度はコラソンの方が一枚上手だった。
私の#火槍__ファイアランス__#が三本だったのに対して、コラソンは#雷槍__サンダーランス__#を五本生成し、残った二本が私の結界を襲った。
結界の見た目は変わっていないものの、恐らくもう一度同じような強度の魔法が当たれば壊れてしまいそうだ。
やはりコラソンは評判通りの優れた魔法士見習いのようだ。
教師も感心した様子でこの模擬戦を眺めており、他の受験生たちはレベルの高さに唖然としている。
それもそうだ。
一般的に、魔法というのはこの学園に入ってから本格的に学ぶものなので、この時点では魔法を使った模擬戦など見応えのないチンケなものになるのが普通なのだ。
私は火属性から風属性に切り替えて、風属性の初期魔法、#風刃__ウィンドカッター__#を放った。
コラソンはそれを見越していたのか、風属性に対して優位に立つ、火属性の中級魔法、#火槍__ファイアランス__#を発動させた。
初級魔法と中級魔法では強度に超えられない差があるのに加え、手札を読まれて優位属性で対応されてしまった。
それに、コラソンの発動させた#火槍__ファイアランス__#は、私のそれより練度も高く、槍は五本生成されていた。
「完敗ね」
私の結界は破られ、そこで模擬戦は終了となった。
コラソンを見ると余裕そうな表情を浮かべていた。
「伊達に10年の一人の逸材とは呼ばれていないわね」
握手の際に私はコラソンに話かける。
「王女殿下もとてもいい魔法でしたよ。でも、今日のところは俺の勝ちだ。勿論、これからも負けないけどな」
「私も次は負けないわ」
この時、私はコラソンとはライバル───向こうはどう思っているかは分からないけど───として、いい関係を築けるのではないかと直感的に感じた。
私たちのあとの模擬戦は正直見応えのないものだった。
私たちが例外だっただけで、基本的に発動される魔法は一種類で、多様性を見るとは言うものの、実際には強度だけを判定する試験と同義だった。
「それでは、今年のクラス分け試験はこれで終了となります。クラス分けの結果は明日、学園入って直ぐの掲示板に張り出されるので、必ず見に来てください。それではお疲れ様でした」
教師から終了のアナウンスがあると、今まで張り詰めていた緊張の糸が一気に解けたように、気の抜けたため息やら声が聞こえてきた。
私はすぐに会場を出て、待っているはずのルクリクの元へと向かった。
「おーい、ルクリクー!」
ルクリクは、学園入り口付近に真面目に直立していた。
それを見て思わず笑ってしまう。
「リンジェ、お疲れ様。試験、どうだった?」
「うーん、模擬戦で負けちゃった。さっき言ったコラソンって子に」
「そっか。リンジェが負けちゃうなんて、コラソン君は相当な魔法士なんだね」
「でも、次は負けないわ」
「リンジェならきっと勝てるよ」
ルクリクが私に微笑んだ。
「うん!」
ルクリクの笑顔を見てるとなんだか元気が出てくる気がする。
私はルクリクの腕を引っ張ると、レオナルドの待つ馬車置き場まで向かった。
「今日の夕飯はパーっと行きましょう。料理長に頼んでみるわ」
私はこれから始まる学園生活に胸を踊らせながら、家路に着くのだった。
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